第五話 人狼と蛇
スライムである水野麻衣に狙われた永司。
自身の特製を使い、彼女は永司を手に入れようとするが。
それは唐突に、予想もしていない事で起った。
夕食にピザが食べたくなり、注文をした。
そして到着してから、白夜と桔梗がピザを巡って、争いを始めたのだ。
「だからこれは私が先に狙ってたの!」
「何いってんのよ!?犬のくせにタマネギ食うなんて自殺行為も良いところでしょ!?これは私が食べるんだから!」
二人が一枚のピザを巡って、喧嘩を始めたのだ。
熱々のピザを引っ張り合いながら、お互いを罵り合う。
ピザは二枚注文していたのだが、1つはハンバーグとタマネギたっぷりの物。
もう一つは、シーフードが沢山乗せてある物。
一応シーフードの方は、タマネギが使われていない物を選んだと言うのに、二人してハンバーグを選ぶ。
どちらかが譲る精神がないのか、同時に同じ物をとって、引っ張り合うんだからな。
「いい加減離して!ピザが千切れちゃうでしょ!?」
「そっちが離しなさいよ!犬は食べ物に執着するから嫌なの!ここは私と永司の家なんだから、出て行ってよ!」
俺の家ではあるが、お前の家ではないぞ?
「二人共…お互いにタマネギを食べる時点で、アウト判定なのに気づいたらどうだ?特に桔梗、ここはお前の家でもない」
「私はこの家に何年も住み憑いてるから!もう住人だから!永司にとってはお姉さんとか!妹とか!お母さんとか!お嫁さんみたいな物だから!」
お前の中には、居候というワードは無いようだな。
あと妹的ポジを発言したが、そいつはあり得ない!
お前の方が数千年も歳上なんだぞ!?
「永司君が言ってるんだから、潔く身を引いたらどうですかぁ?ご本人が言ってるのに」
白夜が煽るのも珍しいが、桔梗には効いてないみたいだ。
全然気にしていませんと言うより、存在自体を無視し始めた。
そしてハンバーグを諦めて、シーフードをチビチビと食べ始める。
チビチビと食べている姿は可愛かった。
「な…何この空気?何その小動物感!?永司君はどうして優しい目をしてるの!?」
「分らない…でも見てると、小さい頃に飼ってたハムスターを思い出すんだ」
懐かしいなぁ…小さい頃に飼っていたジャンガリアンハムスター。
名前にハムスケと着けたんだっけ…桔梗にハムリーナ三世って改名されたけど。
「わ、私の方が可愛いから!見てて永司君!」
そういうと、似た様な感じで白夜もピザを食べ始めた。
しかし…どうして二人して小動物になるんだ?
狐と狼のはずなのに、全然迫力がない。
お前等の野生は何処へ行ったんだ!?これは愛らしさ対決なのか!?
「これって、いつどうやったら決着?いつまで経っても終わりそうにないんだが?」
「分らない。なんだったら先にお風呂入ってて」
「これは女の戦い。永司君は大人しくしてて」
可愛くピザを食べる女の対決、聞いた事がないぞ。
ただただお互いに、チビチビハムハム食べてるだけだろ。
俺はこの戦いがくだらないと判断して、風呂に入る事にした。
一体何の戦いだったんだ?
「でも…なんだかんだで、癒やされたな」
今日の学校での疲れも大分取れたような気がする。
学校では、水野先輩から付きまとわれるようになってしまった。
朝から登校しようとしたら、あの道で遭遇する事から始まり、休み時間も教室へ来る。
弁当を持ってきたとか言い始め、屋上に連れて行かれそうになるし。
トイレに入っていたら、入り口付近で待機までされる始末。
主な理由として、俺を餌だと認識しているらしい。
厄介な先輩に目をつけられてしまったものだ。
「俺が安心出来る場所は…家のトイレか、風呂場だけかぁ」
静かに湯船へと浸かり、体の疲れを癒やそうとした時だった。
突然風呂場の電気が消えて、視界全てが暗闇になってしまったのだ。
いきなり過ぎて戸惑ったが、ここで下手に動くと、足の親指が悲惨な結果を招く気がした。
滑って転んだ挙げ句に、トイレの便座と化すのではないかと。
「多分停電だな…電気が着くまで待つしかないか」
一応、桔梗を頼れば明かりが手に入る。
だがそれの対価が怖い!絶対に変な要求をしてくる!
