第一話 人狼と妖狐。
初の彼女が出来た事で浮かれる永司。
お互いに距離感が分らずにいるも、白夜からある事を知らされる。
俺に彼女が…ついに出来た。
見た目は結構暗い雰囲気を出してる上に、髪まで下ろしてるから余計に暗く感じる。
だが、目元を隠す髪をどければ、滅茶苦茶可愛いんだけど。
彼女には隠してる事があるんだよな。
「彼女って…何をすればいいの?」
「何をすればいいのって…俺も知らない…てか、その姿を戻さないと外に出られないんじゃないか?」
俺の彼女は、人間じゃない。
じゃあ何かと聞かれると、人狼としか答えるしかない。
狼人間が、俺の彼女なのだ。
理由は知らないが、突然彼女が変身をしてしまい、俺はその瞬間を見てしまったわけなのだが。
思い返すと、恋人とか彼女って、お互いが好きでなるものだよな?
でも俺達は違う…彼女が監視目的でこうなった。
つまり俺達は、本当は恋人じゃなくて…はぁ!?
頭痛くなってきた…とりあえず今は、彼女を元の姿に戻す方法を考えよう。
「狼になる条件って…何?」
「満月と…二十歳未満なら異常な程の怒り、興奮、恐怖でなるって教えられてきたけど…やっぱり血に興奮したのかな?」
血に興奮したと言うより、血に怯えていたように見えたんだが。
「満月は出てない、まだ夕方だからな…異常な怒りはイジメに対して、興奮も怒りか?恐怖も全部が繋がるということは…俺も原因の1つ?」
「わからない…こんな事態、初めてだから…小さい子がなるのは多いけど、私達の年頃には自分の意思で制御が出来るのに」
全然、解決に向かう気配がない。
まず原因が分らないから、どう解決すれば良いのか。
「ねぇ…ここの家に、狐とかっているの?」
き、狐?いきなり何を言い出すんだ?
確かに家には狐の置物はある…祖父母がお守りとしておいていったから。
でもよ、狐なんて普通家にいるか?
確か狐って、エキノコックスを持ってるはずだろ。
もし家にいたら、俺はエキノコックス症にかかってるわ!
「狐の置物とかならあるけど…うちに狐とかいるの?」
「詳しくは分らないけど…家に入ってから、ずっと狐の臭いがする…特に階段辺りから臭いが凄い」
何それ怖い!俺狐に憑かれてるとか!?
いや…若い頃はこっくりさんとか流行りましたよ、やってないけど。
もちろん映画とかも見たけど、引き寄せられてきたとか?
結構そういう話を聞いたことはあるな、動物霊ってのが来るって。
それに俺の部屋に、狐とかの物は置いてない。
「…二階は…俺の部屋と物置と空き部屋しかない…霊とかの類いは見れるか?」
「見えるけど…あまり見てもいい気はしないから…見えてないフリをしてる…でも、霊だったら、ここまで強い臭いはしないはずだけど」
どうしようどうしよう!駆除業者を呼べば良いのか!?
だが狐が屋根とかに住み着くなんて、聞いた事もねぇよ!
ハクビシンとかアライグマなら知ってるけど、何故に狐!?
「確認したいなら…着いていくけど…どうする?」
正直、確認をしたほうがいいよな。
このままだと夜寝れねぇよ…別な意味で恐怖して。
と、とりあえずは着いて来てくれるって言ってるんだから、頼もう。
俺達は階段へ向かった。
もうこの家から飛び出したい暗いに怖かったが、ここ以外だと居る場所がない。
貯金箱とか、貴重品も家の中だから。
「うっ!臭いが強くなってる。この強い臭い、感じないの?」
感じないも何も…至って普通なんですが。
目立った変化も見られない、いつもと同じ環境。
それに臭いなら、俺でも気づくんじゃないのか?
