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|最終実験《パフォーマンス》と玲の帰還

「本格的な転移実験をしてみようと思います」


「いつやるの?」


「今からからです」


「今からってマ!?」


「転移実験は前々から進めていたし、玲さんが地球に戻るなら時期的に急がないとだから」


 終了式が目前となった週末、

 常連の皆さんを前にサプライズとばかりに転移実験を告知をする。


 ただ、実際には転移の実験はすでに終えていて、実は今日の諸々はすでに環さんとも相談済みで、

 今からするのは安全性のアピールでしかなく。

 これからの玲さんの大学生活を考えるのなら、出来れば今日中に帰還までやってしまいたいというのが本音だったりする訳で――、


「それでどこへ転移いたしますの?」


「魔王様の拠点です。あちらには魔王様の他にレーヴァとニュクスさんがいますから」


 これはもしも失敗した場合でもリカバリーが出来るという言い訳のようなもので、


「どうやってマオっちのところに行くん?」


「前に見てもらった世界樹を使った転移だよ」


 それは以前、原始精霊を使って行った転移の方法だということで、僕と魔王様の先導で世界樹農園に移動。

 そこで妖精の皆さんに囲まれ、ウォーターベッドの上でだるんとしていたディーネさんに「お願いします」と頭を下げると「お礼、期待してるから」とありがたい言葉があって、

 これに通信越しに待機してくれていたニュクスさんからツッコミが入ったところで、前回やったようにニュクスさんとディーネさんの力で世界樹のパスを繋いでいただき。

 準備が整ったところでアクアとオニキスを召喚。

 二人を肩に乗せた僕が幹に触れると、光りに包まれ、幾度となく経験した浮遊感の後、周りの景色が神秘的な花畑に変化する。


「虎助だ」


 そう言って、僕の周囲を飛び回るのは妖精飛行隊の皆さんだ。

 うん、異世界転移には成功したみたいだ。

 ただ、歓迎してくれるのは嬉しいけど、今日はあんまりのんびりしている時間はなくて、


 繰り返しになるが、玲さんの大学生活を考えて、出来れば環さんのいるこの週末に玲さんが地球に戻るところまでしておきたいからだ。


 ということで、少し遅れて花畑(げんち)に到着した魔王様に早速で済まないが案内をお願いすると、魔王様は「……こっち」と花畑から伸びる洞窟の一つに向かって歩き出し。


「あ、あとこれ、チュトラブカさんに頼まれていたゲームです」


「渡しておきますね」


 近くに居たリィリィさんに注文されていた商品を渡したところで、シュトラとユグ(世界樹の精霊)を頭に乗せた魔王様の小さな背中を追いかけて、拠点近くに作られた祭壇に移動。

 開かれた次元の歪みからアヴァロン=エラのゲートに帰還する。


 その後、転移位置が変わってしまったことを調べる為にゲートに飛び込み、転移位置が魔王様の拠点近くにある祭壇に変わったことを確認すると、待ち構えていたベル君から異世界転移の座標を記録しているチップを受け取り、ふたたびゲートに飛び込めば、そこは見慣れた自宅の庭で、


 すかさずアヴァロン=エラに戻って、今度はチップを持たずに地球に戻れることを確認すると、世界樹農園に行っていたみんながゲートに来てくれたみたいだ。


「あ、皆さん、実験は成功みたいです」


「いや、軽くない?」


「RTAやるみてーなノリだったぞ」


 うん、期待していたのなら済まない。

 先にも触れた通り、異世界への転移にそのもの関しては、実はもう数十回と実験を繰り返した後であり、魔王様の拠点の皆さんもそれは承知しているということであって、このようなスムーズな運びの実験となった訳で、生身での転移実験が初見となる元春と玲さんからしてみると少々盛り上がりに欠けてしまうものとなってしまったもかもしれない。