「桔梗が来ませんように、桔梗が来ませんように」
俺は願い続けた、来られたら困る。
いや…見せられるのは別に良いんだ、こっちにとってもメリットが大きい。
でも白夜からの制裁が一番怖い、とにかく怖いんだ。
前に頬を打たれた事があったけど、相当痛い。
「…あ、電気が着いた。電気が復旧したのか」
「ウェルカム…我が食奴隷の永司。これから祝福なるお食事の時間ですよ」
この声は…現在聞きたくない声第一位。
きっと気のせいだよね?気のせいに決まってるよね?
あれ?お風呂のお湯がヌルヌルしてて、ネバネバしてる?
桔梗の奴め、さては玩具の入浴剤を入れたな?
最近動画で見たからな、お風呂のお湯をスライムに変えるやつを。
「こうして私の胸に挟まれるというのは、とても光栄な事なんですよ?こうしている時点で、全身に力が入らないでしょう?身を預けてくれれば、このまま苦などがない永遠の快楽につれて行ってあげます」
た…確かに…全身が気持ち良い。
全身の疲労が吸い取られていく気分だ。
でもこれってかなり危険な状態の様な気もする、力を吸い取られてるからだ。
正常な判断が出来なくなってきてるのか、このままでいたい。
「そのまま身を委ねて、堕落しましょう?私が一緒ですから」
「変な所から家に侵入してくるなんて、ゲジゲジの様な根性。永司を離しなさいよ!このネバゲジ女!」
スライム風呂から引きずり出され、脱衣所に放り出された俺。
顔面を思いっきり地面に強打したんだけど!?超痛いんだけど!?
「再び私の食事を邪魔したな!?」
「…気持ち悪い。浴槽から出ないで」
静かに桔梗が言い放つと、浴室の扉を閉めて、乾燥機のスイッチを押した。
そして扉に謎の札を張った後、俺を担いでリビングへ向かった。
浴室からは断末魔が聞こえてきたが、しばらくすると静まり返った。
もしかして殺したのか?殺しちまったのか!?
「青ざめる必要もないでしょ?アイツは永司を殺そうとしたんだから」
「でも永司君の顔が赤くなって鼻血まで出てるけど、乱暴されたの?」
この鼻血の原因は、床に顔をぶつけた時が原因です。
「もうそろ良いかも。様子見てくるから、永司の鼻血止めといて」
再び浴室へと向かう桔梗。
その間に白夜が鼻血を拭いてくれたが、痛い!足痛い!踏んでる!?
滅茶苦茶足を踏んでらっしゃる!?お怒りですか!?
顔は笑ってるんだけど、目が笑っていらしゃらない。
どうしよう、口から牙が見え隠れして光ってる。
血の気が引いたと思った瞬間に、顔に柔らかな感触が伝わってくる。
「永司君は私の彼氏なのに…受け入れて貰えたのに」
彼女が言うことはごもっともだ。
俺は白夜に告白されて、付き合う事にした。
元々は違う理由からだと思って居たが、彼女自身は本心で告白をしてくれていた。
「はなちなちゃいよ!わたくちをダレとこころえているのでちゅか!?」
「てっきりアメーバみたいになるかと思ってたんだけど、予想外過ぎてウケる。見てよふたりと…雌犬、私の永司に何してんのよ!?」
再び桔梗に投げ飛ばされた。
そして白夜との取っ組み合いを始め、ソファをひっくり返した。
俺の方には、水野先輩の面影を残した幼女が、顔を覗いてくる。
しかもすっぽんぽんで、全身がびしょ濡れ。
…犯罪臭しかしない展開なんだけど!?
