スカイ
グランドホテル方式で行こうと思う。
私の仕事は基本的に自分の場所を問わない。
だから、定時連絡を入れるだけの潜入任務として青桜台学園に入学した。
クラッキングで運営資金を稼ぐのがメインの仕事。
入学から3か月。友達も作って、人並みの学生を謳歌している。
自室のベッドで横たわり端末を触り、いつも通りにツールを走らせる。
職員の通信傍受ログ、学園ローカルネットワークへのアクセス・・・秘匿ネットワークへのアクセス。
困難なのは最初だけだった。一度、盗聴器を仕掛け、研究用端末に触れてさえしまえば自分のものと変わらない。
定時連絡のためだけに、ただ無駄な情報を確認する。
雑談、職員のメール、研究日誌、どれも碌なものはない。
モラハラにパワハラ、セクハラ。大した成果のない日誌・・・。
検索に引っかからずに零れた重要情報はないか念のために読み流していく。
あるはずもない、そう思いながらも仕事だからと読み進める。
・・・・・・あった。それも明らかに不審なもの。学園長から一部職員に送信された秘匿回線のメールログ。
この時代で誰が知っているのか、というレベルの代物だ、いっそ清々しい。
「---- ..- .-.. .. ...- -...- .- -.-.- .- ..-- .-.-.- .-.. .- -... .--. -.-. .-.-.- ..-. .-- ..--. ...- --.-. -..-- ..--. --.-. .-.-」
私は舐められているのだろうか、気付いているはずもないのだからふざけているとみるべきなのか。
どちらにせよ、私はこれを読まなければならない。面倒くさい、何かの罰ゲームじゃないの。
そして、これはメールのログ。決して音声ファイルでもなければ、何かの出力ファイルでもない。
やっぱり面倒くさい。
私はメモ帳を取り出して書き留める。他に怪しいログがないことを確認して、端末のソフトウェアを起動する。船上でつかう可能性があるために用意してある。
読むより入力するほうがよっぽど楽ができる。
画面上のボタンを押して入力するだけ。結果は日本語モールス。
「光学迷彩の、開発に、着手しろ」
仮にこれがダミーでなければ・・・。私は何とも言えない気分になる。
これをダミーであると判断するのは私ではない、そんなことはわかりきっている。
定時連絡よりは早いが、AOの秘匿回線を繋げるとほどなくして映像が浮かび上がった。
「こちらスカイ。看過できないメールを発見しました」
「あー・・・。こちらセラフ、看過できないメールとはなんだ」
監査長は水が滴り、上着を羽織っただけの半裸。
どうやらお風呂に入っていたらしい。
「えーと、すみません?学園長からのメールログから一部職員へ向けて、日本語モールスだけを記入したものを発見しました」
「気にするな、続けろ内容は」
「光学迷彩の、開発に、着手しろ です」
「至急ログを送れ」
頭から水を垂らし、明らかにだらしのない恰好であるが、その迫力ある真剣な顔に気圧される。
「了解」
「追って任務の変更を告げることになるだろう、ブラフだとしてもこれは看過できない」
「それでは別命あるまで任務続行します」
「それでいい、くれぐれも先走るなよ 以上」
映像がぷつんと切れ、私の緊張も解ける。
おそらく、追加の人員がそれも末端ではない監視長以上が派遣されることになるだろう。
私の平穏な学園生活が音を立てて崩れていく。
だけど仕方ない、これが私の選んでしまった道。
数日分のログを送信し、私は端末を無造作に放り投げると枕に顔をうずめた。