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俺の彼女、人狼なんです。  作者: 影車ろくろ
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第六話 人狼と幼女

水野麻衣の分身を元に戻すために、学校を休む事になった永司。

最初は括弧を休めると浮かれていたが、家には一緒に桔梗が居る事を思い出す。

 学校をズル休みするなんて、人生で初めての経験だった。

 正直に理由を話したところで、誰も信じてくれる者なんていないだろう。

 スライムと蛇に命を狙われています、なんて言っても馬鹿にされるのが、目に見えている。

 とくに家に、人狼の彼女に九尾の居候、スライム幼女が居るだなんて言えない。

 そして居候の桔梗が、何か荷物を片手にリビングへ戻ってきた。


「やっと頼んでいた荷物が届いたの!永司を追いかけるので必死になっていたせいで、ボロ神社に忘れてきた水晶!まぁ新品なんだけどね」

「水晶って高かったはずだけど、そんなお金をどこから?」


 水晶か…そういや前にも持っていたな。

 未来とかが見えるわけではなくて、呪ったりするのに使うとか言っていた気がする。


「実は、永司のエロ本を適当にネットで売り払ったら、結構な金額になってね。あと他にも家の中にあったいらなそうな物とかも売り払ったわけ」


 お…俺の宝物庫から…お宝を売り払われた。

 この狐、人の物を売るとか正気なのか!?

 原さんから貰った、大切な秘蔵書だったというのに。

 まさか…俺の大切なお宝DVDとかも売り払ったのか!?

 限定版のDVDボックスとかにも手を出したのか!?


「はぁ!?なにこれ!?ただのガラス玉じゃない!?三万も払ったのに!」


 叫び声と同時に、ガラスが砕け散る音が響いてきた。

 彼女が買ったという水晶は偽物で、ただのガラスで出来た玉だった事に腹を立てたようだが。

 普通に三万もしたものを、いとも簡単に叩き割る事が、俺には理解が出来ない。


「俺の…お宝が…粉々に」

「え…永司君。大丈夫だよ、私帰って来たら、お菓子買って帰ってくるから」

「そうそう、裸なんて私がいくらでも見せてあげるから、あんな本はいらないって」


 ある意味複雑な事を言い出すんじゃないよ、白夜の気遣いはまだうれしいけどさ。


「永司君に裸を見せるって、絶対にさせないんだから!」

「自分に自信がないから、そんな事を言うんでしょ?私はこんなに自信満々の我が儘なパーフェクトボディ!乳首だって超ピンクでそこら辺の女優より比較にならないほど綺麗だし!」

「子どもの前でなんて話をしてんだ。それから桔梗、あとで覚えてろよ…俺の私物を勝手に売った事を、必ず後悔させてやるからな」


 腕にヒルのように吸い付いたチビ先輩を連れて、俺は寝室へと向かった。

 自分の寝室に入るのは、実に何日ぶりだろう。

 ところどころに異変と言う物は感じ取れないのだが、ベッドからはかなり違和感を感じた。

 まず毛だらけになっている上に、あっちこっちにちぢれた毛が絡まってる。

 酷いのは、枕がその毛の被害が大きいところ。

 ファ○リーズで臭いを誤魔化してるのだろうが、ベッドが妙に濡れてる。

 壁にもなんかの染みが出来てる…あの狐。


「チビ先輩…もうそろ話してくれませんか?力が抜けて倒れそうなんです」


 吸い取る力が更に強くなった…しかも腕にしっかりとホールドまでかけ始める始末か。

 体を保つのに必要な行動らしいが、俺の方が保てるか分らない。

 ずっとチューチュー吸い続けてるんだからな、それも原理が分らないと来た。

 吸われてる感覚はある、だがどうやって吸ってるか。

 オーラを吸ってるわけでもないし、もしかして毛穴から吸ってるのか?

