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俺の彼女、人狼なんです。  作者: 影車ろくろ
4/7

第三話 人狼と休日。

白夜と初めて過ごす休日。

永司はわくわく為ていたが、桔梗によって休日は戦争(?)へと変って行く。

 白夜と付き合いはじめてから、初の休日が来た。

 恋人同士が過ごす休日っていうのは、一体何をすれば良いんだ?

 家にある物と言えば、映画のDVDと漫画くらい。

 あとは取り憑いてる妖孤だ。


「私は絶対に認めない!永司に彼女が出来るなんて!長い年月見守ってきた私はなんだったの!?ずっと悪霊や病魔からも守ってきたのに!」


 朝から背後をついて回り、ずっとこのように言ってくる桔梗。

 トイレに行っては扉の外から、テレビをつけたら前に居座る。


「分った!さてはあのクソジジイの仕業ね!あのジジイが永司の記憶を消したに決まってる!可哀想な永司!絶対に私達の記憶を取り戻させてあげるから!」

「記憶とかは今いいから、退いてくれない?ハイパー戦隊見たいんだけど」


 頬を膨らませながら、こちらを見つめてくる桔梗を見て、可愛いと思ってしまった。

 でも本当に記憶がないんだよな、どうしてだ?

 桔梗曰く、霊媒師のジジイが俺の記憶を弄ったとか言ってるが、本当に記憶を弄られたのだろうか。

 桔梗自信に出会ってる事は間違いない。

 俺自身が、昔から桔梗の存在自体を認識していたからだ。


「小さい頃は良い子だったのに!なんでも言う事を聞いて、とっても可愛かったのに!」

「人は成長するものだろ、反抗期とでも考えておいてくれよ」


 あ…テレビ消された。


「大事な話だから聞いて!私達は、永司が幼い頃からずっと一緒に居たの!よく家に帰る時も家まで送ってあげてたの!ご飯だって一緒に食べたりしたんだから!」


 全然覚えて無い。

 いや、遊んだような気もするんだけど、思い出せない。

 あと食事を取ったりしたとか言ってるけども、家の親は厳しかったからな。

 知らない人を家に連れてきたりしたら、色々と言われてると思うが。


「話が変るが桔梗。昨日、学校で突風吹いたり、鴉が襲撃してきたんだけど、お前の仕業?」


 目を逸らした挙げ句に、口ごもった。

 やっぱり犯人はお前だったのか!

 昨日は大変な目にあったんだぞ!?

 沢山の人に迷惑が掛かりまくってたし!どういう事なんだよ!?


「あ…永司、ピンポン鳴ってる!もしかしたら注文してた映画のDVDかもよ!私が出るね!」


 そう言うと、桔梗は玄関の方へと走って行ってしまった。

 嫌な予感がするが、当たらなければ良いが。


「最近のセールスって怖い。無理矢理入って来ようとしてくるんだから」


 セールスが来るなんて、珍しいな。

 てか本当にセールスだったのか?

 もしかして、白夜が来たのを追い返した可能性がある。

 これは失敗したと後悔したが、既に遅かった。

 窓から白夜がこちらを睨んでる…というより、桔梗を睨んでる。

 窓を開けようとすると、妨害を受ける。

 体が異常な程に重くなるが、背後から呪文を唱える声が聞こえてくる。


「動けない…呪文を唱えるのをやめてくれ」


 呪文を唱え続けながら、カーテンを閉め始める。

 俺には…どうする事も出来ないというのか。

 元々、人間が妖怪相手に勝てるはずもない。


「今日は私と大切な話をするの。永司の中に眠る記憶を蘇らせるんだから!誰にも邪魔はさせない!」

「記憶を蘇らせるって…どうやるつもりだ?」


 俺の問いに答えることなく、桔梗は俺の頭に手を乗せ、呪文を唱え始めた。

 その間にも、窓を叩く音が部屋に響き渡る。

 白夜が窓を叩いてるのだろうが、全然気にしている様子がない。

 こちらに集中してるのか、目を瞑りずっと呪文を唱え続けてる。

 こういうのは、体にデカい負担が掛かると思って居たが、何も変化はない。


「…記憶はあるけど…封印されてる。でも簡単な物だから、適当に解いちゃえば」


 一瞬だけど全身に痛みが走ったんですけど!?