独特の獣臭とかで。
「この部屋からしてくる…多分ここを住処にしてるとしか、思えない」
ここの部屋か…バリバリ俺の寝室じゃねぇか!?
どうなってんの!?なにこの心境!?もう笑えないんだけど!
俺の部屋に、狐が住み着いてるって言うのか?
漫画やDVD、他にもゲームとか色々と置いてて、住み込める場所なんてないはずだが。
てか狐って何食べるの?油揚げとか…そういや、俺の昨日のおいなりさん何処いった?
犬岡さんにお茶出した時、冷蔵庫にしまって置いた、おいなりさんが消えてた。
考えてみると、たびたびそういうことがあったような気がする。
五個入りのおいなりさんが、1つ消えてたり、きつねうどんの油揚げが消えたり。
他にもある、ショートケーキのイチゴが消えたりもしてた。
「入るけど…私にはどうする事も出来ないかも…普通の狐程度なら追い出せるけど…幽霊なら、無理だから…ちゃんとお祓いに行って」
お祓いに行けとか言われるなら、こんな事実知りたくなった。
まだ知らなければ、幸せに暮らせてたのかな。
人が黄昏れてる時に、勝手に部屋に進まないで、結構恥ずかしいから。
「…臭いが消えた?」
へ?臭いが消えたって?
さっきまで強い臭いがするって、おっしゃってませんでしたか?
「さっきまで酷かったのに…なんかイカみたいな臭いしかしない」
俺は急いで、犬岡さんを部屋から追い出してしまった。
戸惑う彼女にお構いなしに、自分でも驚きのスピードでだ。
ゴミ箱の中身はマメに捨てないとダメだな…また恥掻いた。
はぁ…よくよく考えたら、この部屋に人を入れた事なんてなかったからな。
段々と心臓がバクバクしてきた、女子を部屋に入れただけで、ここまで緊張するのか?
ましてや、美少女だ…緊張しないほうがおかしい。
童貞には…刺激が強すぎた。
「大丈夫?私…何か悪い事した?…やっぱり、いやだよね…こんな不細工で、獣で…可愛げのない子なんて…それに私なんか…」
扉の向こうで何か言ってる!
これってかなりヤバくね?かなりヤバいって!
勘違いされてるよ!思いっきり勘違いされてる!
「待って!待って!違うから!部屋が汚れたから恥ずかしかっただけだから!犬岡さんの事も不細工とか思ってないから!逆に可愛すぎてこっちが緊張してるだけだから!」
「そういって…本当は内心笑ってるでしょ?みんなそうだったから…私を笑って楽しんでるから…でも大丈夫…馴れてるから」
ダメだぁぁぁぁぁぁ!お願いだから少し待ってぇぇぇ!
ゴミ箱の中身だけ袋詰めさせて!
女子を部屋に入れる時は、絶対にゴミ箱は綺麗にしとかないとダメだ!
俺は酷く後悔してる、これなら毎日ゴミ箱を掃除しとけばよかったと。
部屋が片付いたと同時に扉を開ける!
だがそこに居たのは…いつもの犬岡さんが立っているだけだった。
というより、人狼の姿ではなく、本当に学校で見かける姿。
いつのまにか戻っていたのか?ネガティブになると戻るのか?
「犬岡さん…元に戻ってるよ」
ああダメだ、何か言って話を聞いてくれない。
「頼むから聞いてくれ。俺は犬岡さんをブスだとか思ってない…最初は根暗な子だと思ってたけど、結構優しいと思ったんだよ…普段も前髪で、目元隠してるけど…よく見たら、凄く美人で驚いてるんだよ」
あれ?俺、なんでここまで言えるんだ?