 とりあえず…今日は家から出ることが出来ないから、DVDを見て過ごすしかないか。

 コレクションの中には、アニメの作品もあることだしな。


「あの、永司君。私、学校に行ってくるから…気を付けてね」

「白夜の方も駄目そうだったら、無理せず帰って来てくれ。別の手段を考えよう…力が抜けても、何かを食べれば直ぐに回復するから」


 申し訳なさそうに部屋を後にする白夜、別に気に悔やむ事はないというのに。

 今日は自衛をしないといけない。

 桔梗のことだから、昔のような事をしてこないとは限らない。

 ましてや騙されて若干苛ついてるはず、八つ当たりで何かをしてくる可能性は高い、


「永司、可愛い可愛いアナタの狐が悲しんでるから慰めて」


 扉から聞こえてくる桔梗の声。

 苛ついた様子ではなく、どこか陽気さを感じさせられた。

 だが俺は、扉を開けなかった。

 まさかベッドをこんな風にされるとは思って居なかった上に、お宝まで売り払われたんだ。

 しかも何万もするものを、簡単にたたき割った。

 俺のお宝を売って買ったものを!物の数分で!


「扉開けて良い?誤解があるみたいだから説明したいんだけど」

「勝手に開けたら、ベッドの惨状を白夜に送る。同時にお前を叩き出す」


 俺は警告を出しながら、コレクションの状態を確認した。

 すると宝物庫へしまってあった、秘蔵書のほとんどがなくなっており、ボロボロの物しか残っていない。

 それも状態が悪化してる上に、引っ掻いた爪痕まである。

 あと映画のDVDとかも数本が消えてる。

 限定版から、ネットでプレミア価格が着いてるのまで消えてる。

 アイツ…一体どうやって、プレミアだけを選別しやがったんだ?


「DVDを売った金はどうした?」


 返事が返ってこない…逃げたか、黙秘をしているのか。

 文句を言わないと気が済みそうもないので、扉を開ける事にした。

 扉の前に桔梗は待機をしていたのだが、全裸待機していた。

 パンツも履かずに、素っ裸の正座。


「この旅は申し訳ございませんでした。つきましては、ここに謝罪の意味を兼ねて、アナタ様のお部屋でストリップを」

「子どもの前でやめろ。それより金出せ、コレクションを買い直す」


 ポカンとした顔で見つめてくる桔梗に対して、俺は冷静を保つ事にした。

 ここで甘い顔をすれば、調子に乗られてしまう。

 そうさせないためにも、金は取り上げないといけない。

 叩き割らなければ、まだ返品することも出来たかもしれないのに。


「えっと…お金はないので…体で支払うというのはどうかと?」

「じゃあお前の裸の写真、オークションにでも出せよ。パンツとかも出せよ」


 何ふてくされた顔してんだよ!?俺のコレクション売ったんだぞ!?

 あれを集めるのに、一体何年掛ったと思ってるんだ!?

 お年玉だってつぎ込んだりしてたのに!


「私が裸をみせるのは…永司だけなんだからね!」


 どうしてここで…ツンデレっぽい発言をしてきた!?

 いくらなんでも、使うタイミングが違い過ぎるだろ!

 もう思考が分かんない!狐って皆こんな感じなの!?

 もうただの露出狂にしか思えない!

 さっきから髪の毛でチラリズムを演出してくるしさ!鼻血ダラダラだよ!?


「まずは服を着ろ。その後でゆっくりと話し合うぞ…水晶が欲しいなら、事前に相談とかしたらどうなんだ?」

「だって…却下されると思ってたから」


 そりゃ三万の水晶なんて、ポンっと買える代物じゃない。

 値段が値段で、ただのガラス玉を高額で買わされた。

 騙された怒りは分るんだが、叩き割ったらどうしようもないだろうが。

 もう割ってしまった物は仕方がないが…困ったな。

 三万だろ?学生の俺にしたら、かなりの大金だぞ。


「そのうち水晶なら、売ってそうな店を探してやる。だからまずは反省をしておけ」


 静かに扉を閉めて、俺はテレビの電源を入れた。

 DVDのケースから一枚のディスクを取り出し、それをプレイヤーにセットする。

 奇跡的に残されていた物の一枚、題名は「デッドリースポーン」

 本体が口だけで、口内にはこれでもかと言う程の牙が生えた怪物が、襲い掛かってくるという作品。

 俺の世代では誰も知らない人は多く、逆に知っているのか聞く方が間違いだ。

 マニアの間でこそ話題になる作品で、一般的ではないからだ。

 幸いな事にも、チビ先輩は眠ってる。

 映画を見るタイミングは完璧、余裕を持って見ることが出来る。

 白夜が学校から帰ってくるまで、あと数時間もあるが…映画を見て過ごす日も全然アリだ。

 だって学校の授業を受けてるより断然、映画を見ている方が楽しいから!


