第四話 人狼とマドンナ
朝から白夜と桔梗の喧嘩に困る永司。
不慮の事故が起り、白夜を怒らせてしまい、一人で登校するはめになるのだが。
月曜の学校ってのは、相当怠い。
いつだってそうだ。
小学校の時も、中学の時も同じだった。
いっそのこと月曜なんてなくなれば良いと思ったが、そうなってくると、火曜が怠くなってくる。
結局は、削っても意味がないと言う事だ。
「何を考えてるの?さっきから無言だけど、ご飯冷めるから早く食べて」
「ああ…分ってる。ただ、人生ってのは…鬼畜だと思ってただけだよ」
「私も思う…人生はハードモードって言うけど、もう学生はベリーハードを超えてるよ。辛さに例えたら、200万スコビルだよ」
月曜という魔の曜日に、俺と白夜は桔梗と共に朝食を取っていた。
「てかなんでアンタまで自然に朝食を取ってるわけ?犬は犬らしく、床でご飯食べたら?」
「もう喧嘩する気も起きない…永司君、学校帰りに何処か遊びに行かない?」
顔を引きつらせる桔梗に、こちらに笑顔を向ける白夜。
怠いけど、少しだけマシになった気分だ。
これならまだ頑張れる…気がする。
「永司、今日は真っ直ぐ帰って来て。私達の今後について話したいから」
いつにもなく真剣な顔で言う桔梗だが、胸の方にしか目が行かない!
先生!アナタのおっぱいは何センチあるんですか!?
もうさっきから動いて凄いんですよ!?エプロンから飛び出しそうな勢いなんですよ!
正直に言おう!ビデオカメラに収めたいくらいに凄いと!
カメラだ!カメラはないのか!?
「あまり永司君に脂肪を見せつけないで!困ってるでしょ!?」
「困ってる?むしろ釘付けだけど?もしかして自分がないから僻んでるとか?恥ずかし~ぷぷっ!」
白夜を挑発しながら、こちらに掛けより胸を押し当ててくる桔梗だが。
俺の心境が凄い修羅場なんだが!
現在頬に生乳が触れている状態、それも横乳のはみ乳と来てる!
てか超絶柔らかいんですけど!暖かいんですけど!
俺…このまま死んでも構わないかもしれない。
「待って待って!永司君!鼻血が出てる!いつも片方なのに、両方からダラダラ出てる!」
「そういえば、永司って結構刺激に弱かったの忘れてた。私が少し抱き締めただけで鼻血出すくらいだから、そこが可愛いの!」
抱き締める力が強くなっております!
「ダメ!それ以上やったら、永司君が昇天しちゃう!大量出血でお別れになっちゃうから!」
机には俺の鼻血が広がり、赤い食卓へ姿を変っていた。
こいつは本当に死ぬかもしれないな。
桔梗が言っていた通り、俺は昔から鼻血を良く出していたっけ。
落ちてるエロ本を見つけて、軽く見ただけで鼻血だもんな。
つまりは、俺自身がエロい事に対しての耐性が低いと言う事か。
昔の俺!よく死ななかったな!?
あと桔梗のいっぱいやっぱデケぇ!マジスゲぇ!
「本当に離して!私の永司君を穢さないで!」
「穢すも何も、もう幼い頃に私色に染めてるから!本人が気づいてないだけで、お風呂から布団まで何年も一緒だから残念!」
「もうそろヤバい…視界がクラクラしてきた」
桔梗が離した瞬間に、俺は鼻血を抑えながら、ソファに横になった。
心配そうに見つめてくる二人だが、桔梗は服を着てこい。
適当に鼻にティッシュを詰めておけば、学校にも問題なく登校は出来る。
もし鼻血を出しましたで学校を休んだりしたら、笑い者も良いところだ。
「大分収まってきたから大丈夫だ…少しふらつくが、行ける」
「無理はしないで。どうしてくれるの!?これじゃあ学校に行けないじゃない!?」
「なら休めばいいのよ!アンタは学校に行って、永司は私が誠心誠意看病するから」
結局は喧嘩を始めるのか。
無理やがり起き上がり、立ち上がったまでは良かった。
だがやはり、血が不足していたせいだろう。
めまいを起こしながら、前方へと倒れそうになってしまったときに、両手に柔らかい感覚が伝わってくる。
この感覚は、先ほど頬にふれた物に似ている。
ズバリ、ラッキースケぶぇっ!?
