第二話 人狼といじめっ子。
家に狐の妖怪である桔梗が居る事を知った永司は、眠れぬ夜を過ごしてた。
そんな彼も学生、もちろん学校に行かないと行けない。
彼女との初登校に、浮かれる永司に、学校では厄介事が降りかかる。
小さい小窓から差す光。
俺は昨晩から、トイレに引きも籠もっている。
昨晩、桔梗が俺の寝室に立て籠ってから、ずっと発狂をしていたからだ。
あまりの恐怖にトイレに逃げ込んだが、そこから出られなくなってしまった。
その結果…酷い寝不足だ、一睡も出来てない。
「そういや、今日も学校だったな…授業中に寝ちまうパターンだよこれ」
なんで俺の家に、妖孤が取り憑くんだか。
正確には、俺自身に取り憑いてるらしい。
「学校に行く前に…コンビニ寄っていくか」
俺はトイレの扉をそっと開け、周りを見わたした。
昨晩の大騒ぎは嘘のように静かで、逆に綺麗になっている。
晩飯に食ったピザの箱も消えており、見事に片付けがされていた。
これも全て桔梗がやったことなのだろうか?
「帰りに…揚げ物買って、お供えしよ」
寝室が気になった俺は、恐る恐る覗き込む事にした。
もしかしたら目が合う可能性もあるが、部屋に居ない可能性もあるからだ。
なによりも…部屋の安否が心配だから。
静かに扉を開き、中の様子を確認すると、眠る桔梗がそこには居た。
人のベッドの上で横になり、枕を抱き締めなが、九本の尻尾を振っている。
このとき俺は、初めてエロ本を拾った時の感覚を思い出していた。
なんであんなに可愛い寝顔出来るの?なんで俺のベッドでぐっすり寝てるの?
特に部屋が超綺麗になってるんだけど?
「あ…揚げ物じゃ、すまねぇレベルだ」
とか考えている間にも、時間が過ぎていく。
時間はまだ六時ちょっと過ぎだから、静かにシャワーを浴びて、家を出ればコンビニに寄れる。
俺はそっと階段を降りた後、シャワーを浴び始めた。
「これからどうするか…彼女は出来たが…まさかのストーカーされてたなんて…どこの漫画展開だよぉ、絶妙過ぎるショックだ」
「いままで黙ってごめんね…私、言い出せなくて」
…気のせいだ…うん、気のせい。
「こんな所に白夜が居るはずがない…だって玄関は鍵を閉めてるから」
「うん…だから、窓から話掛けてるんだけど…おはよう、永司君」
予想の斜めを攻めて来やがった!?
てかなんで窓開いてんだよ!?俺閉め忘れたか!?
「ま、まだ早いよ…急に見せられても、恥ずかしい!」
恥ずかしいと良いながら、手で顔を覆う彼女。
だがしっかりと、指と指の間から見るという、何という古典的な。
現在丸出しだと言う事を思い出した俺は、急いで腰にタオルを巻き、脱衣所へと逃げた。
驚き以外の何でもない、全然学校と違い過ぎるだろ!
あの気弱さはどこに行ったんだよ!?
「しばらく、馴れるのに時間が掛かりそうだな」
俺の知る白夜は…運動音痴で、根暗なはずなんだがな。
まるで別人じゃないか、彼女に何が起ってるんだ。
「学校でもあんな調子になるのか…あるいは、俺と二人の時にだけ見せるのか…でも、あのストーカーという事実を知ったらな…難しい所だ」
頭を抱えながら、家を出ると既に、白夜が外で待ってくれていた。
いつもと違うのは、今まで下ろしていた前髪を上げているところ。
それも満面の笑みを浮かべながら、こちらへと駆け寄ってくる。
さっきまで、前髪下ろしてたんだけどな。
雰囲気が変るというのも凄い、これなら普通に良いと思うんだが。
「あの女狐に何かされてない?もしかして変な呪いとか掛けられてたりしてない?もし、永司君に何かあったら…私」
「何もされてないから。まずは深呼吸をして落ち着こう?本当に何もされてないから」
結構疑われてるな…しっかりと臭い嗅いでるよ。
こうしてると、本当に犬に見えてきた。
お手とか言ったら、本当に芸とかやらないかな。
「臭いとかした?」
「制服から凄い…鞄にも、靴にも…あっちこっちにマーキングされてる!」
ま、マーキング!?
