プロローグ 人狼と出会い
虎田永司は、教室に忘れ物を取りに行くが、そこでイジメの現場を見てしまう。
そこに居たのは、同じクラスの犬岡白夜だった。
浩寺は忘れ物を取るついでに、彼女を助け出そうとするのだが。
小説の主人公って、結構勇ましいよな。
悪い奴等と戦ったりとか、イジメ等れてるヒロインを助け出したりとか。
それで恋とかしたりするんだもんな。
俺も一時期はそういうのに憧れてたが、いざ自分の身に降りかかると、相当勇気がいるんだと実感した。
教室内でクラスメイトが苛められてるのに、俺は助ける勇気がない。
こうして初めて実感する、自分自身が腰抜けだと言う事実!
「じゃあさ、今日は服脱いでもらう?ねぇ犬岡さん、服脱いでよ。バッチリ写真に収めてあげるから」
「てか犬岡さんって、名前白夜って言うんだよね?犬岡白夜って正直、親のネーミング疑うわ」
どうすれば良いんだ!このままだと裸は見られるが、後々罪悪感に狩られそうだ。
勇気を出せ俺!
ここで勇気を出して!教室に入らないと!数学の宿題を、明日提出が出来ないじゃないか!
それだけはダメだ!絶対にダメなんだ!
ただでさえ、俺は数学の成績が悪いからだ!
俺は大声を上げながら、教室へと飛び込んで行った。
主に2つの理由があったから。
1つは注目が俺に向けば、犬岡さんに逃げるチャンスが生まれる。
そしてもう1つは、相手がキチガイなら、関わろうとしないと言う意味だったんだが。
勢いを出し過ぎたせいで空振りして、入り口で転倒した。
「びっくりした…何こいつ?」
「えっと…猫田!確か猫田だった気がする!猫田!」
「そうそう、そんな感じ。てかダサくね?入り口で転ぶとか、それも大声出して」
赤っ恥掻いた…恥ずかし過ぎて、顔を上げられねぇ。
めっちゃ笑ってる…大爆笑してるよ。
あと俺の名前は虎田だ!虎田永司!弱体化してんじゃねぇか!なんだよ猫田園児って!?
「んで何?ヒーロー気取りで助けに来たら、転んじゃいまちたかぁ?痛い痛いでちゅねぇ」
このアマ…人の心をえぐ…イチゴパンティだと?
高校生にもなって…イチゴパンティを履いているだと?
ふ…古いな、なんか古い。
漫画とかである展開だとさ、こうピンク色とかのが見えるものだろ。
それがどうしてイチゴなんだ!せめて縞パンにしてくれよ!
「ちょ…ミサキ、そいつスカートの中見てる!」
「はぁ!?死ね変態!」
顔面に強い衝撃が来た後、数回蹴られて開放された。
これは理不尽すぎる…あっちから見せてきたんだろうが。
鼻血止まらねぇよ…もうやだよ…胃あのご時世にイチゴパンツとか誰得だよ。
帰ろう…アイツ等が消えたから、宿題を回収して。
「あ、あの…ありがとう…虎田君」
やっべ…あまりの痛みに忘れてた。
そういえば居たんだった、犬岡さん。
鼻から流れる血を抑えながら、俺は彼女に近づいて行った。
見た感じだと、彼女も多少怪我をしている様子だったからだ。
なんで学校では、イジメなんて物があるのだろう。
最初に苛めを始めたヤツ、マジ爆散しろ!
「酷い鼻血出てるよ!保健室行かなきゃ!痛ッ!」
俺は素人だが多分、足首をいってるな。
足抑えてるし、これじゃあ一人で歩くのも無理だ。
まず鼻にティッシュを詰めて、鼻血を止める。
そして、背負う体制に入り、振り返る。
「自分で乗れる?無理そうなら、別の方法考えるけど?」
「でも…虎田君の方が、怪我酷そうだし…頭から血が出てる!?」
ああ…通りで視界が赤いわけか…あのクソアマ!どんだけ強く蹴りやがった!?
いや、他の二人にも蹴られてたから、その時のヤツか?
