名も無き特殊部隊の秘密特訓5
◆今回はちょっと長めのお話です。
特殊部隊の皆さんをスカルドラゴンのディストピアから連れ出した翌日、僕は皆さんを連れて工房の裏手にある平坦な荒野へと来ていた。
するとそこには、黄金の鎧に白銀のローブと、それぞれにらしい装備を身に着けた背の高いゴーレムが二体待っていて、
「これが皆さんのお相手をするガラハドとマーリンです」
「ああ、この金色の輝き、なんて素晴らしいんですの」
そんな二体の傍ら、ガラハドの鎧に大興奮するマリィさんに「この人は誰?」とばかりの目線を向ける特殊部隊の面々。
「あの、マリィさん。皆さんが困っていますから、自己紹介とかしていただけると助かるのですが」
「あら、ごめんなさい。申し遅れましたの。私の名はマリィ=ランカーク。今はしがない地方領主ですの」
そんな皆さんからの好奇の視線を受けて、『自己紹介を――』と促す僕の声に、短めのスカートを摘みお辞儀をするマリィさん。
「因みにマリィさんは元お姫様で、とある大陸で五指に入るという大魔導師様ですから、僕よりも数段強いです。気をつけて下さい」
さすがに特殊部隊の皆さんの中には元春のようなどうしようもない性格の持ち主はいないと思うけど、一応釘を差しておく。
出会った頃の八尾さんみたいに、変につっかかりでもしたら、さすがに僕の力じゃ庇いきれないからね。
だが、そんな僕の気遣いがマリィさんの不興を買ってしまったらしい。
「虎助、人をそんな危険人物のように紹介しないでくださるかしら」
いや、そうは言いますけどね。マリィさん。不埒な人物には容赦なく魔法を撃ち込むでしょう。
しかし、そんなことを口にしようものなら今度は僕が火弾の餌食にされかねない。
だからと僕は「すみません」と素直に頭を下げて、
特に訂正なんかはしないところに本気があると特殊部隊の皆さんには読み取ってもらうとしよう。
「では、最初に戦いたい方は手を上げて下さい」
そして、誰が最初に訓練に名乗りを上げるのかという僕の問いかけに、「はい――」と、ワンテンポ遅れて手を上げたのはマリィさんだった。
「あの、マリィさんは見学だったのでは?」
「そのような事は一言も言っていませんわ。というよりも、この方々は私に先んじて龍種と戦えるディストピアに潜っていたのでしょう。狡いです。私もいろいろな戦闘を楽しみたいですの」
前々から思っていたんだけど、この元お姫様は魔導師ではなく、ただの戦闘狂なのではなかろうか。
武具マニアというのも、実は童話への憧れだけではなく、ただ純粋に使ってみたいとかそういう本能みたいなものがあったりするとか。
やっぱりうらぶれた古城に押し込められてストレスがたまっているのだろうか。
「ですが、マリィさんが本気で戦ったら、この二人では相手にならないと思うのですが」
このアヴァロン=エラで、本気のマリィさんの相手ができるのはベル君とモルドレッドくらいなものだろう。僕の指摘に対するマリィさんの言い分は、
「私も手加減くらいできますの。前回の対決の時もそうでしたでしょう」
えと、マリィさんの言う前回というのが、もしもフレアさんのパーティに所属するティマさんのことを言っているのだとしたら、それを手加減と言っていいものか。
僕が微妙な顔をしていると、
「ならばこういうのはどうですの。どうせ二体いるのですから。私が前衛、虎助が後衛でまず戦ってみますの。それならば充分なハンデとなるのではなくて」
成程、普段の役割を逆にすれば超大な遠距離火力を持つマリィさんの戦力ダウンが見込めるということか。僕もいろいろと試したかった魔法もあったから、この提案は渡りに船なのかもしれないな。
ただ、今回の訓練はあくまで特殊部隊の皆さんがメインであり、お客様に先んじて僕達が戦うのはどうなんだろうという問題がある。
「皆さんはそれでいいですか。えと、マリィさんに遠慮しているのなら、どうぞ手を上げてくださいね。僕達は後でも出来ますから」
「いや、我々はスカルドラゴンとしかこういう手合との戦闘経験が無いものですからな。知識がない状態で戦うよりも先にどのような戦いなのか見ておいた方がいいと思います」
マリィさんがあからさまな威圧感を発する中、優しげな声で訊ねる僕に隊長さんが代表して答えてくれる。
たしかに魔法を絡めた対人戦ともなるとスカルドラゴンとの戦いとはまた違った戦い方が求められる。