 ただ、魔導器の効果は裏でこの実験を見ているソニアも満足の行くものだったみたいだ。


「それで、もう玲さんも戻れると思うんですけど、どうします?」


「だから情緒をもうちょっと――」


 これは玲さんがツッコんでしまうのも無理はないかもしれないが、

 ただ、文句を言っている内に自分が地球へ帰れるという実感が湧いてきたのか、玲さんの勢いがどんどん落ちていき。


「……せっかくだから帰る。今日ならお姉ちゃんもいるし」


 何故かオロオロする環さんを見て、玲さんは腰に手を当てそう言うと「準備をするから」と環さんを連れて自分の部屋(トレーラーハウス)に戻り。

 一方、元春とマリィさんはといえば意外と冷静で、


「なんかグダってんな」


「緊張するよりかはいいではありませんの」


「それは――、まあ、そうかもっすね」


 実際、無駄に緊張されるよりもリラックスされた方が送り出す方としてもありがたいと、僕は二人の会話に相槌を打ちながら魔法窓を展開。


 そして三十分後――、


「お待たせって――あれっ、師匠どうしました?」


「せっかくなので皆さんを集めてみました」


 自室に戻る前と変わらぬ姿で帰ってきた玲さんは、そこに居たみんなの顔に驚きつつも、これがサプライズだと気付いてくれたみたいだ。

 目尻に光るものを浮かべ。


「ここに来ればまた会えるでしょ」


 そう言うと、みんなに「ありがとう」と頭を下げいって、

 最後にナタリアさんの前に立ち。


「師匠もいろいろお世話になりました」


「殆どなにもしてないけど」


「それでも師匠が助けてくれたから、私はここまで来れたんです」


「ま、そういうことにしておく」


 そんな師弟やり取りがあったりしながらも、


「では玲さん、こちらが転移のアイテムです」


「あの私も一緒に――」


 ここで小さく手を上げたのは環さんだ。

 チップの仕様上、環さんと一緒に転移をしたところで時に問題はないと思われるが。


「念の為、玲さんには一人で転移をしてもらった方がいいんじゃないかと」


 万が一のことを考えて遠慮して欲しいと言えば、環さんは「そうよね」とすぐに引き下がってくれ。


「だったら私は向こうで玲を出迎えられるよう先に戻っていようかしら」


 まず環さんがゲートに入り、念話通信で無事に地球へ戻ったことを確認すると、


「じゃあ、行くね」


 玲さんがチップを握りしめ、ゆっくりとゲートの中心へと歩いていって――転移。

 すると次の瞬間、地球側で待つ環さんの眼の前、そにあの口からぺっと吐き出され。


「客観的に見ると汚い絵面だな」


 まあ、その辺のことはそにあの使用上仕方のないことで、拍手や『おめでとう』という言葉が送られ、ようやく地球に戻ったことを実感したのか、玲さんは泣き出してしまうのだった。


   ◆



 玲さんが地球に戻って一時間ほど――、

 気持ちを落ち着かせた玲さんは、聖女再召喚を含めた転移関連のチェックを済ませた後、自宅へ帰る運びとなった。


「気をつけて帰ってくださいね」


「ありがとう」


 僕と元春はどこかフワフワした足取りで環さんの車に乗り込む玲さんを見送り。


「行っちまったな」


「無駄に雰囲気出してるところ悪いけど、ただ家に帰っただけだからね」


 そんな茶番があったりしながらも、ニュクスさんを始めとした魔王様の拠点の皆さんにお礼をしたり、ディーネさんにお酒を届けたりしてお店に戻ると、ここで元春が待ってましたと言わんばかりに、


「なんか一気に人が減っちまったな」


「たしかに、玲やメリー達は帰ってしまいましたが、エレオノールやクライ達がいるでしょうに」


 これはマリィさんの仰っている尤もで、白盾の乙女と赤い薔薇の二組、他にもアムクラブからの入りによっては人が多くなるし、夕飯前にはフレアさん達やメイドの皆さんも顔を見せてくれるのだ。


「加藤さんから魔法の素養がありそうな弟子の面倒を見てくれって声がかかってるけど」


「それ、絶対男じゃん」


 加藤さんのお弟子さんは男性が九割りだから、元春の主張もあながち間違いでもなく。


「加藤さんの家は武芸全般を扱ってるから」


 中には忍術や陰陽術、占術と呼ばれる技術を使う人もいるようで、万屋(ウチ)で少し鍛えてやってくれないかという要請が来ているのだ。

 まあ、実際には加藤さん自身の魔力が大幅上昇したことで、それを感じ取れる誰かからせっつかれているというのが正しいのかもしれないが……、


「だったら、輝虎っちんとことおんなじで女子限定にしてもらおうぜ」


「貴方、そんなことをしていましたの?」


 マリィさんが元春の発言に呆れたようにそう一言。


「しかし、魔法らしい魔法を教えるとなると結果的にそうなってしまうのではありませんの」


 肉体的な能力では男性が有利な一方で、女性の場合は魔法が上手になる場合が多いというその指摘に元春が期待の眼差しを向けてくるので、


「一応、聞いてみるけど期待はしないでよ」


「よっしゃ」


 元春が言っていたと報告すれば加藤さんならわかってくれるだろうと、後の責任は元春に丸投げするとして、


「しかし、輝虎の部下にしろ加藤老の弟子にしろ、元春に教えることができますの」


「いやいやマリィちゃん、相手は所詮アマチュアよ」


 地球の魔法技術を考えると、元春の主張もあながち間違いではないのだが、


「加藤さんのお家の関係者ならしっかり戦える人が送られてくるんじゃない」


 身辺警護を表向きの職業としている加藤家では、ほぼ全員がそれぞれ形は違えど戦う術を持っている。

 そんな中から送られてくるとするなら、きっと誰しもが実力者なのではという僕のツッコミに元春はその場で全身鎧姿に変身。


「俺にはコイツがあるし」


「それだと魔女の皆さんの時と同じになっちゃうんじゃない」


 元春は魔女の皆さんと会う時にほぼ鎧姿だった所為で顔をおぼえてもらえなかったという前科があるのだ。


「だったらよ。ノリとひよりちゃんみてーに鎧のパーツを抜けばいいんじゃね」


「そこは訓練とかじゃないんだ」


「相手はいつ来るかもわかんねーんだぞ」


 まったくブレない友人である。

 僕はらしい元春の発言にため息を漏らしながらも、とりあえずブラットデアが機能する必要最低限のパーツを計算し、そのデータを元春に送るのだった。

◆事前準備に時間を掛けた為、玲の帰還はあっさりとしたお話をと考えていたのですが、実際に書いてみたら想像の数倍あっさりとしたものになってしまいました。


◆次回から数話、幕間的なお話を挟んで次章に移りたいと思います。

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