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自称勇者と呪印の少女03

◆本作にアクセスしてくれる方、ブクマ・評価をくださる方、ありがとうございます。

 現金なものですがいい数字が出たりするとやっぱり励みになります。

「で、これはどういう状況よ」


 今朝起こった戦闘ですっかりボロボロになってしまったトレーラーハウスの傍ら、正座をさせられるフレアさんを前にティマさんがいきり立つ。

 何故ここにティマさんがいるのかというと、フレアさんが入れ墨の少女を連れてきてから半日、ポーリさんの献身的な治療によって唐辛子爆弾の影響もすっかり無くなったティマさんは、事後処理を一緒に戦ってくれた仲間に任せ、フレアさんを追いかけてきたからだそうだ。

 ついでに言うと、その少し前に、マリィさんも万屋にご来店していたらしく、ちゃっかりこのお説教(?)に参加していたりするのだが、そこは気にしたらいけないのだろう。


「それで黒雲龍はどうなったのだ?」


「あれから一度も出現していません。しかし、確実に倒したという確証は得られていませんから、警戒状態が続いていますね」


 まるで自分は何も悪いことをしていないとばかりのフレアさんの質問に(実際フレアさんは何もやましいことをしていないのだが)ポーリさんが答える。


「ということは、やはり俺達が戦ったあの手は黒雲龍だったということか」


「私はその場にいた訳ではありませんから、しかし、ノスリア帝国に潜入していた者の話によると、彼の皇帝は黒雲龍の力をその身に宿そうとしていたと、そんな情報もあるようですから――」


「復活ではなく吸収合体することで竜種の力を手に入れようとしていたということですか。しかし、そんなことが可能ですの。封印されていた存在と言えど相手は龍種なのですよ」


 フレアさんのポーリさんが意見を挟み、そこにマリィさんが疑問を投げかける。

 たしかに、強大な龍種の力をただの人間がその身に受け止めることは現実的に無理と言わざるを得ないが、


『成程ね。それで大量の生贄が必要だったんだね』


「どういうことです?」


『簡単なことさ。一人で受け止められない力なら、受け止められる人数を用意すればいい。この場合、それが生贄だったって訳さ』


 話の途中、魔法窓(ウィンドウ)を介して割り込みをかけてきたソニアの見解を僕がこの場にいる全員に伝えると、


「つまりこういうことですか。個人の器では到底受け入れられない強力な力でも、数多くの器が重なれば受け入れられると――」


「おそらくはそうなんだろうとオーナーは言っています」


「しかし、何故その黒雲龍を受け止める役が、どうして生贄に連れてこられた彼女になってしまったのだ」


 マリィさんに続くフレアさんの質問に、僕は魔法窓(ウィンドウ)に目を落とし、ソニアからの言葉を確認する。


「これは、いい加減な答えになってしまいますが、それこそ偶然としかいいようがないかとのことです。そもそもその儀式が本当に正式なものなのかも分かりませんし、僕達はそれがどのように行われた儀式なのかも知りませんから」


 そこで言葉を切った僕がポーリさんに伺うような視線を向けると、


「それに関しては完全な解明は難しそうですね。周辺から拾い上げた情報によってその儀式の概要は掴めたとしても、その儀式を行った封印の洞窟そのものが黒雲龍の復活により崩落してしまったそうですから、調べようがありません」


 ヴリトラが封印されていた場所はどこか地下洞窟にある神殿だったっけ?