 静電気が走ったような感覚に似てたぞ!


「これで記憶は戻ってるはず。あのクソジジイ、私の永司にとんでもない事をしてくれちゃって!後でとっちめに行ってやる!」


 桔梗の手が離れたと同時に、頭の中にあらゆる記憶が流れ込んでくる。

 初めて桔梗と出会った日の事。

 いつものように苛められていて、鞄を神社に隠された。

 そして鞄を取り戻す為に神社に行き、困った顔をした桔梗が、俺の鞄を手に持っていた。

 最初はどうしようかと思ったが、普通に俺に鞄を渡してくれた。


「思い出した?私との記憶思い出した!?」

「一応は…つか頭が痛ぇよ」


 感動のあまりに号泣してる桔梗の隙を突き、俺は窓を開けて白夜を家の中に入れる。


「顔色が悪い!?一体何をされたの!?一体どんな拷問をされたの!?」

「別に拷問とかされてないけど…記憶を弄られたというか、なんというか」

「弄ったんじゃなくて!封印を解いたの!永司と私が出会った日から、何故永司が私を思い出せなくなったかまでの記憶!」


 また二人で睨み合うのか、いい加減にしてくれよ。

 しかし、俺の記憶が封印されるっていうのは、誰がやったんだ?

 桔梗はクソジジイとか言ってるが…確かに、なんかジジイの顔が浮かんできた。

 名前とかは全然分らない。

 ただ覚えているのは、突然どこかの寺に連れて行かれた事。

 俺は頭に札らしき物を張ったあと、爺さんは静かに呪文を唱えていた。

 側には泣いてる両親に、激しく揺れる引き戸。

 自分の記憶を探った結果…全く分らん。


「永司はどうなの!?本当にこんな根暗女が彼女で良いの!?」

「それを言うなら!そっちは完全にBBAじゃない!」


 クッションを投げあって喧嘩する、これはどこかのドラマか!?

 お互いにキャッチしては投げつけて、キャッチボール気分でやってない!?


「私は永司がこの世に産まれる前から知ってんのよ!というより、永司のご先祖様と恋仲にあったんだから!」


 さらっと凄い事を言い始めたよこの狐!

 俺のご先祖様と恋仲って何!?

 つまり?え?桔梗は一体どれくらい生きてるわけ!?

 尻尾が九本あるから凄い妖怪なのは間違いないとして、俺のご先祖様ってどんな人なの!?

 結構気になってきたんだけど!


「一体いつの話をしてんの!?もしかして、そのご先祖様に永司君が似てるから、ずっとストーキングしてたとか?」

「だとしたら何か問題?私の経験上、惚れた男にはマーキングよりストーキングって決めてるの!」


 おいちょっと待て、桔梗が今とんでもない矛盾発言をしたぞ。

 以前、桔梗が白夜の事を批判していた。

 内容はストーカーだった事実を暴露した時だが、お前も大して変んねぇじゃねぇか!

 むしろお前の方がタチが悪いわ!

 もしかして、十数年俺と同棲してたとでもいうのか!?


「ま、まさか永司君のお風呂を覗いたり」

「覗くどころか、小さい頃からずっと一緒に入ってましたけど何か?永司は気づいてくれなかったけど、しっかりと私のボディを見つめてくれて!あれは凄く興奮するんだから!」


 もうただの変態だろ!?変態以外の何者でもないな!


