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俺の彼女、人狼なんです。  作者: 影車ろくろ
2/7

第一話 人狼と妖狐。

初の彼女が出来た事で浮かれる永司。

お互いに距離感が分らずにいるも、白夜からある事を知らされる。

 俺に彼女が…ついに出来た。

 見た目は結構暗い雰囲気を出してる上に、髪まで下ろしてるから余計に暗く感じる。

 だが、目元を隠す髪をどければ、滅茶苦茶可愛いんだけど。

 彼女には隠してる事があるんだよな。


「彼女って…何をすればいいの?」

「何をすればいいのって…俺も知らない…てか、その姿を戻さないと外に出られないんじゃないか?」


 俺の彼女は、人間じゃない。

 じゃあ何かと聞かれると、人狼としか答えるしかない。

 狼人間が、俺の彼女なのだ。

 理由は知らないが、突然彼女が変身をしてしまい、俺はその瞬間を見てしまったわけなのだが。

 思い返すと、恋人とか彼女って、お互いが好きでなるものだよな?

 でも俺達は違う…彼女が監視目的でこうなった。

 つまり俺達は、本当は恋人じゃなくて…はぁ!?

 頭痛くなってきた…とりあえず今は、彼女を元の姿に戻す方法を考えよう。


「狼になる条件って…何?」

「満月と…二十歳未満なら異常な程の怒り、興奮、恐怖でなるって教えられてきたけど…やっぱり血に興奮したのかな?」


 血に興奮したと言うより、血に怯えていたように見えたんだが。


「満月は出てない、まだ夕方だからな…異常な怒りはイジメに対して、興奮も怒りか?恐怖も全部が繋がるということは…俺も原因の1つ?」

「わからない…こんな事態、初めてだから…小さい子がなるのは多いけど、私達の年頃には自分の意思で制御が出来るのに」


 全然、解決に向かう気配がない。

 まず原因が分らないから、どう解決すれば良いのか。


「ねぇ…ここの家に、狐とかっているの?」


 き、狐?いきなり何を言い出すんだ?

 確かに家には狐の置物はある…祖父母がお守りとしておいていったから。

 でもよ、狐なんて普通家にいるか?

 確か狐って、エキノコックスを持ってるはずだろ。

 もし家にいたら、俺はエキノコックス症にかかってるわ!


「狐の置物とかならあるけど…うちに狐とかいるの?」

「詳しくは分らないけど…家に入ってから、ずっと狐の臭いがする…特に階段辺りから臭いが凄い」


 何それ怖い!俺狐に憑かれてるとか!?

 いや…若い頃はこっくりさんとか流行りましたよ、やってないけど。

 もちろん映画とかも見たけど、引き寄せられてきたとか?

 結構そういう話を聞いたことはあるな、動物霊ってのが来るって。

 それに俺の部屋に、狐とかの物は置いてない。


「…二階は…俺の部屋と物置と空き部屋しかない…霊とかの類いは見れるか?」

「見えるけど…あまり見てもいい気はしないから…見えてないフリをしてる…でも、霊だったら、ここまで強い臭いはしないはずだけど」


 どうしようどうしよう!駆除業者を呼べば良いのか!?

 だが狐が屋根とかに住み着くなんて、聞いた事もねぇよ!

 ハクビシンとかアライグマなら知ってるけど、何故に狐!?


「確認したいなら…着いていくけど…どうする?」


 正直、確認をしたほうがいいよな。

 このままだと夜寝れねぇよ…別な意味で恐怖して。

 と、とりあえずは着いて来てくれるって言ってるんだから、頼もう。

 俺達は階段へ向かった。

 もうこの家から飛び出したい暗いに怖かったが、ここ以外だと居る場所がない。

 貯金箱とか、貴重品も家の中だから。


「うっ!臭いが強くなってる。この強い臭い、感じないの?」


 感じないも何も…至って普通なんですが。

 目立った変化も見られない、いつもと同じ環境。

 それに臭いなら、俺でも気づくんじゃないのか?