それでも、八尾さん辺りは文句をいうかと思っていたんだけど、三週間近くに及ぶ、休み無しでのスカルドラゴンとの戦いが、トラウマのようなことになっているのか、隊長の言葉に異論はないようだ。
念の為に隊長の意見を尊重しながらも、もう一度、隊員の皆さんに了解を取った上で、
「わかりました。では、僕とマリィさんで模擬戦をやってみますね」
戦闘前の準備にと魔法窓を開いたところで気付く。
「あ、マリィさんはいつもの装備を使ってくださいね」
「あら、新しく作った魔法剣などを使ってはいけませんの?」
「今回の戦いはあくまで訓練ですからね。強力な武器でゴリ押し――というのも面白くないでしょう」
マリィさんの作る魔法剣は、試作段階だったコールブラストですら、自称大魔王とまともに戦えるくらいに強力な武器だ。いくら万屋で作られたゴーレム達が強力だとはいえ、まだ稼働して一日も経っていないガラハドとマーリンではさすがに対処しきれないのではないか。
そんな僕の意見にマリィさんは残念そうにしながらも、今は剣の威力よりも前衛として、いや、剣士として戦える訓練の方が楽しみなのか、素直に言うことを聞いてくれる。
「性能を見るいい機会だと思いましたが……、たしかに虎助の言う通りなのかもしれません。わかりましたの。今回は虎助に作ってもらったこの剣で戦うことにしますの」
そして話もまとまったところで、僕は先ほど出した魔法窓を操作し、対象に纏い着くような特殊な結界を起動させる。
「これは結界ですの?」
「格闘ゲームを参考に作った擬似的なHPといいますか。ボディスーツのように身に着けるバリアに、それぞれの身体データに合わせた耐久力を設定、それが全部つきたところでゲームオーバって感じで安全に訓練ができるようになっているんですよ」
「まさにゲームですわね。マオが聞いたら喜びそうですの」
「どうでしょうか、魔王様の場合、存在そのものがチートキャラみたいなものですから、一方的過ぎて、あまり楽しめないと思いますけど」
とはいえ、マリィさんの言うことは尤もなのかもしれない。
魔王様がこの訓練を知ったのなら、やりたがる可能性は高いだろう。
だったらここは、ハードモードのキャラクター《ゴーレム》か、ハンデ戦みたいなシステムを作っておくべきなのか。
その辺りは僕が実際に戦ってみてからソニアに相談すればいいか。
元となるガラハドとマーリンの基礎戦闘力を測らない限り、調整もなにもないだろうからね。
僕はマリィさんの一言に端を発した考えを取り敢えずはと棚上げに、魔法窓から戦闘に関するルールなどをガラハドとマーリンに転送、空中にまるでVR対戦ゲームにありがちなカウントダウンを出現させる。
そして、十秒という長すぎる待ち時間を利用して、コンセントレーションを高め、カウントがゼロになったところで戦闘開始。
先ず動いたのはマリィさんだった。
腰のエストックに手をかけて、まだ動き出していないガラハドとマーリンの下へ一直線に飛び込むと、そこから抜刀術のような横薙ぎを一閃。ガラハドに挑みかかる。
因みに、エストックという武器は本来、斬るのではなく突きに特化した武器で、マリィさんのような使い方は全くもって正しくないのだが、マリィさんが常用するエストックはこの万屋で作ったムーングロウ製の特注品。魔力を流せばそれだけで強靭な名剣に生まれ変わる。
しかし、装備面でいうのなら、ソニアが作ったガラハド達も負けてはいない。
こちらは元春に渡した魔動鎧の改良版。以前からマリィさんにリクエストを受けていた黄金の鎧の試作品であるエルライト製の魔動鎧を装備している。
まあ、実働実験という趣きもあるのだが――、
ガラハドは黄金に輝くエルライト製の剣盾に魔力を装填し、素材そのものの強度を高めると、マリィさんの攻撃を受け止めシールドバッシュ。
そのまま袈裟斬りに反撃を繰り出してゆく。
その動きはまるで流麗な剣舞をみているようで――、
早いな――っと、そんな分析をしている場合じゃなかった。
僕は、今まさにマリィさんに斬りかからんとするガラハドに無属性の魔弾を打ち込んで、マリィさんから引き離しにかかる。そして、魔法を放とうと魔力を高めていたマーリンに軽い蹴りを入れて魔法の発動を事前に潰す。