「えいぢ!おみぢゅちょうだい!」
「み…水?てか君誰!?全身拭かないと風邪引くよ!?洋服何処!?」
俺はこの幼女が多分、水野先輩のような気がしていた。
とりあえず浴室に連れて行き、タオルを渡したのだが、浴槽に見覚えがある人物がいる。
「なにあれ?アレは水野先輩で間違いないけど…じゃあこの子は誰?」
俺の視界に写り込んだのは、普段の水野先輩と、小さい水野先輩。
「あれもわたち!おっきいわたちだけど、おっぱいはちっちゃい!」
状況を理解出来ない俺は、その物体を見つめていたが、突如それは動き出した。
そして訳も分らずに、窓から逃げ出して行った。
あの…この幼女も連れて行って欲しいんだけど。
幼女に関しても俺の足にしがみついて隠れてる!?完全にビビってる!?
「やっぱりあれわたちじゃない!ただのおっぱいがないおばけ!ほんとうは!わたちのほうがおっぱいおおきいの!」
随分とおっぱいに固執してんな!?そこそんなに重要なのか!?
「そういえば水だったな、水道水で問題は」
「みねりゃるおーたーがいい!あるぷちゅのがいい!」
言語解読に困るな…滑舌が悪いのは幼い事が原因か?
にしてもどうして分裂なんてするんだ?乾燥されてたんだろ?
スライムが分裂するというのは、普通におかしい事ではないはずだ。
問題なのは、乾燥したのに…分裂したということ。
それも大分差が生まれてるんだよな。
大人と子どもの姿だが…まさか胸に執着する理由は、胸の部分から外れたからか?
もしそうだとしたら、説明は出来なくもない。
胸の部分が分裂したと考えたら、納得が出来る。
「おなかすいた!ごはん!」
でもどうして胸の部分が…やっぱり出っ張ってるからか?
明日も学校だし、登校してくるのかもわからな痛い!
「人の足に噛みつくな!痛いでしょう!離さないとお尻ペンペンするぞ!?」
俺は足に噛みつかれたまま、リビングに戻った。
既に二人が大乱闘した後でかなり、酷い有様へと変わり果ている。
そして、俺の足に噛みついた幼女を見せた途端に、大爆笑された。
引きはがすのに、全員が噛みつかれた後、結局は俺に戻ってこられたが。
どうにかして戻さないと駄目だ、俺の体が持ちそうにない。
朝方、激しい痛みによって目が覚めた。
痛みは集中して右乳首に集まり、その周りがもの凄く冷たい。
…俺って…こんなにいっぱいがあったっけ?
股間には…ちゃんと着いてるけど。
「永司君、おはよぉ!?えええ永司君!どうしたのそれ!?急に胸が成長…あれ?よくみたら小さい水野先輩?」
「ああ…だから乳首が痛いのか」
ヤバい、しっかりと吸い付いてる。
これは歯を立ててるとかじゃなくて、がっつりと吸い付いてるから痛いのか。
…俺の乳首に噛みついたとしても、何も出てこないのに。
「引きはがさないの?痛くないの?」
「痛いけど…無理矢理剥がしたら、何か大切な物を1つ失う気がする」
こんなにしっかりと吸い付かれてたら、無理矢理に引きはがすと絶対に持っていかれる。
「朝から五月蠅い。あのチビスライムしらな…永司、いくら可愛いからって、それは流石にマズイんじゃ」
「俺が好きでこんな事をさせると思うか?逆にずっと吸われて痛いんだよ!?持っていかれそうなんだよ!?お前が昨日寝かしつけてたよな!?」
昨晩は、桔梗が引き取って行った。
正確には、危険な可能性があるとして、監視するために一緒に寝ていたはずだった。
それがどうも、寝ている間に抜け出したららしい。
抜け出した挙げ句に、ソファで眠って居た俺に吸い付いたらしい。
桔梗曰く、体が小さい故に、体力の消耗が激しいとのこと。
「あの晩、考えてたけど。多分このチビスラは、あの女の欲望部分だと思う」
「欲望?おっぱいから出てきたから、おっぱいの部分じゃないのか!?」
顔を赤くした白夜に、強く後頭部を叩かれた。
一瞬頭が飛んで行くかと思ったぜ。
「ここまで永司に執着して吸い付くって事は、食欲が強いって証拠。昨日だって、何度も水を要求されたんだから」
「じゃあ、あの勝手に動いたあれはなんなんだ?」
「欲望だけが抜けたって事は、残りの部分だと思う」
残りの部分か…つまり、現在の俺は養分となっているのか?