「でも不思議なのは、今まで私の事が見えなくなっていた永司が、私の存在を認識出来るようになったこと。突然お風呂に突撃!とかは出来るからいいんだけど」

「絶対にするなよ!入って来た瞬間に叩きだす!つかこれからも家に住む気なのか!?」


 驚いた顔をする桔梗に、嘲笑う白夜。

 存在を気づかなければそのままだったろうが、今はこうして存在を認識出来るようになってしまった。

 特に変な事を知らぬまにされていたことに驚きだが。

 …でも…桔梗って結構胸があるんだな。

 ソファに座りながら眺めても分るくらいに、しっかりと認識が出来る。

 俺は今まで認識が出来ないせいで、もの凄くもったいない事をしていたわけか!?


「変態妖怪が取り憑いていたら、安心して住めないよね」

「確かに永司に対してちょっとだけ…悪ふざけはしてたけど。私が居たおかげで永司はこれまで風邪とかを引かずに済んできたんだから!」


 風邪を引かずに済んだと言われれば、確かにその通り。

 てっきり俺自信が馬鹿なせいだと思ってた。


「私は信じてるから!なんだかんだ言っても、永司は追い出さないって!これは…そう!ルームシェアよ!今更元いた神社に帰れるわけないでしょ!?何県離れてると思ってんのよ!?」

「だったら別の誰かに乗り移れば?永司君には私が居るから、どうぞご安心ください」


 うむ、俺の手に負えるのか心配になってきた。

 白夜は俺の彼女だから、大切にしないといけない。

 対して桔梗は、沢山の恩があるから、あまり無碍にも出来ない。

 というか、後から祟られそうで怖い。


「じゃあこうするのはどう?どちらが永司に相応しいか勝負するの。永司の好感度を多く得た方が、勝利」

「いや待て、勝手に話を」

「乗った!永司君は絶対に渡さない!」


 いがみ合う二人に、俺はもう何も言えなくなってしまった。



 椅子に座らされ、昼食が出来るのを待つ事になった俺。

 キッチンには、狐と狼が睨み合いながら料理をしているのだが。


「うちのキッチンは広くないんだよ!せめて交互にやってくれ!」


 お互いの料理に妨害をして、喧嘩に発展していく。

 かれこれ料理を初めて一時間近く経つけど、たまに包丁とかが飛んでくんだよな。

 もう料理と言うより、殺し合いだよ。

 一回タマネギが飛んで来たときは驚いたが、その後直ぐに長ネギが飛んで来るし。

 ギリギリで避ける事が出来たが、直撃したら鼻の穴に入っていたかもしれない。


「邪魔しないでよ!犬の抜け毛が入ってくるんだけど!?」

「そっちこそ!さっきからその尻尾が邪魔なんですけど!?もういっその事全部斬り落としたらどうなの!?」


 包丁を振り回すな!危ないでしょうが!


「もう!なんでこんな狭い台所にしたの!?前の家はあんなに広かったのに!」


 そんな文句を言われても、俺にはどうしようもないだろ。

 この家にしたのは両親なんだから。

 子どもの俺の意見なんか聞いて貰えない。

 むしろ小さい子が、広い台所の家が良いと言う方が不自然だろ!


「ちょっと!今私の料理に何か投げ入れたでしょ変態狐!」

「あらあら、なんの事かしら?やだ!これって…あの毛よね?アナタ!永司にこんな衛生的に問題があるような物を食べさせようとしたの!?信じられない!」


 俺も信じられない事が1つあるんだけど。

 なんで桔梗は、裸エプロンをチョイスしたんだ?

 似合ってる点には文句はないんだが、後ろ姿がな。

 裸エプロンの醍醐味と言える背後が…ふわふわの尻尾で何も見えない!

 尻尾がふわふわ過ぎて多すぎなんだよ!尻見えねぇよ!

 もう少し考えて選べよ!もったいなさ過ぎだろ!


