●不審な行動
◆今回はフレア達と同じ世界から来ている女性冒険者パーティ・白盾の乙女が中心となったお話です。
その日、カマイタチの件を絡めたギルド職員からの勧誘から逃れるべく、万屋でトレーニングをしていた白盾の乙女の三人がたまたま同じタイミングで万屋を訪れると、そこにはパーティの一員であるアヤが店長である虎助と話す姿があって、
「アヤさんこっちにいたんですか探したんですよ」
「ちょっと用事がな。では虎助殿、よろしく頼みます」
声を掛けられ、慌てたようにその場を立ち去るアヤ。
そんなアヤの態度にココが不思議そうな顔を浮かべ「なんだったんすか」と訊ねると、虎助は苦笑を浮かべながら。
「防具の具合が少し悪いようでして、ちょっと修繕を依頼されてたんです」
「修理ならパーティ資金から出しますが」
「個人的に気になるといった類のものなので、遠慮したんじゃないですか」
「成程――」
「それで皆さんは御用はなんでしょう」
「あ、スポーツドリンクをお願いできますか」
「自分もっす」
「私はミルクティーをお願い」
アヤが万屋に居た理由――、それを聞いた白盾の乙女の三人はそれぞれ好きな飲み物を購入して、万屋を出たところでココが顎に手を添えこう呟く。
「怪しいっす」
「怪しいって何がよ?」
「アヤさんっすよ」
「店長さんはただの修理依頼だと言っていましたよ」
「けど、なにも渡してなかったじゃないっすか」
実際、あの時アヤが防具を渡している様子はなく。
「先にものを渡して、細かい確認をしていたんじゃないんですか」
「いや、なにかあるっすよ絶対」
「なにかってなによ」
ミルクティー片手にジト目を向けるリーサに「そうっすね」とココは空を見上げ、ピッと人差し指を立てて言ったのは、
「お取り寄せってあるじゃないっすか、実は自分用になにか頼んでたんじゃないっすか」
「アヤさんに限ってそれはないんじゃ」
アヤの実直な性格を鑑みて、そうフォローを入れるエレオノール。
だが、ここでリーサがココの側に加わり。
「あり得るわね。ああ見えてアヤって甘いものとか好きだから」
「独り占めは許せないっす。ちょっと調べてみましょうよ」
そんな会話があって数日――、
アヤの行動を気にしていたココとリーサがついにアヤの不審な動きを捉えた。
「動いたっす」
「追いかけるわよ」
「あの、やっぱりこういうのはよくないんじゃ――」
積極的なココとリーサの一方、仲間のプライベートを探るのはいかがなものかと止めようとするエレオノール。
「エレンさん。リーダーとしてパーティメンバーの悩みを把握するのは重要っすよ」
しかし、ココが正論のようなことを言ってエレオノールを丸め込み。
そっと店内を覗き込んだところ、どうやら三人の追跡は気付かれていたようだ、スライドドアがガラッと開き。
「三人とも何をやっているのだ」
転げるように店内に入った三人は、腰に手を当て自分達を見下ろすアヤに気まずそうな顔をしながらも、見つけられてしまったら仕方がないと立ち上がったココがアヤをビシッと指差し。
「それはこっちのセリフっすアヤさん、最近なにをコソコソやってるんすか」
逆ギレのような指摘に言葉に詰まらせるアヤ。
この素直な反応は都合の悪いことを示していると言っているようなものだが、ここで虎助からの助け舟が入れられる。
「話しておいた方がいいんじゃないですか」
これにアヤは仲間三人を見て、虎助を見てと迷った素振りを見せながらも、最後は仕方ないとばかりに肩を落とし。
「鎧のサイズ調整を頼んでいたのだ」
「え、本当に鎧の修理だったの?」
「それくらい相談してくれればいいじゃないですか」
「いや、ココとリーサが怒ると思ってだな」
鎧の調整くらいで自分達が怒る理由がわからない。
そんな三人の反応にアヤは自分を抱くようにしながらも視線を反らし。
「実は胸当てがキツくなってしまったんだ」
アヤはここ数ヶ月で胸が急激にサイズアップしてしまい、胸当てがまったく合わなくなってしまったのだ。
そんな告白にフリーズしてしまう三人。しかし、すぐにその内の二人から黒いオーラが立ち上り。
「なんすかそれ」
「もしかして豊乳ね。もしかしなくても豊乳でしょ」
そう、アヤの急な成長にはタラチネの攻略で開放された実績が多大な影響を及ぼしていた。
「ちょっと、鎧が合わなくなるってどんな成長なんすか」
そして、言い争いに巻き込まれて、いたたまれないのが虎助である。
ここにいたのが元春ならセクハラ発言の一つでもして場を和ませた(?)かもしれないが、虎助にそんなことができる筈もなく、頼ったのは白盾の乙女のまとめ役であるエレオノールだ。
「あの、エレオノールさん、三人を止めていただけるとありがたいんですが」
「あ、すみません」
声をかけられ展開についていけずに固まっていたエレオノールが遅ればせながらに動き出す。
そうして彼女が間に入れば、ココとリーサもとりあえず落ち着きを取り戻し?