「え、永司…私も一緒に映画見ても良い?お菓子とか用意してあるから」


 静かに扉を開けて入って来た桔梗は、なぜかメイド服を着用していた。

 一体どこから持ってきたんだよそれ…以前の裸エプロンといい。

 ネットか!?それもネットで注文したのか!?

 俺のコレクションで購入したのか!?良い金額になったのか!?


「似合うかな?思ったより…あっちこっちキツいけど…可愛いかと思って」


 可愛いは可愛いですけどねぇアナタ…ちゃんとサイズ測りなさいよ。

 まだ体がすらっとしてるから着られたんだろうけど、胸とかパッツンパッツンじゃないですか。

 スカートに関しても、動いたらパンツが丸見えですよ、こっちにはメリットだけど。


「お前よく見たら、尻尾でスカートが捲れて丸見えになってるぞ」

「家の中で着るからいいの。どうせ見せる相手なんて、永司くらいしか居ないんだから」


 そうですか…確かに俺以外にここに住む人物はいませんな。

 最近だと白夜がよく泊まって行くが、喧嘩になりそうな物を買うんだからな。


「これってあの牙が沢山あるヤツ?永司好きだよね、化け物とか」

「映画マニアとしては、一度は見ておきたい作品の1つだからな。お前の手によって…俺のコレクションが、失われたけど」


 とりあえず…お気に入りの作品の大半は、残っていたから安心出来た。

 でもこの報いは必ず受けさせる、必ずだ。



 玄関の扉が開く音が聞こえ、下の階から話し声が聞こえ始めた。

 白夜が無事に連れて帰って来る事が出来たようだ。

 俺はチビ先輩を担いで、下の階へ向かおうとした瞬間、真剣な顔の桔梗に引き止めれた。


「お願いだから、無茶だけはしないで。危険だと感じたら、直ぐにこの家を出て…場合によっては、あの人狼を連れて逃げて」

「分った…桔梗の方も、無理だけはしないでくれよ」


 三人でゆっくりと階段を降りていくと、白夜と水野先輩がリビングでくつろぎながら、俺達を待っていた。

 仏頂面でタコの様に口を尖らせた白夜と、優雅に紅茶を楽しむ水野先輩。

 一体全体、二人の間に何があったと言うのだろうか。

 てか水野先輩が使ってるカップ、家の親が趣味で集めてたのを使っていらっしゃる。


「永司、()い物を揃えているのですね。ブルーオニオン、お借りさせて頂いてます」

「は、はぁ…ありがとうございます。親が趣味で集めた物ですが、ご自由にお使いください」


 別に高かろうがいいや、両親は別に帰ってこないんだから。


「待って!それ高値で売れそうだから、あまり使わないで!」


 お前はまだ売るつもりでいたのか!?さっきあれだけ話しただろ!?

 この家の物を、許可なく勝手に売るんじゃないって。

 それと、チビ先輩がまた腕に吸い付いてきてる。

 右腕を完全に飲み込まれてしまった…ブロブに喰われてる気分だ。

 中がネチョネチョしてるよ、微妙に生暖かいよ。

 もう音がなんかエロい、スライムに包まれるってこう言う気分なのか。

 …これはこれでアリなのかもしれない!


「ところで、私に大切なお話があるとペットから聞いて来たのですが?」

「いや、白夜はペットじゃなくて彼女なんですけど」

「犬はどうでも良いから。アンタ!このチビを体内に戻しなさいよ!このままだと永司が干からびてミイラになっちゃうじゃない!」


 え!?俺ってば、このままだとミイラになるの!?

 ミイラ再生とかみたいになるの!?ハムナプトラみたいになるの!?


