31.これから
明るく晴れた日に、鏑木流の道場で、キリアや他の門下生たちが道場で正座してトキサメと向かいあっていた。
「免許皆伝の証として、『霧雨』の名と『淡雪』を与える」
「ありがとうございます」
深く礼をし、キリアは名と刀を受け取った。
厳かな雰囲気はそこで終わり、ザルドたちは足を崩して、各々楽な姿勢をとった。
「しかし、キリ坊が最初に免許皆伝とはなぁ」
ジュガイがこぼすと、ザルドが言った。
「なに、すぐに追いつくさ。さて、稽古を始めようじゃねえか」
彼らが刀を手に外へ出ると、軒下で座って外を眺めているムルカがいた。
「終わりましたか?」
「姐さん、ずっと待ってたんですか?」
ザルドがそう言うと、ムルカは笑った。
「ええ。稽古、手伝いましょうか?」
「手伝う?」
ムルカが紫色の魔法陣を出し、道場の庭に、三体の骸骨兵士を生み出した。
「これなら、斬っても問題ありませんし、魔物相手に訓練するより安全ですから」
「さすが姐さん!」
ホウツがそう言って、さっそく刀を手に、骸骨兵士と稽古を始めた。
三人が庭に降り立ったあと、トキサメが道場から出てきた。
「帰らなくていいのか?」
「もう、久しぶりなのに、そんなこと言うんですか?」
ムルカは困ったように笑い、トキサメは肩をすくめた。
「私も、また向こうに戻ったら、魔物退治の続きが待ってます。そんなに長居はしませんよ」
「まだ、続けるのか」
「強い人しか生き残れない世界は、優しくありませんから。みんなもっと自由に生きるべきです」
そんな会話をしていると、ローズマリーが廊下を歩いてきた。
「終わった?」
「おう、あいつはまだ中にいるぞ」
「うん! ありがとう!」
意気揚々と道場の中へ入るローズマリーを見て、ムルカは呟く。
「人間と変わらない人形魔法……。今は彼女が特別なだけなのでしょうけど、いずれは特別でなくなるでしょう。その時、人間にほど近い人形魔法に、嫌悪感を抱く人がいないとは限りません。魔物を倒し終わって、次は人形と人間の戦いなんてことに、ならないといいんですけど……」
「なるようにしかならないだろうな。人間全ての感情をコントロールするなんてのは、無理だ」
「やっぱり、魔物は滅ぼさない方がいいんでしょうか……」
雲ひとつない空を、ムルカは見上げた。
「キリア、おめでとう! あ、もうキリアじゃないんだっけ」
「いや、キリアでいい。少し長くなるけど、キリア・ピスケイス・霧雨って名前になる」
「そっか。キリア、これからどうするの?」
「俺は、鏑木流の剣術と魔法を組み合わせた新しい流派を立ち上げることになってるんだ。親父からもらった淡雪も、そのための刀らしい。まだこれから色々試してみないといけないし、とりあえず経験の積める場所へ行ってみようと思う。ウィンドブロウの街に親父の伝手があるらしくて、そこでしばらく冒険者ギルドに入って魔物退治しながら弟子探しをするつもりだ」
トキサメに魔法は使えない。
この世界に合った剣術の選択肢のひとつとして、魔法と組み合わせる方法を思いついたのだと言う。
キリアは魔法に適正のあるエルフであったため、その分派を任されたのであった。
鏑木流剣術は、混魔流剣術と名を変え、キリアが宗家として継承していくこととなった。
「……あの、私も一緒に行っていいのかな」
ローズマリーがもじもじとして言う。
「何を言ってるんだ? 置いて行けるわけないだろ。お前こそ、いいのか? もう賢人会はないんだから、王都に戻ってもいいんだぞ」
「戻っても誰もいないもの。私はずっとキリアについていくよ。せっかくだし、ウィンドブロウって街で、私もできることないか探してみる。もしかしたら、何か凄い才能があるかもしれないし!」
「前向きだな。じゃあ、行くか」
キリアたちが道場から出ると、中庭では、ザルドたち三人と骸骨兵士三体による死闘が繰り広げられていた。
その様子を、トキサメとムルカが見ている。
「何やってんだ?」
キリアが言うと、ザルドが答えた。
「姐さんが出してくれたんだけどよ! こいつら、無茶苦茶強え!」
「その骸骨兵士たちは、昔のトキサメの動きを真似ていますから、三人とも頑張ってくださいね」
キリアの目から見ても、骸骨たちの動きはその辺の魔物とは違い、ひらりひらりと刀を躱している。
そして隙を見つけては、手にした骨の棒で叩く。
恐らく、日が暮れても斬ることは叶わないのではないだろうか。
「ウィンドブロウに行くのか?」
トキサメが聞くと、キリアは頷いた。
「今までお世話になりました」
「大げさなやつだな。まあ、落ち着いたらまた顔を出しに来い」
「はい。では、失礼します。姐さんも、お元気で」
キリアは一礼をし、道場をあとにした。
山の上からは、地平線まで広がる青い空が見える。
「いい天気だね」
「ああ、快晴だ。雨が降る前に、つけるといいな」
「雨降ってもいいよ。まだ、浴びたことないし!」
「風邪ひくぞ」
遮るもののない太陽の光が、ふたりの旅路を明るく照らしていた。