自分自身で必死になってるのは分るけど、ここまで必死になれるだろう。
実質、今日が彼女と初めて話したのに、どうしてここまで心配になるんだろう。
どうしてここまで、恐怖してるんだろう。
「俺は絶対に、犬岡さんの事を馬鹿にしたりしない。人狼であることも、周りに言ったりもしないから…頼むから、一度だけでも良いから、俺の事を少しでも信じてくれ」
「ほんとうに…私の事を馬鹿にしてないの?私人間じゃないのに…私が彼女でも良いの?」
彼女のポジションに座る言ったの、アナタでしょうが。
ちょっと記憶を改竄しないで貰えます?こっちも混乱するんで。
「自慢じゃないけど、俺今まで彼女なんていた事ないよ。犬岡さんが、俺の彼女になるって言ってくれたとき、驚いて卒倒するかと思ったくらいだよ…それだけ、嬉しいんだよ!」
恥ずかしい…凄く恥ずかしい。
どうしよう、犬岡さんも赤くなってる…なんか頭から湯気とかでそう。
犬岡さんって…髪下ろした状態でも、こんなに可愛かったっけ?
学校じゃ、まともに話す機会もなかった。
なんだか…胸の高鳴りが、激しくなって行く。
「い、犬岡さん…俺と」
「は…白夜で、いいから…私も、永司君って呼ぶから…だから…き、今日はお邪魔しました!」
そう叫ぶと、彼女はもの凄い勢いで、帰って行った。
ただ衝撃的だったのは…四足歩行で走って言った事。
確か足、怪我してたのに。
階段で転ばなくてよかった…家の階段、急カーブあるから。
にしても…狐の臭いがするって、何だったんだろうな。
俺がここに引っ越してきたのは、まだ小学生くらいの頃。
突然両親が引っ越すとか言い始めて、誰にも挨拶せずにここへ住み始めた。
元々、学校では俺も苛められていたからな…挨拶する相手なんて居なかった。
「しっかし…今日はつかれる一日だったな…あれ?考えてみたら…俺ってスゲぇ体験したんじゃね!?人狼が彼女とか凄くね!?」
おいおい…色々と緊張し過ぎてたが、冷静考えたら凄い事だぞ。
俺は昔の夢を叶えたと同じじゃないか。
幼き日に夢見た事、妖怪と知り合いになりたい。
吸血鬼でも良い、ゾンビでも良いから、知り合いになりたいと。
その中でもベスト3に入る人狼とだ、なんたる光栄。
「記念に狼男でも見るかな」
後で犬岡さんに、無事家に帰れたか連絡を…さっき、名前で呼べって言ってたよな。
女子を名前で呼ぶだと!?今日は良いことづくめかよ!
「許さない…許さない…絶対に許さない…私以外の女なんて…許さない」
「許さないって、俺が何かした…へ?」
…今のって、空耳だよね?そうだよね?
「許さない…許さない…絶対に許さない…私以外の女は…呪い殺してやる!」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
本当に出たぁ!お化け出たぁ!祟られるぅ!
狐のお化けに憑かれた!?臭いの原因ってあれか!?
俺これからどうすればいいんだよ!?
帰る場所なくなったぞ!このままホームレス確定か!?
あ、あれは犬山さん!?
「永司君…あ、さっきは…何処行くの!?」
勢い良く走り過ぎて、思わず通りすぎてしまった。
「ででで出たぁ!おおお化けけけ!部屋に出た!とにかく出た!」
「落ち着いて、ここには多分来ないから、大丈夫だからね」
その後、しばらく錯乱したものの、どこか別の場所で話をする事となった。
家から飛び出して早一時間、俺はいまだに家に帰れないで居る。
正確には、犬山さんと一緒に、コンビニで買ったジュースを飲んでるわけだが。
まさか本当に部屋に幽霊がでるなんて、思いもしなかった。
「狐のお化けを見たの?」
「見たというか…声が聞こえてきた…女の人の声が…盛り塩とかした方がいいか!?」
興奮し過ぎたか…周りから注目されてる。
「さっきも言ったけど…私じゃどうすることも出来ないから…ただもしそれが、妖怪だったとしたら…話合いが出来るかもしれない」
妖怪だったら話合いが出来るか…彼女も妖怪だからな。
ただ俺は普通の人間、犬岡さんが好戦的じゃないから、こうして生きてるのかもしれない。
だが1つ気になる事がある…あの幽霊、なんで他の女を許さないとか言ってたんだ?