因みに今回の戦闘は訓練ということで、空切およびディロックなどの消耗品は使わないでおこうと自分ルールを儲けてみた。せっかく前衛と後衛を入れ替えた訓練をするんだから、もしも魔法以外が使えない状態に陥った時の想定訓練と、純粋に己の肉体が持つ力だけでこの戦いに挑むことに決めたのだ。
「マリィさん。突っ込むのはいいんですけど、防御のこともちゃんと考えてくださいよ」
「攻撃こそ最大の防御と思い、私も強化魔法と言うものを使おうとしてみたのですが、やはりなれない魔法はいけませんの」
どうせそんなところだろうと思いましたよ。
僕はマリィさんの言い訳に、軽く溜息、「訓練といっても油断とかしないでくださいね」と注意を入れながらも、牽制攻撃から素早く立ち直ったガラハドとマーリンに改めて誘引の力を乗せた魔弾〈標的指定〉を放つ。
これは、オーナーに頼んでバックヤードに収められている漂流物の中から探し出してもらった初級誘引魔法である。
撃ち込んだ相手に軽い引力のようなものを発生させる効果があるという魔法だが、あまり強い魔法ではないので、まあ、ちょっとした攻撃補正のようなものと考えてもらえばいいだろう。
これなら剣術は未だ素人の域を脱していないマリィさんの剣筋も準上級者くらいになるのでは?そんな説明をオブラートに包んで説明。
「取り敢えず、こっちの相手は僕がします。マリィさんはマーリンの方を潰して下さい」
それぞれの役割分担を決めてしまう。
「与し易い相手から潰していくという作戦ですね。分かりましたの。ですが、その子もなかなかの強敵ですわよ」
マリィさんからこんな忠告をされてしまうが、ガラハドを作ったのは万屋のオーナーたるソニアである。言われるまでもなくそのスペックが高いことは知っている。
「僕も伊達にこれまで半年以上この世界で戦ってきてませんよ。たとえ魔法職として戦っても押さえることくらいは出来ます」
地球からしたら一万倍以上、他の魔法世界と比べても規格外の魔素濃度を持つアヴァロン=エラで魔法の練習をしてきたのだ。魔力量だけなら僕も中堅と呼ばれる魔法使いくらいは所持している。
「援護します。〈氷筍〉」
魔力を込めて唱えた魔法名が地面から伸びる氷の槍を作り出す。
氷のディロックをメイン使っていた所為か、それとも水の精霊の一種であるセイレーンのアクアと契約したからか、気が付けば僕は【氷華の魔法使い】という実績を得ていた。
その権能は氷魔法の威力・習得率向上というもので、
地表から約1メートルほど、ちょうど二体のゴーレムの真ん中に突き出した氷の槍が二体の動きを分断する。
そして、この方はまた何も考えていないのだろう。初撃と同じように一直線に突っ込んでいったマリィさんが、炎を灯したマーリンが放つ水の魔弾を蒸発させ、強引にガラハドから引き離す。
一方の僕は、攻撃を受けるマーリンのフォローに入ろうとしたガラハドを再び発動させた〈氷筍〉で足止めする。
そして始まる一対一の戦い。
僕は炎と水が荒れ狂うマリィさん達の戦場を視界の端に目の前のガラハドに攻撃を放つ。
とはいっても、攻撃の手段は相も変わらず〈氷筍〉のみだ。
そもそも僕が持っている攻撃魔法はこれしかないのだ。
かたや、ガラハドはやや短めの黄金の剣を片手に携え、変幻自在の剣筋で襲い掛かってくる。
因みに起動してからまだ一日と経っていないガラハドが、何故ここまで動けるのかといえば、それはベル君にエレイン君達と、先に起動していたゴーレム各位がそれぞれに溜めたアヴァロン=エラで起きた戦闘風景の記録がインストールされているからである。
だから、ガラハドは生まれながらにして、この世界で扱われた――特にフレアさんの動きが大きなファクターを占めているのだろう――剣術が扱えるのだ。
しかし、それはあくまで型通りの剣筋でしかない。
そこにはフレアさんの剣が持つ特有の奔放さや、魔獣が放つ攻撃のような野生が存在しない。
とはいえ、不得手とはいわないまでも普段あまりしな戦闘スタイルで戦う僕と自分の得意な戦術で戦うガラハドとの差は大きい。
そして、おそらくは凄い速さで自分の中のデータと現実とをすり合わせているのだろう。ガラハドの剣筋は時を追う毎に鋭くなり、バリアの耐久値という数字となって徐々にその差が大きくなっていく。
さすがはゴーレムの学習力だ。上達が人間離れしている。
このままだとジリ貧かもね。