 たしかにそんな場所で巨大ドラゴンを呼び出したらどうなるのかなんて火を見るより明らかだ。

 もしかすると、その辺の対策もきちんと施されていたのかもしれないけど、復活したヴリトラが予想以上に強力で意味がなかったと――、

 もしくは、復活した時にはもうそこに無事な人間が誰もいなかったなんて可能性だってあるかもしれない。


「ただ、問題は彼女をどうするのかですよね」


「助けるに決まっている」


 そう言ってよろめきながらも立ち上がるフレアさん。


「ですが、どうやって助けますの? それに彼女の証言がまだ本当のことだとは――」


「彼女が助けを求めているのは態度を見れば分かるだろう。それを助けずして何が勇者だというのだ」


 フレアさんが彼女を助けようというのなら、それはそれでフレアさんの思うようにすればいい。


「しかし、入れ墨に封じられているヴリトラをどうやって倒しますの?」


 だが、彼女を助けようにも、まずヴリトラが表に出てこない限りは戦うことが出来ないのだ。

 これがもしも某有名トンチ話だったら、どこぞの王様に入れ墨に封じられている龍をおびき出して下さいと言えば一発で解決するのだが、

 さて、どうしたものかと僕がソニアに何かいいアイデアは無いものかとメッセージを送ろうとしていたところ、ポーリさんが控えめにも手を上げて、


「あの、これは彼女にも苦痛を強いることになるのですが、黒雲龍が宿る入れ墨そのものを除去するというのはどうでしょう?」


 原因が入れ墨にあるというのなら、その原因を取り去ってしまえばいい。そう言うのだが、


「ベル君の報告によりますと、彼女の入れ墨は全身の至る所にあるそうですよ」


 最初は両手両肩の部分だけかと思っていた入れ墨だが、昨夜、彼女を眠らせた後、その体をくまなく調べてみると、どうも彼女の入れ墨は服に隠れて全身に広がっていることがわかったのだ。

 因みに彼女の全身を調べたのはソニアとベル君であって僕ではない。


「ですから、全身の皮を剥げばいいのでは?」


「えと――」


「も、勿論、皮を剥いだ後はポーションなどで回復してもらいますよ。勿論です」


 その聖職者然とした外見からは想像すらもできなかったポーリさんの過激な発言に、僕がどう応えたらいいものかと躊躇っていると、ポーリさんは自分がした発言が過激だったことに気付いたのか、慌てたようにフォローの体制は整えると言うのだが、


「残念ながらこのタトゥーは彼女の魔力と直結しているらしくて、おそらく皮を剥いで直したとしてもまた新しい入れ墨が現れるだけかと」


 見た目上、彼女の全身に走るこの模様を入れ墨と表現しているが、正確には呪印、呪われた印が魔力によって顕現しているものではないかと、彼女を調べたソニアは言う。

 だから、ポーリさんの言う通り入れ墨そのものを削り取ったとしても、皮膚が復活したら――、いや、皮膚を全て剥いだとしても、文様はまた現れ、あの黒い腕が現れるかもしれないのだ。


「他に方法はありませんの?」


 結局、ポーリさんの意見は却下。改めて他の方法がないかと問い掛けるマリィさんに、僕は手元に浮かぶ魔法窓(ウィンドウ)を確認して小さく手を挙げる。


「可能性としましては、もう一度、黒雲龍ヴリトラを召喚することですかね」


「虎助は俺達にかのノスリア帝国がしたおぞましい儀式をやれというのか!?」


 僕の意見に激しく反論するフレアさん。だが――、


「いや、それは人間を触媒にするからダメなんだって話ですよ」


「どういうことだ?」


「いえですね。オーナーによると、然るべき器を用意してやれば、そのノスリア帝国でしたっけ?彼等がしたような犠牲を出さずとも魂ある龍種(・・・・・)の復活は出来るんだそうですよ」


 曰く、人間が人間のままで龍の力を手に入れようとするから余計な犠牲が必要になるのだという。

 ただ龍を龍として呼び出すだけなら、それほど難しい事ではないのだそうだ。


「つまり虎助は龍種の力に耐える器を用意して再召喚を行おうと、そう言っているのですね」


「幸いにもこの万屋には龍の魂を受け入れることが可能な龍の素材が沢山ありますから、喜んで提供させてもらいますよ」


「ふむ、それならば問題はないのか。しかし、いいのか?」


 と、ここまで説明にフレアさんも納得しつつも、

 戸惑いがちにも聞いてくるのは、龍の素材が一個人では扱えないくらい高価なものであるという懸念だろうが、


「ええ、その代わり、ヴリトラを耳鼻に倒せたあかつきには、その素材の9割を万屋でいただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」