「その小さい物は不要な部分ですので、処分してくださって構いませんよ。塩に漬けておけば、水分が失われていずれ消えますので」


 処分って…チビ先輩は生きてるのに。

 それに元々は体の一部を、簡単に殺せと言うなんて。

 正直俺は、相手が女であることも構わずに殴ろうとした瞬間、白夜に止められた。

 身動きが取れない俺に代わり、桔梗が水野先輩の頬を叩いた。

 部屋に鋭い音が鳴り響き、状況が理解出来ていない先輩に対して、般若の様な顔で見つめる桔梗。

 睨み付けようと顔を上げた瞬間に、再び桔梗が手を振り上げ、もう片方の頬を打った。


「私はアンタの命を二度奪おうとした。でもそれは永司を守ろうとしたからであって、アンタみたいに軽々しく同族を殺そうとはしない…白夜、永司達を連れて二階に行ってて」


 こちらに顔を向ける事なく、冷たい声で言い放たれた言葉は、とてつもなく重たかった。

 今は彼女の指示に従えと、俺自身の本能が叫んでいるように感じる。

 絶対に逆らうな、そのままリビングを出て、寝室に戻れと。

 俺は本能に従いながら、白夜と寝室へ行った。

 寝室に入った瞬間から全身に、とても冷たい汗が流れ始める。

 汗がしょっぱかったのか、冷たかったのか理由までは分らないが、腕からチビ先輩が剥がれ落ちた。


「ぺっ!ぺっ!へんなあぢ!」


 腕を吸う事に集中し過ぎて、気づいていなかったんだな。

 聞かれていなかっただけでも良かった。

 元々は俺達より1つ歳上なんだもんな、チビ先輩も。

 言動と容姿が幼いのは、欲望という部分だけが分離した事が原因だからだ。

 本体から欲望部分が分離した他に、どれだけ満たしても満たされない欲望を意味して、幼い体という説も出てる。

 この説は白夜から浮上した物だが、一日に何度も吸い取られるから、あながち間違いでもないだろう。


「はなちなちゃい!えいぢ!めいれいをききなちゃい!」


 なんだかんだで、別れるのが寂しくなってくるな。

 たった数日だったのだが、俺が育ててたということは、間違いない。

 どうしよう、目から涙が出てきた。


「白夜…チビ先輩返さなくていいかな?」

「返さなくていいかなって…でもこのままだと永司君が、永司君!?泣いてもだめだよ!?ちゃんと返してあげないと!」


 分ってる…分ってるんだ。

 でも離れるのが辛いんだ!もう俺の子どものようなものなんだ!


「ね?元に戻っても、たいして変らないから。それにこのままだと何が起るか分らないよ?渡して?私が見てるから」

「い、いやだぁ!もう俺の娘も同然なんだ!なんか分かんないけど、多分俺がなんかなる!」


 なんかなるの意味が分らないが、とにかく俺自身が危ない気がしていた。

 渡してしまったら、多分俺が死ぬかもしれない。

 さっきから本能が異常に働いているが、渡すなと警告を出してる。

 もし渡したら、お前死ぬからって言ってる。


「…外でワイスピの車が走ってる!」


 白夜が窓の外を指しながら、叫んだ。

 まさかそんな事があるはずが…ホントに走ってる。

 俺は目を疑った、疑わざるおえないのだ。

 外でダッジチャージャーが走ってる…スーパーチャージャーも搭載。

 つまり、映画のまんまである。

 運転手までは見えることが出来ないが、あの車は間違いない。

 死ぬ前に素晴らしい物が見れた、これなら死んでも良い。


「感動だ…うん、感動した。ありがとう白夜、俺はうれ…あれ?」


 先ほどまで、手元にいたチビ先輩がいない。

 俺自身が車に見とれている間に、連れて行かれてしまったようだ。

 頭が痛くなってきた、悩みすぎとかじゃなくて、偏頭痛みたいな頭痛が。

 もしかして本能が訴えていたのは、この痛みに対してなのか?