 独特の獣臭とかで。


「この部屋からしてくる…多分ここを住処にしてるとしか、思えない」


 ここの部屋か…バリバリ俺の寝室じゃねぇか!?

 どうなってんの!?なにこの心境!?もう笑えないんだけど!

 俺の部屋に、狐が住み着いてるって言うのか?

 漫画やDVD、他にもゲームとか色々と置いてて、住み込める場所なんてないはずだが。

 てか狐って何食べるの?油揚げとか…そういや、俺の昨日のおいなりさん何処いった?

 犬岡さんにお茶出した時、冷蔵庫にしまって置いた、おいなりさんが消えてた。

 考えてみると、たびたびそういうことがあったような気がする。

 五個入りのおいなりさんが、1つ消えてたり、きつねうどんの油揚げが消えたり。

 他にもある、ショートケーキのイチゴが消えたりもしてた。


「入るけど…私にはどうする事も出来ないかも…普通の狐程度なら追い出せるけど…幽霊なら、無理だから…ちゃんとお祓いに行って」


 お祓いに行けとか言われるなら、こんな事実知りたくなった。

 まだ知らなければ、幸せに暮らせてたのかな。

 人が黄昏れてる時に、勝手に部屋に進まないで、結構恥ずかしいから。


「…臭いが消えた?」


 へ?臭いが消えたって?

 さっきまで強い臭いがするって、おっしゃってませんでしたか?


「さっきまで酷かったのに…なんかイカみたいな臭いしかしない」


 俺は急いで、犬岡さんを部屋から追い出してしまった。

 戸惑う彼女にお構いなしに、自分でも驚きのスピードでだ。

 ゴミ箱の中身はマメに捨てないとダメだな…また恥掻いた。

 はぁ…よくよく考えたら、この部屋に人を入れた事なんてなかったからな。

 段々と心臓がバクバクしてきた、女子を部屋に入れただけで、ここまで緊張するのか?

 ましてや、美少女だ…緊張しないほうがおかしい。

 童貞には…刺激が強すぎた。


「大丈夫?私…何か悪い事した?…やっぱり、いやだよね…こんな不細工で、獣で…可愛げのない子なんて…それに私なんか…」


 扉の向こうで何か言ってる!

 これってかなりヤバくね?かなりヤバいって!

 勘違いされてるよ!思いっきり勘違いされてる!


「待って!待って!違うから!部屋が汚れたから恥ずかしかっただけだから!犬岡さんの事も不細工とか思ってないから!逆に可愛すぎてこっちが緊張してるだけだから!」

「そういって…本当は内心笑ってるでしょ?みんなそうだったから…私を笑って楽しんでるから…でも大丈夫…馴れてるから」


 ダメだぁぁぁぁぁぁ!お願いだから少し待ってぇぇぇ!

 ゴミ箱の中身だけ袋詰めさせて!

 女子を部屋に入れる時は、絶対にゴミ箱は綺麗にしとかないとダメだ!

 俺は酷く後悔してる、これなら毎日ゴミ箱を掃除しとけばよかったと。

 部屋が片付いたと同時に扉を開ける!

 だがそこに居たのは…いつもの犬岡さんが立っているだけだった。

 というより、人狼の姿ではなく、本当に学校で見かける姿。

 いつのまにか戻っていたのか?ネガティブになると戻るのか?


「犬岡さん…元に戻ってるよ」


 ああダメだ、何か言って話を聞いてくれない。


「頼むから聞いてくれ。俺は犬岡さんをブスだとか思ってない…最初は根暗な子だと思ってたけど、結構優しいと思ったんだよ…普段も前髪で、目元隠してるけど…よく見たら、凄く美人で驚いてるんだよ」


 あれ?俺、なんでここまで言えるんだ?