「え…永司君のエッチ!こういうのはまだ早いってば!もう私先に行くから!」
さ…流石は人狼ですな、力が凄い。
たった一回のビンタだけで、ソファと一緒にぶっ飛ばされた。
鼻血が余計に出た気もするが、俺が悪いのは間違いない。
助け起こしてくれる桔梗だったのだが…どうしてエプロンから思いっきりはみ出す!?
いや…これは俺の手が触れた瞬間に、エプロンがズレたのだろう。
「つまり俺は…ラッキースケベを超えた、ミラクルスケベを発動させたと言う事か」
「鼻血を出しながら言ってもかっこついてないから!あと内容がゲスい!でも永司らしくてそれが良い!」
ふむ…つい考えていた事を、口に出してしまったか。
かなりヤバいな…白夜の前でじゃなくてたすかった。
それにしてもだ、結構白夜の胸もあったな。
「永司は小さい頃、私のおっぱいが大好きだったけど、やっぱり今でも大好きなのね。触った感想は?」
「…二人共、想像を遙かに超える高級品だったと言っておこう。ガチで遅刻しそうだから行ってくる!」
急いで玄関に向かうと、桔梗に弁当を渡されて、家を後にした。
あとで学校についたらちゃんと、謝罪をしないといけないな。
不慮の事故とは言え、悪いのは俺だ。
こんな俺で、本当に彼氏が勤まるのか心配になってくる。
元々は俺が白夜の正体をバラさないか監視するためと行っていたが、本当は彼女が狙っていた事。
俺にはモテ期なんてこないと信じていたのに、まさかのストーカーをされていた。
あと桔梗からもストーカーを超えるような事までされてたなんてな。
「人狼と妖孤って…俺はケモナーにでも目覚めるべきか?」
「ど、どいてください!?」
学校へ行く為の通学路には、丁字路がある。
この道事態、小学校と中学校から何千回と通って来た道だ。
そしていつも思う事があった…アニメとかで遅刻しそうになったときに、ぶつかる展開。
あれをいつか起きないかと思って居たのだが、実際に起きてみるとどうだ?
相手の方が勢いが良すぎて、俺が殆ど下敷きと化してるではないか!
背中も超痛い上にのだが、この顔面を覆い尽くす物体はもしかすると。
「ご、ごめんなさい!急いでいたものでして!お怪我とかはございませんか?」
「一応は…そちらの方は?怪我とかありませんか?」
今日は胸に関する、ラッキースケベだらけの一日だな。
「私のほうはありません。本当に申し訳ございませんでした!このお詫びは必ずしますので…あの、お聞きしますが、その制服はもしや」
「多分同じ高校ですね…というより、三年の水野先輩ですよね?」
俺は目を疑っていた。
うちの高校のマドンナである、水野麻衣先輩が目の前にいるのだから。
これまでこの道を使ってきて、同じ道を使ってるなんて知らなかった。
つか事故とは言え、学校のマドンナの胸に触れてしまう事になるとは。
もし誰かに知られたりしたら、反感を買われてしまうな。
とくに白夜と桔梗にしられたとしたら、半殺しもありえる。
相手が人狼と妖孤だから、半殺しレベルで済むかもわからないが。
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。二年B組の虎田です、虎田永司」
ま…眩しい!?笑顔が非常に眩しい!?
何この笑顔!?直視が出来ない!
「よろしければ、ご一緒にいきませんか?このままですと、お互いに遅刻してしまいます。学年は違いますが、同じ学校なのは間違いありませんから」
天使かよ、この人?
学校で人気がある理由が分ってきた気もする。
でも学校に着いた時が怖いな、周りの視線が特に。
後で校庭の裏に呼び出されたりとかしませんように、喧嘩とか勝てる気がしない!
それと凄い緊張する!学校のマドンナが隣にいるだけで、ここまで緊張するものなのか!?
