●ドゥーベの尋問
◆前話からの続きになります。
深い深い森の中――、
魔女の工房・北米支部の工房長であるジョージアが見下ろす先、「んあ」と緊張感なく顔を上げるのはドゥーベ。
ハイエストの幹部が一人、野性味あふれる大男だ。
彼はいまロープで縛られた状態で、同じように捕らえられたマックスや他のメンバーと共に地面に座らされていた。
「起きたか」
「ここは?」
「我々が管理する森の中だ。
と、抜け出そうと思っても無駄だぞ。そのロープにはお前達の力を封じる魔法を施しているからな」
ノータイムで全身に力を込めようとするドゥーベに対し冷静に状況を伝えるジョージア。
「俺達の墓場ってところか」
「それはことと次第によるな」
告げられたその内容は助かるという選択肢が残されているとも受け取れなくもないのだが、彼等が魔女達にした仕打ちを考えたのなら期待するだけ無駄というのが、ここのいるドゥーベ以外の大方の受け止めであり。
「何が聞きたいんだ」
「話が早くて助かる。まずは陰湿な狼使いの件だ。あのニュースはどういうことだ?」
魔女の天敵とさえも言える多数の影の狼を操る超能力者・群狼。
この男が殺害されたという情報が一ヶ月前に一部のメディアにだけ流れた。
その情報の真偽はいかなるものなのかと、ニュースが出る少し前に軍の基地から共に脱出を果たしたドゥーベに情報を出せと睨みを効かせるジョージア達。
しかし、この件については彼等の中にも混乱があるようで、
「そんなの俺達の方が聞きたいくらいだ」
「一緒に脱獄したのではないのか?」
「出たところまでは一緒だったんだが、どうしちまったんだか」
ドゥーベの似合わない歯切れの悪い態度にジョージアが視界の端に浮かぶ不可視モードの魔法窓に視線をやると、そこに映し出されていたメリーが首を左右に振って、『嘘は言っていないかと』というメッセージが魔法窓の上部に表示される。
このメッセージにジョージアは腕を組み。
「つまり、お前達は組織に切り捨てられたということか」
「さあな。俺達の連絡係はウルフラクだし、あのまま帰ったらビスタや他の女共を助けらんねぇじゃねぇか」
一度は政府に捕まっていたドゥーベ達、
そんな状況で組織に戻れば、たとえ幹部とはいえ拘束を受けるのは確実だ。
まだ捕まっている仲間がいる中、そんなくだらないことにかまけている暇はないと、あえて戻らなかったというのがドゥーベの主張のようで、
それは事前に他の面々から聞き取った内容とほぼ同一のものだった。
そして、続く聴取の内容は――、
「お前達はあの少女をどうするつもりだ」
「どうするもなにも今まで通りだろ。アイツは俺等の目や耳だ」
当然のことのように言い切るドゥーベに眉を顰めるジョージア。
「もしも、彼女がお前達についていくのを嫌がったとしたら?」
「は? んなことありえねぇだろ。アイツはそれしかできねぇんだからよ」
「わかった。もういい」
少女がどう考えるのかはわからない。
しかし、ドゥーベの主張は聞くに耐えないと話を打ち切るジョージアに、ドゥーベは理由がわからないというような顔をしながらも、その場を立ち去ろうとするジョージアを見て、
「おい、どこに行くつもりだ」
「用は済んだ。帰る」
「はん、汚い仕事は部下任せってか?」
それは明らかな挑発だった。
おそらくドゥーベとしては、ここでジョージアの怒りを引き出して、近付いたところを強引に抑え込んでしまえば立場は逆転と、そんな計算をしていたのかもしれない。
しかし、ジョージアは挑発的な笑みを浮かべるドゥーベをチラリと一瞥しただけで、
「多少の恨みは果たさせてもらうが別にお前達をどうこうするつもりはない。
ただ、こちらも忙しいのでな。お前達にはしばらくそのままでいてもらう」
まるで興味がないとばかりに冷淡な言葉を残し、何故か森の奥へと歩いていく。
そして数分――、
少なくとも目の届く範囲から人の気配が消えたところで、
「ふん、油断してんじゃねぇよ。獣化が出来なくとも、このくらいのロープなら簡単に千切れるんだっての」
ドゥーベが超能力を封じていたロープを強引に引き千切ると、同じくロープから脱出したマックスが縛られていた手を軽く振りながら。
「これからどうする?」
「そんなの決まってんじゃねぇか、あの生意気な女共にわからせる」
これに慌てるのはマックスに助けられた他のメンバーだ。
「ちょっと待って状況が不自然過ぎる。
これってどう考えても罠じゃないか。
ここは魔女のホームグラウンド、このまま追いかけるのはマズいんじゃない」
「あぁん?