 自分自身で必死になってるのは分るけど、ここまで必死になれるだろう。

 実質、今日が彼女と初めて話したのに、どうしてここまで心配になるんだろう。

 どうしてここまで、恐怖してるんだろう。


「俺は絶対に、犬岡さんの事を馬鹿にしたりしない。人狼であることも、周りに言ったりもしないから…頼むから、一度だけでも良いから、俺の事を少しでも信じてくれ」

「ほんとうに…私の事を馬鹿にしてないの?私人間じゃないのに…私が彼女でも良いの?」


 彼女のポジションに座る言ったの、アナタでしょうが。

 ちょっと記憶を改竄しないで貰えます?こっちも混乱するんで。


「自慢じゃないけど、俺今まで彼女なんていた事ないよ。犬岡さんが、俺の彼女になるって言ってくれたとき、驚いて卒倒するかと思ったくらいだよ…それだけ、嬉しいんだよ!」


 恥ずかしい…凄く恥ずかしい。

 どうしよう、犬岡さんも赤くなってる…なんか頭から湯気とかでそう。

 犬岡さんって…髪下ろした状態でも、こんなに可愛かったっけ?

 学校じゃ、まともに話す機会もなかった。

 なんだか…胸の高鳴りが、激しくなって行く。


「い、犬岡さん…俺と」

「は…白夜で、いいから…私も、永司君って呼ぶから…だから…き、今日はお邪魔しました!」


 そう叫ぶと、彼女はもの凄い勢いで、帰って行った。

 ただ衝撃的だったのは…四足歩行で走って言った事。

 確か足、怪我してたのに。

 階段で転ばなくてよかった…家の階段、急カーブあるから。

 にしても…狐の臭いがするって、何だったんだろうな。

 俺がここに引っ越してきたのは、まだ小学生くらいの頃。

 突然両親が引っ越すとか言い始めて、誰にも挨拶せずにここへ住み始めた。

 元々、学校では俺も苛められていたからな…挨拶する相手なんて居なかった。


「しっかし…今日はつかれる一日だったな…あれ?考えてみたら…俺ってスゲぇ体験したんじゃね!?人狼が彼女とか凄くね!?」


 おいおい…色々と緊張し過ぎてたが、冷静考えたら凄い事だぞ。

 俺は昔の夢を叶えたと同じじゃないか。

 幼き日に夢見た事、妖怪と知り合いになりたい。

 吸血鬼でも良い、ゾンビでも良いから、知り合いになりたいと。

 その中でもベスト3に入る人狼とだ、なんたる光栄。


「記念に狼男でも見るかな」


 後で犬岡さんに、無事家に帰れたか連絡を…さっき、名前で呼べって言ってたよな。

 女子を名前で呼ぶだと!?今日は良いことづくめかよ!


「許さない…許さない…絶対に許さない…私以外の女なんて…許さない」

「許さないって、俺が何かした…へ?」


 …今のって、空耳だよね?そうだよね?


「許さない…許さない…絶対に許さない…私以外の女は…呪い殺してやる!」


 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 本当に出たぁ!お化け出たぁ!祟られるぅ!

 狐のお化けに憑かれた!?臭いの原因ってあれか!?

 俺これからどうすればいいんだよ!?

 帰る場所なくなったぞ!このままホームレス確定か!?

 あ、あれは犬山さん!?


「永司君…あ、さっきは…何処行くの!?」


 勢い良く走り過ぎて、思わず通りすぎてしまった。


「ででで出たぁ!おおお化けけけ!部屋に出た!とにかく出た!」

「落ち着いて、ここには多分来ないから、大丈夫だからね」


 その後、しばらく錯乱したものの、どこか別の場所で話をする事となった。



 家から飛び出して早一時間、俺はいまだに家に帰れないで居る。

 正確には、犬山さんと一緒に、コンビニで買ったジュースを飲んでるわけだが。

 まさか本当に部屋に幽霊がでるなんて、思いもしなかった。


「狐のお化けを見たの?」

「見たというか…声が聞こえてきた…女の人の声が…盛り塩とかした方がいいか!?」


 興奮し過ぎたか…周りから注目されてる。


「さっきも言ったけど…私じゃどうすることも出来ないから…ただもしそれが、妖怪だったとしたら…話合いが出来るかもしれない」


 妖怪だったら話合いが出来るか…彼女も妖怪だからな。

 ただ俺は普通の人間、犬岡さんが好戦的じゃないから、こうして生きてるのかもしれない。

 だが1つ気になる事がある…あの幽霊、なんで他の女を許さないとか言ってたんだ?