時間が経つにつれ、被弾が多くなり、ボロボロになっていく僕のバリア。
とはいっても、ガラハドやマーリンも含めて、訓練している全員にかけられたバリアの耐久力は、安全性を考慮して実際に表示されている数字以上の耐久力があるから、ボロボロになっていくバリアというのは演出に過ぎないが、周りからすると、明らかにピンチに陥っていることが一目で理解できるだろう。見学している特殊部隊の皆さんから呻くような野太い声やら、黄色い悲鳴が聞こえてくる。
そして、戦い始めて五分と経たず、僕のバリアの耐久値が一割を切る。
もしもガラハドに人間的な心理があったのなら、ここで一気に決めてやろうと考えるのかもしれない。
しかし、いい意味でも悪い意味でも、ガラハドを操っているのはまだ自我がはっきりしていない原始精霊だ。
ただ淡々と、まさに機械のごとく僕を追い詰めてくる。
本当に厄介な相手である。
僕は決着を目の前にしながら着実に削りにくるガラハドを心の中で賞賛しながらも、やられる気などさらさらなかった。
訓練とはいえ起動したばかりのガラハドに負けていては僕を店長として立ててくれているエレイン君達にいい顔は向けできない。
まあ、ベル君やエレイン君にはそんな意識なんて無いだろうから、あくまでこれは僕自身のプライドのようなものであるが。
残り僅かなバリアの耐久値を気にしながら、僕は一転、反撃に打って出る。
とはいっても、魔法しか使わない自分ルールが適応されている為、攻撃手段そのものに変化はないが、
とりあえず、〈氷筍〉と〈標的指定〉の魔法を利用して、様々な角度からの攻撃を行ってみる。
こうすることによって、ガラハドの攻撃のリズムを崩せればと思っていたのだが――、
そう簡単にはいかないらしい。
エレイン君達が使うゴーレムネットワークを使っているのか、それとも生まれながらにインストールされた剣士としての技術によるものなのか、ガラハドは全方位からの氷の槍にも素早く対処してみせる。
さすがに全ての氷の槍を切り払い、盾で受け、時に避けるなんて事は出来ないみたいだが、被弾を最小限に、僕を倒さんときっちり攻撃を入れてくる。
ふむ、だったらここは無理やりに隙を作るしかないか。
崩せる隙が無いのなら、無理矢理に作ってしまえばそれで解決だ。
僕はセクシーなコマンド部隊さんが言いそうな格言を心の声で呟いて、とある魔法を発動させる。
「〈氷壁〉」
これは氷属性で初級に位置する防御魔法。熟達した【氷魔導師】が使えば、恐ろしい防御力を発揮する魔法になるのだが、僕が使うと薄い氷を作るのが精々の魔法である。
しかし、そんな魔法をなぜ今になって――、
いや、このタイミングだからこそ使う魔法なのだ。
僕は手を突き出し、機械のように綺麗な斬撃を繰り返すガラハドの足元に氷の壁を作り出す。
そう、氷の壁を作るのは、なにも自分の盾になる位置でなくてもいいのだ。
そして足元に形成されたその薄い氷の壁がガラハドが足を取る。
それがちょうど剣を振り出したタイミングなら、なおさら滑る。
そしてガラハドに収められた剣士の動きは、あくまでアヴァロン=エラでの戦い、エレイン君によって記録されたフレアさんの動きが殆どを占めている。
その記録の中には、こんな風に足元に氷を作られ、不意を突かれたという経験はないハズだ。
と、そんな僕の目論見はどうやら正解だったみたいだ。
地面に張られた氷の壁に足を取られたガラハドは、間抜けにも股裂き状態でバランスを崩す。
「〈氷筍〉」
そして、地面から生えた氷の槍が地面から伸び、結界によって守られたガラハドの股間を氷の槍が強打する。
おそらく、この攻撃には、見学している特殊部隊の皆さんの大半が顔をしかめることになっただろう。
だが、まだ足りない。
何故ならいま僕が戦っているのは明確な急所を持つ人間ではなくゴーレムの剣士だからだ。
一応、人型ということで、結界に組み込まれた急所へのダメージ倍加設定が適応されるだろうが、そもそもゴーレムと人間では素体として持っている防御力がまるで違うのだ。
ここは一気に攻めるところだろう。
「〈氷筍、〈氷筍〉、〈氷筍、〈{氷筍〉、〈氷筍、〈氷筍〉、〈氷筍、〈氷筍〉、〈氷筍、〈氷筍〉」
アヴァロン=エラの魔力回復力にあかせ、大量の氷筍を作り出した僕は――、
「〈一点強化〉――っ!!」
強化された両腕でガラハドの巨体を氷筍の筵となっている地面に叩きつける。
