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アグレッシブ・オブザーバー  作者: 深層^0
学園へ
6/8

晴れ時々雨

 格納庫で一人ぼーっとしている。

本当はグループで一機のPSを整備するのだけれど、他のみんなより先に来た。

次の時間が待ちきれなかった。整備研究科はPS科と違い、一人に一機PSは貸与されることはない。

PS科から整備依頼の入ったPSか、整備を一定期間していないPS科のPSが整備に回ってくる。

PS科の生徒と専属の整備士として約束さえすれば、その相手のPSの整備を任せてもらえるのでそういった子は実力をメキメキと向上させるが、それは仲のいい子だとか恋人だとかの一握り。


 実際、PS科の生徒としても一人に見てもらうよりグループで見てもらうほうがミスが少ないだろうって思いもあるらしく、仕方のないことではあるけれど。

そんな私は授業を終えたであろう、PS科の生徒が格納庫に戻ってくるのを眺めている。

 ふと、一人の見慣れない生徒がPSを整備ルームに停めているのを見た。

今日整備予定のPSではない。顔も知らないことから考えて誰かと約束してる整備研究科の生徒かもしれない。うらやましくもあり、私は少し覗きに行く。


 見慣れない男子。

手には工具を持っている。やはり整備研究科なのだろう。

私は近づいてその作業を見守る。他人の作業を見て自分ではどうするか、と考えるだけでも勉強になるのだ。

 まるでマニュアル通りにテキパキと関節部を露わにしていく男子。

かと思えば、マニュアルとは全く違う方法で整備をしていく。

関節部はマニュアルでは、金属疲労を確認したあと、通常であれば油を差す。

その男子は金属疲労を確認した様子はあったが、油ではなく黒い粉をかけては拭き取り

またかけては拭き取りと見たことのない作業をしていた。

 「あの、油差さないんですか?」

つい声をかけてしまう。


 「アレは時間経過や温度次第では動作に影響がでるからな」


振り返りもせずに、作業を続ける男子に私は言葉を投げる。

 「何を使ったのか教えてもらってもいいですか?」

 「黒鉛だ。ほら、鉛筆とか。勿論汚れるから拭き取る必要はあるが。昔のシリンダー用の粉末スプレーがあるならそれに越したことはないが、このご時世だと中々お目にかかれないだろう?」

 「ありがとうございます、このまま見せてもらってもいいですか?」

 「構わないが、昼休みだろう、昼食は食わないのか?」

 「えっと、次の授業が整備なので我慢できずにパン食べながら来ちゃいまして」

 「整・・・備?あぁ、違うクラスだったか」

振り返って私の顔を確認して、男子は今更なことをいう。

そして腕の関節を見て不満そうに口を尖らせた。

どうしたのだろう、私も覗き込む。細かい蜘蛛の巣のような罅が見える。

金属疲労だろう、ただ腕の関節はそこまで負荷がかからない。

これが作業用のPSであれば話は別だけれど、軍用系に属するのは負荷をかけることが少ない。

 「すまない、腕関節のパーツはどこにあるか知っているか?」

 「え?変えるんですか腕ですよ?」

 「当たり前だ、腕はよく動かすからな、足なんかと比べて負荷がかかる」

 「腕って負荷が少ないって習ったんですけど・・・」

 「こう言うのも何だが、腕には実力が上がるほど負荷をかけることが増える。ただ武器を振るだけじゃないんだ、で場所はわかるか」

 「知らなかった。ってことは上手い人の整備任されるなんてすごいね、あ、関節パーツはここにあるよ」

 「ありがとう、任されるというか自分のだしな」

 「自分の?え?整備研究科じゃないんですか?」

そういって男子は関節パーツを取り外す。

 「PS科だ、さっきの授業でそこそこ動いたからな、メンテナンスしとかねえと」

 「驚き。その腕でPS科ってお兄ちゃんみたいな」

 「PS科の人間は整備しないのか?」

 「私の知ってる限りじゃお兄ちゃんだけ。整備研究科に整備依頼出すか一定周期で整備になってこっちに回ってくるよ」


手際がいい。もう関節パーツを取り付けている。私なら10分近くかかる作業。


 「なるほど、そういえば名乗ってなかったな、俺は柳 優也。今日から編入してきた、よろしくな」

 「ごめん、忘れてた。私は島崎ゆず。それにしてもその腕でPS科ってもったいないなぁ」

 「島崎・・・聞いたような・・・兄貴って寮長か?」

 「そうだよ、そっか。PS科だもんね」

 「それで、優也君はどうして整備してるの?」

 「優也君って・・・。例えばさっきみたいに腕の関節は負荷が少ないからって放置されて、戦場で命取りになるだろ。今は学生で戦場にはでないが操士ってのは軍人だ。自分の命を預ける物を適当に扱われて死んだら目も当てられない」


私ははっとした。その通りだ。私の整備不良で操士が死ぬ。

考えたことがなかった。大丈夫、ではなく万全でなければならないのだ。


 「そっか、そうだよね。自分の命がかかってるとしたら適当になれないよね」

 「俺はPS科の生徒が自分のPSの整備をしてると思ってたよ、通りでみんないないわけだ」

 「――システム起動」

半分着装した状態でPSを起動して、優也君はPSの稼働テストをしている。


 「あの、お願いがあるんだけど」

 「よし、違和感もないな・・・なんだ?」

 「私に、整備任せてもらえないかな。じゃなくて、一緒に整備させてほしいの」

 「今の話を聞いていたか?」

怪訝そうな顔で優也君は答える、が。私も本気だ。これだけ整備の腕がいい、私の実力は一緒にいるだけであがるだろう。

 「うん、だから一緒に。黒鉛とか私の知らないことも知ってるし、私はもっとうまく整備したい」

 「命を預けるのと変わらない、一緒にとはいえ半人前に任せることはできない」


バッサリと斬られる。一緒ならもしかして、と思ったけど上手くはいかない・・・。


 「授業のあとは毎回整備・・・するんだよね?」

それでも諦められない。

 「当然、少しは分かってくれたようで安心した」

 「何もしないから、見てるだけなら・・・ダメかな」

 「触れないなら問題はないが、兄貴の見てるんじゃだめなのか?」

 「お兄ちゃんは整備は上手いんだけど、PSの方が上手じゃないから・・・」

少なくともお兄ちゃんは腕の負荷を気にしていたことはない。

 「・・・邪魔をしないなら好きにしたらいい」

そう言って格納庫の方に消えていくのを見送った。


彼に認められれば一流の整備士になれる気がした。

彼に付いていれば、早く上達する気がする。

私は一流になる必要がある、誰よりも、誰よりも気付き、上手く、早く、丁寧に。





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