冷静になるんだ永司!お前には、白夜という彼女がいるじゃないか!
彼女を悲しませるような事は…ああ、学校の皆が見てる。
とくに男子から超睨まれてるよぉ…怖いよぉ!
「それでは虎田君。私はここで失礼しますね、今朝は本当にすみませんでした」
「いえ、こちらこそしっかりと見ていなかったので。お怪我がなくて良かったです」
お互いに謝罪合戦になってしまったのだが、途中で同じクラスの男子数人に、俺は教室に連れて行かれてしまった。
半分お怒りなのは理解出来ます、マドンナと学校登校してきましたから。
はい、彼女とは別の女性と登校しました。
でも携帯を調べるのはちょっと違うだろ!
「別に何もないって。たまたま通学路であっただけだっての」
「お前は怪しい!突然犬岡と付き合い出した挙げ句に、我が高の女帝と登校だと!?」
「虎田ァ…羨ましすぎるんだ羨まし過ぎるんだよ!?このリア充!」
「水野先輩に手出したら、俺達がお前をぶっ潰すからな!?」
俺を潰す以前に、お前等が潰されると思うぞ。
投げ捨てられた携帯を拾い、データを確認すると…見覚えのないデータが残ってる。
あの変態狐…俺が寝てる間に…とんでもない写真を取りやがった!?
アイツ!どうやって俺の事を脱がしやがった!?
てかいつ俺をベッドに連れていったんだ!?これドラマとかで見る角度だぞ!?
あとよくこの写真が見つからなかったな!?
帰ったら覚えてやがれ!
教室に入ってから…空気が重い。
たまたま水野先輩と登校しただけで、大半の男子を敵に回す事になるなんて。
白夜も白夜で、かなりお怒りの様子。
困ったな…本当に困ったぞ。
一体どうやって弁解をすればいいのやら、誤解を解く方法が分らない。
彼女の方を向いても、そっぽを向かれる…泣きそう。
「うーん、もしかして犬岡さんと喧嘩でもしたのかい?元気ないみたいだが」
「今日はどうも…運が良かったり、悪かったりな日だよ。帰っていいかな?」
もう気がつけば昼だよ、昼食だよ。
考えたら今日は俺、弁当を持ってきていたんだった。
桔梗が作ったというわけだが…ややこしい状況になりかねないのではないだろうか?
白夜が作ってくれたと言えば逃れるだろうが、本人がどう言うか分らない。
ましてや桔梗のやること…変なトラップを仕掛けてるやもしれん。
どこかで弁当を確認しないと。
「ととと虎田!みみみみ水野先輩がががが!おおおお前を呼んでるぞ!どういうことだ!?どうやって落とした!?水野先輩が恥ずかしがりながら、お前を呼ぶってどういう関係だ!?」
なんか余計に誤解が生まれてる!?
「あの学校のマドンナが虎田君を指名するってことは、何か二人に面白い進展があったということかな?」
「面白い進展なんてねぇよ…朝、たまたま道で遭遇しただけって話だ」
ぶつかった挙げ句に、顔が胸で埋もれたなんて、口が裂けても言えない。
背後から凄い視線があると思えば、白夜が目をまん丸くして見つめてる。
とりあえず…待たせても、周りから色々と言われそうだから行くが。
朝ぶつかった時に、恩がどうとか言っていた気もするが、違うよな?
「お待たせしました。どうかしましたか?」
「急に呼んでしまって申し訳ありません。実は、お昼を一緒にと思いまして、ご迷惑でなければどうでしょう?」
お昼を…一緒にだと?
これは、どの選択が正しいんだ?
断れば断ったで、男子からの批判は殺到間違い無し。
承知すればしたで、白夜から怒られる上での、男子による嫉妬のパレード。
逃げ道という選択は、一切ないということか。
「お誘いありがとうございます。嬉しいんですが」
「では行きましょう。お弁当はありますか?」
「はい、虎田君。君のお弁当だよ」
佐藤が俺に弁当を渡し、送り出されてしまった。
応援してるぞ敵な目はなんだ!?何を期待してんだ!?
