永眠ですか?いいえ、タダの寝不足です(改稿済)
広ーいお庭の中にある道を通り、無事二条家のお家の玄関前に着きました。
着いたのだけど、こういうの何ていうんだっけ?
ほらドラマなんかである高級ホテルの入り口みたいに屋根のある所。
玄関前に車を数台止めても大丈夫なくらいの屋根があるとか、それってもう家じゃなくてお屋敷だよね!
そして車を止めた所から家のドアの前まで人で道が出来てるんですけど?
そこにはメイド服姿の、メイド服姿の女性が左右にそれぞれ5人づつ、計10人並んで人で道が出来ています!
大事な事なので2度言っときました!
男性の方がいないのってやっぱりあれなのかな?わたしが男性恐怖症なのを玲子さんが伝えてくれていたからなのかな?それともたまたま?
そして一番こちら側の道の真ん中には30歳くらいの優しい雰囲気の女性と、中学生?高校生?位の無表情で目が吊り上がり気味で、ちょっときつめの顔だけど凄い美人さんの二人の女性が並んで立っていまして、車が止まると同時にメイドさんの一人がこちらに来てドアを開けてくれました。
ど、どうしよう、せっかく開けてくれたのだから下りないと失礼だよね?と思っていると
「あ、すみません。この子足が悪いので」
と、玲子さんがこちらの状況を説明してくれた後
「知佳ちゃんちょっと待ってね。とりあえずすぐ車椅子出すから」
そう言って玲子さんは車の後部トランクから車椅子を出して持って来て私を乗せてくれ、さらにミミちゃんの寝ているバスケットを後部座席から取り私の膝の上に。
そしてわたしがミミちゃんを受け取るとほぼ同時に、私の前に先ほどの二人が近づいてきて挨拶をしてきてくれました。
「初めまして、知佳さん。わたしは二条 美雪。あなたのお母さんの姉よ。そしてこの子はわたしの娘であなたと同い年なの、仲良くしてあげてね」
30歳位に見えた人はなんとお母さんのお姉さん、伯母さんだった。若い!
私のお母さんのお姉さんだとすると、年齢は……と思っていると急にゾクッと背筋に寒気が。
カンガエチャダメダカンガエチャダメダ……
も、もう一人の美人さんは同い年の従姉でした。
でも身長とか胸とか見る限り、とても同い年に見えないんですけど?
「わたしは二条 沙織、知佳さんの従姉になるわ。年も同じだから気軽に沙織と呼んで」
と、あまり抑揚のない声音で自己紹介されました。
うぅ、嫌われてるのかな?そうだよね、突然親戚ですとか言って知らない人が来ても困るよね。
「は、はじめまして。近衛 知佳です」
ちょっと緊張してかんじゃったけど、大丈夫だよね?
「ふふふ、可愛らしい方。それじゃ、とりあえずお婆様が会いたいそうなのでそちらに顔を出してあげてほしいのだけれども、いいかしら?」
お婆様?伯母さんからみてお婆様って事は、私から見たら曾お婆ちゃんになるのかな?
でもいいかしら?って、これ断ったらどうなるんだろう?
怖いので断らないけどーーー!
「あ、はい」
「それじゃ、ついてきてね」
そうしてお屋敷の中に通され、曾お婆ちゃんのお部屋に案内されました。
ちなみにメイドさん達からは大奥様とかご隠居様と呼ばれている模様。
案内された曾お婆ちゃんのお部屋はかなり広く、カーテンを閉めていて薄暗かったです。
その部屋の中には天蓋付きの大きなベッドがあり、そこに寝ている人が曾お婆ちゃんなのかな?
わたしは美雪さんに案内されるままにベッド脇まで連れていかれ、曾お婆ちゃんとの初顔合わせをすることになりました。
な、なんて呼べばいいんだろう?いきなり曾お婆ちゃんじゃ失礼だよね?大奥様で良いかな?
「は、初めまして大奥様、近衛 知佳です」
すると大奥様はわたしの方にふるえる手を伸ばしてきて
「おお、おぉ、おまえが春香のむすめかえ……もっとちこう寄って、顔をよく見せておくれ……」
と言われたので、わたしはベッドに半分乗りかかる勢いで大奥様に近づくと、私の頬をその伸ばした手で撫でながら
「あぁ、やっと、やっと春香の娘に会うことができた。これでもう……思い残す……事は……」
そこまで言って力が抜けたのか、手がベッドに落ち、そのまま目を閉じてしまいました。
え?ちょっと、も、もしかして死んじゃった!?
