顧客リスト 002人目 「迷子の妖精族」
俺・・・大八木 和泉は今とても困った状況に陥っていた。相変わらずの見習い修行中であることには変わらないのだが・・・
「いずみ~。ここはすごいな。私が見たことない人や物がいっぱいあるのだな」
そう可愛らしい声で話すのは俺の腰くらいの身長で綺麗な金髪を揺らしている少女だ。少女なのだが普通の少女ではなく背中には小さな羽があり、瞳は透き通った蒼色。そして耳は普通の人よりも先が尖っている。
そうこの少女はエルフ族なのだ。
「まあここはそういう場所というか空間だからね。因みにウチの事を知っていたり誰かに聞いたことはあるのかい?」
「ううん。聞いたこともない。私達エルフは基本的に他の種族とは関わらないようにしているから。昔からの古い習慣だから」
少しシュンとする。多分エルフの寿命も俺たちより何倍もあるのだろう。しかし見た目は中学生くらいの少女だ。遊びたいし知的好奇心ってやつは種族とかには関係なくあるものだと思うし。俺だって実際にそうだった。
「まあ。これもなにかの縁だと思うし。帰るまでは楽しんでいきなよ」
「ありがとう。いずみ。そうさせてもらえると嬉しい。」
さてどうしてこうなってしまったかという事を説明しよう。あれは朝食の時の話だ。
「おはよでーす」
「和泉ぼっちゃん。おはようございます。朝ごはんできてますよ」
「おはよう。和泉。今日もあちら側は任せます。しっかり学んできなさい。私はこちら側でのお客様の対応があるからよろしくね」
「おはよう。そうか珍しくこっち側に団体のお客か。じゃあ 仕込みもしておかねえとな」
ウチの朝食は少し遅めだ。というのも基本はお客様が先だからだ。こちらの時間で7時~8時30分の間がお客様の食事の時間だ。朝はバイキング形式にしていて祖父で板長の團蔵は弟子たちと追加の調理や昼の仕込みや冷蔵庫の在庫チェック、俺は他の従業員に混じって配膳や食事や飲み物の補充やたまにいる居室への配膳等を忙しく行っている。それが終わるとようやく自分達の食事というわけだ。祖母のキク江の移行により朝食はなるべく大勢で雑談をしながら食べようという事で朝の食卓は結構賑やかでる。俺ら身内以外にも従業員もパートさん関係なく来れるときはなるべく皆で食べるようにしているのだ。
「あっ和泉さん。フロントの絨毯そろそろ交換しといてもらえます?ちょっと剥がれや汚れが目立ちはじめてますので」
「了解。飯の後にでも張替えはじめるとするか。」
「團蔵さん。今日のこっち側の夜の仕込みどうしますか?」
「そうだな。そういやこの前豚肉のいいのがあっただろ?それと野菜も新鮮なウチに使いたいから豚しゃぶと温野菜のサラダにするか」
「キク江さん今日来られる方のリストです。あと前来られた老夫婦からお礼のお手紙来ていましたのでどうぞ。」
「あら。たった一泊だけだったのにご親切だね。」
こんな感じで大体は業務連絡みたいなものだが業務的にやるよりはこういった雑談的にやったほうが変に緊張しなくてもいいし俺はかなり気に入っている。