お前後で大変な目に遭うことになるぞ!?
あと水野先輩!?手を握る必要なんてあるんですか!?
俺の心臓が大変な事になってる!
緊張のあまりに、凄いクラクラしてくるぞ!
水野先輩に手を引かれて連れて行かれた場所は、学校の屋上。
屋上で弁当を食べるか…結構憧れてた事なんだよな。
「私のお弁当、サンドイッチなんですが、お口に合いますでしょうか?」
サンドイッチ…どれも綺麗で美味そうだ。
キラキラと輝いている気もするが、どういう原理で光ってるんだ?
「お聞きしたいんですが、虎田君って…どういう子が好みなんですか?」
「へ…?い、いきなりどうしたんですか?」
状況が飲み込めないぞ?
俺の女性の好みを聞いてきたのか?理由はどうして?
彼女はいるって、多分結構知られ始めてると思うんだけど。
てか学校のマドンナが、俺に対して聞いてくる事が不思議すぎる。
まさかだが、俺にもついに来たとでもいうのか?
モテ期と言う物が…襲来してきたというのか?
ないない!水野先輩に関してはない!
接点事態がないんだぞ!?話をしたのすら今日が初めて、サンドイッチ美味ッ!?
「私…実は、前から虎田君の事が気になってて」
待って!?お願いだから待って!?
いきなり何があったと言うんだよ!?
突然水野先輩がこちらに顔を近づけたと思ったら、一気に押し倒された。
更に覗き込むように、顔が急接近してくる。
「本当に美味しそう…沢山の男を食べてきたけど、ここまで食欲をそそられる男は初めて」
お…美味しそう?俺が?
「大丈夫…ちゃんと味わい尽くすから。穴と言う穴から、たっぷりと堪能させてね…じゃあまずは、口からじっくりと」
嘘だろ…水野先輩は、痴女だったのか。
てか先輩から、もの凄く甘くて良い香りがしてくる。
シャンプーの香りでもないのだが…なんかムラムラしてきた!
あと先輩の手が頬に触れてるんだけど、冷たいのはなぜ!?
まるで冷水でも触ってるみたいに冷たいんだけど!?
俺はこの時、1つの疑問が浮かんだ。
水野先輩はもしかすると、白夜達と同じく、人間じゃないのかと。
映画とかで思いつくのは、肉体が冷たいのは死体とかだ。
そうなってくると、絞り込めば、ゾンビまたはグール類とキョンシーになるはず。
でもキョンシーの場合は、額に札を貼ってあるから除外。
「怯えないで、殺さないから。ただ精気さえ貰えればいいの…特に男性は、口と下の方から吸い上げるのが」
「ちょっと待ってください…先輩は、ゾンビか何かなんですか?」
俺の言葉に対して、水野先輩は大声で笑い始めた。
その笑い声と同時に、下半身が何かに包まれていく。
「私がゾンビ?面白い事を言い出しますね。私があの低俗な死体と同類に見えますか?最後には記憶を消すので、特別にお教えしましょう」
みるみると美しかった白い肌は、透明感がある青色に変る。
綺麗な茶色かった髪も同様に変わり果て、体から綺麗な艶が目立ち始めた。
ここまで見てしまえば、グールですらないのは明確だ。
スライム…で間違いないな。
映画とかだと、人間の体を溶かして食べるイメージがあったが、精気を吸うのか。
新たな知識が手に入った…覚えておこう、じゃない!
「私はスライムと呼ばれる存在ですが、玩具と一緒にしないでくださいね?不愉快でしかないので…では、いただきますね」
口の中に手が入ってくる。
「思ったとおり、凄く美味しい。もう手放したくない…今まで食べてきたどの男とも違う、私がずっと求め続けてきた理想の味」
息が…苦しい。
かすかに呼吸が出来てる…というよりは、酸素を送り込まれてるのか?
フェイスハガーと同じ原理と言う事だな、良く出来てる。
てかそんな事を考えてる場合じゃない!これってかなりマズイ状況だ!?
どうしてこう言う場合にあれが来ないんだ!?鴉襲って来いよ!?