 レアな素材を惜しげもなく投入するのはこちらである。

 損して得取れではないのだが、きっちりと計算をしてヴリトラ復活の儀式を行えば、使った龍の素材よりも大量の、更に上質なものが手に入るかもしれない。それを報酬にいただこうというのがソニアの計画だ。


「ああ構わない。むしろ全て虎助達の取り分にしてもかまわないぞ」


 因みに実際に戦ったフレアさん達の話を総合すると、黒雲龍ヴリトラは大体全長三十メートルくらいになる黒龍だそうだ。それほど大きな龍一体のまるまるの素材ともなれば、それこそ小さな国家予算も軽く上回るくらいの儲けになるのではないか。

 僕がホクホク顔で商談を決めかけたその時、ティマさんが素っ頓狂な声を上げる。


「えっ!? なに言ってんのよフレア。貰えるものは貰っておかないと、私達、ただでさえ今回の件で王国から目をつけられてるのよ。討伐したと示すためにも遺骸の一部は必要だわ」


 そういえば、フレアさん達は国の命令に背いた形でヴリトラ討伐をしようとしていたんだったか。

 ならば、討伐の証として、それなりに希少な部位を持って帰ってもらわないと恰好がつかないのかもしれないな。


「ですがティマ、私達はまだドラゴンキラーの貸出費用や唐辛子爆弾の使用料などもまだ返していませんし、黒雲龍の素材を私達が持っていると知ったら面倒な貴族の争いに巻き込まれかねませんから」


「ゔっ、それはそうかもしれないけど……」


「まあ、その辺の配分の話は全てが終わってからということで、問題なのはどうやって倒すのかということです。その作戦に納得してもらわない限りは戦えませんから」


 ポーリさんからの指摘に少し言葉に詰まらせるティマさん。

 だが、取らぬ狸の皮算用。報酬の配分は全てが終わってからと先送りに、

 いざ、話題がヴリトラ討伐の話に戻るといつもの調子に戻って、


「そんなのフレアがいれば余裕よ」


 ティマさんは自信満々にそう言うのだが、


「しかし、私達がきちんと作戦を整えて、それなりの人数で挑んでもあの被害ですよ。それが今回、ここにいるメンバーだけともなると、さすがのフレア様でも――」


「うぅ、そういわれるとそうなのかもだけど……」


 フレアさんパーティ唯一の良心であるポーリさんの指摘に再びトーンダウン。


「ですが、虎助に考えがあるのでしょう。だって虎助は無理なことは言わないもの」


「そうですね。ちょっとずるい作戦ですけどモルドレッドを使おうと思いまして」


 と、そこからちょこっと詳しい作戦内容を、斯く斯く然々――僕が伝えたところ。


「成程、たしかにその作戦が上手く嵌ったのなら、もしかするとあっさり勝ててしまうのかもしれませんわね」


 マリィさんがたぷりと腕を組み、聞かされた作戦に賛同してくれる一方で、ポーリさんとしては個人的な不安があるようで、


「あの、その作戦ですと、私が黒雲龍の復活の儀式を執り行うことになっているのですが、その、なんといいますか、生命を司る魔法の類は私の信じる教えと反する魔法になるのですが」


 そう、今回、この作戦でヴリトラの復活を担当するのはポーリさんなのだ。


「それは、ここが異世界だからということでお願いします。何しろこの中でヴリトラを復活させる儀式に対応する実績を持っているのはポーリさんだけですから。でも、魔法陣の作成や儀式に関わるバックアップは万屋が全面協力しますから、たぶん大丈夫だと思いますよ」


「うう、フレア様――」


「すまないポーリ。これも助けを求める人の為なんだ。我慢して協力してくれまいか」


 僕のお願いに情けない声を出してフレアさんにすがりつこうとするポーリさん。

 しかし、フレアさんにこう言われてしまっては弱いのだろう。


「ふ、フレア様がどうしてもと仰るのでしたら――、ですが、もしもの時は責任を取っていただきますからね」


 ガックリと項垂れながらも少し嬉しそうなポーリさんの一方で、さり気なく差し挟んだポーリさんのお願いにティマさんが「狡いわよ」とか喚いているのだが、それはフレアさん達パーティの問題だということで僕が口を挟むことでもないだろう。