「昔、動物とか苛めたりしてなかった?主に狐とか?」
「俺…どちらかというと、動物好きだからイジメとかはしてないはず…むしろ、動物から寄ってくる」
現に周りの電柱が、鴉だらけなのが証拠だ。
若干不気味な気もするのだが、別に悪さをするわけじゃないから。
…鴉…多すぎじゃね?
てか全部、俺達を凝視してね?してるよな?
となりで犬岡さん、ガタガタ震えてるんだけど、警戒してんだけど。
これって、俺が懐かれたわけじゃないの?
「これはかなり…危険かもしれない…今は皆、私に警戒してよってこないけど…どうしよう?」
「鳥」って映画があったのを思い出した。
確かリメイク版は、鴉がメインになってて、人を襲うんだよな。
それも目玉を突いて、えぐり出すとかの…もしかして同じ展開?
「俺…家に帰るよ…これ以上は、迷惑を掛けるわけにもいかないから」
「うん…ありがとう…私、頑張って囮になるね」
待てぇい!どうして囮になろうとしてんの!?
「ちょっと待って!誰も囮になれなんて言ってないから!とにかく逃げるぞ!乗れ!足怪我してるから走れないだろ!」
「でも…私重たいから…もともと体型も変だし…さっきも重たそうだったから」
ネガティブ思考もいい加減にしろよ。
俺は彼女へ掛けより、抱きかかえた。
こういうときの火事場の馬鹿力だ、女を犠牲に逃げたら、本当にダメなヤツになる。
例えそれが人間じゃなくとも、関係があるかよ。
人間だろうと、人狼だろうと、彼女を守れない男でいてたまるか。
「一匹ずつ掛かってこいや鴉共!焼き鳥にされたいのか、おお!?」
…本当に来たぁぁぁぁぁ!しかも一斉に来やがった!
一匹ずつ来いと行っただろうが!
てか日本語通じるの!?俺ここで死ぬの!?
もうそんなの関係ない!とにかく逃げるのみ!
「家の場所!適当に走るから!見覚えがあるところは指示出して!」
俺の考えとしては、犬岡さんを送った後に、鴉を引き連れて家に帰る。
もうそれくらいしか、思いつかなかったから。
ただ不思議なのは、こうして彼女を担いで走るのが、楽しいと言う事。
俺の中で何が起ったのか分らないが、何故か楽しんでいる。
追いかけっこなんて…いつぶりだっけか。
小学校でも、中学でも、ずっと孤立してた。
高校生になった今も変らずに、孤立してるけど。
主に孤立してた理由は、俺を苛めてた連中が、次々と怪我をし始めたからだった。
どつかれたら、階段から落ちる。
靴を隠したら、私物が全部行方不明になるとか。
そんな事が多くて、周りからは祟りとか言われてた。
「そこを右に曲がって!次に三番の曲がり角を左に!」
俺は歳の近い友達なんて、いらないと思った。
まだ苛められていた頃には、一人だけ信用出来る人が居たから。
いつも神社に行くと待って居てくれる、女の人が居たから。
「ここを左で真っ直ぐ!そしたらアパートがあるから!」
いじめっ子に筆箱を隠された時に、初めて、俺は出会った。
片手に筆箱を持って、優しく微笑んでくれてた。
学校から帰ってくると、毎日神社に通う日々。
女の人に会いたくて、遊んで貰えるのが嬉しくて、欠かさず通っていたのに。
突然の引っ越しで、その神社には通えなくなった。
どうしても気がかりなの事がある。
女の人の姿を、思い出す事が出来ない。
いつの日か、また思い出せると良いなと思いながら、今日まで来た。
家を出る時に…手を振ってくれていたから。
「ここの階段を二階に上がって!そのまま一番奥の部屋だから!」
そう叫ぶ彼女は、鞄から鍵を取り出して、こちらに差し出してきた。
俺は鍵を受け取ると同時に、鍵を穴に差し込み、中へと入ったのだが。
「…窓の外…見覚えがあるんだけど…特にあの部屋って…」
おかしいなぁ?返事が帰ってこないぞ。
どう見ても、俺の部屋にしか見えないんだけどな。
あと窓際にある双眼鏡はなんだ?バードウォッチングでもしてんの?