このまま吸われ続けたら、俺の体はレーズンみたいになるのか?
もしかして、ペラペラになって、空を飛べたりしてな。
馬鹿な事を考えるのはやめよう…どうやって引き剥がすかを考えないと。
「まぁとりあえず、炙ってみる?火ならいくらでも出せるから」
桔梗の火が近づいてきた瞬間に、それは俺の背中に一瞬で移動した。
まるで危機を察知したかのように、もの凄い早業だった。
「逃がさないでよ!しっかりと掴んでて!」
「掴んでろって言われても、掴めないんだよ。白夜、手伝ってくれ」
背中に逃げたのを掴まえて貰うとしたが、再び正面に来られたりで、全然捕まらない。
途中頭に逃走されたりもしたが、なんとか掴まえる事が出来た。
そして火を近づけると、ヒルのように剥がれ落ちた。
ただ寝てるせいか、うずくまるんだが、こちらに近寄ろうとしてくる。
「こっちで捕獲しておくから、二人は学校行ってきて。あと犬、多分永司は狙われるはずだからちゃんと守ってよ?」
「そっちこそ、それを学校につれてこないようにしておいて」
桔梗が掴んでいる間に、俺達は学校へと登校した。
すると予想していた事が1つ起った。
「おはようございます。お元気でしたか?昨晩は急に帰って仕舞い申し訳ございません」
水野先輩が、こちらへと接触してくるかもしれないこと。
見事に登校時に接触を図ってきたが、見た感じでは普段と変らない。
昨日無くなっていた胸も、完全に元通りになってる。
そして腕にしがみついてくるんだが…昨日ほど酷い物ではない。
昨日はみっちりと胸をくっつけてきて、アピールしてきていた。
だが今日は控えめというか…ふざけてやっているようにしか思えない。
となりからは殺意の込められた視線が来て、それどころじゃないが。
「えっと…昨日は返られた事より、急に来られたので驚きました。問題はありませんでしたか?」
「私の方は大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
今のところは、危険性は見られないが、油断は出来ない。
この人は、突然襲い掛ってくるからだ。
そして隣で張り合ってくる白夜、正直歩きにくいんですけど。
こうやって取り合われるってもの悪い気はしませんが、罪悪感が…なんかこう来る。
他の生徒からの視線も凄い事になってる上に、コソコソと言われてる。
「は、離れてもらえませんか?歩きにくいんですが…それに皆見ていますから」
「ご迷惑でしたか?私がいると、やはり邪魔でしかありませんか?」
な…涙目で訴えられると、何も言うことが出来ない。
ズルいって、そういうことされると。
「おい見ろ、水野先輩を泣かせたぞ。あの野郎絶対に許せねぇ!」
「それだけじゃねぇ。水野先輩と仲良くするなんて、羨まし過ぎる!」
「アイツの隣にいる地味な子、確か彼女って聞いたぞ!」
「放課後呼び出そうぜ。俺達からマドンナを奪った報いを与えるんだ!」
漫画で見るような展開過ぎるだろ、あと大声で言う事じゃないだろ。
彼女がいる事は認めます、ですがこの状況は俺のせいではありません!