 だとしたら、かなりヤバい状況なのかもしれないぞ。

 とりあえず二人に説明をしないと、熱が出たとき見たいにガンガンする。


「は、白夜…桔梗…助けてくれ」


 途中で倒れ、這いずりながら廊下まで辿り着いたは良いが、どうやって降りるか。

 作戦一、手すりに掴まりながらゆっくりと降りる。

 これは耐えられなくなって、最後は階段から落下するだろう。

 作戦二、呪怨に出てくる伽耶子の如く這いずりながら降りていく。

 一歩間違えると、顎から落下していく羽目になる。

 作戦三、手当たり次第に物を投げつけて、下にいる二人に気づいて貰う。

 だがこの作戦はかなりリスクを伴う。

 携帯は壊れる可能性がある上に、様子を見に来たどちらかに、投げた物がぶつかる可能性がある。

 特に色々と犠牲が大きすぎる。

 そうなってくるとだ…作戦二が有力か。


「ゆっくりだ…ゆっくりと手をついてぁああああああ!」


 手をついて、体を前に出そうとした瞬間に激痛が走った。

 その結果、痛みで手に余計な力が入ってしまい、前転するように転げ落ちて行く。

 小学生の頃に、携帯ゲーム機で遊びながら階段を降りて、そのまま転げ落ちた事を思い出した。

 途中のカーブで腰を打ったせいで、頭痛と腰痛のダブルパンチだ。

 音に驚いたであろう白夜が、リビングから飛び出してきたが、俺の視界には別の物が写り込んでいた。

 純白とも思わせる程に淡い、桃色のパンツ。

 頭と腰が痛いが、これは見逃す訳には行かない…彼氏の特権乱用じゃ!


「もしかして階段から落ちたの!?鼻血が出てるってことは、鼻とか折れてない!?」

「折れてはいないんだが…頭痛に加えて、大量出血で死にそう」


 ついに俺が鼻血を出している意味が理解出来たらしく、スカートを抑え始めた。

 まずは、美しい芸術に感謝。


「今は私のパンツに祈りを上げてる場合じゃないよ!?」


 そうだった、チビ先輩を連れて行かれてから、頭痛が治まらないんだった。

 俺は白夜へ突然起った頭痛、自分でも原因が不明な事を話した。

 正直言うと、どうしてあそこまで渡す事を拒んだのかも、自分ですら分かってない。

 突然、離れるのが凄く嫌になってしまった。

 今こうしている間は、別にあの感情があるわけじゃない。

 逆に頭痛が激しくて苛ついてるほどだ。


「つまりは、催眠術のような物にかけられてたってことかも。本体と合体したくないから、永司君が近くに居る間は、何かしらの方法で守らせるとか」

「じゃあ…この偏頭痛も、それが原因って事か。厄介なこったな…どうにか止められないか?」


 二人でリビングへ入ると、謎の呪文を唱える桔梗が居た。

 そして結界らしき物に閉じ込められた、水野先輩達。

 こちらに気づくと何かを叫んでいる様子なのだが、声どころか音すら聞こえてこない。


「これは閉じ込めてるのか?それとも、二人共消す気じゃ」

「一応は、二人を元の一人に直すらしいんだけど。かなり苦戦を強いられてるみたいで」


 チビ先輩の近くにいると、激しかった頭痛は安らいだ。

 一定の距離を離れると発動するのか、あるいはストレスか痛みを伝える方法なのか。

 細かい所までは分らない、そこは本人のみが知っている事だ。

 ただ心配になるのは…人格がどちらかに定着したりするのだろうかと言う事。

 冷酷な方に着くのか、我が儘な方に着くのか、あるいわ本来に戻るのか。


「…しばらく、こうしておけば勝手にくっつくから、放置しても大丈夫。永司は部屋に行ってた方がって…まぁ、永司の好きな映画みたいにはなるかもしれないけど」

「それどころじゃないの。永司君に何か異変があって、頭痛が酷いって」


 こちらに近づいて、頭を桔梗に掴まれたのだが、息が出来ない!

 頭が平気かを確認するのは分るが、胸に顔を押しつける理由はあったのだろうか?

 半分楽しんでるようにも思える、悪く無い状況だが!