マーキングって確か、ションベン掛けて自分の縄張りを示す行為じゃ。
何!?あの女!俺の制服とかにぶっ掛けたのか!?
はぁ!?え!?何それ!?汚ぇ!
「ちょっと待ってて!直ぐ着替えてくるから!」
「大丈夫、私がし直すから」
し直すって…どちらにしても汚ぇだろ!?
頭の上から行くってのか!?…悪くないかも。
いやない!絶対にない!それだけはマジであり得ない!
「待て!マーキングってアレだろ!?流石にマズイって!衛生面的に考えて!まず学校行くのに全身びしょ濡れになるわけにも」
「え…?どうして拒絶するの、直ぐに終わるのに」
直ぐに終わるって…色々とマズイって。
まず俺はそんな性癖もない!ションベンを掛けられるなんてご免だ!
「どうして警戒して…あ、ち、違うから!多分考えてるのとは違うから!」
顔を赤くしながら否定を始める彼女は、俺の言いたい事を理解したようだ。
一生懸命に否定をする姿は可愛いが…マーキングをしている姿も想像してしまうのは、仕方のない事だろうか。
だってなんかふと考えちゃったんだよ!
「鼻血出てる!これで抑えて!」
痛い!ハンカチで抑えてくれるのは嬉しいけど!鼻が折れそう!
滅茶苦茶強く握ってる!血を止める為だからってやり過ぎだって!
あと気づけば周り鴉でいっぱいなんだけど!またあの恐怖が起るのか!?
そんなの嫌だ!あれ超怖かったんだぞ!
もしかして桔梗の仕業か!?アイツが鴉を操ってるのか!?
「急にどうしたの?鼻血出すなんて」
「なんでもない…とりあえず大丈夫だから、ティッシュ突っ込んどくから、ハンカチは後で洗濯して返すよ」
俺が鼻にティッシュを詰めている時に、俺は見てしまった。
彼女が、俺の血が付いたハンカチを大切そうに、袋へとしまうところを。
一瞬止めようとも思ったのだが、何故か恐怖を感じて出来なかった。
得体の知れない恐怖が、俺を襲った。
ただもしかしたら、鞄が汚れる可能性もあるから、別にした可能性もある。
そうだ、直ぐに疑いのはよく…今、ちょびっと臭い嗅いだな。
「学校に行こ…でも、私、学校ではあまり目立たないようにしてるから…テンションとかが違っても、気にしないでね」
「気を付けるよ、でも1つ気がかりな事があるんだよ」
不思議そうな顔をして見つめてくる彼女に、コンビニへ向かいながら、ある話をした。
小学生時代に、よく苛められていたこと。
そして俺を苛めてきた連中が、毎回不幸な目に遭っていること。
不幸が起るのは全部、翌日に起きていると言う事を、全て話した。
興味深そうに聞いてくれているのだが、たまにこちらを見て、顔が赤くなるのは何なんだ。
「いつものコンビニに行くんだよね?私もよく行くんだ…品揃えがいいよね、初めて行った時は驚いちゃった」
「そうだな。あそこ個人店だから、昔から世話になってるし、頼んだら仕入れてくれるから便利と言えば便利だ」
コンビニに入ると、朝早いせいもあり、人があまり居なかった。
朝早くから来てるからな、不思議でもない。
「さっきの話だけど…もしかしたら、あの桔梗って妖孤が原因かもしれない。狐に化かされたって来たことがあるでしょ?妖孤には妖術が使える者がいるから」
つまりは、桔梗は俺に取り憑いた上で、仕返しもしてくれていたというのか?
だとしたら、感謝すべきことなんだろうが、何故そこまでしてくれるんだ?