「昔、動物とか苛めたりしてなかった?主に狐とか?」

「俺…どちらかというと、動物好きだからイジメとかはしてないはず…むしろ、動物から寄ってくる」


 現に周りの電柱が、鴉だらけなのが証拠だ。

 若干不気味な気もするのだが、別に悪さをするわけじゃないから。

 …鴉…多すぎじゃね?

 てか全部、俺達を凝視してね?してるよな?

 となりで犬岡さん、ガタガタ震えてるんだけど、警戒してんだけど。

 これって、俺が懐かれたわけじゃないの?


「これはかなり…危険かもしれない…今は皆、私に警戒してよってこないけど…どうしよう?」


「鳥」って映画があったのを思い出した。

 確かリメイク版は、鴉がメインになってて、人を襲うんだよな。

 それも目玉を突いて、えぐり出すとかの…もしかして同じ展開?


「俺…家に帰るよ…これ以上は、迷惑を掛けるわけにもいかないから」

「うん…ありがとう…私、頑張って囮になるね」


 待てぇい!どうして囮になろうとしてんの!?


「ちょっと待って!誰も囮になれなんて言ってないから!とにかく逃げるぞ!乗れ!足怪我してるから走れないだろ!」

「でも…私重たいから…もともと体型も変だし…さっきも重たそうだったから」


 ネガティブ思考もいい加減にしろよ。

 俺は彼女へ掛けより、抱きかかえた。

 こういうときの火事場の馬鹿力だ、女を犠牲に逃げたら、本当にダメなヤツになる。

 例えそれが人間じゃなくとも、関係があるかよ。

 人間だろうと、人狼だろうと、彼女を守れない男でいてたまるか。


「一匹ずつ掛かってこいや鴉共!焼き鳥にされたいのか、おお!?」


 …本当に来たぁぁぁぁぁ!しかも一斉に来やがった!

 一匹ずつ来いと行っただろうが!

 てか日本語通じるの!?俺ここで死ぬの!?

 もうそんなの関係ない!とにかく逃げるのみ!