「彼女である犬岡白夜は人狼で、家には九尾の桔梗が居候。虎田君、いえ…永司は人ならざる者を呼び寄せる才能があるみたいですね」
やばいよ!これ本気でヤバい!
ズボンに違和感を感じる!これ別の意味で喰われる!
童貞持っいかれる!ある意味狩られるってこれ!
「ハァ…人が食事を取っていると言うのに、マナーがなっていないお方が、二名もいらっしゃるだなんて…永司、ペットの躾はしっかりとするものですよ」
「私の大切な永司君から…離れて!」
「たかが水と洗濯のりで出来た化け物が、私の可愛い永司に何を手出してくれてんの?カラカラになるまで蒸発させるわよ!?」
俺達を挟む様に、白夜と桔梗の声が聞こえてくる。
「永司はもう、専属の食奴隷となったのです。私達に手出しをするのであれば、容赦はしま…貴様ッ!?」
もうろうとする意識の中で、何が起ったのかまでは、全部把握出来ていない。
分る事とすれば、助かったということだけ。
口からスライムが引っ張り出され、少しずつ意識が戻って行く。
最初に視界に写り込んだのは、タオルに包まれた乳。
状況が理解出来ないぞ、どうして桔梗がこの場にいるんだ?
「うわっ…スライムの腕って気持ち悪い。これを口の中に入れられるって、想像しただけで萎えそう」
「早く永司君を安全な場所に連れて行ってよ!私も逃げたいんだから!」
白夜と水野スライムが戦ってる…というより、お互いに叩き合ってる。
バトル漫画的展開が来ると思ってたが、全然違うな。
「永司が寄り道しないで帰ってくるか心配で、見張りをつけておいて正解ね。まさかスライムが居るだなんて、最悪」
「桔梗…どうしてお前、バスタオル姿なんだ?」
彼女の話によると、シャワーを浴びてる最中だったらしい。
てか考えたらそんな場合じゃない!白夜が戦ってる!
白夜達の方を見ると、今度はプロレスに発展してるんだけど!?
だが相手がスライムなせいで、技が全然決まってない!
「…桔梗。スライムの弱点って分るか?」
「スライムってのは大体、乾燥に弱い。玩具のスライムだって、蓋の着いた容器に入れられて売られてるでしょ?あれはスライムが乾燥して水分がなくならないようにするため」
確かにその通りだ。
昔からあるスライムの玩具は、プラスチックの容器に入れて売られてる。
緑色のゴミ箱の容器とかで売られてたな、懐かしい。
買ったときに、桔梗に見せたっけか…スライムに襲われる女とかやってたな。
いやいや、そういう事を考えて居る場合じゃない!
乾燥に弱いなら、熱で水分を飛ばしてしまえば、弱るんじゃないか?
「桔梗、確か火を使えたよな?」
「もちろん…明かりを灯すことから、この学校全体を火の海に変える位まで。なんだったら、色を選んでエロスの雰囲気を作りだす事だって出来るんだから」
悪い、後半は殆ど聞いてなかった。
「水野先輩の周りを囲むように、火を出せるか?出来るならやってくれ」
「それくらい簡単だけど、じゃあチューしてくれたら、あのスライム倒してあげる」
この狐、調子に乗ってやがる。
だがここで桔梗は自分自信で、選択肢をミスった事で気づいいない。
倒してくれるんじゃなくて、サポートしてもらうという選択肢がある。
それか俺が、自爆特攻するか。
桔梗の事だから、サポートも嫌がるだろうから…俺は特攻を選択する。
勝機はなくとも、勝算はちゃんとある!
「え、永司君!?こっちに来たらダメ!」
「自ら私の元へ来るなんて、やはり私の魅力の虜に熱いッ!」
俺の考えは簡単、桔梗を利用する。
恐らく俺自身が自殺行為と呼べる特攻をすれば、慌てた桔梗が攻撃を仕掛けるだろうという、言わば賭けだ。
思った通り、見事攻撃を仕掛けてくれたわけだが…やり過ぎだ。
白夜の尻尾の先が、ほんの少し焦げてる。
「わざとでしょ!?今わざと私諸共消し炭にしようとしたでしょ!?」
「つい勢い余っちゃって、てへっ!」
とりあえずは、白夜が無事で良かった。
「えいじぃぃぃぃぃ!わたくしのえいじぃぃぃぃぃ!たすけでぇぇぇぇぇ!」
うっ…罪悪感が凄いことになってきた。
こちらに近づいて、手を伸ばしてくるが、怖いのも確かだ。
助けたりしたらまた俺は、精気を吸い取られるのではないだろうか?