「そうやって、恥ずかしげもなく自分の肌を見せるなんて軽蔑するんだけど」

「自信がない根暗狼には、刺激が強すぎたかしらね。私はこうして美しいボディを持ってるからこそ、なせる技なの」


 あの…尻尾の向こうには…(ロマン)が詰まってる。

 でもそんな事を考えてたら、白夜に対して申し訳がない。

 彼女がいるのに別の女に目が行ってしまうというのは…でも小さい頃の記憶があるせいで。

 俺は気をそらす為に、桔梗との記憶を少しだけ思い出す事にした。

 桔梗とは、どうしてあそこまで打ち解ける事が出来たのか。

 まず、初めて俺を見た桔梗は、顔面を掴みこねくり回してきた。

 そして…抱き上げられて…桔梗は泣いていた。

 何を言っているまでは覚えてないが、とにかく泣いていた。

 何より印象に残っている事は…桔梗に抱き締められた時に感じた、胸の弾力。

 うん、あれはかなりデカい方だと思う。


「永司には私がいれば十分なのよ!昔から、人狼より狐の方が美女って印象が強いんだから!」

「でも永司君は、私の事を可愛いって言ってくれた。何より、告白を受け入れてくれた事実があるの!」


 ところで、食事はいつ出来るんだろう。

 俺、朝食も食べてないんだけど。


「二人共、とりあえず落ち着いて食事を作ろうぜ…もうジャンケンで先行後攻決めて、料理を作ったらどうだ?」

「ジャンケンで決める、流石は永司。単脳狼とは大違い」

「た、単脳!?私が単脳!?酷い…私、一生懸命なのに」


 今にも泣きそうな白夜に、俺は駆け寄った。

 すると、桔梗が背後から引きはがそうとしてくる。

 背中にとても柔らかい物を感じるが…このままでいたい気もするが、冷静になるんだ。

 泣いている彼女を無視して、欲望に従うなんてクソ野郎のする事だ。


「白夜は単脳じゃない。いつもは気が弱いだけで、とても優しい子なんだよ」

「根暗を忘れてる」


 余計な事を言うんじゃない!

 本当に家から追い出すぞ!?

 変な事を言うから、更に涙目になってるだろ!

 どうするんだよ、こういう状況になれてないから全然分んねぇよ!


「気にしないで…根暗なのは本当だから。ついカッとなっちゃうけど」

「人狼は短気だから嫌なのよ。でも逆に珍しいのよね、人狼で根暗な感じなんて見た事ないけど…まぁ、人狼を見たのが初めてだったけど」


 本当に少し黙っててくれないかな。


「とりあえず、桔梗が先に作ってみたらどうだ?俺は白夜のケアをしたいから」

「え?ちょ…待って。私が食事を作ってる間、永司はその狼とイチャつくの?納得出来ない!」


 納得出来ないのは、お前の執着力の方だよ。

 どんだけ長い事執着為てきたんだ!?いい加減諦めたらどうなんだよ!?

 正直もう何が正しいとか分らないんだよ!


「はぁ…じゃあ私が先に作るから、せいぜい後悔しなさい人狼!男の心を掴むには、まずは胃袋を掴むって相場が決まってるんだから!」


 裸エプロンでポーズを決めるのは良いが、包丁向けるの辞めてくれる?

 滅茶苦茶怖かったんだけど、白夜も同様青ざめてるから。

 一息着くためにソファに座ったが、台所から凄い音が聞こえてくる。

 野菜を切る音から、料理を炒める音までが本格的だ。

 音と香りからすると、これは中華かもしれない。

 好感を持てるかと聞かれたとしたら、かなり持てるどころか、尊敬の眼差しで見ることも出来そうだ。

 対して隣に座る白夜に関しては、小刻みに震えてるんだがどうしたと言うんだ?


「出来たわよ。さぁ食べて食べて!」


 テーブルの上に並べられた料理。

 さばの味噌と味噌汁、白米に漬け物

 さっきの俺の予想が大ハズレかよ!?中華の香りは何処へ行った!?


「意外とシンプル…でもこれだけじゃ」

「フフフ…最後の仕上げは、これよ!」


 そう叫ぶと、どこからか肉じゃがを取り出す桔梗。

 しかも桔梗が作った肉じゃが…小学校で出るヤツじゃないか!?