もともと、俺に取り憑いた理由すらも分っていない。
小さい頃に遊んだ事はあるが、記憶が曖昧になっている事も気になる。
他の記憶は思い出せるのに、桔梗の事に関しては、思い出せない。
「でもあの桔梗って女狐、結構警戒したほうがいいかも。すぐに追い出した方が良いよ」
「追い出すって言われても…相手は妖孤で、しかも九尾だろ?人間の俺が太刀打ち出来る相手じゃねぇよ、それに昨日の晩飯の後片付けまでしてくれてて」
徐々に強ばり始める彼女の顔に、俺はどうしたものかと、しばらく頭を悩ませた。
彼女的には、他の女が居て欲しくないというのは分る。
でも、ここで追い出したりしたら、恩を仇で返すようなものだ。
「じゃあ私が追い出すから、このままだと永司君が心配なの」
お…つ、詰め寄られとる。
てか…緊張する、意外と胸があるのかよ。
「あの女狐はきっと悪さをするに決まってる。もしかしたら永司君の事を食べる気じゃ」
「いや…食べられてたら、俺既に死んでるよ。まずは様子を見るのが先だと思うし…少し引っかかる所があるから」
納得はしてくれていない様子だが、様子見は賛成して貰えた。
無事学校に到着し、教室へ入ると何か騒がしい。
どうも誰かが怪我をしたとの事だが、俺は嫌な予感がしていた。
ざわついている教室にはいると、一気に静まりかえり、俺達二人へと視線が集まり始める。
「なんだ…虎田と犬岡か」
俺達だと認識した瞬間、再びざわつき始める教室。
状況を理解する事が出来ない俺達に、一人の男子が近づいてきた。
その男子の名は、佐藤亮。
たまにクラスで話をする程度だが、お人好しとして有名な男だ。
「珍しいね、犬岡さんが、誰かと登校してくるなんて」
「佐藤、何かあったのか?」
俺の質問に、佐藤の顔が暗くなり始める。
話を聞いてみると、クラスの女子二人ほどが怪我をしたらしい。
一人は階段から転落して、足首を捻挫。
一人は彼氏が浮気したとかで、問い詰めたら殴られたとのこと。
二番目は同情するが、その二人は昨日、白夜を苛めていた女子の二人らしい。
だがあの時、三人居たはずだが、無事だったのだろうか?
「アンタでしょ…?アンタがやったんでしょ犬岡!アンタが愛理を階段から突き落としたんでしょ!?アンタが香織の彼氏に手を出したんでしょ!?最低!」
「わ…私は、何もしてない…昨日は永司君と居たから」
怯えて、俺の後ろに隠れる白夜。
それを追うように睨み付けていた目は、矛先を俺へと変えてきた。
チビリそうになるくらいに怖い目付きで、俺をじっと睨み付けてくる。
…若干漏らしたかも。
「アンタは何?人のスカート覗いておいて…さらにその女を庇うの?ざけんな変態男!」
「…は?スカートを覗いただ?言いがかりもいい加減にしろよ。お前がしゃがんで見せてきたんだろうが!それに白夜がやった証拠があんのか?お前等のイジメで白夜は足を怪我したんだぞ!」
更にざわつき始める教室で、俺は睨み返した。
コイツがやっていたのはもう、イジメなんてレベルじゃない。
あれは犯罪と同レベルだ。
「どうしたよ?否定したらどうだ?白夜がやった証拠があるなら出せよ。そうやって誰かをイジメて、自分達がやられたら大騒ぎ?ふざけるのも大概にしろや!」
「虎田君、流石にそれは言い過ぎだと思うよ。今は彼女も動揺してるんだと思うから、お互い冷静になろう?白井さんも同じく証拠がなにのに犬岡さんを追求したらダメだよ」
仲裁に入ってくれた佐藤のおかげで、頭は冷静になれたのだが、相手は違ったようだ。
離れようとした瞬間に、力いっぱいに頬を叩かれた。
教室内が静まりかえると同時に、突然窓から強い風が入り込んできた。
強風に吹かれる中、なんとか踏みとどまるのが精一杯だった。
頬の痛みに耐えながらも、強風に耐えていると、何か布が飛んで来た。
俺はそれに嫌な予感がして避ける事にした。
「なんだこの風!?」
「いやぁぁぁ!スカートが!」
「俺の徹夜して終わらせた宿題がぁぁぁぁぁぁ!」
混乱に陥る教室。
俺は白夜が飛ばされないように庇っていたが、何か様子がおかしい。
必死にスカートを抑えているのだが、顔がもの凄く赤い。
「大丈夫か!?無理だったらしゃがんでも良いからな」
「しゃ…しゃがむから…永司君もお願いだから、一緒にしゃがんで」
言われた通りにしゃがんでみたが、妙に恥ずかしがってる。
あと背後から、妙に殺気を感じるんだけど。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!なんか鴉が入って来た!」
「なんか色々と盗んでるぞ!?なんなんだよこの鴉!?」
鴉が侵入してきたって…じゃあ、あの殺気は鴉のか!?
