名も無き特殊部隊の秘密特訓4
◆なんとか書き上げました。誤字脱字がございましたら誤字報告の方にお願いします。
さて、今後の方針も決まったところで、もういい時間である。特殊部隊の皆さんを宿泊施設に案内することにする。
とはいっても、数々のディストピアが安置されている施設から出てすぐの場所にあるテントなのだが――と、皆さんを伴いその場所へと赴くのだが、
「あの、これは一体――?」
「一体って、皆さんの宿泊場所ですけど、ああ、因みに食事の方は予め母さんからお金を受け取っていますので、その範囲で言ってくれればエレイン君達が用意してくれますのでよろしくお願いします」
「いえ、そういうことではなくて――」
「えっと、こういうのって何て言うんでしたっけ? ……グランピング?」
「つか、どこのリゾートホテルかってんだよ」
「リゾートホテルって――、これはテントですよ」
そう、新たに作った宿泊施設。外見こそは南国リゾートかくや開放的なコテージのように見えるのだが、その実、母さんが特殊部隊の皆さんの派遣元である警察から譲り受けてきたテントやらなんやらを素材に少し手を加えて作った建物だったりするのだ。
だから、隊長さんや春日井さん、八尾さんが驚くようなものではないと思うのですが、
そう言って僕は興奮する皆さんを宥めるのだが、
「いやいやいやいや、テントってこれがですか――っ!?」
「でも、言われてみれば壁(?)の部分はテントの素材が使われているみたいですよ」
「マジかよ!?」
「いや、皆さんが帰った後は簡易宿泊施設として使おうと考えていますので、ある程度しっかりしたものを作らないと――と思いまして」
最初は郊外なんかにあったりするキャンプ場みたいに、普通に母さんに渡されたテントを設営してお茶を濁そうなんて方法も考えたりもしたのだが、それだと訓練の為にせっかくここまで来てくれた隊員の皆さんにも悪いし、そもそもここアヴァロン=エラには、熊どころか、それよりも凶暴な魔獣なんて生物がゴロゴロやって来たりするのだ。
だから、せめて一発、どんな攻撃にも耐えられる結界を構築できるようなものでないと安心して眠れないだろうと、魔法式を建物そのものに刻み込むべく、それなりに豪華な素材を使わなくてはならなかったのだ。
と、そんな説明も呆然に拍車をかける結果になってしまっただけなのか、ただただ豪華なテント(?)を前に立ち尽くす隊員の皆さんを、僕は魔力を込めた拍手で強制覚醒させると、どうにかこうにかテントの中に誘い入れ、その片隅にうず高く積まれる装備品の前に連れて行き、
「そして、これが皆さんの新しい装備です。明日からの模擬戦ではこちらを使った方がいいと思いますので、今日か、明日の朝にでも確認しておいて下さいね」
預かっていた装備を引き渡し、これで今日の仕事は終了だと、挨拶を済ませて自宅に帰ろうとするのだが、そんな僕の言葉を遮るように隊長さんがこんな質問を飛ばしてくる。
「あの、ゴーレムの話はついさっき決まったものだと思うのですが、ゴーレムとはそんなにすぐに作れるものなのですか?」
「ええ、重要部品は有り物として完成していますからね。必要なのは細かな調整と装備品だけですから、作るのにはそれほど時間がかからないんですよ」
もしかすると隊長さんは、また数日ほど、スカルドラゴンと戦う日々が続くものと覚悟していたのかもしれない。
そんな隊長さんの一方で、八尾さんがこの二週間ほどで気に入ってしまったのか大剣を担ぎ聞いてくる。
「なあ、そのゴーレムってのと戦うのはこの獲物じゃダメなんか?」
「えと、ここならその装備でも構いませんが、実際に皆さんが活躍するのはここじゃありませんよね。さすがにそのままの恰好で日本の街中を歩いたら捕まってしまうと思うんですよ」
僕が渡した大剣等の武器類はあくまで対スカルドラゴン用の装備である。特殊部隊員さんの元々の装備を改造するまでの繋ぎという意味と、効率的に強い実績を獲得してもらう為に渡した装備なのだ。
日本でも、皆の安全を守る為、魔獣退治やらなんやらと、そういう任務があるのなら、大剣等のファンタジー武装を渡すのも吝かではないのだが、相手が魔法を使うかもしれないとはいえ、ただの対暴漢、対テロリストに、剣やら槍やらを持ち歩いている特殊部隊なんかがいたら、それこそどこの中学二年生?なんて言われるような案件になってしまうのではないか。