 家で出るのとはまた違った、全く別物の肉じゃが。

 小学校と中学を卒業と同時に、どれほど悲しんだことか。

 俺は箸を手に取り、テーブルに置かれる肉じゃがに手を伸ばした。


「私は永司の好みなら何でも知ってるのよ。小学校時代は様子を見に行ってたから、もちろん作り方から何もかも調べあげてあるんだから!」


 ヤバい…あの味だ。

 箸が止まらない、マジで止まらないぞ!

 あまりの嬉しさに、涙が出てきた。

 肉じゃがって、こんなに美味かったっけ?


「泣いてる…永司君が泣いてる」

「やっぱり定番と言えば肉じゃがであり!小学校とかで出る肉じゃがは…何写真撮ってんのよ!?私携帯持ってないんだから!」


 気がつけば、俺は綺麗に料理を平らげていた。

 懐かしい上に、もの凄く美味しかった。

 てか…久々に手料理を食べたな。


「じゃあ私の評価をお願い。もちろん満点でしょ?」

「…七点だな。うん、個人的に七点が限界だ」


 納得が行かないらしい桔梗に説明を求められ、理由を話した。

 桔梗の裸エプロンには、高い点数をつけたい。

 だが…大量にある尻尾のせいで魅力が減少してしまっていること。

 料理に関しては完璧と言いたいが、中華から突然和食へと変った謎。

 とにかく、裸エプロンが残念過ぎる。


「裸エプロンに大量の尻尾は、痛たッ!」


 後頭部に激痛が走る。


「ねぇ永司君…私はこういう恰好とか出来ないけど、やっぱりこういうの好きなの?」

「当たり前でしょ。永司は男の子だから、こういうのに興奮するに決まってるでしょ」


 俺を抱き締めながら頭を撫でてくれる桔梗…だが、胸の柔らかさの方が気になる!

 あと白夜、手加減を為てくれたのだろうが、結構首からヤバい音が鳴ったんだけど。


「やっぱり永司君は、胸のある方が好きなの?でも私は永司君の事が好きで一生懸命やってるのに」

「分ってる!分ってるけど…なんと言うかな…胸の大きさとかじゃなくて、これは男の本能というか…」

「暴力をする女に弁解なんてしなくて良いから。心配していた通り、人狼ってのは狂暴かつ我が儘で短気なのね…確かにこう言うのは男の本能だから、仕方ないの」


 もうやだ、俺自身が嫌になってきた。

 確かに嬉しかったよ!?胸に顔を埋められるなんて滅多にないから!

 でも彼女がいる時点で、喜んじゃいけないと思う俺もいる。

 俺の中で、理性と本能が格闘してる。

 彼女を裏切りたくないと言う理性に対して、裸エプロンのロマンに埋もれたい本能。

 頭の中で激闘が繰り広げられているが、目の前でもまた、激闘が繰り広げられている。

 まさに俺の脳内を現実にしたような戦い。


「このままだと、永司君がダメになっちゃちゃう。私が永司君をまともにするからどっかに行って!」

「それはこっちのセリフ!アンタが現れたせいで、ずっと狙っていたタイミングがズレた挙げ句に、永司を取られるだなんて」


 人狼の姿に変る白夜に、元々の狐らしさを持つ桔梗。

 もしこれが野生動物の争いだとしたら、狼である白夜が有利に立てる。

 だが相手は狐の妖怪であり、大妖怪の九尾だ。

 こうなってくると、話は全然別物と言える。


「アンタは永司の何も知らないから、簡単に近づけるのよ。私は長い事、大好きな永司をイジメっ子から守って来たのに…良いとこ取りされるなんて、我慢出来ない!」

「じゃあなんで私より先に…告白をしなかったの?九尾なら、色々と出来たはずでしょ?」


 言われてみれば、九尾なら相当な力を持っているから、何でも出来そうな気がするが。

 何もしなかったんじゃなくて、何も出来なかったと言う方が正しいか?

