05.指針
ローズマリーの必死の説得によって、なんとか一命をとりとめたキリアは、経緯を話し、これからどうするべきか、兄弟子たちと話し合うことにした。
屋敷に客間はなく、キリアがローズマリーを案内したのは、畳張りの武道場であった。
普段あまり使われることはないものの、手入れだけはきちんとされている。
ひとりずつ、天井近いところにある仏壇へ一礼をして、武道場へ入った。
その行動の意味を知っている者はここにはいない。
皆、親父に言われた通りの行動を繰り返しているだけであった。
五人は畳の上で適当に座り、話を始めた。
「そりゃ、責任もって送り届けてくるのが普通だろうな」
ザルドは特に悩む様子も見せず、そう言った。
「親父が帰って来るのを待って、王都へ行く許可をもらえ。それしかないだろ」
「ただ、親父が必ず五日で帰るとも限らない、だろ? もう何日経ってるのか知らねェけど、こいつの両親だって心配してるはずだぜ? 見ての通り、いいとこの娘みたいだし」
「だなぁ……。記憶もないってんじゃ、いったいいつから行方不明になってるものか……」
どこから記憶がないのか分かれば、見当のつきそうなことでもあったが、それすら分からない。
ザルドたちは、長考した末、キリアに言った。
「お前が勝手に送りたいって言うなら、止めねえよ。ローズマリーちゃんのことを優先するなら、そうした方がいい。だけど、そのせいでお前が親父から何言われても、俺たちは助けねえぞ」
彼らにできる精一杯の譲歩であった。
この屋敷で暮らす以上、親父の命令は絶対であり、逆らえばどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
親父は、決して感情任せに怒鳴ったりはしないが、ただ淡々と素振り一万回などと告げるだろう。
彼ら四人には、そういう生活が根づいていた。
今回、キリアがひとりで魔物を倒しに行かされたのも、本当に突然だった。
他の三人の兄弟子も、これほどのことは言われたことがない。
小手先の技量だけならキリアが最も上手だが、総合的な戦闘力なら体格の良い他の三人の方が上である。
魔物と対峙するにあたって、最低ランクのγクラスでも、複数人で戦うことが冒険者ギルドで奨励されている。
親父は冒険者ギルドと太いパイプを持っており、時折向こうで手に負えないものを代わりに退治して、ここの生活費にあてているのだと聞いていたが、まさかキリアもそれを自分がやらされるとは思わなかった。
結果として、成し遂げられなかったわけだが、親父が帰ってくればまた行かされるだろう。
「まあ、いいさ。俺が罰を受けるだけで済むなら。王都に向かおう。それで、こいつを家に送り届けて、それで終いだ」
そう言ってローズマリーの方を見ると、眠いのか、しきりに目をこすっている。
「ローズマリー? 聞いてたか?」
「う、うん? 聞いてたよ? ええと、なんだっけ」
やっと落ち着ける場所について、疲れが出たのだろうか。
キリアはため息をついて言った。
「今日はここに泊まろう。明日、王都に出発する。質問は?」
「質問? うーん、ない」
質問が思い浮かべれるだけの余裕もないようで、彼女はうつらうつらと頭を揺らしている。
そして、それほど間を置かずに、彼女は畳に寝そべってしまった。
「ローズマリーちゃん、自由だな」
ザルドがそうぽつりと漏らした。




