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カフェオレ  作者: ダイナマイト田中
2/2

2.眠い

「ほら……起きて」


まどろみにいる中、聞きなれた声が心地よく脳に響く。


「起きなさい、授業終わっちゃったわよ」


無意識のままに睡魔に身をゆだねていると肩を軽くゆすられている感触に気がつく。


「……ん」

「ほらシャキッとしなさい」


わずかに残る睡魔に抵抗し目を開けると、目の前に幼馴染の真城愛理がいた。

肩にわずかなぬくもりを感じる。きっと愛理が俺の肩をゆすっていたのだろう。

授業が終わったという声に若干の罪悪感に見舞われるか、すぐさま授業を受けずに済んだという怠惰な安心感が上塗りする。

我ながら呆れた精神だと思うが、中学生などこんなものだろうと自分に言い訳をする。


「和樹はまた寝ていたのかい?」

「あら影明、ええそうよ」

「ふぁぁ……おはよ、愛理、影明」


挨拶をしつつ欠伸をする。

中学生になり、幾度となく行われてきた流れだ。

テンプレートや日課といっても差し支えないと思うが、そうすると俺がいつも授業中昼寝をしているとも取られかねないのでそこは否定したい。…………事


実ではあるのだが。


「おはよう、相変わらず寝てばっかね」

「寝ないようにとは思ってるんだけどな、先生の声ってのは何でああも子守唄に聞こえるんだか」

「まぁ、わからないでもないけどね」


俺の先生の声子守唄説に賛同してくれている愛理。


「また寝不足かい? またいつものオンラインゲームでもしていたのかな?」

「まぁな、秋イベントの真っ最中だからよく呼ばれるんだよ」

「まだ中学2年生とはいえ、来年から受験なんだ。そろそろ生活習慣を整えないと期末試験に障るよ」

「わかってる、このイベントが終わったら控えるよ」


愛理の隣で居眠りの理由を追及してくるのは榊原影明。

彼とは中学からの付き合いだ。

脱色をしていない黒髪、成績上位者に入るか入らないかを常にキープ、漢字検定や英語検定など様々な検定を3級で持っているにもかかわらず、部活は陸上競


技部に所属しそこそこの成績を残している。

文武両道とも言えるが、得意不得意が無いだけのようにも思える、そんなつかみどころの無い男だ。


「そういや今何時だ?」

「何時って……放課後よ」


愛理が呆れたように言う。

そうか、授業が終わったといっていた気がするが、ひとつ二つではなくすべて終わってしまっていたか。

我ながらよく寝たものだ。


「影明はこれから部活か?」

「そうだね、文化祭も近いからか、それに関しての会議も今日あるみたいなんだ」


ああ、もうそんな時期か……

10月末には文化祭がある。

今日は何日だったか……寝起きなためか細かく思い出せないが近いということは10月頭とかその辺りだったはずだ。


「んじゃ、帰ろーぜ、愛理」

「ええ、影明、部活がんばってね」

「ありがとう、二人も気をつけて帰るんだよ」


教科書を机に押し込みつつ机にかけてあった鞄を片手に影明の声に歩きながら手を振って応えつつ校門へ向かう。

そんな俺に愛理は自分の席から鞄を持ってきつつ、小走りで追いついてきた。

影明は陸上競技部に所属しているが、俺と愛理は部活には所属していない。

愛理は料理部に興味があるようだったが、結局所属することは無かった。

理由を一度聞いたことがあるが、曖昧な返事しか返ってこなかったため、はぐらかしたいかたいした理由ではなかったかなのだろう。

ちなみに俺はたいした理由ではない。単純に面倒くさいさかだ。

昔はちょっとした理由からよく体を動かしていたが、今じゃもっぱら暇さえあれば寝るかゲームだ。

時折体を動かしたくなっても家には爺さんが道楽で建てた道場があるため、いまだに現役の爺さんを誘って体を動かすか、一人で筋トレでもすればいい。

そんなことを考えながら歩いていると、校門を越えたあたりで愛理が声をかけてきた。


「そういえば、図書委員の方は何も無いの?」

「図書委員? ああ、まぁ何も無いこともないけど、やることは毎年同じだからな、分担の振り分けさえやってあれば後は楽だ」

「そう、私も仕事は当日の見回りが主だからそこまで忙しくも無いわね」


愛理は風紀委員に所属、俺は図書委員に所属している。

俺が図書委員に所属している理由は座って本を読んでいるだけでいいと思ったからだ。

事実、動く仕事といったら本の貸し出し返却、本の整理くらいだ。後は座って本を読んでいるだけでいい。

愛理は……なんでだろうな、理由は知らない。

昔からお堅い仕事をよくやっていたから風紀委員に所属するのもそんな理由だろう。

個人的には世話焼きでしっかりしている、でも硬すぎない印象のある奴だから、似合っていると思う。

後、いざというときは友人の好で見逃してくれるかもしれないという打算もある。

しかし――――


「――眠い」

「まったく、昨日何時まで起きてたのよ?」

「……わからん、まったく覚えてない」


影明にはゲームをしていたと答えたものの、よくよく考えてみれば昨晩何をしていたかまったく思い出せない。

はて? そもそも今日は何曜日だ? 昨日は平日だっただろうか?


「愛理、今日って何曜日だっけ?」

「はい? 急にどうしたの?」

「いや、ちょっと今日が何曜日かわかんなくなってな」

「もう、しっかりしてよ。 今日は木曜日よ」


ということは昨日は水曜日、平日か。

わからん、やっぱり思いだせん。


「ゲームもいいけど、きちんと時間を決めて夜更かししない程度にしなさい。 じゃないと日中眠くなって余計つらくなるだけでしょう?」

「わかってるって、気をつけるよ」

「……まったくもう」


思考の深みにはまり考え込んでいるところを愛理からの声がストップをかけた。

いつもの注意喚起にいつもの定型分を返す。

愛理もわかっているのか呆れた声が漏れている。

そうこう当たり障りの無い話をしていると愛理の家が見えてきた。

俺と愛理の家はとても近い、所謂ご近所さんという奴だ。

中学も歩いて通える程度に近く、かといって近すぎないため通学するにあたってとても便利な立地だ。

小学校は地味に遠かった、とても面倒くさかった。


「じゃあ、また明日ね」

「あぁ」


眠気がピークに達している為、適当に気のない返事をしておく。

普段にも増してそっけない挨拶だが、この程度気にするような浅い付き合いでもない。

案の定、俺の雰囲気で察したのか「しょうがないわね」という顔をしている。

愛理が家に入るのを横目に、残り対してない帰路に就く。


しかし……眠い。

確かに普段から俺は面倒くさがりやで、やらなくていいことはやりたくないし、暇があれば寝ていたい。

それでも、普段からここまで眠かっただろうか。

なにかするのも面倒くさく、やる気が無いから寝ていただけで、どうしようもなく眠いから寝ていたのではなかったと思うが……

それと、思考に靄がかかったような……日常的に理解していることを、思い出そうと思わなければ思い出せないこの感覚。


「なんだろうな、何か忘れているような……」


まだわからない、まだ。

今はそんなことは兎も角。


「……眠い」

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