そんなもん俺等だって同じだろ」
「いや、アンタやマックスはそれでいいかもしれないけど、僕達はどうなるんだよ」
そう、森の中の戦闘を得意とするのはライカンスロープも同じこと、
ただ、ワカメヘアーの青年はこの状況、そして先程の戦闘を鑑みて慎重な意見を出すのだが、これにドゥーベは頭を掻いて。
「仕方ねぇなあ。じゃあ、お前等は好きに逃げろよ。そっちの方が危ねぇかもしれねぇがな」
こう言われてしまっては他のメンバーに立つ瀬はない。
結局、残りのメンバーはそれぞれ足取りは違えど返事を効かずに走り出したドゥーベを追従するも、彼等は走り始めてすぐに立ち止まることとなる。
その理由は――、
「臭いが消えた」
「ま、当然そうするわな」
ライカンスロープの嗅覚は人の数千倍、
ここ数ヶ月、彼等を相手にしている魔女達が追われないように臭いを消すのは当然の処置であって、
「普通に考えれば飛んで逃げたことになるんだが」
「それはない。見ていたから」
マックスに反論したのはワカメヘアーの青年だ。
彼の超能力には千里眼ほどではないにしろ俯瞰した視点から見る目があるのだが、
ロープが切られてからすぐにその能力を発動させていたところ、その能力によって魔女の動きを観測することは出来ていなかったのだ。
「となると道を使ったか」
「道?」
マックスの呟きに揃えて首を傾げたのは筋骨隆々なツートンカラーの二人組。
「調査対象になっていた魔女だけが使える道だな。
レイラインを利用して森と森とを繋ぎ、特定の場所にワープできる代物らしい」
そして、マックスはドゥーベを見てこう訊ねる。
「どうする?」
◆
「よくわからん状況じゃな」
「そうですね」
ところ変わってイズナと加藤が言葉を交わすこの場所は万屋の訓練場――、
その日、ディストピアを手に入れる為、加藤がたまたま万屋を訪れていたところ、アメリカの魔女達がドゥーベを含めたハイエストの戦闘員を確保、
尋問したという一報が送られてきたからだ。
「アメリカの嬢ちゃん達はどうするつもりかの」
「復讐だといって殺すのは簡単ですが、あちらにはあちらの法律がありますので」
例えば今までの被害がまったく回復されていなかったら結果は変わったかもしれないが、幸いにもいまは殺された者はおらず、欠損などの怪我はすでに回復されている。
ただ、一部の魔女がもともと住んでいた場所を追われ、戦いにより受けた心の傷は治っていないが、犯罪を犯してまで復讐を果たすことは彼女達も考えておらず。
しかし、素直に司法によって彼等が裁かれるかといえば、そうとは言えないような状況で、
「情けないことに二度も逃がした失態があるからの」
「それも想像できた筈の方法でですからね」
本人は既に死んでしまったのでわからないが、体から切り離されたアレが別の場所にあったことで脱獄に繋がったということなので仕方がないところもあるが、群狼の能力が起点となって脱獄に繋がることは予想がつくことであって。
「このまま放置していても特に問題はないのよね」
「うん、一芸特化の超能力者じゃ複合型の結界を抜けるのは難しいかな」
そもそも結界を通り抜けられた場合、アラームが鳴る仕掛けになっていて、それがないということは今だに彷徨っていることに他ならないのである。
「森の中なら死ぬことはないしね」
「お主等の常識をそのまま当て嵌めるのは危険じゃと思うのじゃが、一ヶ月かそこらで死ぬことはないかの」
植生の豊かな森の中なら、朝露で水分も確保できるだろうし、選り好みをしなければじゅうぶん食べていける環境というのは、ここにいる三人共通の認識だった。
「それよりも、あの子をどうするかよね」
「母さんがつけた魔法窓を使ってコンタクトを取ってもらったんだけど、反応はあんまり良くないみたいだね」
安全な場所での暮らしを甘受している少女に暮らしを変えろというのもなかなか難しいことであり。
「周りにいい大人がいなかったのじゃろうな」
「ジョージア達の受け止めはどうなのかしら」
「ヴェラさんの話もあって調べてみたら、いろいろなことがわかってきたみたいで、魔女の皆さんの中にも同情してる人は多いそうだよ」
「ヴェラ?」
「別の世界のお客様なんですけど、その世界の魔女に特殊な能力を使ってくる人がいたみたいで――」
と、虎助がヴェラから聞いた異世界の魔女が獣人変化や精霊合身を使ってくるという情報から、かつて魔女の中にその一族の中に少女と同じような魔法を使っていた者がいたという話を聞いて、加藤は「ううむ」と唸り声を上げ。
「かつて失われた血族の子孫かもしれぬということか」
「実際、詳しく調べてみないとわかりませんが」
「証明する方法があるのかの」
「DNA鑑定か、魔力的な解析をすればわかると思うんですけど、もしかするとステイタスカードでもわかるかもしれません」
実績の中には生まれながらにして持つものがあり、その中には魔女という項目も存在しているのだ。
特殊な能力に目覚めている彼女がそれを所持している可能性は高く。
「なんにしても、あの子からの返事待ちね」
「仕方ないのお」




