幕間・ゴーレム達の不文律
◆ちょっとした説明回です。
それは、毎度毎度の魔獣来襲をやり過ごし、万屋に戻った時のことだった。
リラックスモードでお高いカップアイスをパクついていた元春がこんなことを聞いてきた。
「そういやさ。いつも思うんだけどよ。魔獣が出る度に虎助が出て行く必要はないんじゃね。エレイン等に任せておけば勝手に倒してくれると思うんだけど」
「ああ、それは僕が言ってやってることなんだよ」
「どゆこと?」
かつてご近所の奥様方に可愛いと人気だった、猫のようにぐてんとしながら見上げてくる元春の仕草に、僕は時の流れの残酷さを感じながらも。
「ほら、魔獣を倒すと【魔獣殺し】って実績がもらえるでしょ。あれって、ベル君とか、エレイン君達とか、ゴーレムには適応されないだよね。だから、初見の魔獣は特に僕が仕留めるようにしてるんだよ」
「つまり、私達のレベルアップの為に遠慮していると」
背後からそう聞いてきたのは一緒に魔獣討伐をしてくれたマリィさんだ。
マリィさんはお客様なのだから魔獣退治のお手伝いをしてくれなくてもいいのだが、今回も、ストレス発散――もとい、善意から魔獣討伐を手伝ってくれていたのだ。
「さすがに僕や、僕達だけだと危険だって相手になるりますと、エレイン君達が手伝ってくれますけどね」
たとえば元春が一緒に戦っていた時も、オークの突進を止めてくれたり、ビッグマウスの時なんかは近くの石柱の影に隠れてヘイト管理何かをしていてくれたりもしていた。
「それに、僕達がいない時にも魔獣は関係なくこの世界にやって来ますからね。僕がいる時はできるだけエレイン君達に負担をかけないようにしているんですよ」
なんというか、僕も店長としてきちんと仕事をしなければということなのだ。
だが、基本的に働いたら負けというマインドをモットーとする元春はどうもその考えに納得出来ないようで、
「つか無駄じゃね。エレイン達ってロボットみたいなもんだろ。働かせてナンボじゃね」
「いや、エレイン君達にも休みは必要だから」
ゴーレムであるベル君達には、一見、疲労なんてないように思えるが、搭載される精霊にはコンディションというものが存在し、そのボディにも関節部などに疲労が溜まるのだ。
それでなくともエレイン君達ゴーレムは、工房の仕事やらゲートの警備など、日々忙しく動き回ってくれている。せめて魔獣退治くらいは僕が担当しないと申し訳ないというものだ。
そんな説明を僕がするのだが、元春はイマイチ興味が無いのか「へぇ」の一言で聞き流し、理由さえわかればその話はもういいやとばかりに話を変えてくる。
「因みに、虎助とエレインとだとどっちが強いんだ」
本当になんというかこの友人はノリだけで生きてるよね。
僕はコロコロと自分の興味に従い話題を変えていく友人に心の中でため息を吐きながらも。
「微妙なところだろうね。比較的最近に作られたエレイン君なら僕でも簡単に封殺できるとは思うんだけど、エレイン君達そのものにも学習機能が存在するし、オーナーがちょくちょく改造してくれているからね。個人個人ともなると、実際に戦ってみるまでわからないってのが本当かな」
さっきも言った通り、ゴーレムだって戦いを繰り返せば破損部分やボディへの疲労が溜まったりする。
だからベル君を始めとするゴーレム各位はローテーションでメンテナンスを受けていたりするのだが、
その際に、ソニアが思いついた魔具や魔導器を実験と称して積み込んだりしてるから、どんな魔法がどのエレイン君に搭載されているのかと、その都度、魔法窓で確認しないとエレイン君の強さは測れないというのが正直なところなのだ。
「見た目はぜんぜん変わんねーんだけどな」
「エレイン君達の核になってる原始精霊の素養によって使える魔法が変わるからね」
搭載された精霊によって使える魔法も異なり、その役割や戦闘方法も個別に存在しているのだ。
「虎助が使う【原典】は積み込んでいませんの?それぞれの属性に合わせた原典を乗せればいちいち兵装を組み替えなくてもいいように思うのですが」
たしかにマリィさんがいうその方法ならば、このアヴァロン=エラに暮らすエレインと一様に名付けられたゴーレムに存在する欠点を緩和できるだろう。製作者であるソニアも同じようなことを考えたらしい。
だけど、
「エレイン君達を操るのは原始精霊ですからね。高度な魔導書ならまだしも、【原典】を使うには個々が持つイメージ力が足りないそうなんです」
「精霊を積んでいるとはいえど原始的な精霊ですと思考能力に限界があると?」
「アクアのように下級の精霊にまで成長してくれればまた違うんですけど、原始精霊だと複雑な思考はまだなかなか上手くできないみたいで」
因みにアクアというのは僕がこの前契約したセイレーンの名前である。
宿ったばかりの精霊というのは、いわゆる赤ちゃんのように単純な感情を発露するだけで、自発的な魔法の構築は難しいらしいのだ。
それを補う為に、ゴーレムネットワークも存在するのだが、それすらもまだ作られて一年足らずとまだ未熟なものなので、彼等が魔法を発動させるには、魔法における全ての手順が魔法式として込められたマジックアイテムが必須なのだという。
「だから、まあ――、今後の学習に期待ですね。アクアくらいの力をつけてくれれば、普段の行動からしても個性が出てくるらしいんですが」
「はぁ、ゴーレムに個性ですか。しかし、それはもう精霊とは別物のような気もしますが」
「そもそも精霊という定義が曖昧ですからね。便宜上、オーナーはエレイン達に積まれた原始的な精霊のことを電子精霊なんて呼んでいますよ」
これはソニアが漫画などから引っ張ってきた名前である。
まさに取ってつけたような名前なのだが、魔法式を電子基板のように使うエレイン君達にはピッタリの名前なのだ。
スタンドアローン型ゴーレム:ベルやエレインのように情報生命体を宿したゴーレムのことを指す。類まれなる技術者が作るものと、神や悪魔、ダンジョンなどによって生み出されるものが存在するらしい。人造人間もこの一種だと言われている。
◆基本的なゴーレムの分類
通常のゴーレム:魔法およびゴーレムクリエイターなどに作られた人形。自律行動はせず、魔力を込めた命令に従い動く。製作者と操り手が別の場合もある。同系統の魔法に〈死霊使い〉が存在する。
プログラム型ゴーレム:ゴーレムコアと呼ばれる魔導器を体内に持ち、コアに刻まれた命令(魔法式)に従い動く。複雑な動作を可能とする為にはコアに大量の命令(魔法式)を書き込まねばならずに巨大化するケースが多い。極稀に【人形師】などと呼ばれる人物に作られた小型の自立型ゴーレム『ドール』が存在する。モルドレッドはこのタイプに近い。