そんな僕の指摘に八尾さんはガシガシと頭を掻いて、
「そういやここって異世界って奴だったか、もう二週間以上このカッコだからな、すっかり慣れちまってたぜ」
とはいっても、この十数日間、八尾さん達が過ごしたのは、異世界の中でも更に特殊な空間であるディストピアの中で、異世界の中でも更に特殊な空間だったのだが、それを言い出すと説明が面倒になりそうなのでスルーして、
「その辺り、魔法の力でどうにかならないのかい?」
「そうですね。マジックバッグなんかを使えばできなくも無いんでしょうけど――」
隊長さんもすっかりファンタジーな装備に慣れてしまったのか、ちょっと無茶ぶりにも聞こえる質問を飛ばしてくる。
「マジックバッグというと、あの四次元で有名なあのポケットみたいなもですか」
聞いてきたのは春日井さんだ。わざわざ誰でも知っているような例を出して聞いてきたのは、サブカルチャーに詳しく無さそうな隊長さん達を気遣ってのことだろう。
「はい。そういうイメージでいいかと、ですがマジックバッグは希少なものですからね。全員分という訳にはいかないんですよね」
現在、バックヤードに在庫としてあるマジックバッグの材料はビッグハムスターの頬袋が少しだけ――、
このアヴァロン=エラに紛れ込んできた古龍の素材の一部を使えば、同じく大容量の収納を確保できる魔導器が作れるだろうけど、材料費から技術料、出来上がる収納魔導器の性能も含めて換算すると、それ一つだけでちょっとした小国の国家予算並になってしまうのだ。
話の流れから、そんな収納系の魔導器の説明を僕がすると、春日井さんに代わって隊長さんが、何処かで理解してくれたのかは不明だが、高価なアイテムであることは伝わったのだろう。他に方法はないかと聞いてくるので、
「一応、空間魔法にも似たような魔法がありますけど、空間魔法の習得には相当の期間が必要ですからね」
ちょっとではあるが適性のある僕でも、この魔素が濃密なアヴァロン=エラで練習を初めて三ヶ月、ようやく小物入れ程度の物品が収納できるようになったくらいである。
他の世界で才能ある者が数年の鍛錬でようやく馬車一台となるまでに鍛え上げるという、空間魔法を残りの期間で実用レベルにまで引き上げるのは難しい。
そもそも、僕と同じく、多少なりとも空間魔法の才能があるのではないかと判定された隊員さんは一人だけ、それではどうしようもならないのだ。
「現実的な方法は魔法で剣そのものを作り出す方法ですかね」
そして、最後に提案したのは魔法剣という技術だ。
これは、武器を魔力で覆い、その攻撃力などを強化する魔法なのだが、属性にもよるのだが追加効果を発生させたり、刀身を伸ばしたりできるのだ。
だが、この提案に八尾さんは、
「俺、魔法、苦手なんだけど」
特殊部隊というだけあってというべきか、特殊部隊員の皆さんの殆どが【魔法使い】としての素養が薄く、いわゆる肉体信奉者達が大勢を占めていた。
「でも、肉体強化魔法はちゃんと使っていましたよね」
「肉体強化魔法?」
「ええ、マンガとかにある気とかそういうものをイメージしていただけたら分かり易いのかもしれませんね。体に魔力を纏うことによって肉体を強化する魔法です。たぶん剣などに付与されていたものを使っていたと思うんですけど……」
スカルドラゴンの戦いっぷりを見る限り、無意識にも使いこなしていたと思われる。
「おおっ、マジかよ。てこたぁ、俺等も一応は魔法使いになってたってことなのかよ」
どちらかというと【魔法剣士】やら【モンク】なんて実績を獲得しそうな戦いっぷりだったけど、
「少なからず魔力も上がってるみたいですしね。ちゃんと魔法らしきものは使っていると思いますよ」
ステイタスをチェックしてみないことにはちゃんとした事は言えないが、対象が保持する魔素の量を測る〈調査〉で見る限り、二週間前の数倍から十数倍くらいにはなっていると思う。
後はそれを意識的に使えるようにすれば、武器に魔力を通して強化――属性剣みたいな運用ができるのではないか、そう八尾さんに伝えると、、