でももしここで、命を奪ったりしたら…後味が悪すぎる。
そう思っている間にも俺は、無意識のうちに上着を使い、火を消していた。
二人から批判をされる事を覚悟しておかないといけないな。
「どうして火を消すのよ!?あと少しで倒せるのに!?」
「弱らせるだけで十分だよ…命を奪うのは、流石に見たくない。それと、学校内で大変な事になる」
大騒ぎなんてレベルじゃない、白夜の正体だってバレる恐れがある。
他にも、一緒にいた俺が犯人だと疑いも掛けられるだろう。
「永司君!この女は永司君を殺そうとしたんだよ!?」
「殺すなら…もうとっくに殺してただろうな。俺の中でのスライムのイメージってのは、溶かして吸収する感じだが違った」
「そう言われると、スライムって溶かして食べるイメージあるかも。でも永司を襲った事には違いないでしょ?なら退治退治!」
水野先輩が復活をする前に、俺は理由を話した。
白夜は直ぐに理解してくれたのだが、桔梗の方は頭に血が上っているようで、話を聞かない。
直ぐに手から火を出し始め、とどめを刺そうとする。
急いで止めるが、そのたびにバスタオルが落ちて、こっちも倒れそうだ。
朝から連続で鼻血を出してるせいで、体が持たなくなってきてる。
気づけば水野先輩も消えてるから、逃げられたな。
「体に異変とかない?ごめんね、私がちゃんと着いて居れば」
「ほいほい着いて行った俺が悪いだけだよ。元々、朝から嫌な思いさせちゃったから」
白夜は一応、許してくれたが、桔梗の方が問題だった。
逃がしてしまったことが悔しいらしく、校内へと探しに行こうとするのだ。
止める度にまた、バスタオルが落ちる…しっかりと巻いとけ!
「頼むから帰ってくれよ!ほんと今日は助かったから!」
「あのアバズレを退治するまで、私は永司が心配で帰れないの!」
心配をしてくれるのは嬉しいが、学校でその姿でうろつかれるのも困るんだよ。
その後もなんとか説得して、家に帰ってもらえたのだが、昼休みが終わってしまった。
サンドウィッチを一口囓った程度で終わってしまったな。
白夜の方はしっかりと食べたらしいから、羨ましい。
二人で教室に戻ると、男子の半数から睨まれたのが、ややこしい事になってきたな。
放課後になり、教室から次々と人が出て行く中で、見覚えのある人物が俺達を出入り口で待って居た。
ちょうど教室を出た所で声を掛けられ、手紙を渡されたわけなのだが。
「あの…どういったご用件でこれを?」
「いえ…朝方といい、お昼休みといい、沢山のご迷惑をお掛けしてしまった者ですから…せめて謝罪のお手紙をお渡ししたくて」
手紙を渡して直ぐに、水野先輩は走り去ってしまった。
背後から白夜にとりあげられそうになるが、ギリギリで避けた。
お怒りのご様子ですが、一体何をするきでしょう?
まさか破り捨てるとかじゃないよな?
彼女だからと言っても、やって良い事と悪い事があるぞ。
「お願い永司君…私に手紙を、読ませてください」
気弱な雰囲気を出して来てる…可愛いけど、断る。
「永司君は私が信用できないの?やっぱり…私なんかより、美人で人気がある人の方がいいよね?ふふ」
「別に乗り換えるとか考えてないよ。ただその後ろ手に持ってるハサミが信用出来ないだけだ」
挙動不審になってるってことは、やっぱり持ってるのか。
適当に行ってみただけなのに。
心配してくれるのは分るんだけどさ、受け取った本人より先に読むか?
