名も無き特殊部隊の秘密訓練3
◆久しぶりの特殊部隊シリーズです。因みに視点の方は虎助となっております。
「帰り道、気を付けてくださいね」
時刻は現在午後八時半、最後までこの万屋に残っていた常連客の魔王様をそんな言葉で見送った僕は、終業前の一仕事として、とある人達の下を訪れることにする。
会いに行くのは万屋のオーナーであるソニアではなく、つい二週間ほど前にこの世界へと送られてきた特殊部隊の皆さんだ。
ここ最近の日課として僕は、相も変わらずスカルドラゴンに挑み続ける彼等の様子を見に行っているのだ。
だが、その戦いぶりには大きな変化があって、
降り立ったディストピアではまさしくそんな変化を示す光景が繰り広げられていた。
「包囲完了しました」
「春日井班。一斉射撃!!」
「「「「「火弾」」」」」
「良し壁際に追い込んだ。八尾、一気に畳み掛けるぞ」
「了解」
響く砲声に閃く火弾の連射。次いで響く野太い声に、コロッセオの客席部分に待ち構えていた短髪の大男が勢いをつけてジャンプ。壁際に押し込まれたスカルドラゴンに斬りかかる。
飛びかかってくる大男に気付き腕をクロスさせて防御態勢を取るスカルドラゴン。
しかし、そんな知ったことかとばかりに振り下ろされた唐竹割りはスカルドラゴンの片腕を斬り落とし、そのまま足を払ってやろうとばかりに横薙ぎを放つ。
「八尾下がれ!!」
だが、片腕を失ったスカルドラゴンはその痛みなど全く感じていない様子で、切り落とされた腕を巻き込むようにぐるんとその場で一回転、遠心力の乗った尻尾による一撃を八尾さんを含めた特殊部隊の前衛陣に向けて繰り出す。
一斉に飛び退く隊員達。しかし、その中で一人で遅れた者がいる。スカルドラゴンに攻撃を放った八尾さんだ。
遠心力がたっぷり乗せられた鞭のようにしなる骨尻尾が大柄な八尾さんをまるで木の葉のように弾き飛ばす。
しかし、万屋製の革鎧のおかげか、それとも遅れ気味にも回避行動を取ったおかげか、どうにか即死を免れたのようだ。立ち上がろうとする八尾さんに一人の女性隊員が駆け寄って回復魔法を唱える。
「〈治療〉」
だが、そんな二人にスカルドラゴンが迫る。
腕を斬り落とされたことによるヘイト上昇は、尻尾の一撃だけでは収まらなかったみたいだ。
ガシャガシャとけたたましい音を立てて、体高にしておよそ10メートルはあるだろう巨体が、スピードを上げて二人に突っ込んでいく。
このままいけば、二人は跳ね飛ばされ、即死してしまうだろうと、そんなスカルドラゴンの進路に、
「ディロックいきます」
後方に控える男性隊員からの声の直後、ルビーのような輝きを放つディロックが投げ込まれる。
投げ込まれてからきっちり三秒、発生した火柱が八尾さん達に特攻をかけたスカルドラゴンを吹き飛ばす。
そして、スカルドラゴンが倒れたその隙を突いて、武闘派の隊員さん達が一気呵成に攻め立てる。
槍を、戦斧を、ハンマーを、担ぐように持った大柄な男達が、炎に撒かれ、全身から煙を立ち上らせるスカルドラゴンを一気呵成に攻め立てる。
そして――、
「よくもやってくれたな。オラァ――ッ!!」
味方の回復魔法を受けて復活した八尾さんのダメ押しによって、電柱くらいの太さを持つスカルドラゴンの片足が破砕。その機動力を奪うことに成功する。
そこから先はもう一方的な展開だった。
隊員の皆さんが全員、手に手に武器を持ってスカルドラゴンを攻め立てる。
最早そこには、情けとか容赦とかそういうものは存在しなかった。
ただ弱った相手を袋にする。それくらいする気概がなければ、骨となったとはいえ龍種を相手にするのには心許ないのだ。
数十人にも及ぶ特殊部隊による集団リンチと言う名の互角の殴り合いが始まる。
それから数分、スカルドラゴンが光の粒となって爆散する。
そして、この瞬間だけは何度訪れても嬉しいものなのだろう。隊員の皆さんが思い思いの方法で勝鬨をあげる。
僕はそんな喜び渦の中、喜び勇む隊員さん達の邪魔にならないようにと、陣取っていた客席から音もなく降り立って、歓喜の輪から少し外れた位置で全体を俯瞰する隊長さんに声をかける。
「スカルドラゴンはもう安定的に倒せるようになってきましたね」
すると、僕の声に気付いた隊長さんが驚いたように振り返って、
「あ、ああ、虎助さんですか。いや、まだまだですよ」
どうも年上からさん付けで呼ばれるのには違和感を感じてならないな。教える立場と教えられる立場しっかりしておかないとということで、こんな呼び方になっているんだけど。
「それでどうですか実績の取得状況はどうなっていますか?」
このスカルドラゴンのディストピアを一度クリアした時点で、隊長さんにはステイタスプレートを渡してある。現在の実績獲得率がどのような状況になっているのか訊ねる僕に隊長さんが答えてくれるには、
「回復に従事している者の獲得率が悪いですね。 貢献度――ですか?それがあまり反映されていないように思えます」
討伐系の実績は、実績の対象となる生物と戦った時間か、質か、その両方かによって決まるみたいだから、回復やサポートを担当している人が討伐系の実績を獲得するのは難しいという。
「でも逆に後衛の皆さんは【見習い魔法使い】などの魔法系実績を手に入れたんじゃないですか?」
「ええ、虎助さんの言う通りですな。後方支援をする隊員たちにそのような実績が現れたという報告が上がっています」