水野先輩も離れてくれませんかね!?状況を察して欲しいんですが!
あと白夜も白夜で力を緩めて!腕の血が止まって痺れて来てるから!
「それでは休み時間に、再びお会いしましょう。今日もお弁当を用意してきましたので」
手を振りながら、教室へと向かっていく先輩。
これで開放されるのか。
「え、永司君!?どうしたの!?急に膝ついて、具合悪い!?保健室に行く!?」
「いや…白夜、腕に力を入れすぎだよ。痺れて感覚がない」
その後も教室に戻ると、教室が内がざわついてた。
昨日から始まった水野先輩の行動と、校内一部男子が何か計画を立てているという噂。
俺自身が二股を掛けていたとか言う話は無く、むしろ女子の間では、付きまとわれて可哀想という話になってるらしい。
ある意味同情されているんだが、半分が哀れみの目で見られてるって事か。
喜んで良いのかイマイチ分らん状態じゃねぇか!?
「モテ期が来てるようだね、虎田君。あの水野先輩を惚れさえるなんて、何かコツでもあるのかい?」
「コツとか知らねぇよ…一昨日から、急に目をつけられたんだ」
おかげで乳首が真っ赤になってる、歯形までつけられる始末だ。
「彼氏がマドンナに狙われた彼女である、犬岡さんの現在のお気持ちは?」
「わ…私は…絶対に永司君を渡さない。永司君を信じてるから」
信じてるか…頭が上がらなくなるな。
照れくさくなってくるな、佐藤に背中を強く叩かれるし。
そんな時間も過ぎていき、放課後を迎えていた。
昼休みにはやはり、水野先輩が教室前まで来ていたが、白夜同行の元で行く事になった。
結果的には、昨日よりもかなり大人しいのが分った。
襲い掛かる事もなければ、何かを要求する言動すらも見えなかった。
帰りの方でも、普通に帰って行ったから、警戒して損をした気分だ。
「俺、ちょっと図書室に寄ってから帰るよ」
「じゃあ私も一緒に行く。一人にするのが心配だから」
俺が図書室に寄りたかった理由、それは妖怪やギリシャ神話に関する本を読みたかったからだ。
人狼についてや、九尾とスライムについても知りたかった。
「私達の事を知ろうとしてくれるのは嬉しいけど…それって、犬の本だよ?明らかに犬違いだよ!?私一応狼だよ!?もしかして躾けする気!?違うよね!?ペット感覚じゃないよね!?」
「…求めていたをしていたリアクションをありがとう。もちろんただの冗談だよ」
犬の本を本棚にしまい、目的の物を探す事にしたが。
白夜が居なくなった瞬間に、背後から視線を感じる。
そういえば、図書室に入った途端に、図書委員に睨まれてたな。
あれも水野先輩のファンなのか?だとしたら睨まれてもおかしくないか。
「虎田永司。お前に言いたい事がある」
俺が振り向く前に、突き飛ばされて、本棚にぶつかった。
衝撃で床に落ちる本が、静かな図書室に響き渡る。
俺の視界に写り込んだのは、羨ましいと言える程の美少年。
図書室へ入った時に睨み付けてきた、図書委員だ。
「水野麻衣に近づくな、屑野郎。次一緒に居るところを見つけたら、殺す」
殺すと言う言葉出た瞬間に、美少年の目は黄色く光始めた。
瞳が蛇のように変わり、俺をじっくりと見つめてくる。
ことわざの1つに、『蛇に睨まれた蛙』と言う物がある。
意味に恐怖で立ちすくむとあるが、まさしく現在そう感じている。
俺自身が恐怖していて、身動きが一切取れない状態。
相手が蛇で、俺が蛙…捕食する側と捕食される側の図
「お前に貸す本なんてここにはない、二度と来るな。そして水野麻衣の前にも姿を現すな」
手に持っていた本を取り上げられたと同時に、俺は図書室を飛び出していた。