「つまり、キツくなった胸の部分をどうにかできないかって相談していたと」
「はい」
正直、虎助としては女性四人に囲まれてバストサイズと胸当ての関係を説明しなければならないというのは、どんな罰ゲームなんだというような状況なのだが、装備の補修に関する説明は店長としてやらなければならない仕事であって。
「元と同じように使うなら作り直した方が早いという結論に至りまして、なにより、アヤさんの場合、まだ成長する余地があるかもしれませんから」
「作り直しに飽き足らず、まだ大きくなるっすか」
「やっぱり欲しいわね豊乳」
場合によってはさらなるサイズ調整が必要かもしれないと聞かされて愕然とするココとリーサ。
「それで、どうしましょうか」
「もちろんお金は払いますのでお願いします」
「それでなんですけど、私の鎧も調整していただけると助かるんですけど」
ここで言い難そうにしながらもエレオノールがしたお願いにココとリーサが敏感に反応。
「エレンさん!?」
「まさかエレンもなの!?」
「ち、違いますよ。ほら、今の鎧はもう何年も使ってるじゃないですか、関節の動きが少し悪くなってきてて」
エレオノールが自分の鎧の関節部を動かしてみると、たしかに小さな擦過音が聞こえ。
虎助がその修繕計画を示したところ、これに「えっ!?」と素っ頓狂な声があがり。
「でも、魔鉄鋼だと色が気になりますか、だったらミスリルとかにします」
「いやいやいやいや――」
全力拒否のエレオノール。
しかし、鎧の修繕に使われる魔法金属の量はごく微量でしかなく。
実際にどれくらいの値段で出来るのか、計算したものを見せればエレオノールもほっと一安心。
横から覗き込んでリーサが「私も杖に混ぜてもらおうかしら」と呟けば、これを話を逸らすチャンスだと見たアヤが「いいではないか」と乗っかって、エレオノールが「皆さんがそういうなら」と折れようとしたところで、ココから「ズルいっす」と声が上がる。
だた、リーサから「いや、アンタはナイフがここのナイフだし、エメラルダも居るじゃない」と言われてしまえばもココも我儘は言えないようだ。
「じゃあ、エレオノールさんの鎧とリーサさんの杖は預からせてもらうとして、全身のスキャンをさせてもらっても」
「はい、よろしくお願いします」
鎧づくりに体のデータが重要なことはエレオノールも知っており、体のサイズを測られるのは問題ないと応じるのだが、そのスキャンの結果、お尻周りがキツくなっていることが判明してしまい、ココとリーサから生暖かい視線を受けることになってしまうのだった。
◆
そんなちょっとした事件があった数時間後――、
宿泊施設にある銭湯には白盾の乙女と赤い薔薇の面々が顔を揃えていた。
「そんなことがあったんですか」
「それで、同じ実績を獲得していたロッティさんは大丈夫なのかなと思いまして」
お風呂の中でお尻をモゾモゾしながらエレオノールが訊ねれば、
一同の視線がロッティに集中。
ロッティは自身の大きな胸を見下ろしながら。
「アタシはさらしでガチガチに固めているから大丈夫さ」
「ロッティはスポーツインナーを使っていないのか」
「スポーツインナー?」
「そのだな、万屋に胸の揺れを抑えるインナーが売っているのだ」
オウム返しの質問に少し顔を赤らめながらも素直に応えるアヤ。