なんだかこの部屋、妙に怪しく感じて来たが…どうしてこんな感じがする?
「犬岡さん…このマンションって…俺の家の裏にある…マンションだよね?あとここの部屋…斜め向かいから俺の部屋が見えるんだけど?」
お願いだから答えて…なんだか力を込めてるけど、答えて。
「見つかっちゃった…ね」
顔を赤くして、照れてるのは分りますよ。
俺が聞きたいのは、見つかったねと言う言葉ではなくてですね。
何故にこんな近くに住んでいたのかと言う事と、あの双眼鏡の真横にある、俺の写真について知りたいんですが。
まるで俺が住んでいるのを知っていたような感じですが、説明を求めたい所だよ。
「見つかったとかじゃなくて…説明をしてほしいんだけど…もしかして外の鴉とか、家の幽霊とかも」
「それは違うの!私は人狼だから…動物を操る事なんて出来ない…妖術とかそういう類いも持ち合わせてないの!それは信じて!」
信じろって言われても。
動揺を隠せない俺に迫り来る彼女は、どこか悲しげに見える。
まるで、子どもが必死に弁解をしているかのように。
「永司君…ここも長くは持たないかもしれないから、一緒に逃げる方法を」
「逃げる方法も何も…信じられるかよ…こんな状況で、正常な判断なんて無理だ」
なんなんだよ…これじゃあ、手の平で踊らされていたのと同じじゃないか。
信用しろと言う方が難しい。
俺は裏切られたような感覚に襲われ、彼女から距離を取り始めていた。
初めて彼女が出来て浮かれてた俺が、馬鹿にすら思えてくる。
何が自分の事を馬鹿にしてるんじゃないかだよ…酷すぎる。
「少しだけだったけど…彼女が出来た事だけは嬉しかったよ」
一体何をするつもりなんだ、俺は?
扉に手を掛けて、外へと出ようとしてる。
外には沢山の鴉が待ち構えてるというのに、自殺行為と同じだ。
なのに…なのにどうして…彼女を守りたいと思えるんだ。
いや…そもそも、彼女自身が裏切りをしていたのか?
錯乱した俺が勝手に思い込んだだけなのか?
だとしても、帰りなら直ぐに裏へ行けば帰る事が出来た。
もう訳が分らなくなってきた。
今言える事は1つだけ…ただただ、彼女を守りたい。
「ほら、お前等の獲物が来たぞ!」
凄く怖いのに、なんで来ないんだよ。
こっちを見つめるだけで、襲い掛かると言う事をしてこない。
「鴉というものは、とても賢い生き物。一度恨みを買えば、集団で襲い掛かるもの、以前に教えた事があるはずだけど、忘れた?」
この聞き覚えのある声は、一体?
どことなく得られる安心感に、心の底から溢れるような喜び。
「ダメェェェェ!永司君!その声を聞いちゃダメ!」
叫び声と共に、誰かに耳を塞がれた。
てか痛いんだけど!何この馬鹿力!?
頭蓋骨が粉砕しそう!頭の縫合が外されちゃう!
俺が苦痛に耐えきれず、声を上げた瞬間に、激痛から解放された。
「永司を苦しめるなら私が容赦しないんだから!最初に永司に目を付けたのは私なんだから!雌犬は失せなさいよ!」
「永司君は私の彼氏なの!逆にアナタが消えてください!女狐!狐臭い!」
状況が理解出来ないんだけど、なにこれ?