「家の場所!適当に走るから!見覚えがあるところは指示出して!」


 俺の考えとしては、犬岡さんを送った後に、鴉を引き連れて家に帰る。

 もうそれくらいしか、思いつかなかったから。

 ただ不思議なのは、こうして彼女を担いで走るのが、楽しいと言う事。

 俺の中で何が起ったのか分らないが、何故か楽しんでいる。

 追いかけっこなんて…いつぶりだっけか。

 小学校でも、中学でも、ずっと孤立してた。

 高校生になった今も変らずに、孤立してるけど。

 主に孤立してた理由は、俺を苛めてた連中が、次々と怪我をし始めたからだった。

 どつかれたら、階段から落ちる。

 靴を隠したら、私物が全部行方不明になるとか。

 そんな事が多くて、周りからは祟りとか言われてた。


「そこを右に曲がって!次に三番の曲がり角を左に!」


 俺は歳の近い友達なんて、いらないと思った。

 まだ苛められていた頃には、一人だけ信用出来る人が居たから。

 いつも神社に行くと待って居てくれる、女の人が居たから。


「ここを左で真っ直ぐ!そしたらアパートがあるから!」


 いじめっ子に筆箱を隠された時に、初めて、俺は出会った。

 片手に筆箱を持って、優しく微笑んでくれてた。

 学校から帰ってくると、毎日神社に通う日々。

 女の人に会いたくて、遊んで貰えるのが嬉しくて、欠かさず通っていたのに。

 突然の引っ越しで、その神社には通えなくなった。

 どうしても気がかりなの事がある。

 女の人の姿を、思い出す事が出来ない。

 いつの日か、また思い出せると良いなと思いながら、今日まで来た。

 家を出る時に…手を振ってくれていたから。


「ここの階段を二階に上がって!そのまま一番奥の部屋だから!」


 そう叫ぶ彼女は、鞄から鍵を取り出して、こちらに差し出してきた。

 俺は鍵を受け取ると同時に、鍵を穴に差し込み、中へと入ったのだが。


「…窓の外…見覚えがあるんだけど…特にあの部屋って…」


 おかしいなぁ?返事が帰ってこないぞ。

 どう見ても、俺の部屋にしか見えないんだけどな。

 あと窓際にある双眼鏡はなんだ?バードウォッチングでもしてんの?

 なんだかこの部屋、妙に怪しく感じて来たが…どうしてこんな感じがする?


「犬岡さん…このマンションって…俺の家の裏にある…マンションだよね?あとここの部屋…斜め向かいから俺の部屋が見えるんだけど?」


 お願いだから答えて…なんだか力を込めてるけど、答えて。


「見つかっちゃった…ね」


 顔を赤くして、照れてるのは分りますよ。

 俺が聞きたいのは、見つかったねと言う言葉ではなくてですね。

 何故にこんな近くに住んでいたのかと言う事と、あの双眼鏡の真横にある、俺の写真について知りたいんですが。

 まるで俺が住んでいるのを知っていたような感じですが、説明を求めたい所だよ。


「見つかったとかじゃなくて…説明をしてほしいんだけど…もしかして外の鴉とか、家の幽霊とかも」

「それは違うの!私は人狼だから…動物を操る事なんて出来ない…妖術とかそういう類いも持ち合わせてないの!それは信じて!」


 信じろって言われても。

 動揺を隠せない俺に迫り来る彼女は、どこか悲しげに見える。

 まるで、子どもが必死に弁解をしているかのように。


「永司君…ここも長くは持たないかもしれないから、一緒に逃げる方法を」

「逃げる方法も何も…信じられるかよ…こんな状況で、正常な判断なんて無理だ」


 なんなんだよ…これじゃあ、手の平で踊らされていたのと同じじゃないか。

 信用しろと言う方が難しい。

 俺は裏切られたような感覚に襲われ、彼女から距離を取り始めていた。

 初めて彼女が出来て浮かれてた俺が、馬鹿にすら思えてくる。

 何が自分の事を馬鹿にしてるんじゃないかだよ…酷すぎる。


「少しだけだったけど…彼女が出来た事だけは嬉しかったよ」


 一体何をするつもりなんだ、俺は?

 扉に手を掛けて、外へと出ようとしてる。

 外には沢山の鴉が待ち構えてるというのに、自殺行為と同じだ。

 なのに…なのにどうして…彼女を守りたいと思えるんだ。

 いや…そもそも、彼女自身が裏切りをしていたのか?

 錯乱した俺が勝手に思い込んだだけなのか?

 だとしても、帰りなら直ぐに裏へ行けば帰る事が出来た。

 もう訳が分らなくなってきた。

 今言える事は1つだけ…ただただ、彼女を守りたい。


「ほら、お前等の獲物が来たぞ!」


 凄く怖いのに、なんで来ないんだよ。

 こっちを見つめるだけで、襲い掛かると言う事をしてこない。


「鴉というものは、とても賢い生き物。一度恨みを買えば、集団で襲い掛かるもの、以前に教えた事があるはずだけど、忘れた?」


 この聞き覚えのある声は、一体?

 どことなく得られる安心感に、心の底から溢れるような喜び。


「ダメェェェェ!永司君!その声を聞いちゃダメ!」


 叫び声と共に、誰かに耳を塞がれた。

 てか痛いんだけど!何この馬鹿力!?

 頭蓋骨が粉砕しそう!頭の縫合が外されちゃう!

 俺が苦痛に耐えきれず、声を上げた瞬間に、激痛から解放された。


「永司を苦しめるなら私が容赦しないんだから!最初に永司に目を付けたのは私なんだから!雌犬は失せなさいよ!」

「永司君は私の彼氏なの!逆にアナタが消えてください!女狐!狐臭い!」


 状況が理解出来ないんだけど、なにこれ?