「痛い!痛い!痛い!やめて!なにこれ!?なんで突かれんのよ!?あの変態と根暗を突けよ馬鹿鳥!」
後ろの方を振り向くと、白井が鴉に襲われている光景が目に入った。
正直、ざまま見ろと思って見ていた。
だがさっきまで、俺の前に居た白夜が掛けより、鴉を追い払い始めていた。
何をしているのか、一瞬分らないが、気づけば俺も同じ事をしていた。
上着を使い、鴉を一生懸命に追い払うする。
しばらくすると、風も落ち着き、鴉も外へと逃げて言ったのだが。
俺と白夜の間にはなんと、巨大な桃が1つ落ちていた。
それにはクラス中の男子が注目し始め、俺も目が離せなかった。
ただその間にも、女子は上着を腰に巻く者や、教室から体操着を持って逃げ出す者が続出。
白夜も同様に自分の腰に上着を巻くかと思えば、白井の方へと静かに掛けていた。
「痛いよ…なんで私がこんな目に会うの…最悪…もう死にたい」
「白井さん…簡単に死にたいなんて言ったらダメだよ」
あんなに酷い事されたのに、凄いな。
とりあえずは…白夜も似た様な事態になってるのか。
俺は手に持ってた上着を渡し、腰に巻くように話したのだが。
ここで綺麗に収まればいい話だなで終わるのに、この白井って女は最悪だった。
立ち上がったと思うと、俺の脛を蹴りつけて、逃げて行った。
ちゃっかり白夜の上着まで持ち去って。
もう泣きそうなんだけど…あまりの痛さで涙が出てくる。
「永司君…私、追いかけた方が」
「…あれは…しばらく放っておいた方が良い…しばらくはそっとしておこう」
今まで見下してきた相手に助けられた上に、色々と庇って貰ったらな。
相当プライドもズタズタになるだろう。
俺からしたら、いい気味と言えるが、白夜本人はどう思ってるか。
「白夜、今のうちに着替えてきた方がいいぞ。それだけじゃ、心細いだろ」
「うん、じゃあ着替えてくるね」
お尻を押さえて走る彼女を見ていると、佐藤が俺の肩に手を置いて、ニヤニヤしてくる。
「意外だね。君たちが付き合ってたなんて」
「昨日からな…そんなに意外か?」
「いや、普通に意外すぎるだろ。だって虎田、お前って悪い噂が多いだろ?お前に近づくのって、佐藤くらいだけどよ…格好良かったぜ!あと生ケツが見れて幸運だ」
クラスの男子による、生ケツの喝采が発生。
流石にやめてやれと止めるも、佐藤以外は聞きやしない。
教室の入り口から刺さる様な女子の視線。
全く気づいていない男子達よ、俺はある意味尊敬するぞ。
女子に見られながらも、恐れを知らぬ勇者達だ。
だが俺と佐藤は、少し冷めた目で見させてもらうとするよ。
「悪い。白夜が心配だから、様子を見てきても良いかな?」
「行ってくると良いよ。怪我人もあまり居なかったから、こっちは大丈夫だ」
俺は佐藤に御礼を行った後に、教室を後にした。
さきほどの光景を見て、白夜が白井を探しに行ったのではないかと思ったからだ。
