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20.キマイラ

「もっと大勢の魔法使いが並んで待ってると思ってたけど、なんだ、あれ」


キリアは、キマイラの姿を視認して、そう漏らした。

その隣にいる怪しい男が術者なのだろう。

ベアトリーゼとふたりしかいないことから、それなりの実力者であることが伺える。


キマイラもキリアたちを見つけたのだろう、大声で吠えると、一直線に駆け出した。


「来るぞ! 魔法頼んだ!」

「もうやってる!」


キマイラの足元から木の根が飛び出し、引っかけるようにして、転ばせた。

間髪入れずに、幾重にも体を巻き付け、身動きが出来ないよう地面に縫い付ける。

キマイラはもがいているが、太く頑丈な木の根を振りほどくことが出来ない。


「やったか?」


キリアがそう言うも、メリアンは苦しい顔で、魔法陣を展開させたまま、固まっていた。


「ダメ、こいつ、魔法が……」


徐々に、キマイラを縛る木の根が、細く、枯れていく。

力で破られるまで、時間はかからなかった。

メリアンは魔法陣を消して、地団太を踏んだ。


「こいつ、魔力を吸うわ!」

「魔法は効かないってことか。俺が相手をする。メリアンは、ベアトリーゼの方を頼む」

「任せて!」


キリアは刀を抜いて、構えた。

四本足の獣との戦い方は知っている。

しかし、筋肉の硬さや骨密度は個体差があり、それぞれの魔物が持つ特性も影響することがある。


この魔物は、魔力を吸う、という特性を持つ。

ひとつの魔物が複数の特性を持つことはそれほど多くない。

それこそ、東側の大陸に住む魔物くらいのものである。


「かかってこい……!」


キリアは意図的に隙を見せていた。

野生の獣なら、必ず付け入る隙である。

キマイラも、その例にもれず、飛びかかった。


「予定通り!」


キリアは体勢を低くして、キマイラの爪を躱し、胴の下へと潜り込んだ。

刀を下段に構え、下から上へと切り抜ける『渦雷』を放つ。

空中に浮いた相手は、刀の勢いと自重とで、深々と刃が刺さる。

キリアは、力任せに刀を斬り抜けた。


噴き出る血を避けながら、キリアは後方へ飛んで距離をとる。

手ごたえがなく、おかしな感触がしたからだ。


キマイラの血はすぐに止まった。

辺りに散った血が集まり、別の生き物を作り出す。


「反則だろ!?」


キマイラの隣りに、全く別の姿を持つ魔物が生まれた。

血で作られた鳥が、地面から羽ばたき、空へ浮かぶ。


キリアは、とにかく一匹ずつ仕留めるしかない、とキマイラに切りかかった。

相手が動く前に、前足を切り飛ばす。


その行為自体は、キリアにとって簡単であった。

しかし、キマイラに攻撃が効いている様子はまるでない。


血の中から、またも別の鳥が生まれ、キリアの頭上を旋回する。

攻撃をすればするほど、敵の数が増えていく。


二羽の血の鳥は、鋭い爪を剥き出しにして、キリアへ襲い掛かった。


「なんなんだこれは!」


鳥とキマイラの攻撃を避けながら、キリアは言った。


「キマイラの、力だ」


いつの間にか、近くまで寄っていたレジ―が言う。


「さ、三種の魔物を合わせた、人工の魔物だ」

「人工の魔物だと!?」

「ぶ、物理攻撃も、魔法も、き、効かない特別仕様だ」


レジ―が手に持った笛を吹くと、キマイラたちは攻撃をやめ、レジ―の隣りに寄り添った。

見せびらかすように、レジ―は笑った。


キリアが攻め方を考えていると、離れて立っていたローズマリーが言った。


「キリア、その子泣いてる。助けてあげて」

「助けるって言っても、どうすればいいんだよ」

「その子ね、もう死んでる。でも、無理矢理動かされてるの。見てられない」


ローズマリーは、今にも泣きそうな顔をしている。

助けるために、殺すしかない。

キリアは刀を握り直し、キマイラを睨んだ。


端を斬っても全く効いていない。

狙うは、心臓か、脳。

しかし、その心臓も、キマイラが死んでいる魔物だとすれば、あてにならない。

選択肢は、脳だけである。


頭部を正確に断つために、キリアが最も威力の出せる構えをとる。

片手で刀を肩に担ぎ、背に回った刃を、残った手でつまむ。

鏑木流の『黒雷』の構えである。


指で刃を抑えることで、限界まで力を溜め、一気に放つ、鏑木流では数少ない剛の技だ。

問題点は、構えをとっていると動けないことと、攻撃の線を読まれやすいこと。

しかし、そのふたつは、人間相手の時に発生する問題である。


一回きりの、魔物相手なら、攻撃を外す心配はない。


「へ、変な構えだけど、キマイラ、お前ならいける。や、やつを殺して、永久人形を、連れて帰るぞ」


レジ―が笛を鳴らすと、三匹の魔物は一斉に襲い掛かった。


二羽の鳥が爪を立てて、キリアへ飛びかかったが、いくら血が出ても、まっすぐキマイラだけを見つめて、微動だにしない。

前足を失ったキマイラは、後ろ足に力を込めて、一気にキリアへ詰め寄る。


放たれた『黒雷』は、キマイラの獅子の顔を通り抜け、勢いのまま地面へ突き刺さった。


確実に、脳を断った。

手に残る嫌な感触が、狙い通り刃が入ったことを知らせる。


キマイラは、ふたつに別れた頭部から血を流して、地に伏せた。

二羽の鳥はまだキリアにまとわりついている。

しかし、もう傷口から新たな鳥が生まれることはなかった。


空中を飛ぶ鳥も、難なく斬り飛ばす。

形を保てなくなった血の飛沫となって、辺りへ散った。


キリアは、動かなくなったキマイラの隣を通り、レジ―に詰め寄った。


「賢人会のこと、洗いざらい喋ってもらおうか」

「ひ、ひひ、まだ、終わっていない」


レジ―がそう言うと、キリアの体が何者かに引っ張られ、空中へ浮かび上がった。


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