すると、これに食いついたのはココだった。
「えっ、下着にも種類とかあるんすか」
「インナーを選んでいた時にベルから話を聞いたのだが――」
「自分は聞いてないっすよ」
「もしかして客を選んでる?」
どうやらその存在を知っていたのはアヤだけだったようだ。
他のメンバーからどよめきが上がるも、アヤはそれらの声が聞こえないフリをしてロッティとの会話を続ける。
「それを着るだけでそんなに変わるのか」
「当然といえば当然だがそれぞれにあったものを使わないとならないがな」
すると、ここでエレオノールがふと気になったのだろう、隣でお湯に溶けていたクライに問いかける。
「そういえば皆さん万屋さんの下着は買わないんですか?」
「気になってはいたんですけど、食材などを優先していて」
赤い薔薇にとってなにより優先されるのは食材で、他の商品は後回しになってしまうのが常なのだ。
「インナーより少し高いくらいですから買っておいて損はないかと」
「だけど、ロッティさんとか激しく動く人だと壊れちゃいません」
「万屋さんが半端なもん出すと思いますか?」
強度を心配を口にするニグレットに対するココの指摘には納得の赤い薔薇の面々。
「しかし、どう声をかけたらいいのか――」
「店長さんに相談するのが恥ずかしいなら、日暮れ時にやってくるメイドさんに仲介してもらえば大丈夫っすよ」
虎助が店主を務める万屋で下着を買うのは恥ずかしいというのはニグレットらしいといえるだろう。
しかし、これにココが常連ならではの裏技を教え、「そんな手が――」と驚く赤い薔薇のメンバーを横にアヤが風呂から上がると、これに他の面々も続いて、
アヤが体を拭いて着替えを始めたところで、ココがわざとらしくもアヤのロッカーを覗き込み。
「アヤさん、それが例のインナーっすか。
ちょっと着させてもらってもいいっすか」
「ココが着ても緩いと思うのだが」
アヤから無慈悲な発言にピキッと青筋を立てるココ。
しかし、自分の着替え籠に手を伸ばし。
「パットを使うから大丈夫っす」
「パット?」
これもまた赤い薔薇のみならず白盾の乙女の他のメンバーも知らない情報だったようだ。
なんなのよと迫るリーサにココはしまったとばかりに頬を掻きながらも。
「まず、下着をつけてっすね。パッドをこうやって隙間にねじ込めば――」
ココは予想以上のスカスカ具合にダメージを受けながらも、パッドを詰めて胸の形を整えれば、そこには立派な双丘が生み出され。
「なんと」
「これは――」
「凄いです」
「ちょっとアンタ、なんで黙ってたのよ」
「いやー、これって本来必要ないものじゃないっすか」
「けど……それを入れとけば胸とか守れるかもでしょ」
これはあくまで個人的な買い物と、そんなココに対するリーサの主張は苦しいように聞こえるが、そのパッドは一部メイドからのリクエストを受けて工房で密かに作られたもので、世界樹の樹脂をその原料としている為、高い耐久性を備えていて、胸元の防御力を大きくあげるというリーサの主張は決して間違いでもなく。
「みんな、もう隠してることはないわよね」
「ないっすよ」
実際にはメイド達から化粧水などを融通してもらっているのだが、ココはしれっと嘘をつき。
「じゃあ、一休みしたらお店に行きましょう」
「仕方ないっすね」
◆次回投稿は水曜日の予定です。