「は、早く止血しないと!あわわ、どうしたら!と、とりあえずこれで!」
そう叫ぶと、彼女はハンカチで俺の傷を抑えたつもりなのだろうが。
今思いっきり抑えてるのは、俺の眼球だ。
咄嗟に目を閉じたのだが、ギリギリまぶたに、ハンカチが挟まってしまった。
これはこれで、地味に痛い。
優しさは伝わってくるのだが、痛い事に変らない。
「あの…とりあえず、背中に乗って貰える?保健室に行きたいから」
犬岡白夜、噂通りのおっちょこちょいだな。
背負う事は出来たが、右目が見えない。
俺達の教室からは保健室までは、そこまで遠いわけじゃない。
職員室の前を通らないと行けないが、適当にぶつかっただけだと言えば大丈夫だろ。
そんなことより、早く保健室に連れて行かないと。
どうか先生に見つかりませんように…とか考えてたら、普通に着いた。
「先生いないけど、緊急事態だし良いか…とりあえず足貸して、湿布貼って包帯巻くから、痛かったりしたら言って」
「色々とありがとう…でも虎田君の止血を急いだほうが、あれ?血が止まってる?」
傷自体は、そこまで大きくもなかったようだ。
にしても…俺、女子の足触るの始めてだった。
妙に緊張してきた、肌白いな…それも柔らかい。
「あの…くすぐったい」
しまった!これではただの変態じゃないか!
「えっと…ああ…他に怪我してる所とかない?犬岡さん?どうかしたの?」
あれ?犬岡さん、怒ってる?
やっぱり怒るよな…怪我を見るといいながら、足を触ってたんだから。
これは殴られても仕方がない事だが…んん?
犬岡さんって、獣耳みたいな髪型してたっけ?
犬岡さんって、あんな犬の牙みたいなの生えてたっけ?
犬岡さんって、ふさふさの尻尾なんて生えて…尻尾!?
なんで尻尾なんて生えてんの!?え!?何!?これ何!?
今にも吠え出しそうな雰囲気なんだけど!
「…え!?なんで!?どうして私、え!?いやぁぁぁぁぁぁ!お願いだから見ないで!」
大声で叫び始めた彼女は、ベッドの方へと逃げて行ってしまった。
俺は状況を掴むことが出来ず、唖然としていた。
今のって、完全に獣耳だったよな?
あれぇ?俺、アニメの世界に迷い込んだのかな?
「い、犬岡さん…今尻尾とかって一体?」
「お願いだから見ないで…うぅ…なんで?今まで問題なかったのに…去年も平気だったのに…ううぅ」
なんだろう…反応が可愛い。
特にあのシーツから飛び出してる尻尾、フリフリしてて可愛いんだけど。
一体この状況は、どういう状況なんだ?
俺の推測だが、もしかして彼女は、狼人間というものじゃないだろうか?
いやいや、そんな馬鹿な話が…でないと説明できないよな。
本人に確認してもいいのだろうか?でも居やがってるから。
「ここはお互いに落ち着いて、俺は出来るだけ違うところを見るようにして置くから、教えて貰ってもいい?犬岡さんはもしかして、狼人間とかなの?」
返事が返ってこないか…錯乱してるから、仕方ないか。
家に帰りたいが、この状況で帰るのも違う気がする。
本当はスーパーの特売なのに!卵安い日なのに!
「お願いだから…この事は誰にも言わないで…なんでもするから、なんでもしますから…お願いします、言う事は何でも聞きますから」
「いや、言わないから。そこんところは約束するから、まずは出てきて、しっかりと話し合おう?取って食ったりしないからさ」
しばらくしてから、彼女が姿現してくれたが。
その姿はまさに、漫画に出てきそうな感じだった。
ピンと立った耳に、静かに揺れる尻尾、目元が髪で隠れてるのが残念ではあるが。
一応は信用はしてくれた様子で、申し訳無さそうに俺の前に座った。
狼人間、または人狼が現実にいるなんてと、今でも自分の目を疑ってしまう。
「私…実は狼女なんです!学校ではいつも内緒にしてるけど…なんでか分らないけど、急に狼に変身しちゃって…いつもは満月にしか変身しないのに…」
やっぱり人狼だったのか…人狼か。
「正直言うよ…俺、凄く感動してる」
「え?感動?どうして?私が怖くないの?」
確かに、普通の人なら怯える状況かもしれない。
だが!ホラー映画マニアの俺からしたら!こんな光栄な状況が他にあるか!?
だって人狼だぞ!狼人間だぞ!ましてや狼女だぞ!?
俺は今まさに、神へと感謝がしたい。
「本当に怖くないの?…狼女なのに…本当は怖いんでしょ?それでいて、後で私の事を回りに話すとか脅して…私はそのうち」
「だから落ち着けって!ああもう!俺は誰にも言わないって!まず誰かに言っても、頭がおかしいヤツだと思われるだけだろ!?」
しまった…大声出しすぎたか。
「とにかくだ、ここじゃ落ち着いて話が出来ないから…家来る?直ぐ近くなんだけど」
俺は何を言ってるんだ!?相手は一応同級生だぞ!