「さて、方針がきまったところで、問題は彼女の説得ですね」


 色々と作戦を立ててみたりもしたのだが、最終的にはヴリトラを宿す本人の同意がなければどうにもならない。その儀式に危険があるというのなら尚更だ。

 それに、もしも彼女がヴリトラを復活させた側の人間だとしたら、この提案に乗ってくるのかという心配もある。

 だが、フレアさんの場合、そこまで深く考えていないようで、


「わかっているさ。僕が話す。だから二人きりにさせてはくれまいか」


 そう言ってトレーラーハウスの中へと入ろうとするフレアさん。


「駄目です」


「そうよ。なにが起こるかわからないわ。フレア一人じゃ心配だわ」


 しかし、トレーラーハウスに入ろうとするフレアさんを、ティマさんとポーリさんが有無を言わさぬ反対意見で引き止める。

 正直、フレアさんくらいのレベルなら、どうにかされたところで逃げるくらいはできそうなのだが……。

 ああ、もしかすると、ティマさんとポーリさんが心配しているのは別のことなのかな。


「だったらベル君の目を通して交渉の様子を見守るということでどうでしょうか」


「そんなことが出来るの?」


「ええ、この通り」


 僕は魔法窓(ウィンドウ)からトレーラーハウスの中にいるベル君の視界にリンク。その映像を皆さんの前にパスすると、


「へぇ、これは――」「便利なものですね」


 ポーリさんもティマさんも外から交渉の様子が見られるならと一応の納得はしてくれたようで、フレアさん一人による説得許可が降りたのだが、

 ちょうど呼び出した映像を見る限り、問題の彼女は朝の騒動による気絶から未だに回復していないようだ。

 正直、朝のパニックから気絶した彼女のことを考えると、このまま目覚めるまで待ってあげたいところなのだが、あまり悠長に構えて問題が後手に回るのもよろしくないと、ベル君に頼んで強制的に目を覚ましてもらう。

 そうして彼女の意識がはっきりするのを待って、フレアさんがトレーラーハウスの中へ入り。


「おはよう。気分はどうかな?」


「え、あ、と、私どうして――」


「黒雲龍の手が消えた途端、君も気を失ってしまったんだ」


 と、ここまでの経緯を話すフレアさんの言葉に気を失う直前の記憶を思い出したのか、「あ、ああっ――」と喚くような声を上げてパニックに陥りかける入れ墨の少女。

 しかし、フレアさんがすかさずパニックに陥りかける彼女を抱きしめて、


「大丈夫だよ。安心して、僕がついてる」


 おっと、これは王道過ぎる恋愛物語にありそうなシチュエーションだな。もし元春がこの場にいたのなら発狂していただろうね。

 ――っていうか、別の意味で元春と同様に発狂してしまった人物がここにいた。ティマさんだ。

 ムッキーとヒステリックな金切り声をあげてトレーラーハウスの中に突入しようとするティマさん。

 しかし、この状況で乱入などされてしまったら、入れ墨の少女も落ち着くものも落ち着けない。

 だからと僕は魔法窓(ウィンドウ)から展開した簡易結界でトレーラーハウスを隔離。

 行き場のない怒りを結界に叩きつけるティマさんを宥めている間にも、フレアさんによる抱擁(ハグ)セラピーがそれなりの効果を発揮したらしい。入れ墨の少女は少し落ち着いてくれたようだ。