まだ隣で見てくるなら分るんだが、取り上げようとしてくるから、こちらも警戒しちゃうよ。
「あとで事後報告で良いだろ?ちゃんと見せるから」
「じゃあ今ここで読んで…私心配なの」
ここで読むのは勘弁して欲しいんだけど、周りの視線がとても痛いから。
出来る事なら、家に帰ってじっくりと読みたい。
「早く読もう?ね?ほら早く」
「お、俺は…俺は、そんな白夜は見たくない!」
ああ…逃げ出してしまった。
彼女から掛かるプレッシャーに耐える事が出来ずに、この場から逃げ出したのだ。
不安なのは分る、理解出来てるんだ。
でもあそこまで詰め寄られた上で、他の女性から貰った手紙が読めるはずもない。
辛すぎるんだよ!状況に耐えきれなかったんだよ!
「ハァ…ハァ…最近走ってばっかりだ」
学校を飛び出して、適当に走り続けた結果、家に到着していた。
無我夢中で走ったせいか、安心感を求めていたせいなのか。
だがここで、もう一つ問題があることを思い出した。
我が家には桔梗が居る。
今日だって、水野先輩と戦ってるのだから余計にピリピリしているだろう。
桔梗にバレる事なく、トイレに逃げ込んで読むしかないか。
「おかえり永司。私に見せる物があるでしょ?出して」
俺は鞄から取り出し、桔梗に渡した。
授業中に適当に描いていた、ちょんまげが着いた殿様ガエルの落書き。
我ながら結構、上手く掛けたと思う。
反省する点があるとするならば、蛙をリアルに書きすぎた事と、ちょんまげを小さめに描けば良かった事。
正直気持ち悪いから、反省点を生かして、次に励みたいと思っている次第です。
「ちーがーうーでしょーがぁ!」
俺の殿様ガエルゥ!?
「手紙よ手紙!手紙を出しなさい!あの雌犬から連絡が来たんだから!最初はガチャ切りしてたんだけど、あまりにもしつこいから出てみたら、スライムから手紙を貰ったそうね?」
先に手を回されていたのか…こいつは一本取られたな。
手紙を渡されるなんて、思ってもいなかったから。
「もう観念して、永司君。逃げ場はないんだから」
「そこの雌犬が信用出来ないのは分るけど、私は信用出来るでしょ?」
「出来ないからこうなってんだろ!?白夜はハサミで読まずに切ろうとするし、お前は燃やす気だろ!?」
警戒する俺を見て、桔梗はため息を着いた後に、白夜からハサミを取り上げた。
「永司が余計に警戒するのも当たり前よ。私は内容を確認してから、処分をするか決める方だから、家の中でゆっくりと読んだらいいじゃない」
き、桔梗が頼もしく見えてくるだと?
連行されていく白夜を追いかけて、リビングに向かった。
そして桔梗が入れてくれたコーヒーを飲みながら、手紙の内容を確認する。
中身は至って普通の感じだと思われたが、二行目から突然ポエムが始まりだした。
腹を抱えて爆笑する二人。
あまり笑うんじゃないよ、多分本人は真剣に書いてるんだろうから。
でもこのポエムは…凄いな。
「愛しのキャビアって!頭がぶっ飛び過ぎて面白過ぎる!キャビアって永司の事!?ありえないからこれ!脳みそも完全にとろとろスライムと同じなんですけど!」
「ちょっと…笑わせないで…お腹痛い!永司君から向けられた冷たい視線が、私の冷たい肉体を凍えさえたって…もうダメ、耐えられない!」
再び二人が笑い転げ回るせいで、空中に毛が舞っていた。
あとで掃除機を掛けておかないと、面倒だな。
まぁそれは置いといてだ、このポエムはもしかして、ラブレターではないだろうか?
ポエムの内容を要約するとだ、庇った事が原因みたいなのだが。
あと冷たい視線ってのは、多分俺が襲われた時に睨んだ時か?
なんだから、ややこしくなる事ばかりが続いていくな。
永司を狙う、新たなライバルが登場した白夜。
次回、麻衣による猛烈アタックが開始され、永司には思わぬ影が迫ってくる。