プロレスで言うところのスレッジハンマーという技だ。
ガラハドを覆う結界と氷の筵が刺さり擦れ合い、ギャリギャリと鉄を引っ掻くような不協和音が周囲に響き渡る。
そして、急降下するガラハドを包むバリアの耐久値。
果たしてこれは【魔法使い】の戦い方だろうか。
本職の【魔法使い】に聞いたのなら、否――と答えるのかもしれない。
だが、そんなことなど僕の知ったことではない。
要は魔法の力で相手を倒す方法があり、それを実行できる力があれば、即ちそれが【魔法使い】の戦いなのだから。
ただ持てる魔法を使って、全力で目の前の敵を倒せばいいだけだ。
しかし、それでも僕の魔法でガラハドのバリアを削りきることは難しいらしい。
ガラハドは僕が二撃目を入れる前に崩れた体勢から剣を跳ね上げてくる。
このままでは先にバリアの耐久値を削れるのは僕の方だ。
だけど、この勝負は僕達の勝ちだ。
「お待たせしましたの」
まるで遊びの待ち合わせにでも遅れたような気軽さでマリィさんが僕達の戦いに割って入ってくる。
そう、もう一つの決着は僕が攻勢に出る少し前についていたのだ。
魔法を知り尽くす者として、まだ完全な学習が終わっていな魔法特化のゴーレムを殆ど魔法を使わない状態で倒すことなど造作も無いことだったのだ。
マリィさんが騎士の矜持とかそういうのに拘る人だったら、この助けは無かったのかもしれない。
いや、【魔法剣士】としてならば、正しく正しい戦い方なのだろう。
マリィさんは正しく【魔法剣士】として魔法の力を利用したのだ。
近距離と中距離、どちらの戦闘をもこなせる炎の剣を振るい、風の魔法を使った爆発的な推進力で敵を討つ。
それを戦闘中の視界の端で確認した時に僕の勝ちはほぼ決まっていた。
〈推進風〉による加速と〈炎剣〉によって攻撃力の増したマリィさんの斬撃を受けてはじけ飛ぶガラハド。
だが、それでもまだ数%の耐久値が残っていた。
本当に頑丈だね君は――、
「〈氷筍〉」
さすがに二回連続で魔法を複数展開するような精神力は僕にない。
だから、この魔法はマリィさんへのアシストだ。
僕の一発で稼いだ時間に、大振り後の硬直から立ち直ったマリィさんが裂帛の気合でもって炎剣を振り下ろす。
「ハッ、落花火炎斬!!」
えと、なんですかその技名……。
でも、なんとか残る耐久力を削りきれたみたいだ。
パリンと涼やかな音を立ててガラハドのバリアが砕け散る。
そして、響き渡るゲームクリアのファンファーレ。
それを聞いた瞬間、一気に精神由来の脱力感が襲いかかる。
さすがにへたり込むような事はしなかったけれど、疲れた。
やっぱりディロックとか空切と、僕は道具に頼っていたんだなあと思い知らされる。
「ギリギリでしたね」
「それでも勝ちは勝ちですの」
僕は、どこで覚えたのか。残心を残しつつも地面に倒れたガラハドから距離を取り、エストックを腰の鞘に仕舞うマリィさんとそんな声を交わしながらも、近くで戦いの様子を見ていた特殊部隊の皆さんに向き直る。
「こんな感じですけど、どうでしょうか」
今の戦いの感想を聞く感じで軽く声を掛けるのだが、それに対して隊長さんはふだん真面目な顔を更に真面目にして、
「虎助君、我々にあの戦闘は無理だ。できればもう少し難度を下げてもらいたいのだが――、できるだろうか?」
スカルドラゴンを倒せる皆さんならいけると思うんだけどな。
やっぱり所持する魔法の種類が少ないと、戦術の幅が狭まってしまうのかもしれないな。
「じゃあ、とりあえず、四対ニくらいから初めましょうか」
◆そして、また暫く放置される特殊部隊員さんです。
◆ちょっとした魔法解説。(〈標的指定〉の説明を少し改変しました)
〈標的指定〉……誘引の初級魔法。魔力に誘引の力を乗せてさまざまな形で使用可能。魔法の引き寄せ効果を発生させる。複数指定することにより、アクションゲームのロックオン機能のような効果がつけられる。
〈氷筍〉……氷の初級魔法。地面に氷の槍を発生させる。魔法の練度によって大きさ、形状、発動速度、角度を自在に変えられる。
〈氷壁〉……氷の初級魔法。任意の場所に氷の壁を出現させる。強度、厚さの調整は練度に依存する。
今回、虎助は〈氷壁〉を利用して、地面に氷を張っりましたが、氷魔法には〈氷原〉など、それ専用の魔法も存在します。