 そして、パニックから戻ってくると自分がされていることに恥ずかしさを覚えたのか、入れ墨少女はフレアさんを突き放すようにして、


「あ、ごめんなさい。私、もう大丈夫」


「ああ、すまない。つい――」


 二人の間に微妙な空気が流れ、その沈黙が暫く続いた後、


「あ、あの、あの人はどうなった?」


「あの人とは?」


 躊躇いがちにも聞こえきた質問に聞き返すフレアさん。


「え、と――、コスケ、さん? 黒い手で、大怪我をしてしまった、あの人……」


 尻すぼみに言葉をつまられる入れ墨の彼女にフレアさんは、


「大丈夫だ。ピンピンしている。今は君を助けようと張り切ってくれているから大丈夫だよ」


「で、でも、その――、お、大怪我を、してたハズ」


「あの程度、どうとでもないさ」


 いや、フレアさんの言うことは間違っては居ないのだが、他人にさらりと言われると何か釈然としないというかなんというか。

 まあ、それはともかくとして、彼女も落ち着いてきたようだし、ここいらでフレアさんには本題に入ってもらおう。

 僕は開いている魔法窓(ウィンドウ)からベル君経由で「本題に入ってくれ」という旨の指示(フキダシ)を送る。

 と、ただでさえ真面目な顔をしたフレアさんが更に真面目な顔をして、その――と何度も聞き辛そうにしながらも、やがて観念したように口を開く。


「それでここに来たのは君に手伝って欲しいことがあるからなんだ」


「手伝って欲しいこと?」


 ああ――と、また口籠るような溜めを作ったフレアさんは、覚悟を決めたように眦を吊り上げ、


「君に黒雲龍を追い出す為の儀式を受けて欲しいんだ」


「儀式……」


フレアさんの願いに彼女の顔が曇る。

そんな彼女の表情にフレアさんは苦々しげに目元を歪ませながらも、


「君の身になにが起きたのはだいたい聞いている。だが、このままでは君は、常に自分に怯えて生きていかなければいけなくなってしまうかもしれないんだ」


 そう言って、僕から聞いた作戦の概要や儀式の内容を必死に思い出しながら、たどたどしい説得を続けるのだが、

 彼女からの返事は無い。

 彼女はただ俯いてフレアさんの話を聞くだけだった。

 そうしてそのまま数分が経過し、

 もはや具体的な話など何もない。ただフレアさんが彼女を助けると訴えるだけとなった頃、

 その熱意に根負けした形になるか、入れ墨の少女がぽつりと不安げにこんな問い掛けをする。


「その、あ、危ないことはない?」


 少女の質問に一瞬ぽかんとしてしまうフレアさん。

 しかし、すぐに彼女が言いたいことを理解したのか。


「あ、ああ、危険な真似はさせない。絶対に。何があっても俺が君を守るよ」


 おおう。まさかこんな台詞をさらりと吐ける人間が実在するとは――、

 すると、この一言がきっかけとなったか――、いや、彼女にもまだ迷いはあるのだろう。だが、自分の体の中に、他人を――、もしかすると自分をも害するかもしれない生物がいるかもしれないというのは恐ろしいものだ。


「どうやら話はまとまったようですね」


「しかし、思ったよりもあっさりと説得に応じましたわね」


 マリィさんはこう言うが、今朝のあれを見てしまうと、自分の身の安全とこれからのことを考えて、僅かな希望にかけてみようと考える彼女の気持ちも理解できる。

 とはいえ、直接ヴリトラを見ていないマリィさんに彼女の行動を理解してもらうのは難しいだろうし、そもそも僕の思う彼女の動機が本当なのかも分からない。ということで、


「さすがにあれだけぐいぐいと来られてしまっては断り辛かったというものあるんじゃないですか」


「ですわね。あそこまで強引に迫られては身の危険を感じてしまいますの」


 適当に切り返した僕の言葉に対するマリィさんの意見はおそらく本音だったのだろう。

 だが、この場には、そんなマリィさんの発言を許せない人がいた。勿論ティマさんである。


「なに言ってるいるのよ。フレアにあそこまで言われたら『うん』って頷くしかないじゃない。分からないのアンタ」


「そうですね。羨ましい――じゃなくて危険ですね彼女は」


 はぁ、ティマさん達、フレアさんの仲間からすると言いたいことはあるのかもしれないけれど、これで準備は整った。

 後は上手くヴリトラを倒すことができれば解決なんだろうけど、相手は龍種、油断は出来ないだろうな。

 うん。取り敢えず僕は、何があってもいいように油断なく準備を整えるとしよう。

◆少し呪印の少女の口調を弄りました。

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