そのままトイレの個室に駆け込んで、今日食べた物が全て吐出した。
映画とかで恐怖した事はあるが、胃の物が気持ち悪くなる程になったのは、初めての経験だ。
全身の震えが止まらない上に、あの目がしっかりと脳裏に焼き付いてる。
「ハァ…ハァ…なんだよアイツ。何か呪いとか掛けられたのか?」
だがもし呪いとかを掛けられた場合、桔梗の力が発動してるはず。
多分俺を突き飛ばしたから、何かしら起ってるかもしれない。
「あの蛇目…人間じゃない」
俺は急いで携帯で、白夜にその場を離れる様に連絡をした。
最初は脳天気な感じででたが、こちらの声が震えている事に気づいた様で、どこに居るのか聞かれた。
「どこにいるの!?今そっちに行くから!」
「いや、来なくて大丈夫だ…大分落ち着いてきたから、校門で待っててくれ…直ぐに向かうから」
トイレから出て、校門で白夜と合流して、何が起ったのかを話した。
怒った白夜が図書室に向かおうとするのを引き留めて、家に帰ろうと説得した。
このとき、俺はかなり気分が悪かった。
殆ど立っているのがやっとというレベルで、体の調子が悪かった。
家に到着しても、しばらくはトイレに引き籠もり、胃が空になるまで吐き続けた。
「これ口を濯ぐ為の水、置いておくから」
「悪い…臭うから、あっちに行っててくれ。桔梗も鼻が良いだろ?」
吐瀉物の臭いがキツいというのに、優しく背中を摩ってくれる桔梗。
その間、白夜はチビ水野先輩の相手をしてくれていた。
「蛇目の美少年。見た様子だと、呪い等の影響じゃないとすれば…永司のメンタルを攻撃してきたと考えるべきね」
「動けなかった…あの瞳を見てから、体が震えて何も出来なくなった」
トイレから戻ると、白夜が尻尾を振りながら相手をしていた。
可愛い上に、とても癒やされる光景。
まるで姉妹が遊んでいるような、不思議な光景だ。
今までは普通に過ごしていたのが、人外と遭遇しただけで、こんなに変るなんて。
予想外過ぎたのは、あの少年が一体何者なのかということ。
水野麻衣に近づくなと言ってきたから、知り合いの可能性もあり得る。
「ねぇチビ、アナタは蛇の目をしたクソ美少年を知ってる?」
もう既にチビで略されてるよ。
「ちってる!へびちってる!まえにすきってたくさんいってきた!」
「ということは…その蛇男はスライムに好意を持っているけど、フラれ続けていた。なのに、永司に付きまとい始めて、嫉妬したわけね…もう!変な女ばかり連れてこないでよ!」
うわぁ!理不尽にキレられた!?
変な女ばかりって言われてますけどね、一般人からすれば、アナタも十分変な女ですから!
普通は空想上の存在って言われてるんだよ!実在してたけど!
今だけで、人狼に九尾にスライムだぞ!?
「でも永司君が恨まれる理由が」
「愛と言うのは人を変える。アンタだって、先に私と永司が付き合ってたりしたら、似た様な事をするんじゃないの?」
言葉に詰まる白夜、そして不安がるチビ先輩。
もう決めた、チビ先輩でいいや、その方が楽だから。
「特に蛇ってのは、執念深いから…警戒は怠れなくなってきたわね。水晶とかがあれば簡単に相手の行動とかが見れるけど…到着予定が明日だし」
なんか勝手に買い物されてる!?
コイツ、俺のパソコン使って買い物したのか!?
てか狐ってパソコン出来るの!?
「明日は永司を休ませるから、雌犬はあのスライム女を連れてきて。このチビってば、私の尻尾をネバネバにした挙げ句に、毛を毟り始めたんだから!信じられる!?」
やったぁぁぁぁぁぁ!明日学校をサボれるぞ!
