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07.不穏な気配

「じゃ、行ってくるぜ。親父が帰ったらよろしく頼む」

「ああ、親父には事情を説明しておく」


そう言って送り出そうとしたザルドの後ろで、ジュガイが言う。


「ローズマリーちゃんに変なことすんなよ!」

「しねェよ!」


それを聞いて、ローズマリーがキリアに聞く。


「変なことって?」

「普通じゃないことだ」

「なるほど。なるほど?」


キリアの適当な返答に、彼女は首をかしげた。

そんなふたりをみて、ザルドは思い出したように言う。


「ああ、そうだ。せっかく王都に行くんだったら、用事が済んだらアリアネさんのところに寄って、魔物討伐の報告をしてきてくれ」

「了解。他に用事は?」


そう聞くと、ホウツが言った。


「あ、ついでに大美人の新刊も」

「大美人って何だ?」

「知らねえの? 古今東西、いろんな美人が紹介されてる雑誌だぜ?」

「くだらねえ。自分で買いに行かないのかよ」

「いい加減親父にぶっ殺されるっての。つい二十日前にも王都に出かけたところ見つかって酷い目にあったんだから」


だったら諦めろよ、とキリアは思ったものの、渋々了承した。

道場から王都へはそれほど遠くなく、丸二日ほど歩けば着く。

街道に出られたら、あとはまっすぐ道なりに行けばいい。


キリアとローズマリーは、道場を出発して、ひとまず街道を目指した。

歩きながら、キリアは昨晩彼女の話を聞いて、考えたことを口に出した。


「そう言えば昨日、俺の指輪のマークに見覚えがあるって言ってたな」

「うん」

「これ、本当に何の力もないのか?」

「ないよ。ルーン文字は、ただの文字だから。何かあったの?」


「……あったような気がしただけだ。これは母さんの形見で、母さんはこれを使っていた、ように見えた。魔法の知識なんかない俺には、特別な指輪に見えたんだ」

「何を言ってるの? それは特別な指輪でしょ?」


ローズマリーはきょとんとして言った。


「は? 今、何の力もないって言ったばかりだろ」

「だって、お母さんから受け継いだんでしょ? それだけで特別な指輪ってことにならない? それに、お母さんからの愛情がこもってるんだから、それは、特別な力でしょ?」


そういうことを聞いているのではないのだが、キリアは少し照れくさくなった。


「お前、何の恥ずかし気もなく、そういうこと言えるんだな……」

「誰かが誰かを愛することに、恥ずかしいことなんかないよ」


ふたりは石の敷き詰められた街道に出て、昨日通ってきた道を戻り始めた。

しばらく進むと、昨日森から帰って来た脇道が見え始め、そこに巡回中の衛兵たちが集まっていることが分かった。

何があったのだろう、とキリアたちが顔を覗かせると、脇道で、ガルムが死んでいた。

その死に方も異様であり、体中が石膏のように白く、硬くなっている。


「あ、そこのエルフのキミ、危ないから近寄らないで」


衛兵がそう言って、キリアがガルムに近づこうとするのを止める。


「何があったんだ?」

「魔物が目の前で溶けたんだ。何か危ない魔法がかけられているのかもしれない」

「出会った時には生きていたのか?」

「たしかに生きていた。でも、すぐに倒れて、この有様さ」


街道までキリアたちの匂いを追ってきたのだろうか。

キリアも、こんな死に方をする魔物を今までに見たことがない。


「あの子、昨日の子よね?」

「だろうな。俺が片目を潰したやつだ」


目の傷だけは溶けてもはっきりと残っているため、確信を持ってそう言えた。

死因がその傷であったとしても、キリアの剣に溶かすような魔法は付加されていない。


ガルムの死因が気になるが、ともかく王都へ向かうため、そこを通り過ぎて、ふたりは歩き始めた。

その道中も、キリアが考え込んでいると、ローズマリーは言った。


「王都についたら、調べてみたい」

「はァ?」


冗談でも言っているのかと顔を見るも、本気で真面目に言っているようであった。

キリアは冷静に、彼女に告げた。


「危険だぞ。関わらない方がいい」

「でも、あの子、苦しんでた」

「なんで分かるんだよ」

「最初に会った時、言ってた。聞こえなかった?」

「俺には何も」


魔物の声が聞こえる、と言っているようだが、そんなことがあるのだろうか。


「魔物を助ける前に、自分の身を守ることを考えろ。魔物ってのは、色んなやつから討伐の対象にされる存在だ。冒険者ギルドや衛兵、フリーの傭兵なんてのもいる。あれが悪意のある魔法だったなら、それこそ俺たちが関わることじゃない。分かるか?」


ぐっ、とローズマリーは口を結んで黙った。


「気持ちは分かる。ローズマリーは、魔物が殺されているのが嫌なんだろ? でもな、それ以上に、こいつら魔物は人を惨たらしく殺す。こいつらは、他の生き物を殺すことで快感を得られるんだ。だから、常に誰かに恨まれて生きている。気の晴れるまで痛めつけたいってやつがいても不思議じゃないし、むしろ、そっちの感覚の人間の方が多いだろう」

「……だったら、これをやった人に、なんでやったのか、聞く」

「聞いてどうする? ダメな理由だったら怒るのか?」


ローズマリーはかぶりを振った。


「ううん、私は、こうやって生き物を殺すことが、良い事か悪い事かを判断するつもりはない。でも、私の納得のために、聞きたいの。……大丈夫。キリアに迷惑はかけない。王都について、それから私ひとりで調べる」


キリアはため息をついた。

このままだと、本当にそうしかねない。


「……分かった。でも、理由を聞くだけだぞ。例えそいつが『生き物が固まっている姿が好き』なだけの変態だったとしても、何も手を出さない。いいな?」

「え、それって」

「手伝う。だいたい、助けたやつが自分から火の海に飛び込んでいこうとするのを無視するのは、気分が悪いだろ」

「ありがとう!」


本当に、ただそれだけの理由であった。

しかし、そう言いながらも、度を越してお人好しな自分に呆れていた。


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