犬岡さんが、着物の女性と喧嘩してる?
つか女の人に見覚えがある…でも尻尾と獣耳があるのは妖怪だからか?
見るからに尾が九本あって、顔も凄い美女というより美少女。
こいつは一体、何が起ってるというの?
気づけば鴉も居ない。
「私は永司君と二年も同じクラスに居たから!だからこそ私が彼女になるべきなの!」
「たかが二年でしょ?私は永司が小学生の頃から知ってるから!アンタが永司の事をずっとのぞき見してたのも知ってるから、変態!」
「待て!これはどういう事だ?アンタは…まさか、あの神社に居た」
神社という言葉が出た瞬間に、顔が明るくなる。
だがおかしいぞ、あれからどれほどの年月が経ってる。
記憶は曖昧だが、歳を取ってるようにも見えない。
妖怪で間違いはないのだろうが…俺をのぞき見してた!?
「私が永司と出会ったのは、もうずっと昔から。だからアナタの入り込む好きはないわけ、おわかり?」
「おわかりって…永司君が私を彼女として認めてくれたから、私が彼女です、そうだよね?永司君」
このタイミングで俺に振るな、考えてるんだからよ。
彼女が俺をずっとのぞき見してたってのは、やっぱりストーカー的な行動をしていたということか。
だがいつからだ…俺はそんな事に気づかなかったぞ。
あと何故あの人が、この場所にいるんだ。
もしかして…あの時に現れた幽霊が?
だとしたら、一応はつなげる事も出来る。
犬岡さんが狐の臭いがすると言っていた原因は、彼女が俺の部屋に居たから。
だったら俺も気づいてもおかしくは…鼻が馴れていたのか?
「たかが同級生風情が笑わせないでよ。私なんて、永司とずっと同棲してるんだから!ずっと成長を見てきたんだから!どこにエッチな本を隠してるかまで知って」
「それ以上言うなぁ!」
勢いで手を伸ばし、見事に口元を塞ぐ事に成功した。
「どういうことなの?同棲してるって…私とは遊びだったの?」
「いや…遊びと言うか、何というか…俺もこの人が部屋に居る事を、今初めて知った訳なんだけど…話すと長いけど良い?」
状況を整理するために、俺達三人は、俺の家に集まる事となった。
今にも泣きそうになっている彼女を、落ち着かせる為でもある。
一番疑問なのは、この狐女がどうしてここに居るかだ。
何普通に腕絡めてくるんだよ!?
「じゃあ説明を、アナタは何者でしょうか?」
「何者って、長い付き合いなのに…私の事覚えてないの?桔梗よ、桔梗。小さい頃、よく家の神社に来て一緒に遊んだでしょ」
桔梗…桔梗…そういや、名前聞いたの初めてかもしれない。
小さい頃、名前を聞いても教えてくれなかった記憶があるぞ。
ちゃっかり嘘ついてんじゃねぇ!
「桔梗さんは…九尾なんですか?」
「は?何気安く話しかけてんのよ。人狼如きが、この偉大な妖孤に対して、軽々しく話し掛けないでよ、雌犬が」
「やめろ、話が拗れるだろ。俺が聞きたいのは、どうしてここに居るのかと言う事だ」
俺の質問に対して、桔梗は少しづつ話始めたのだが、驚きの事実を聞かされた。
桔梗は元々が、俺達の出会った神社に住む狐の妖怪らしい。
だがある日、俺が彼女の前に現れた事で、話をしていく間に遊ぶようになったと。
そして俺が引っ越すときに、着いて来たとのことだが。
話を聞いた限りだと、俺は妖怪の狐に、取り憑かれたと言う事でいいよな?