 犬岡さんが、着物の女性と喧嘩してる?

 つか女の人に見覚えがある…でも尻尾と獣耳があるのは妖怪だからか?

 見るからに尾が九本あって、顔も凄い美女というより美少女。

 こいつは一体、何が起ってるというの?

 気づけば鴉も居ない。


「私は永司君と二年も同じクラスに居たから!だからこそ私が彼女になるべきなの!」

「たかが二年でしょ?私は永司が小学生の頃から知ってるから!アンタが永司の事をずっとのぞき見してたのも知ってるから、変態!」

「待て!これはどういう事だ?アンタは…まさか、あの神社に居た」


 神社という言葉が出た瞬間に、顔が明るくなる。

 だがおかしいぞ、あれからどれほどの年月が経ってる。

 記憶は曖昧だが、歳を取ってるようにも見えない。

 妖怪で間違いはないのだろうが…俺をのぞき見してた!?


「私が永司と出会ったのは、もうずっと昔から。だからアナタの入り込む好きはないわけ、おわかり?」

「おわかりって…永司君が私を彼女として認めてくれたから、私が彼女です、そうだよね?永司君」


 このタイミングで俺に振るな、考えてるんだからよ。

 彼女が俺をずっとのぞき見してたってのは、やっぱりストーカー的な行動をしていたということか。

 だがいつからだ…俺はそんな事に気づかなかったぞ。

 あと何故あの人が、この場所にいるんだ。

 もしかして…あの時に現れた幽霊が?

 だとしたら、一応はつなげる事も出来る。

 犬岡さんが狐の臭いがすると言っていた原因は、彼女が俺の部屋に居たから。

 だったら俺も気づいてもおかしくは…鼻が馴れていたのか?


「たかが同級生風情が笑わせないでよ。私なんて、永司とずっと同棲してるんだから!ずっと成長を見てきたんだから!どこにエッチな本を隠してるかまで知って」

「それ以上言うなぁ!」


 勢いで手を伸ばし、見事に口元を塞ぐ事に成功した。


「どういうことなの?同棲してるって…私とは遊びだったの?」

「いや…遊びと言うか、何というか…俺もこの人が部屋に居る事を、今初めて知った訳なんだけど…話すと長いけど良い?」


 状況を整理するために、俺達三人は、俺の家に集まる事となった。

 今にも泣きそうになっている彼女を、落ち着かせる為でもある。

 一番疑問なのは、この狐女がどうしてここに居るかだ。

 何普通に腕絡めてくるんだよ!?


「じゃあ説明を、アナタは何者でしょうか?」

「何者って、長い付き合いなのに…私の事覚えてないの?桔梗(キキョウ)よ、桔梗。小さい頃、よく家の神社に来て一緒に遊んだでしょ」


 桔梗…桔梗…そういや、名前聞いたの初めてかもしれない。

 小さい頃、名前を聞いても教えてくれなかった記憶があるぞ。

 ちゃっかり嘘ついてんじゃねぇ!


「桔梗さんは…九尾なんですか?」

「は?何気安く話しかけてんのよ。人狼如きが、この偉大な妖孤に対して、軽々しく話し掛けないでよ、雌犬が」

「やめろ、話が拗れるだろ。俺が聞きたいのは、どうしてここに居るのかと言う事だ」


 俺の質問に対して、桔梗は少しづつ話始めたのだが、驚きの事実を聞かされた。

 桔梗は元々が、俺達の出会った神社に住む狐の妖怪らしい。

 だがある日、俺が彼女の前に現れた事で、話をしていく間に遊ぶようになったと。

 そして俺が引っ越すときに、着いて来たとのことだが。

 話を聞いた限りだと、俺は妖怪の狐に、取り憑かれたと言う事でいいよな?


