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幕間・元春とカラオケセット

◆今週の一話目です。

「なあ虎助、俺にも店を作ってくれよ」


「冗談じゃなくて本気なの?」


 日も沈み、訪れるお客様もいなくなった店内で、もう何度目かになるかのおねだりをしてくるは、僕の残念な友人である元春だ。

 一晩でこの万屋を改装してしまった話を聞いてから、時たまこういうことを言ってくるのだ。

 僕としてはまたいつもの冗談だろうと、最初はそう思っていたのだけれど、どうも元春は本気のようで、


「当たり前だろ。俺は金がたくさん欲しいんだよ。俺は一生遊んで暮らしたいんだよ」


 それは誰しもが一度は思いながらも口に出すのを憚られる願望だ。

 それを真剣に声高に叫ぶなんて――、さすがは元春というか、そこに痺れも憧れもしないけど……。


「でも、商売をするっていってもどうするの。もしかしてこっちでも栄養ドリンクを売ったりするとか?それだと賢者様の商品と競合したりしないかな」


 元春は地球の方で個人的に例の栄養ドリンクをばら撒いてそれなりに儲けているらしい。

 それに味をしめ、異世界からのお客様が訪れるこのアヴァロン=エラでも商売をしたいと考えているのか思ったりもしたのだが、どうやらそれも僕の考え過ぎだったみたいだ。


「いや、俺が相手にするのはマリィさんとマオちゃんだ」


 そう言って、元春は最近のお気に入りである体感系格闘ゲームに興じる二人を見る。

 成程、お金を持っていて地球側の技術を知るこの二人にターゲットを絞ってしまえば、この世界でもお金を稼ぎやすいのかもしれない。


「それで何を売るのさ」


「日本が誇る文化――カラオケだ」


 マリィさんや魔王様の趣味嗜好からして、スイーツとか食べ物系を売るのかなと思いきや、まさかの変化球。

 自信満々に胸を張る元春。

 僕がそんな元春にどうリアクションを取っていいものやらと困っていると、


「カラオケとはなんですの?」


 後ろでごちゃごちゃ話していたのが気になったみたいだ。対戦の決着がついたところで休憩とばかりにゲームを中断、ハイハイというなんとも凶悪な動きで話しかけてくるマリィさん。

 僕が呆然と胸元をガン見する元春に代わりカラオケの説明を入れると、


「歌を歌う為にお金を払う。それは本当に商売として成り立ちますの?」


 カラオケの概要を聞いたマリィさんは首をひねる。

 それは最近まで娯楽という文化が皆無だった森の中に暮らす魔王様も同じようだ。

 しかし、元春はそんな二人の反応にもめげないで――というよりも、マリィさんの胸元に意識を持っていかれて話を聞いていなかったのだろう。


「まあまあ、取り敢えずやってみてくださいよ。絶対楽しいですから。ちょっと待っててくださいね」


 そう言って二人が寛ぐ奥の和室に上がり込み、魔王様に断ってゲームをリセットすると、ポケットから取り出したマイクを繋げる。


「そういえばゲーム機からでも出来たんだったね。というか、そのマイクはどこから持ってきたの?」


「お袋がさ――、どこからかゲームでカラオケが出来るって聞きつけてきてな。無理やり買わされたんだよ」


 おばさんカラオケ好きだもんなあ。


「でもさ、日本の歌なんて分からないと――」


 僕の指摘に元春が『しまった』という顔を浮かべる。

 そうなのだ。たしかにカラオケは楽しいものだ。しかし、それは元となる楽曲を知っているからこそ楽しめるものでもあったりして――とはいえだ。


「せっかく準備したんだから一回やってみればいいんじゃないかな。翻訳魔法もあるんだし、一度歌えばマリィさん達の興味も引けるかもしれないし」


「そ、そうだよな。うん。歌を知らなくても俺の美声で地球の歌の素晴らしさを伝えてやるぜ」


「いや、別にわざわざ歌ってみせなくても、童謡とか簡単な曲なら皆で歌えるんじゃあ……。まあ、お手本として先ず聞かせてあげるのは必要かな。でも、ゲーム機どうやってカラオケするの?」


 単にゲーム機にマイクを繋げただけではカラオケなんて出来ないんだよね――と僕の疑問に、元春は「ああ、それな。ネットから引っ張ってくんだよ」とホーム画面を操作、この為だけにわざわざ買ってきたのだろう。ポイントカードでお金をチャージする。


