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次郎の配信とひよりの新装備

 その日は次郎君がユイたんの桜ソングメドレーの動画を撮りたいということで、工房裏の桜をバックに撮影を行っていた。

 コメント欄で呼びかけて募集した歌ってもらいたい桜ソング上位三曲を歌い終え、カットの合図が出たところで拍手が上がる。


「素晴らしい」


「……ん、良かった」


 そう、今日のライブは常連の皆さんが聞いていたのだ。

 すっかり大盛りあがりの皆さんはスタンディングオベーションで近づいてきて。


「そういや前にも聞いたかもしんねーけど、ユイたんは歌以外にはやんねーの?」


「ユイたんはドジっ子ですから」


「みんなでワイワイやってんのとか配信したらウケそうなのにな」


「たしかに、魅力的な映像が撮れそうではありますが、さすがにそれは――、

 それに僕達のチャンネルは短くて見やすい動画をコンセプトにしていますので」


 次郎君が作る動画は長くても十五分程度に収まるものになっているので、何か企画モノをやるのは難しいと、そんな話をしていると魔王様が僕の袖をくいくいと引っ張り。


「……弾幕演舞」


 魔王様の仰ったそれは〈ティル・ナ・ノーグ〉の前身で、今も進化を続けている魔法アプリのことだった。


「それはいいかもしれませんね」


「そうなん?」


 エキスパートプラスなんて目じゃない程の難易度となっているのだが、魔王様はそれをノーミスで攻略していて、


「動画映えもしそうだし、ちょうどこの時期にピッタリな楽曲でステージを自動生成したばっかだから」


「……魅せる」


 百聞は一見にしかずと、撮影の準備を済ませたところで頭の上のシュトラを預かり、魔王様がアプリを起動して皆から離れて配置つくと、選曲したのはボーカロイドで有名なあの曲だ。


 疾走感溢れるピアノに合わせて小さな花びら状の魔弾が舞い散り、それが桜吹雪となって魔王様に襲いかかる。

 しかし、魔王様はこれを華麗に避けつつポーズを決めて、次々と襲いかかってくる魔弾に様々なステップを繰り出し、時に側転、時に宙返りを挟みつつも、まさに弾幕という言葉がふさわしい魔弾の嵐を避けきってパーフェクトクリア。


 すると、みんなから拍手が巻き起こり。


「スゲーな」


「まるで踊っているようでしたの」


 魔王様のプレイは避けるだけでなく、魅せるところまで意識しているから見ていてとても楽しいのだ。


「これならユイたんでもいけそうです。

 しかし、これをこのままプレイするとサイズ感がおかしくなりませんか」


「それなら大丈夫」


 普通のサイズの弾幕演舞だと体の小さなシュトラには簡単過ぎると魔王様からのご指摘で、アプリの展開サイズも調整できるようになっているのだ。


「そういうことなら、ユイたん、やってみますか」


 次郎君の声掛けにユイたんがぐっと胸の前で両拳を握り、やる気を見せたところでチャレンジとなるのだが、傍から見るのと実際にやってみるのとでは勝手が違うものだ。

 難易度は低めに設定したものの、初チャレンジでは途中で失敗となってしまったもののユイたんは諦めない。


「ここからが本領発揮です」


 次郎君の言葉を背中に受けて、すぐに立ち上がるとプレイ再開。

 チャレンジを繰り返す度に段々と被弾する率が低くなっていき、ついには通常モードのクリアに成功。


 すると、これに触発されてか、アクアとオニキスが僕のところにやって来て、


「アクアとオニキスもやりたいの?」


「ライカ達にもやらせてみるか」


 元春がライカ達を、玲さんがクロッケを喚び出して、撮影しながらみんなでプレイしてみたところ。


「意外とライカが凄くない?」


「クリア率だとユイたんよりも高いですね」


「動きも様になってんし覇権とか取れんじゃね」


 さすがに魔王様やシュトラには届かないようだが、ライカのプレイは見事の一言で、


「だけど、ライカの動画をアップしたら、アカウント停止になっちゃうからなあ」


「なんでだよ」


「いや、ライカの場合、形がさ」


「あっ」


 そう、ライカはリアルなおっぱいの形をしていて、それがぷにぷにと弾みながら音楽に合わせて迫るピンクの光を避けているのだ。

 そんな動画を公式にアップしたら、どうなるのかなんてのは火を見るよりも明らかだ。


「てゆうか、わたしのクロッケもそうだけど、虎助のオニキスとか出しても大丈夫なの?」


「そちらは大丈夫だと思いますよ」


 実はオニキスはユイたんの歌ってみた動画に登場していて、すでにマスコット的な評価を受けていて、

 だから、玲さんの相棒であるクロッケも、有名な恐竜の赤ちゃんのチャレンジ動画みたいな感じで受け入れられるのではないだろうかと僕が言えば、玲さんもクロッケを自慢したいという思いがあるのだろう、クロッケを優しげな目で見下ろすが。