「幾つか聞きたいが…俺がイジメられてた時に、仕返しをしたのって」

「もちろん私。大切な永司を苛めるヤツなんて、最初は呪い殺そうかと思ったんだけど…あとあとの事を考えたら、マズイかなっと思って…てへっ!」


 何がてへっだよ!?物騒な事をさらっと言いやがって!

 ちょっと可愛いと思ったが、言ってること事態は、かなり恐ろしいからな。

 一応感謝はしてるんだが、複雑なんだよな。

 もう一言いわせてもらうと、両方共…大して変らねぇ。

 一人は部屋に住み込んでた挙げ句に、もう一人からは監視されてた。

 破滅させてやろうか、このストーカーコンビ。


「さっき神社に住んでたと言ってたけど、問題ないのか?」

「ああ…大丈夫大丈夫!若い孤に世代交代してきたから!あの神社は、私が居なくても大丈夫…どうせ参拝客とか居ないし…居てもジジババ連中だから」

「お年寄りの方達に対して、そんな言い方なんて…お里が知れますことよ」


 火花を飛ばすなって…もう仲裁したくない。


「悪いな桔梗…俺、白夜の告白をOKしちゃったから」

「じゃあ別れれば?そうすれば永司はフリーで、いままで通りになるでしょ?てか人狼だってバレたんだから、引っ越しなさいよ」


 人の話を聞きなさいっての。

 こっちだって今日は色々ありすぎて頭が混乱してんだ、追い打ち掛けすぎなんだよ。


「やっぱり永司君は私を選んでくれた。こんな私を選んでくれたんだから…アナタの負け!」

「悔しい…絶対に許さないんだから…絶対に許さないから!私に恥を掻かせた事を後悔させてやるんだから!覚えてなさい!」


 桔梗が叫ぶと同時に、二階へと走って行ってしまったのだが。

 こっちはこっちで…色々と青ざめてる。

 それもガタガタと震えて、腰抜かしてるよ。

 あそこまで威勢張ってたのが、見る影もないとはこのことだな。

 にしても…ショックがデカ過ぎる。

 部屋に狐の妖怪が住んでて、向かいには同級生が住んでたなんて。


「なぁ…なんで俺の事を観察してたの?」

「…引っ越してきたときに…たまたま…テレビを見ながら、怯えてる姿が見えて…それが可愛くて…一目惚れしました」


 …微妙に嫌な形で惚れられたな。


「ちなみに…今回の自分が人狼であることを明かしたっていうのは…自分の意思?」

「違う…と思う…多分、緊張し過ぎて…足を触られた時に…恥ずかしくて…でも…自分の本来の姿を見られたら…もっと恥ずかしくなってきて…」


 なってるなってる…変身してる。

 思いっきり尻尾と耳が出てる…やっぱり結構可愛いな。

 ここで俺は、1つの疑問が湧いていた。

 もしかすると、俺はケモナーなのかもしれない。

 確かに動物は昔から大好きだ、特に犬とか猫とか狐とか好きだ。

 あのもふもふした感じで、頭とか尻尾とかが気持ちいいんだよなぁ。

 でも…俺の記憶の桔梗って…普通の人間の姿をしてたような気がするだが。

 まぁ昔だから、記憶が曖昧になってるせいもあるだろう。


「明日からよろしく…一応は、彼氏らしくするように、努力はするよ…あと苛められたてたら、また助けに行くよ」

「うん…でも…次はもっと格好良く助けてね」


 い、痛いところを突いてくるな。

 確かにあれはかなり恥ずかしかった…明日、変な噂流されてそうでいやだな。

 顔面に蹴りを入れられた挙げ句に、体中を蹴られたから。

 それでも、彼女が出来た事は嬉しい事に違いない…人間ですらないことを除けば。

 あとは…俺、今日どこで寝よう。

 もう寝室で寝れねぇよ…リビングで寝るしかないのか。

 近いうちに考えないといけないな。


家に妖孤が取り憑いてた事をしる永司と白夜。

早くもライバルが登場し始めるも、無事(?)に撃退をする。

次回、二人の新たな学園生活が幕を開く。

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