白夜と離れるのはかなり寂しいが、あの蛇男に会わずに済む。
俺は多分このとき、嬉しそうな顔をしていたんだろうな。
俺を見つめる白夜は少しだけ、寂しそうな顔を浮かべていた。
俺が明日休むということは、白夜が一人で登校をしないといけないことになるから。
「は、白夜。明日は帰って来たら、一緒に映画でも見ないか?映画なら沢山持ってる、なんだったら好きな映画を借りても良い」
「ありがとう…でも、私は映画より…一緒にゲームとかしたいな」
ゲームをしたいと言う彼女の顔は、寂しさよりも、嬉しさの方が強く見えた。
「はいは~い!いちゃつかれると、ムカついてくるからやめてくれる?一応、明日は永司を守る為に休ませるんだからね。ちゃんと忘れずに連れてきてよ?あと蛇男にも気を付けて」
「大丈夫、ちゃんと永司君の為にも考えてるから。私が学校で守らないといけないから」
またも、二人に迷惑を掛ける事になってしまうのか。
俺は男なのに…情けないな。
殆どが守られてばかりで、大して力になることも出来ない。
逆に喧嘩の火種にすらなっている…俺は何なんだ。
チビ先輩からは養分として見られてるし、蛇には恨まれるしで。
「だけど普通に着いてくるの?今日の感じだと、永司君を襲わなかったけど」
「それを考えるのがアンタの仕事でもあるの。今日だって永司に対して反応はしてたんでしょ?欲望の部分が無くなっても、肝心な理性とかが残ってんだから、求めて来るはず」
欲望じゃなくて理性で行動してて?俺を理性が求めてる?
駄目だ、全然理解出来ない。
あとこの幼女は先ほどから、なんで唇をタコみたいに伸ばしてんだ?
しかもこっちに向けて、制服を掴んでよじ登ろうとしてくる。
「そんな事をしてると、顔が戻らなくなるぞ?」
「おなかちゅいた!だからごはんたべるの!ちゅーちゅー!」
その食事の取り方には、色々と問題点がある気がするんだが。
「俺じゃないと駄目なのか?桔梗から吸えばどうなんだ?
九尾だから妖力とかがデカくて美味いかもだぞ?」
「きつねいや!あっちこっちくさい!あっちこっちもじゃもじゃしてる!」
「ちょっと!?誰が臭いのよ!?それに股とかの毛はちゃんと処理してるんだから!」
具体的な場所を出すなよ、尻尾の事かもしれないのに。
あと小さい子の言う事にいちいち張り合うなっての。
「もう…永司の前で恥じかいたじゃん!」
顔を覆いながら、桔梗は俺の寝室に逃げ込んで行った。
俺の寝室、完全にアイツのシェルターと化してるな。
何か嫌な事があれば、大体あそこへ逃げ込む。
おかげで最近はベッドで寝れないから、体中が痛くて仕方がない。
あと別に処理してるとかの情報もいらなかった…ガキの頃に幾たび見せられた事か、あの変態狐。
「桔梗が二階に逃げたけど…おチビ先輩はどうするの?」
「あー、今日のところは俺が面倒を見るしかないか。吸い取られる以外に、大して悪さとかをするわけでもないから」
あの人の完全態に比べたら、全然可愛いもんだ。
精力?だったかを吸われたとしても、全然活動が出来るからな。
問題は明日、無事に連れてこれられるかだ。
全ては白夜に掛っているが、俺も明日は無事に過ごさないといけない。
チビ先輩がいるにしても、我が家には桔梗という変態が住み着いているからだ。
分裂した水野麻衣、そして永司を憎む蛇の美少年。
次回、分裂した二人を元に戻そうとするが。
永司は何事もなく、白夜の帰還を待てるのか、それとも桔梗の思い通りになってしまうのか。