今までイジメられていたのに、俺には手を貸す事が信じられなかった。
俺だったら、指をさして笑っていただろう。
だが彼女は笑う事もせず、助けに行った上で、更に手まで貸した。
あそこまで優しい事が出来るのは、尊敬出来る。
ひねくれた俺には、真似できないな。
「あれで恩でも売ったつもり?ウザいんだけど。誰が助けてなんて言ったのよ?普段からキモいけどさ、何その髪型?顔を出して私変りましたアピールのつもり?正直言って、何も変ってないから」
廊下の曲がり角にある、屋上へ向かう階段から聞こえて来た声を聞きつけて来たんだが
思った通り、やっぱりこうなるか。
「でも…あのままだと、白井さんが危なかったし…それに、皆が見てる前で…」
「はいはい、お尻丸出しでしたよ!みんなの前でお尻を出しましたよ!だから何?たかがお尻出したくらいでなんともないから、むしろ童貞共には良いんじゃない?後でお金請求すれば」
新しい当たり屋かよ、ケツ見ただけで金要求とか怖すぎだろ。
待って、本当に請求されるとしたら、俺かなり近くで見ちまったんだけど。
昨日もイチゴパンツ見たから…かなりふっかけて来そうだな。
まぁ…払う気なんて、さらさらないんだけど。
恐ろしいヤツだな…白夜もよく頑張るよ。
「そんな当たり屋みたいなことしちゃ駄目!なんでいつも人を傷つけるような事をするの!?白井さんだって辛い思いするんだよ!?なのになんでそんな酷い事が出来るの!?」
「は?テメェ調子に乗ってんじゃねぇぞ!ブスのくせに生意気なんだよ!昨日だってあの変態がなけりゃ小遣い稼げたのに…まぁいいや、あとでお前の裸の写真撮らせてくれたら、カツアゲやめてあげる」
あのクソアマ、今なんて言いやがった。
白夜に脱げって言ったのか?それも写真を撮らせろって。
なんともまぁ、レズビアンなのか、あるいは本当に屑なのか。
聞いてるだけでむしゃくしゃしてきた、殴っていいかな?
でも殴ったら酷い事になるからな。
「…わかった…脱いだら…クラスの皆に酷い事とかしないって約束して」
「じゃあスカート捲り上げて。パンツ履いてないでしょ?恥ずかしい写真沢山とってあげるから」
「パンツ履いてないのはお互い様だろ?それともなんだ?昨日の件で、パンツ見られるのが嫌だから、履くのをやめたか?あ?」
バカァァァァァァァァァァ!
俺の馬鹿!なんで出て行くんだよ!?
もう少し様子見をしろって!あととんでもない発言したぞ俺!
「な…なんでここに居んのよ変態野郎!まさかアンタ、ストーカー、キモっ!」
「ストーカーだぁ?彼氏が彼女の心配して何が悪いんだよ?つかお前、いい加減にしろよ。お前がやってんのはイジメじゃない、立派な犯罪行為と同じだ、そのオツムで理解出来るか?」
俺の口、いい加減黙れ!
一体どこからこんなに言葉が出てくるんだ!?