大奥様が力なくぐったりするところを見て、おばあちゃんが死んだ時を思い出してしまい
「え?ま、まさか……い、いやあぁぁぁ…………あ、あれ?」
と叫びそうになった所で
「すぅ……すぅ…………」
と大奥様の方から寝息が聞こえてきましたよ?
あれ?息……してる?
「あらあら、お婆様ったら、やっと寝たのね」
え、寝た?死んだんじゃなくて?生きてる??大丈夫なの???
「知佳さんごめんなさいね。お婆様ったら昨夜あなたが来るって聞いてから、やっと春香さんの子に会えるってすごくはしゃいじゃって、全然寝てなかったのよ」
えーっと、とりあえず大丈夫……なのよね?
「は、はぁ。えっと、大丈夫……なんですね?」
「えぇ、ほっておけば夕方までには起きるでしょう。とりあえず顔見せも終わったので、場所を変えてお話しましょう。私あなたに会ったらお話したい事がいっぱいあったのよ」
そう嬉しそうに言い、その後リビングに移動して4人でお話をしていたのですが、途中で着物を着た50歳位の女性が入室してきました。
この女性、たしかお祖母ちゃんの葬儀の時に来てくれて、わたしに二条家に来ないかと言ってくれた人だったはずです。
「お久しぶりね、知佳さん」
「あ、お久しぶりです、その節は……」
「ふん、そんな事子供のあんたが気にすることは無いよっ。それよりも、あんたは今日からこの二条家の一員になるんだ、二条家の一員として恥ずかしくない様きっちり教育するからねっ!」
と、何やら不穏な事を言ってきました。
今日来た目的はとりあえずお話をするだけだったと思うのですけど、なぜかすでに二条家の一員扱いされてますよ?
「ちょっとお母さま、いきなりそんなこと言っても知佳さんも困ってますよ?」
と美雪さんが私の心情を代弁してくれていますが
「ふん、近衛の婆も私の言う事を聞いてこっちに来てればあんな早死にする事も無かったろうに、昔から一度言い出すと曲げない子だったからね。バカな子だよほんとに。結局この子を一人残して逝っちまうなんてさ……」
え、もしかしておばあちゃんとは知り合いだったの?かと思うと、キッとこっちを睨みつけるように見て
「あんたの部屋ももう用意してある。いいかい、不便な事やしてほしい事、言いたい事が有ればちゃんと言うんだよ!黙ってため込むのは許さないからねっ!」
えっと、もしかしてこの人、口調はきついけど私のことを心配してくれてる?
「お母さま、来たばかりの、それもこんな小さな子にその言い方は無いでしょう?もっと優しく真綿で首を締める様に言ってあげないとっ!」
「美雪……あんたの言い方もちょっとおかしいよ?真綿で首を締めるって、それ追い詰める時のやり方だからね?それに小さいと言っても沙織と同い年じゃないか」
「え?あらやだ、おほほほほ。ともかく、知佳さんとはこれから家族としての信頼を築いていかなければならないんですから、最初からそんないい方しないであげて下さい」
あー、美雪伯母さんも見た感じはぽややんとして優しそうな感じだけど、中身は違うのかなぁ。
「なんにしてもだ、とりあえず知佳ちゃんには今日からここに住んでもらう。もうあんな偽家族のクズ共の元には戻させないから、異論は認めないっ、いいね!」
おばあさんはそう早口で言うと部屋から出て行ってしまいました。
んー、もしかしてツンデレなのかな?
とはいえ、今日はお話だけのつもりだったのでいきなりここに住めと言われても困りますよ?
なので玲子さんの方を見たのだけど
「あはは、二条の大奥様も相変わらずね。知佳ちゃん、とりあえず数日はお世話にならないと駄目っぽいよ?春休み中だし、例の件の相談もあるからちょうど良いんじゃないかな?」
「えぇぇ、いきなり?今日はお話だけって…もしかして玲子さんこうなるのわかってました?」
「まぁ、二条の奥様の性格を考えるとね」
こうして今日はなし崩し的に二条家に泊まる事になりました。
それにしても、今日泊まる事によってその後あんなことが起こるとは……