「な~る。足りない分は自分の中から捻り出せってことだな。 で、用意してあるんだろ」
八尾さんが何か物欲しげにちょいちょいと指先をしゃくるので、
「ああ、特別な魔具は必要ないです。新しく更新したナイフに〈一点強化〉っていう各部位を選んで強化ができる魔法の式を刻み込んでおきましたから」
「へぇ、因みに全身を強化とかは出来ねえのか?」
「最初から全身の強化は魔力の消費が大きすぎますから、入門編として〈一点強化〉からですね。でも、練習して全身の強化魔法を使えるくらいになる頃には、たぶん〈一点強化〉を複数展開して全身を強化――なんてこともできるようになっていると思いますよ」
だったらどうして全体強化の魔法があるのかという話になるのだが、そこには複数の魔法を同時展開させる難しさや、戦闘態勢に移るまでの時間短縮、それぞれの魔法に係る素養の違いなどがあったりして、
そこまでの魔法となると、ある程度の適性とか、実績やらと、才能の世界に片足を踏み込んでしまうからなのだ。
「どっちにしても、この入門編をクリアしねえとどうにもなんねえってことだな」
「そうですね」
と、新たな目標が出来た肉体信奉者達の傍ら、春日井さんたち後衛の面々はといえば、
「それは私達の装備にも同じ効果があるのですか」
「後衛の方々には銃を改造した魔法銃を用意してあります」
「魔法銃ですか。普通の銃ではダメなんですか?」
スカルドラゴンとの戦いでは殆ど役に立たなかった実弾銃も対人間ならば十分に有用な武器である。実弾銃があるのなら魔法銃はお役御免になるのでは?という春日井さんの質問に、
「殺すのを目的としたなら銃でも問題は無いのですが、春日井さん達は任務はそうではありませんよね」
現状、日本の警察が故意に犯人を殺害したケースは数十年に起きたジャック事件やら立てこもり事件が精々といった感じだったハズだ。
そして、魔法使いが起こすテロ事件なんてそうそう起きるものではないが、それが現実に起こったとして、殺さずに捕縛するには魔法銃の方が都合がいいのだ。
「制圧目的とするのなら魔法銃の方が有用という訳ですね。しかし、見た目そのままで魔法銃に改造してしまったというのはどうなんでしょう」
僕の説明を聞いて、春日井さんが困ったような顔を隊長さんに向ける。
おそらく春日井さんとしては、支給された拳銃を勝手に改造してしまっていいのだろうかという心配があるのだろう。
だが、その辺りはきちんと考えてある。
「そのことなら大丈夫ですよ。その魔法銃はきちんと実弾銃としても使えるようになっていますから」
春日井さん達の銃は既にもともとの銃を魔法金属化して、そこに魔法式を組み込んだ改造魔法銃なのだ。
その分、元々の銃よりかは耐久力は劣るのだが、その分、魔法式を書き込む面積も増えたということで、自動修復などの魔法式も組み込むことが可能となった為、ちょっとやそっとのことじゃ壊れない代物になっているハズだ。
そして、この魔法銃は一定以上の魔力を持たない人にとってはただの銃器でしかなく、魔法式そのものも特殊な方法で隠匿されている為、警察関係者が見ても、おそらく改造されていることに気付かないだろう。
「はぁ、しかし銃まで改造してしまうなんて、魔法っていうのは凄いものなんですね」
本当のことを言うと、魔法そのものが凄いのではなくて、銃を理解して、そこに魔法式を組み込めるソニアが凄いのだが、あえてそれを指摘するのもまた面倒なのでここは黙っておくとしよう。
と、これであらかたの説明は終わったかな。
「えと、質問は以上でよろしいでしょうか。僕、そろそろ帰らないと行けないんですけど」
「あ、ああ、引き止めて悪かったね。では、また明日」
「はい。また明日、何か問題がありましたら。その辺にいるエレイン君――赤茶色のゴーレムに声をかけてくださいね。それでだいたい事足りますから」
最後に何か合った場合の対処を教えて、ようやく帰宅の途につく僕であった。
◆知人に言わせるとグランピングはキャンプではないそうです。
極寒の地方でカマクラに宿泊体験が出来るというあれはサバイバルと呼んでいいそうです。
◆ブクマ・評価等々、いつもありがとうございます。執筆の励みになります。