口を閉じたいのに、閉じる暇がない程に喋る。
相手に反論する隙すら与えずに、喋りまくる。
途中映画のセリフとか混じったりもしたが、俺の口は止まる事がなかった。
相手が涙目になろうと、お構いなしに言い続ける。
多分、白夜に対するイジメのストレスが、一気に爆発した気分だ。
「お前は白夜に対してブスって言ったけどな!お前のほうが断然ブスだ!鏡で見比べて見ろ!多少可愛げがあるからってお前の性格事態がブスで救いようがないんだよ!先に手が出る暴力女!」
「言い過ぎだよ!私は大丈夫だから…永司君も少し落ち着いて」
白夜に止められると、不思議と直ぐに落ち着いた。
俺自身、頭に血が上るとヤバいんだな。
制御が効かなくなって、止められなくなる。
でも少し、スッキリするんだな。
「気持ち悪いんだよ!お前も!お前も!死ねぇ!なんでお前はいつも私の邪魔をするんだよ!?もう…マジで死ねよ!」
白井が側に重ねてあった椅子を振り上げ、こちらを殴ろうとしてきた。
俺はこの瞬間に、死を覚悟していた。
椅子で殴られたとしたら、軽傷じゃすまない、大怪我どころか死ぬ可能性だってある。
この女はそれだけ本気で、こちらを殺しに掛かってきたんだろうか。
もしくは、俺が相手を混乱させた結果か。
椅子が勢い良く迫ってくる瞬間、目の前で動きが止まった。
椅子からは鳴ってはいけないような音がなり、それを聞いて理解出来た。
「うそ…なんで?なんで動かないの!?ふざけんな!」
「それはこっちのセリフだよ…今、アナタ…永司君を殺そうとしたよね?私の…大切な永司君を…この椅子で傷つけようとしたよね?ねぇ!?」
少しずつ後退していく椅子。
そして、怒りで人狼の姿へ変っている白夜。
いやまて!いくら怒ってるからって、人狼の姿になるはマズ過ぎるだろ!
「え…何、こいつ…?化けも」
「それ以上喋ったら許さないから。もしこの事を誰かに言えば、噛み殺すし永司君に関わっても殺す、分った?」
白夜さん、顔がシャレにならないほど怖いです。
牙も向き出して…その笑みはヤバい。
そして相手の方は、完全に気絶してるな。
足元にも黄色い水溜まりが出来てる…迫力も凄いからな。
「はぁ…白夜、先に教室に戻っててくれ。教室に戻った時は、白井は見つけられなかったと言え…俺は、適当に階段で見つけたとかって言い訳しておくから」
「だけど永司君…なんでもない…頑張って」
頑張ってか…じゃあ、頑張るとしますか。
放置しても後味悪いし、適当に恩でも売って、わざと追い打ちを掛けてやる。
俺もかなり性格が悪いな、元からか。
にしても…昨日と今日の件は、やはり桔梗の仕業か?
昨日の鴉、あれも桔梗が操ってる様に思えた。
相手は九尾だ、絶対に出来ないとは言い切れない。
九尾とかの妖孤にもつイメージの1つとして、妖術を操るというのが、俺の中にはある。
「すいません、クラスの女子が倒れてたので運んで来ました」
「え?どうしたの?気絶してるじゃない!?それに全身が傷だらけで」
俺は保健室の先生から、何があったのか聞かれたが、適当に答えるしか出来なかった。
どこで見つけたのか、どうしてそこに居たのか、他に誰か居たのかと。
見つけた場所は屋上へ向かう階段。
教室で起った騒ぎで、着替えに行ってから戻ってこないので、探しに行ったら倒れていた。
自分以外には誰も居なかった、ただ失禁して倒れていたのを運んで来たと。
最初こそ半信半疑で見られていたが、俺が何かをした証拠もないので、教室へ戻って良いと言われた。
教室の方から、既に強風鴉事件は報告されていたのが幸いした。
「おい…戻って来たぞ」
教室内の視線が、一斉にこちらへと集まり始める。
「白井は?白井はどうした?」
「気絶してた…屋上の入り口で倒れてたから、一応保健室に連れてったよ」
失禁してた事は黙っててやる、俺なりの優しさだ。
教室に入るとき、あの喧嘩の声が聞こえてるかと思って居たが、騒ぎが酷くて気づかれていなかったようだ。
まぁその結果、うちのクラスは授業が潰れてしまった。
教室内で何が起ったのか、事情徴収を一人一人受ける事となったから。
そして、白井は鴉に襲われたせいで錯乱した後に、ストレスやらで失神したという事になった。
他にも、白夜に対するイジメ等、俺を打った事も問題として取り上げられた。
最悪なのは、俺と白夜が学校で長い間、話を聞かれ続けたこと。
「腹減ったな…何か食べてくか?」
「うん、どこに行こうか」
どこで食べるか…牛丼も食べたいが、ラーメンも食いたい。
「私…牛丼屋に行ってみたい」
俺の心を読みましたか?