「あれ、でも、弾幕演舞ってここオリジナルのゲームだよね」


「あくまで演出みたいなものですから」


 そう、あくまでメインはダンスであって周りの魔弾は演出なのだ。


「それに、あのチャンネルでは、もう先にマリィさんや魔王様が加わったディストピアでの戦いを記録した動画も出していますから」


 故に、魔王様やスクナ達が出演するこの動画も問題はないだろうと、隠すことなくアップすれば、ユイたんを中心とした踊ってみた動画は新作のフェイク動画として受け止められたみたいで、ふたたび一部界隈をざわつかせ、ふだんアップしている歌ってみた動画の数倍の再生数を叩き出すことになるのだった。


   ◆


「新しい装備はどうだった?」


「軽くていい感じだったぞ」


「コンビネーションもばっちりです」


 放課後、万屋の訓練場でなにをしているのかといえば正則君とひよりちゃんの新装備の試運転。


 実はひよりちゃんが正則君に付き添って、ディストピアのテストプレイをすることがあるのだが、

 最近、挑戦するディストピアの難易度が上がってきたことで、ひよりちゃんの防御面が心配だと、正則君から自分の鎧(クリムゾンボア)の一部をひよりちゃんに渡せないかと相談があったのだ。


 それなら、クリムゾンボアも新しく作り変えてしまおうということになって、元春のブラットデア同様に改修を行い、いまその使い心地を聞いていたのだが、


「ひより、(わたくし)が考えた鉤爪はいかがでした?」


 ここでマリィさんが確認するのは、鎧のついでに作ったひよりちゃんの専用武器についてである。

 実はひよりちゃん専用の鎧を作るにあたり、その武装のアイデアを常連の皆に考えてもらったのだが、これがなかなか一つまとまらず、だったら全部作ればいいんじゃないかとなったのだ。


「はい、とっても使いやすかったです」


「俺のガンブレードは?」


「斬る方はイケるんですけど、突きがイマイチだったです」


 ちなみに、元春が考えた武装は、いかにも中学生男子が喜びそうなスタイリッシュ武器そのもので、デザインの都合上、刃が銃を支えているグリップの上にきてしまう為、刺した時に後ろに引っ張られる感覚があるみたいだ。


 そして、僕がデザインした武器は前にひよりちゃんに作った安全靴の強化版。

 女子高生のひよりちゃんが履いていても鎧姿でも違和感のない、可愛らしいスニーカーで、首トンリングと同じように気絶効果を付与してある為、地元でも使える優れものとなっている。


「それでひよりちゃんはどれが一番しっくりきたの」


「一番使いやすかったのは虎助先輩の安全靴ですが、マリィさんの鉤爪も気になったです」


「だったら両方とも持っていきなよ」


「いいんですか」


「ひよりちゃんの為に作ったものだからね」


 せっかく作ったものだからむしろ使ってもらえるとありがたい。


「ひよっち、俺のはどうなん?

 一つだけご指名が入らなかったんすけど」


「元春先輩の銃は使い方に癖がありますし、私の手には少し大きいです。

 他の人に使ってもらった方がいいんじゃないですか」


 ひよりちゃんも簡易版だがマジックバッグを持っている為、元春のそれも持ち歩くことは出来るのだが、やはりデザインに拘ったゴツい銃はあまり好みではない様子で。


「だったらマオっちが使う?」


「……重い?」


 となればと次に白羽の矢が立ったのは魔王様だったが、魔王様の小さな体で総金属製のガンブレードを振り回すのはあまり現実的ではなく。


「なら、スノーリズさんに渡すとか――」


 だったらと僕がスノーリズさんの名前を出したところ、元春はきっぱりと。


「ダメだ」


「なんで」


「もっと本気で作ったヤツじゃないと失礼だろ」


 それ即ち、ひよりちゃんのそれは本気じゃないということなんだろうか?


「ここから改造することも出来るけど」


「じゃあ、重心に雪の結晶みてーなのを入れて、氷雪系の魔法で固めるとか?」


 スノーリズさんなら変なことに使わないだろうから、殺傷能力の高い魔法銃に魔改造しても問題はないんじゃないかということで、


「そういうことになりそうなんですけど、マリィさんどうしましょう」


「余り物という説明をしてもいいのなら構いませんの」


 さすがにプレゼントと渡されても困惑が勝るだろうから、そういう前置きは必要だと僕は思ったのだが、元春としてはあまりそういう文言は使いたくないようで。


「ちょいちょいマリィちゃん、そりゃちっと失礼じゃないん?」


「しかし、わざわざスノーリズの為にといってもそれはそれで気を使わせてしまうでしょうに」


「たしかに、それはそうかもなー」


 改めてマリィさんに現実を突きつけられてしまえば諦めもついたのか。


「しゃーなしだな。俺が作ったことはしっかり伝えてくださいよ」


「わかっていますの」


 果たして、それは好意的に受け取られるのかは未知数であるが、とりあえず引き取り手は見つかったみたいだ。


   ◆


「スノーリズ、それが虎助殿からいただいたという武器か」


「正確にはそのご友人が作られたものの、引き取り手がなかったので頂いたというものだそうですが」


「しかし、面白い形状ですねぇ」


「銃口の下についたナイフはやや使いづらいようにも思えますが」


「ご友人の為の試作品ということなので」


「成程、それならば文句を言うのは筋違いですね」


「こういうことはあることなのですか?」


「頻繁にではありませんがありますね」


「羨ましい限りだな」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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