「魔法使い系の実績を上げていけば、強い魔法が込められた魔具も使えるようになりますから」
最終的には中級の魔法が無詠唱で使えるようになれば討伐系の実績も取りやすくなる。
さすがに残り短い訓練期間だとそこまで成長するのは難しいけど、このアヴァロン=エラでガンガン魔法を使って、魔力そのものを上げられたら、向こうでも魔法系の実績の獲得率が上がるだろう。
しかし、成長といえば体長さんもすっかりゲーム用語満載のファンタジー世界の戦闘に慣れてしまったみたいだな。普通に実績やらなんやらの仕組みを理解してくれているようだからね。
やっぱりゲームじゃなくて現実的に存在するシステムということも大きいだろう。
「こうなると実践をするのも視野に入れてもいいかもしれませんね」
「実践と言いますと――」
「ここに迷い込んでくる魔獣との戦闘ですね」
隊員の皆さんにはこのアヴァロン=エラどういう場所なのかということを簡単にではあるが伝えてある。
手っ取り早く実績を獲得するには魔獣を倒す方法が一番効率がいい。
「それはまだ早いのでは」
しかし、隊長さんとしては安全策で行きたいらしい。
まあ、僕は母さんではないのだ。依頼主が嫌というのなら無理を言うつもりはない。だから、
「あくまで皆さんのレベルに合わせた魔獣が現れたらですけどね」
たとえば、素人である義姉さんでも普通に渡り合えたオーク程度の魔獣なら、いまの皆さんでも十分対応できる相手なのではないか。そういう魔獣をチョイスして、スカルドラゴンに変わる対戦相手として紹介してあげれば、もっと簡単に実績の獲得ができるのではないか。
とはいえ、平和ボケした日本に作られた特殊部隊を預かる長としては、軽々しくそういう判断が下せないのいのだろう。
しかし――と戸惑うように言葉をつまらせる隊長さん。
「別のディストピアに潜るという手もありますけど、一応、本当の意味での実戦を経験しておいた方がいいんじゃないかと母さんが言ってまして」
「教官が――ですか」
ディストピアというあまり現実感のない戦いに慣れてしまい、怪我をしても大丈夫――だなんて意識がクセとして残ってしまっては兵士としては欠陥品だ。
要は何事にもバランスがあるのだ。と、そんな母さんから伝えられた言葉の意味に思い悩む素振りを見せる隊長さん。
と、そんなところに――、
「俺は魔獣との戦いってのもいいと思うぜ」
そう言って、会話に入ってきたのは八尾さんだ。喧嘩っ早い性格をしているようだが、慣れれば気のいいこのお兄さんであるこの人は、やはりというかなんというか、『命がかかった実践訓練なんて上等だぜ』と、そんなメンタルの持ち主だったようである。
「だがなあ――、もし万が一なにかあったら、上になんと報告したらいいんだ」
しかし、隊長さんはもしもの場合のことまで考えているのだろう。
とはいえそこは、アヴァロン=エラに張り巡らされた加護とも言える防御システムもある上に、エレイン君達がフォローに回れば、たとえ魔王の来襲があったとしても、よっぽどの事でない限り人死は出ないと思われるのだが、完全に――、100%――、絶対に――、そんな保証は僕にもできないから――、
「でしたら本格的な実戦の前にゴーレムを相手に模擬戦をしてみますか。技能系の実績獲得には長い期間の鍛錬が必要なので、そういう意味ではあまり意味がないのかもしれませんが、実戦経験という意味でなら、かなり有用かと思いますけど」
考えの途中、ふと思いついたことを提案してみると隊長さんは顎に手を添えて、
「ゴーレムとはあの小さな人形のことですな。しかし、大丈夫なのですか。その、あまり訓練の役に立ちそうには見えませんが――」
まあ、エレイン君達は見た目ただのマスコットキャラにしか見えないからね。隊長さんの心配も当然なのかもしれないな。
「それなら新しく戦闘訓練用のゴーレム作ってもらうのも面白いのかもしれませんね」
「我々の為にわざわざそんなことまで――、悪いですよ」
「いえいえ、これは僕達の為でもありますから」
量産型のゴーレム作成にあたり、現在、工房ではレアな属性の精霊が宿ってしまったゴーレムコアが少々ダブついている。
どうせならこれを期に、このアヴァロン=エラの戦力増強を測って、幾つかの実験機を作るのもいいのではないか。
そして、格闘術などを訓練している特殊部隊の皆さんから得られるものも大きいだろう。そう言って説得すると、
「要するに俺等は実験相手ってことになんのか?」
「身も蓋もないことを言ってしまうとそうですね。でも、僕の知り合いに高位の魔術師がいますから、対魔法使いとの戦いを学ぶのにはうってつけの相手を用意できるかと」
「成程、我々は魔法の存在を操る人型の相手と戦う経験を、虎助さん達は我々の戦術や戦闘技術を学べる。そういう訳ですね」
まあ、単純な戦闘術の類なら母さん一人でどうとでもなるようなものではあるが、特殊部隊として集団で戦う戦闘方法などは学ぶべきことが多いだろう。
「そういうことでしたら、お願いしてもいいですか」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
◆余裕があれば明日までにもう一話書き上げたいです。
(期待しないで待っていてくださるとありがたいです)