「幾つか聞きたいが…俺がイジメられてた時に、仕返しをしたのって」
「もちろん私。大切な永司を苛めるヤツなんて、最初は呪い殺そうかと思ったんだけど…あとあとの事を考えたら、マズイかなっと思って…てへっ!」
何がてへっだよ!?物騒な事をさらっと言いやがって!
ちょっと可愛いと思ったが、言ってること事態は、かなり恐ろしいからな。
一応感謝はしてるんだが、複雑なんだよな。
もう一言いわせてもらうと、両方共…大して変らねぇ。
一人は部屋に住み込んでた挙げ句に、もう一人からは監視されてた。
破滅させてやろうか、このストーカーコンビ。
「さっき神社に住んでたと言ってたけど、問題ないのか?」
「ああ…大丈夫大丈夫!若い孤に世代交代してきたから!あの神社は、私が居なくても大丈夫…どうせ参拝客とか居ないし…居てもジジババ連中だから」
「お年寄りの方達に対して、そんな言い方なんて…お里が知れますことよ」
火花を飛ばすなって…もう仲裁したくない。
「悪いな桔梗…俺、白夜の告白をOKしちゃったから」
「じゃあ別れれば?そうすれば永司はフリーで、いままで通りになるでしょ?てか人狼だってバレたんだから、引っ越しなさいよ」
人の話を聞きなさいっての。
こっちだって今日は色々ありすぎて頭が混乱してんだ、追い打ち掛けすぎなんだよ。
「やっぱり永司君は私を選んでくれた。こんな私を選んでくれたんだから…アナタの負け!」
「悔しい…絶対に許さないんだから…絶対に許さないから!私に恥を掻かせた事を後悔させてやるんだから!覚えてなさい!」
桔梗が叫ぶと同時に、二階へと走って行ってしまったのだが。
こっちはこっちで…色々と青ざめてる。
それもガタガタと震えて、腰抜かしてるよ。
あそこまで威勢張ってたのが、見る影もないとはこのことだな。
にしても…ショックがデカ過ぎる。
部屋に狐の妖怪が住んでて、向かいには同級生が住んでたなんて。
「なぁ…なんで俺の事を観察してたの?」
「…引っ越してきたときに…たまたま…テレビを見ながら、怯えてる姿が見えて…それが可愛くて…一目惚れしました」
…微妙に嫌な形で惚れられたな。
「ちなみに…今回の自分が人狼であることを明かしたっていうのは…自分の意思?」
「違う…と思う…多分、緊張し過ぎて…足を触られた時に…恥ずかしくて…でも…自分の本来の姿を見られたら…もっと恥ずかしくなってきて…」
なってるなってる…変身してる。
思いっきり尻尾と耳が出てる…やっぱり結構可愛いな。
ここで俺は、1つの疑問が湧いていた。
もしかすると、俺はケモナーなのかもしれない。
確かに動物は昔から大好きだ、特に犬とか猫とか狐とか好きだ。
あのもふもふした感じで、頭とか尻尾とかが気持ちいいんだよなぁ。
でも…俺の記憶の桔梗って…普通の人間の姿をしてたような気がするだが。
まぁ昔だから、記憶が曖昧になってるせいもあるだろう。
「明日からよろしく…一応は、彼氏らしくするように、努力はするよ…あと苛められたてたら、また助けに行くよ」
「うん…でも…次はもっと格好良く助けてね」
い、痛いところを突いてくるな。
確かにあれはかなり恥ずかしかった…明日、変な噂流されてそうでいやだな。
顔面に蹴りを入れられた挙げ句に、体中を蹴られたから。
それでも、彼女が出来た事は嬉しい事に違いない…人間ですらないことを除けば。
あとは…俺、今日どこで寝よう。
もう寝室で寝れねぇよ…リビングで寝るしかないのか。
近いうちに考えないといけないな。
家に妖孤が取り憑いてた事をしる永司と白夜。
早くもライバルが登場し始めるも、無事(?)に撃退をする。
次回、二人の新たな学園生活が幕を開く。