「へぇ、ダウンロードショップからカラオケができるような仕組みになってるんだ」


 僕もゲームのダウンロードは普通に利用しているけどこれは知らなかった。

 セッティングをしてくれている元春を横に、僕は落ちていたマイクを拾い上げて、

 ゲーム機のマイクってことだからもっとちゃちなものかと思っていたけど、結構、本格的なマイクなんだ。マイクの手触りなんかを確かめていると、


「待て虎助、俺が一番だからな。つか、お前が謳ったら台無しだかんな。一番手は俺に、いつもの奴を入れてくれよ」


「あのさ、それ失礼だよ。僕も歌にはそれなりに自信があるんだから」


「自覚してないから怖えんだよ」


 はて、音痴の自覚はないのだが、というよりも、歌に関しては意外だけど上手いよねなんて言われることが多いんだけど。

 そんな僕の疑問を置き去りに、マイク振りかざした元春が僕にコントローラーを投げ渡してきて、


「じゃあ行くぜ。聞いて下さい曲は――」


 いや、選曲くらい自分でやればいいんじゃないか。僕はそんな文句を心の中で零しながらも、投げ渡されたコントローラーを操作、どこからか女の子を落とすならこの曲だ――という情報を仕入れてきて、何回も何回も練習。元春が十八番と自称する某有名歌手のラブソングを選択する。

 そんな僕の一方で、マリィさんと魔王様のお二人は異世界の音楽に興味津々のご様子で、

 ワクワクしながらも静かに歌を鑑賞する体勢に入った二人を前に元春がそのラブソングを歌い始める。

 そして、5分足らずのその曲を熱唱。


「どうだった?」


「うん。いつも通りかな」


 可もなく不可もなく普通に普通な歌声だったよ――と、そんな評価を心の中で付け足す僕の一方で、マリィさんは顔を真っ赤にお怒りのご様子だ。


「な、なんて破廉恥な歌を」


 まあ、いろいろと想像させる歌詞だからマリィさんがそうなってしまうのも分からないではないけれど……。


「あれあれ、お姫様は何を想像しちゃったのかな」


 元春……あんまり挑発すると――、


「〈火弾(ファイアバレット)〉――っ!!」


 やっぱり。こうなった。

 顔面に炎の弾丸を受けて倒れる元春のその横で、魔王様はというと点数が出ることに興味を示していた。

 ゲーマーだけにこういう要素が見過ごせない要素らしい。

 そういえば、専用コントローラーが必要な音楽系のゲームにはこれまで手を出していなかったような。

 ふむ、魔王様が興味を示しているのなら、そういうゲームも今度買ってきてもいいかもしれないな。


「それで、曲の評価は別としてどうでしたか?」


「おい」


「そうですね。気持ちよさそうに歌っていて少し興味がわきましたの。それになんといいますか、誰かが歌う姿を見守るこの感じがいいような気がしますの」


「まあ、カラオケというのはコミュニケーションツールですからね」


「成程、これがあればメイド達もあの城で少しは楽しめますでしょうか。惜しむらくは私の知っている楽曲が無いということですけど――」


 魔王様も意外と乗り気なのかマリィさんがしみじみ呟いた感想にコクコクと頷きを返している。


「そうですね。翻訳魔具を量産してメイドさん達に渡してはどうですか?曲も歌いやすいものをクリスタルに記録すれば何時でも聞けるでしょうから」


「本当ですの?」


 そう言って手を合わせるマリィさんと薄っすらとではあるが何故か真剣な評定をする魔王様にカラオケの選曲方法を教えていたところ、ふと、こんな疑問をマリィさんが零す。


「そういえば虎助の歌いませんの。(わたくし)、虎助がこんな歌を歌うのか興味がありますの」


「……(コクコク)」


 マリィさんと魔王様のお二人がそう言うのなら、リクエストに答えない訳にはいかないだろう。


「じゃあ――」


「ちょ待――」


「なに?」


「いや、マリィさん達は初心者だからな。ちゃんとそれなりの曲を選べよ」


 わざわざそんなことを言われなくても、聞けば絶対いい曲だってすぐに分かる定番の曲を選ぶよ。

 心配症な元春に僕はわかってると首を振りながらも番号を入力。「なんですの」とか「驚かないであげて下さい」失礼なやり取りをしている元春達を横目に歌う体勢に――、

 そして、コホンと軽く喉の調子を整えて、歌い出しのタイミングを合わせ、この曲を歌う者としての作法としてシャウトを一発、砲声するのだ。


「ク○ナイだァァァァァァァァァァァァァァアア!!」


 そんなこんなで曲を歌いきった後にマリィさん達がくれた評価は以下の通りである。


「虎助の意外な一面を見てしまいました」


「(コクコク)」


 あの、それって曲の評価じゃないですよね。

※今回の選曲やキャラの感想に他意はありません。分かり易さを前提として選んでみました。


◆作者からの一言。虎助は異世界、並びに自分の世界で、変人ばかりに囲まれていますのでストレスが溜まっているのでしょう。

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