 記憶の中を漁ってみると、沢山の光景が蘇ってくる。

 札を貼られてから、全身に激痛が走って、今までに感じた事のないくらいの吐き気。

 記憶だけじゃなくて、体が覚えてると言う事か。

 あの爺さんが放った言葉を思い出せる限り、思い出せ。


「九尾がなんだって出来ると思ったら、大間違いなのよ!それに私は九尾を超えた存在の空狐(クウコ)!あと三ヶ月で誕生日を迎えて、更に上の天孤(テンコ)になるんだから!」

「へ?クウコ?テンコ?え?」


 初めて聞く名前だな…クウコって、喰う狐って書くのか?

 もしそうだとしたら、俺食べられるんじゃないのか!?


「空孤は千年以上を生きた狐がなる存在で、天孤は三千年以上を生きた狐がなる存在。そんな大妖怪になっても、永司に掛かった封印は解けなかった」

「…大分思い出してるが、桔梗には本当に世話になってきた。子どもの頃、ただ一人…俺と遊んでくれる友人だったからな」

「このままだと私、話に全然ついて行けない、だから二人の出会いを教えて。永司君が何故記憶がなかったのか」


 真剣な顔で聞いてくる白夜に、俺は自分の思い出せる範囲で全てを話した。

 たまに違う部分もあったらしく、桔梗が訂正をしてくれた。

 白夜は桔梗の訂正に何かを言うと思ったが、何もなく話が進んで行く。


「あの寺に連れて行かれた時に、私は永司を救いたい一心で助け出しに行った。でも…あの寺には強い結界が何十にも張られてて、何も出来なかった!永司の泣き叫ぶ声が聞こえてくるだけで何も」


 涙を流す桔梗に対して、白夜は静かにハンカチを差し出した。


「話は分った…幼い永司君にそんな酷い事をするなんて許せない。だけど、永司君を助け出せなかったのは、アナタの力不足に変らないと思う」

「力…不足…?この私が…力不足?信じない…私が…力不足だなんて」


 壊れたラジオのように、同じ言葉を言い続ける桔梗。

 それを見ていた俺は、静かに手を握っていた。

 小さい頃、沢山この手で遊んで貰ったな。

 神社の前で振り回されたり。

 神社の上で振り回されたり。

 神社の中で振り回されて、柱をぶっ壊したり。

 …あれ?俺、振り回された事しかなくね?

 そういや…神社の入り口にある赤いヤツ、あれの上でも振り回されてる。


「永司…私…永司を守りたかったのに」

「もし、その状況なら…私だって同じ事をしてた」


 確か神社の近くに川があったな…あそこでも振り回され。

 どうして俺の中の桔梗が、真っ裸で振り回してるんだ!?

 もしかしてこれは、水浴びをしに来てる光景とでも言うのか?

 記憶を辿って行けば行くほど、ピンク色に染まる記憶が出てくるんだけど。

 ピンクワールドが広がって行く…昔の家で、一緒に風呂に入ったりもしていたのか。

 これは嬉しい記憶が出てきたが、桔梗に聞きたい事がある。


「桔梗…お前、俺と遊んでたと言うより…玩具に為てなかったか?」

「ギクッ!…わ、私は…永司を…守りたかっただけなのに…」


 コイツ…図星を突かれて、結構焦ってる。

 かなり色々な記憶が蘇ってくるが…両親の話も若干思い出してきたぞ。

 俺が何か言ってはいけない言葉を沢山知っていて、滅茶苦茶怒ってる。

 誰から教えられたのか聞かれて、答えずに拳骨を喰らった。

 殆ど桔梗が原因じゃねぇか!?変態狐!