 でもそろそろヤバいかもしれないな、息が長続きしそうもない。

 あと大量出血も追加だ、この癖を直さないと、後々苦労するはずだからな。


「外傷に異常なし…となってくると、吸収してる最中または寝込みを襲われたか。二人が元に戻れば収まるかもしれないけど、最悪は強行手段を使うしかないかも…あ~あ、鼻血でベトベト」


 ソファに座らされ、鼻にティッシュを詰められたものの、本当に死なない事が不思議だ。

 これまで大量の血を流してるのに、貧血にすらなっていない。

 桔梗が何かをしているのか、または元々俺が強いのか。

 あと考えられるのは、桔梗と居る事での、肉体へ起るなんらかの影響か。


「私はシャワー入るけど、永司も一緒に入る?」

「入るならさっさと行ってよ!これ以上変な事をされたら、永司君が本当に死んじゃう!」


 あの白夜、無意識にやっている事だと認識するんだけど、大して変らないぞ。

 桔梗もなかなかだったが、やっぱり白夜も相当立派な物を持っていらっしゃる。

 現在この家には、三人も美女が存在する。

 それも三人が巨乳か…勝ち組じゃねぇか!?

 どう考えても勝ち組だよな!?ある意味リア充だよなぁ!?

 例え相手が人間じゃないとしても、この状況は凄い!

 彼女がいる上に、一人は学園のマドンナ…でも正直恐ろしい。

 後からこの因果が来るのではないかという、恐怖も若干ある。


「やっぱり気になる?元に戻ったら、襲われたするんじゃないかって」

「それは確かにあるけど…この状況で、あいつが乗り込んで来たりしたらどうしようかと思ってる。あとは、水野先輩が、チビ先輩を処分しろって言葉が、頭から離れないんだ」


 もし結界に閉じ込められている水野先輩を発見されたら、余裕で乗り込んで来るだろう。

 俺も白夜がそんな目に遭っていたら、何も考えずに乗り込む。

 そして出来るだけ、助け出そうと足掻く。


「多分だけどね。欲望という部分が無くなったせいで、余計な部分だと判断したんだと思う…でも処分っていうのは、流石に酷いと思う」


 俺はそっと結界の前に立つと、凄い勢いで水野先輩がこちらに近寄ってきた。

 激しく結界を叩き、何かをずっと泣きながら叫んでいた。

 ただこちらからは声が聞こえないから、答えようもない。

 チビ先輩の方は、普通にジュース飲んで寛いでるな。

 てっきり、吐きだめの悪魔みたいにドロドロになってから、また合体すると思ってたんだが。

 絶対に勘弁して欲しいのは、バスケットケースみたいになる事だ。

 多分戻るのは胸の辺りだろうが、胸に顔が着いたら気持ち悪い。


「正直先輩には、心底がっかりしました。元は自分自身を、簡単に処分しろなんて事を言えるなんて、俺は軽蔑しますよ」


 相手の方にも声は聞こえないだろうが、言っていること自体は理解出来ているのかもしれない。

 さっき以上に発狂して、チビ先輩が耳を塞ぎ始めた。

 結界を叩く力が激しくなっていくが、破られると言う事は無さそうだ。

 そして徐々に二人の体に異変が起り始めた。

 チビ先輩の体がゆっくりと、水野先輩へと近づき始めている。

 大きい磁石に対して、小さい磁石が少しづつ引き寄せられいる感じだ。


「え、永司君。目が少し怖いよ?」


 白夜の言葉で初めて、無意識に水野先輩をゴミでも見るような目で、見ていた事に気づかされた。

 人というのは、あそこまで冷酷な事も出来るのだと実感した。

 鏡に写る自分を見てみたら、青ざめる程の怖い目をしていた。

 その顔が戻る事もなく、ずっとその顔だったかのように、振る舞っている。

 戻そうと力を入れてみるものの、直ぐに突っ張り始める。

 内心で怒り過ぎて、顔の輪郭も変ってしまったのか?