それも、これまでまともに話した事がなかった相手をだ!
不審がられても仕方がないが、ここじゃ落ち着いて話しも出来ない。
でもこれで警戒されたかもしれないな。
普通はこの状況で誘う事自体がおかしいし。
俺は一体、何を考えてんだ。
「おじゃましても、いいの?」
着いてくるんかい!
「言い出したのは俺だしさ…かなり見てはいけない物を見ちゃったみたいだし、そこをしっかりと、ケジメ着けておかないとと、思ってなんだけど」
「じゃ…じゃあ…先に行ってて…私、後を追いかけるから」
なんだか心配になるな…後を着いてくるって言ったって、獣と化してるから目立ちそうだが。
多分、別に方法があるのだろうけど、誰かに見られたらどうするのだろう?
やっぱり始末するのか?でもしれは、騒ぎになりかねない。
今だってそうだ、俺を始末する事は出来る。
まさか…俺の家に着いてくると言ったのは、始末するためか?
マニアとしては、ありな死に方かもしれない。
とか考えてる間にも、家に着いてしまった。
犬岡さんは…屋根の上を移動してきたのか…はぁ!?
待て待て!犬岡さんは確か、運動神経がかなり悪かったはずだ。
いつも学校の体育では、全部失敗してたのに…これもまた、力を隠す為なのか?
「ここが…虎田君のお家なの?お父さんとお母さんは」
「いないから安心して。両親は海外旅行に行ってるんだ」
そう…海外旅行に出かけてから、もう四年になる。
突然夫婦で旅行に出るとか言い出して、俺は置いて行かれた。
たまに祖父母や親戚が様子を見に来てくれるが、両親の情報は入ってこない。
薄々気づいては来てるんだ、俺は捨てられたんだって…多分。
それから、自分で色々とするようになった。
面倒で食事はコンビニ弁当とかだけど。
「私は…犬岡白夜。高校二年生です」
「知ってるから、同じ学年、同じクラス、右斜め前の席は俺でしょ?」
緊張しているせいなのか、話が進まないな。
俺がリードして、話すのが手っ取り早そうだ。
「まずこれだけは言わせてくれ…俺は約束は守る、犬岡さんが人狼である事は絶対に」
「信じていいの?それで私を揺すって…自分の好きなように調教したりしない?私の体目的で」
話が通じねぇ…疲れてきた。
信じてもらうにしても、こう疑われ続けたら、どうしようもない。
てか彼女本人は、どうしたいんだ?
このままだと埒があかない。
「少し変えてみよう。逆に犬岡さんは、どうすれば納得して貰えるかな?口止めの為に、俺を殺すという選択肢もあるけど」
「こ、殺しはダメです!出来るなら穏便に解決をしたいと考えていて…虎田君は、彼女さんはいますか?」
何故にそんな質問をする必要がある?
ここは普通に、居ないと答えておくか。
事実、俺に彼女なんていたことはない!
「いないけど…どして?」
「よかった…じゃあ…私が、虎田君の彼女と言う事で、監視すると言う事でお願いします」
ほほう、俺の彼女と言う座を利用して、監視をすると。
はぁぁぁぁ!?俺の彼女にと言う事!?
おおお、落ち着け俺!素数だ!こういうときは素数を数えるんだ!
四谷怪談、クワガタムシ…違う!
全然違うし!数字ですらない!スタンドとか出せない!
とにかく落ち着け俺…ほら、ワイルドな走りをするときも冷静にならないと。
「本当にそれでいいの?犬岡さん、好きな人とかいないの?」
「私が誰かを好きになっても…相手にされないので…ブスで運動音痴で根暗でだらしない体をした子なんて、誰も彼女にしたがらないので…」
かなりのネガティブ思考の持ち主だな。
てかブスと言う程の事か?結構良い感じだと思うけどな。
俺は彼女の素顔が気になり、髪を捲り上げた。
するとそこには、あのイジメっ子三人とは比べ物にならないほどの、美少女が隠れていた。
「よ…よろしくお願いします」
こうして…俺に初彼女が出来た。
他の人と違うのは、彼女が人間じゃなくて、人狼であること。
もしかしてこれは、俺はリア充になる時が来たのではないだろうか?
俺、リア充になります!
白夜が実は人間ではなく、人狼で会った事を知った永司。
そして事実を周りに言いふらされたくない白夜は、永司の彼女というポジションを利用して、彼を監視する事にするのだった。