「どうしたの?永司君、顔が青いけど」

「いや…ただ、コイツの本性を思い出しただけだよ…なぁ桔梗?随分と楽しんでいたみたいだが…川とかでやってた事、覚えてるんだろ?」


 口笛を吹いて誤魔化そうとしてるが、呆れてきたぞ。

 だが…遊んでくれていた事には違いない。

 実際に色んな遊びを教えてくれていた。

 神社の中に隠してあったけん玉とか、ベーゴマとか。

 他にもメンコやら、竹とんぼに縄跳びとかも教えてもらったな。

 途中途中で、全然違う使い方まで教えられた記憶が出てくるんだが。

 縄跳びで体を縛るって、高度な遊びを子どもに教えるなよ。


「これはしっかりと話を聞かないとダメだな。ちゃんと説明してくれるよな?どこまで何をしたのかまで、洗いざらい全てだ」

「へぇ…永司君。なんだか私も気になってきたから、一緒に聞いていいよね?」


 俺と白夜が詰め寄ると、もの凄い勢いで逃げようとする。

 逃げようとジャンプした瞬間に、白夜が見事尻尾を掴み、ソファに引き戻す。

 しっかりと白夜が抑え付けている間に、俺は物置から縄跳びを持ってくる。

 青ざめる桔梗の手足を縛り上げ、俺達の前に正座させて質問を開始した。


「俺の記憶だと、かなりエグいレベルまで行ってるが…思いっきり犯罪レベルだぞ?」

「き…記憶にございません!一緒にお風呂に入った事は何度もありますが!決して交わりなどはしておりません!見てよ!私のこの真実しか語らない美しい目!」

「ただの女狐の目にしか見えない。私は永司君を信じる好きな人には嘘をつきたくないから」


 信じてやりたい気もするが、もう瞳の奥から邪悪な物を感じる。

 出来る事なら、暴力沙汰は起こしたくない。

 悩むな…結構悩む。

 悪意があってやった事には間違いがないのだろうが、多少の事は許してやる。

 むしろそこらのエロ本より断然良い。

 脳内にしっかりと残ってるからな…隣から凄い視線を感じる。


「どうやって始末する?尻尾を全部斬り落としてから」

「落ち着こうぜ?ここを血まみれにされても困る…それに、命を奪うのは目覚めが悪い、一応相手は、古い友人だからな」


 感動した目で俺を見るな。

 あくまで個人的な理由からで、恩を売ったつもりはない。

 俺がどうするか考えている間にも、白夜が何か攻撃をしかけようとする。

 人が話をしてる最中なのに、攻撃をするヤツがあるか。


「白夜!落ち着けってば!おすわり!」

「お、おすわり!?」


 咄嗟におすわりというワードが出たが、意外と効果があった。

 ちょっと涙目にさせてしまった事に罪悪感を感じる。

 でも…律儀に正座で座ってるのが、なんとも可愛い。


「ぷっ!あははははは!それ傑作過ぎ!人狼に対しておすわりって、どこの夜叉の話!?お腹痛い!ヒーッヒーッ!」


 そんなに笑う事ないだろ!?俺が悪いんだけどさ!


「彼女扱いどころかペット扱い!ザマァ!それじゃあ、私はこれで部屋に帰らせてもらうからね!妖孤は妖術が扱えると言う事は、炎も扱えるって忘れてない?」


 …すっかり忘れていた!

 昔、暗くなってきたら、小さい炎で明かりを点してくれてた!

 神社に泊まったときも同じだ!記憶だと明かりが付いた瞬間素っ裸だったけど!

 俺と驚いている白夜の隙を狙い、桔梗は二階の部屋に逃げてしまった。

 今日もまた、居間で眠るはめになるのか。

 そのうち馴れるようになるか、固いソファで寝る事に。

 俺は多分、悲しい顔をしていたんだろうな。

 心配そうな顔をして、こちらを覗き込んできた。


「ど、どうかした?」

「なんだか辛そうな顔してるから、心配になって。良いこと思いついた!今日は私泊まっていくね!あの狐が何かするか分らないから」


 と…泊まっていく?

 俺の家に、白夜が泊まって行く?

 まさかこれは、超特大イベントじゃないか!?

 俺の家に彼女が泊まって行くなんて、一生縁がないと思ってた事がだ!

 俺は更なる高みを目指させてもらう!


「じゃあ私、着替えとか持ってくるから。でも変な事したら怒るからね」


 あ…はい、分りました。

過去を思い出した永司。

だがその内容に驚きを隠せなかったが、大興奮していた。

次回、新たに永司を狙う美女登場!?白夜と美女の、永司を巡る戦いが始まる。

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