確かに牛丼を食べたいと思ったが、そっちから行ってくるとは、思いもしなかった。
「じゃあ…牛丼食べに行く?助けて貰ったから、今日は奢るよ」
目がキラキラしてる、そんなに嬉しいのか?
でも女の人一人で、牛丼屋とかに入るのに勇気がいるとか聞いた事があるな。
もしかしてそれもあるのか?別にどっちでも良いが。
とにかく疲れる一日だったな、打たれたりとか色々と。
帰ったら、桔梗の件も待ってるから…めんどくさいな。
白夜も結構大変な一日だったろうな。
あの後、人狼の姿を見せた事を後悔して、取り乱してたから。
別に姿を見られたからと言って、白井が誰かに言っても意味はないと思う。
逆に、何言ってんだコイツ扱いされるのがオチだ。
「ついた。俺行きつけの牛丼屋だ」
「個人のお店なの?年野屋とか、いや屋とかじゃないの?」
別にチェーン店でも良いんだけど、ここの牛丼屋はサービスしてくれる。
常連になると、卵とかをおまけしてくれる。
「牛丼屋に来たの初めてなの。なんだかイメージ通り…でも個人店って珍しいね」
「よぉ永司、いつものでいいか…え、ええ、永司が彼女連れてきたぞ!?おやっさん!永司が彼女連れてきた!富士山が爆発する!矢の雨が降ってくるぞ!」
酷い言われよう!俺超ショック!
隣では白夜が顔を赤くしてるし、恥ずかしいから大声でいうなよ!
このテンションの高い店員は、源光成さん。
皆からの愛称は源さんと呼ばれてる、俺もそう呼んでいる。
そして、牛丼屋の店主の名前は牛野栄蔵さん。
俺とは名前が、えいと着くつながりで、良くしてくれている。
元々、両親がよく出かけるから、一人で牛丼を食べに来てる事が多いせいもあるが。
「永司よぉ…お前もついに成長したな…俺は嬉しいぞ!」
「泣かないでくださいよ。源さんは直ぐに泣くんだから」
白夜が困ってるよ、てか注文の仕方が分らないだけか?
「どこで見つけてきたんだよ?こんな美人な娘。お前にはもったいないくらいだぞ…よし!今日はお祝いだ!特別メニュー出してやる!黒毛和牛を使ったの牛丼だ!」
「馬鹿野郎!お祝いと言ったら赤飯だろうが!今炊いてやるから少し待ってろ!」
「いや!牛丼食べに来たから普通に牛丼くれよ!?源さんもおやっさんも悪のりが過ぎるよ!」
この二人は、結構悪のりが好きで有名だ。
というか、ここの牛丼屋の名物と化してる。
何か嬉しい事があると、源さんが高いのを作ろうとして怒られる。
そして、栄蔵さんが赤飯を炊こうとする。
最後に客が止めに入る、という常連ネタである。
となりで理解出来てない白夜がいるが、説明をしてやると、笑って貰えた。
「へぇ…白夜ちゃんか。永司、泣かすんじゃねぇぞ!もし泣かしたら、鼻に牛丼の知る流し込むからな!」
「源!そこは紅ショウガと七味だろうが!全く最近のヤツは、全然理解してねぇ!」
理解以前にどっちも嫌だ!
「大丈夫です。永司君は、私をいつも守ってくれてます」
「良い子だな…グスッ、永司…式には呼んでくれよ…おやっさんの式が先かもしれねぇけど」
「そいつは、俺の葬式の事を言ってるのか?俺はまだ死なねぇからな!あと五十三年は生きてやる!」
その後は、牛丼を食べて家に帰った。
一応は桔梗の分も買ったのだが、白夜から追求されてしまった。
ちゃんと今朝の礼をするためだと言ったが、少し機嫌を損ねてしまったようだ。
家に帰るともちろん桔梗は目を覚まして待っており、二人のいがみ合いが待っていたが。
学校ではイジメが見つかり、さらに謎の超常現象に見舞われてしまった。
次回、初の休日を二人で過ごすつもりが…。
桔梗と永司、二人に隠されたた過去とは一体?