「少し冷静になった方が良いかもしれない。永司君は優しいから、凄く怒るのは分るけど…追い込み過ぎたら駄目だよ?」

「白夜のいうとおりだな、ちゃんと冷静にならないとだ。ありがとう…少し顔が緩んできた気がするよ」


 鏡に写り込む顔は、先ほどとは違う、いつもの顔に戻っていた。

 そして同時に、浴室から桔梗が裸で出てきた。

 たとえ鏡越しで見たとしても、その破壊力はもの凄く、俺はついに大量出血でぶっ倒れた。

 目を覚ましたのは、それから数時間が経った後の事だった。

 寝室に寝かされていた俺は、重い体を起こすと同時に、隣にある違和感に気づいた。

 部屋が暗くて辺りを見わたしても、暗闇しかない。

 手探りで部屋の電気をつけると、ベッドのシーツに妙な膨らみがあった。


「桔梗か…白夜か?でも小さいよな」


 恐怖心を殺してシーツを掴み、一気に上にあげた。

 すると底には、寝息を立てるチビ先輩が、静かに眠って居た。

 確か元に戻す作業に入っていたはずなんだけどな、失敗でもしたのか?

 もしかして今まで見ていたのは全て夢で、夜が明けたら本当の戦いの始まりとか!?

 だが俺は自分の部屋で寝てるから…頭が混乱してきた!


「水でも飲むか…桔梗とかに聞けば分るだろ」


 一階へと降りていくと、深刻な顔をした白夜と桔梗と水野先輩がテレビを見ていた。

 時刻は深夜の一時を過ぎているのに、三人は居たって元気でいる。

 そして水野先輩が普通に馴染んでいる事にも驚きだ。


「目覚めたの?永司ってば、結構耐性が無くなったんじゃない?昔は食いつく様に見てた上に、片方からしか鼻血流して無かったのに」

「どういうことです?永司とアナタは、一体どういうご関係ですの?」


 またややこしくなりそうな展開になってきた。


「私は永司が幼い頃からの知り合いで、もうお互いに体の隅々まで知ってる仲ですけど、何か!?」

「す…隅々まで知っている仲ですって!?いけない…冷静になるのよ、麻衣。これはきっと心理戦、心を乱された方が負けでなのです」


 心理戦というより、ただ自慢してるだけだろ。

 ドヤ顔を決め込んでいるわけだし、妙に腹立つドヤ顔だな。


「白夜…これってどういうこと?結局どうなったの?」

「説明すると、合体?は成功したんだけど…直ぐに反発を起こしちゃって…結界内で完全分裂しちゃった?みたいな。それで、二人共別個人になっちゃったの」


 完全分裂して、別個人になったか。

 いや、スライムなら普通にあり得そうな話しだけど、バランスがおかしいだろ。

 俺のイメージでの分裂って、双子みたいに増えるものだと思って居た。

 それが実際は、ただの姉と妹にしか見えない分裂。


「結局は、欲望って所は戻ったのか?」

「戻ったみたいだけど…小さい方はどうしよう。目を覚ました瞬間に、何処かに消えちゃったし」


 俺のベッドでぐっすりと眠ってるよ。

 まぁとりあえず元には戻ったと言えるのか、言えないのか微妙な結果になった。

 これからの問題は、家で引き取るのか、水野先輩が連れて帰るのか。

 家に置いて行かれたら、結局は何も解決すらしないわけだ。


「探しに行くとかはしなかったのか?」

「そうしようとしたんだけど…放って置いても大丈夫って言われて」


 大分投げやりな結果を出したんだな、あの二人。

 例え分裂した部分でも、小さい子だから心配くらいしとけよ。

 ため息を着いた後に、俺は再び部屋に戻ることにした。

 チビ先輩の様子を見に行くために。

 もしかしたら、窓から逃げ出しているかもしれないし、そのまま寝てるかもしれない。

 背後から着いてくる白夜にも、無事を知らせるのも丁度良いかもしれない。


「え?こんな所にいたの?トイレとか、冷蔵庫の裏とか探したのに」

「逃走した後、直ぐにここに来ていたのかもな。今日のところは、家で預かるとするよ…話合いは、明日になってからだ」


 その後、桔梗たちに無事見つかった事を話した。

 詳しい話し合いは夜が明けてからになると言われ、それまで全員が各自休憩となった。

 問題は水野先輩が、我が家に泊まると言い始め、三人による修羅場が発生したことだけだ。


まさかの分裂したまま残る結果になった二人。

次回、チビ先輩の名前決めに、ついにあの男が本格的に行動を開始する。

白夜と桔梗は無事に、永司を守る事が出来るのか。

そして、ちゃんとしたチビ先輩には、どんな名前が付くのか。

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