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ディストピアの引き渡しと魔法銃

 それはアメリカから来た魔女の皆さんを見送った少し後のこと――、

 魔女の工房・極東支部の工房長補佐である小練さんと計良さんが、世界各国の魔女の工房から届けられた魔獣素材から作られたマジックアイテムの受け取りにやってきた。


「最後にこちらが極東支部のものになります」


「内容を伺っても?」


「ディストピアにできる素材はすべてディストピアにしてもらい、ディストピア化が出来なかった素材はゴーレムに加工して、残った分はこちらで処分させていただきました」


 ちなみに、極東支部から持ち込まれた素材でディストピア化ができたのは羅刹女に澎湖鮫人(ポンフーチャオレン)、あとアマビエの主要素材(シンボル)だった。


「羅刹女に澎湖鮫人はなんとなく察するものがありますが、アマビエは素材すら持ち込んでなかった覚えがあるのですが」


「そうだよね~」


「実は龍の鱗として納品されたものがアマビエ――正確には神社姫の鱗だったようで、それをディストピアに加工したらアマビエのディストピアになってしまったとのことです」


 ちなみに、神社姫というのはアマビエや件などと混同される妖怪で、どうして完成したものがアマビエのディストピアになったのかは不明である。

 ソニアが言うには、こういった名前の変化は地方によって呼び名や逸話が変わる魔獣によくある現象なのだという。


「しかし、アマビエというと疫病などの予言というイメージなのですが、とてもディストピアに出来るようなものではないような気がしますが」


「それにつきましては、カーバンクルのディストピアのように特殊仕様のディストピアになっています」


 具体的には、アマビエが佇むどこまでも広がる浅瀬の海で襲い来る寒気と戦いながら光る玉を探すという、疫病と予言を連想させる試練となっている。


 ちなみに、残り素材で作ったゴーレムには大量にあった毛皮をベースにしたハヌマンと鵺モチーフのキメラ、それと東南アジアに多いらしいヘビや亀などの爬虫類をベースとした素材を使った霊亀があってだ。


「ハヌマンが幻影分身で鵺が雷撃、霊亀が毒霧散布ですか」


「とはいっても、ゴーレムの性能は耐久に特化したもので、使える魔法は下位程度のものになりますが」


 この辺りはアメリカの皆さんに送ったのと同じで、あくまで盾役としての役割を想定しているので使える力はおまけ程度のものとなっている。


「他の支部のものはどうしましょう」


「そちらは現地の魔女に確認してもらう予定です」


「では、ディストピアのテストプレイをしていきますね」


「緊張します~」


シルバリオン(巨銀狼)をクリアできたお二人なら問題ないと思いますよ」


 まあ、あの時は十名以上の魔女さんが一緒に挑戦していたのだが、地球の魔獣はそこまで強くない。

 それに極東支部に渡すディストピアは、少人数でクリアできるようになっていて、

 ただ、あまり詳細に説明してしまうと実績の獲得に悪影響が出てしまうので、早々にテストプレイをしてもらった結果は以下の通り。


「身構えたのですがそれ程でもありませんでしたね」


「アマビエは大変でした~」


 これは前にアメリカの皆さんにも説明したように、地球における強力な魔獣というのは、環境における魔素濃度の薄さも相まって、長い年月を狡猾に勝ち抜いてきて力を得たような個体が多く。

 ディストピア化による思考力が低下によって、その力を大いに減退させてしまう傾向にあるからで、

 一方、アマビエのような搦め手のディストピアの方が難易度が高い傾向にあるからと、地球産の魔獣素材から作られるディストピアの傾向を解説をしたところ、二人も納得してくれたようだ。


「しかし、攻略後に得られる実績はなかなかのものです」


「たしかに、羅刹女は武器が使いやすくなる実績で~、澎湖鮫人は体力とかそういうので~、アマビエがいろんな耐性って結構凄いよね」


 しかし、攻略者の潜在能力がどれくらい開放されるのかは、すでにいろいろな実績を獲得している僕が検証することが難しく。

 まだディストピアに挑んだことがない人員が多い魔女の皆さんに任せるしかないと、詳しい検証は極東支部の皆さんにお任せするしかなく。


「そういえば聖水の話聞きました」


「やっぱり皆さんのところにもそういったものがあるんですか」


 これは三好さんが虎徹を持ち込んだ時にも出た話だが、魔女の皆さんのところにも呪いなどによって扱いに困るアイテムはあるようだ。


「じゃあ、レシピと欠片をお渡ししますね」


「催促したようで済みません」


「いえいえ、レシピの方はデータベースから手に入るものですし、欠片ももともと何かに使えるかと思って取ってあったものですから」


 そう、端材となってしまった精霊金を取ってあったのは、希少な素材ということで捨てられなかっただけなので、知人友人に少量配ったところで特に問題はないと、ディストピアに加えて聖水のレシピの受け渡しが終わったところで、お店に飛び込んできたのはリュドミラさんだ。

 彼女は二人を押しのけるとカウンターの上にゴツい銃が入ったケースを置き。


「虎助殿、これを見てくれないか」


「ついに完成しましたか」


「はい」


「手にとって見てみても?」


「むしろしっかり鑑定をしてくださるか」


 どうやら、リュドミラさんが以前から自作していた魔法銃がついに完成したみたいだ。

 慌ててやってきたのは不具合が無いのか最終チェックをして欲しいからのようで、

 だったらと僕は〈金龍の眼〉をつけて鑑定。


「大丈夫です。問題なく完成してます」


「そうか、よかった」


 お墨付きが出れば感慨も一入のようだ。


「せっかくなので新作のディストピアを使って試運転をしてみますか」


「いいのですか?」


 自分一人に時間を取らせることに恐縮してのことだろうが、


「構いませんよ。僕も気になりますから」


 僕もこの魔法銃をリュドミラさんが一生懸命作っているところを見てきただけに、その出来栄えも気になると手を振れば、


「我々も見学させてもらってもよろしいでしょうか」


「む、貴様等は静流のところの――」


「小練杏です」


「計良未来ですよ~」


 声をかけられて、ようやくその存在に気がついたみたいだ。

 名前を覚えていないようなリュドミラさんの反応を察して、二人から軽く自己紹介があった後――、


「それで我々も見学させてもらっても」


「構わん」


 それぞれの工房で機密保持のようなものがあるのかもしれないが、自慢したい気持ちが打ち勝ったのだろう。小練さんからのお伺いにリュドミラさんの許しが出たところで、さっそく新しい魔法銃の試運転の準備をしていくことに。


「いま用意しますね」


「用意?」


「預けてもらった素材で作ったディストピアです。銃で相手をするのにちょうどいい相手がいまして――」


 そう、実はリュドミラさんがトップを務めるロシア・中東支部から送られてきた魔獣素材(シンボル)から作られたディストピアの中に、銃で戦うのにちょうどいい相手が居るのである。

 僕は小練さんと計良さんに渡すべく用意してあったジュラルミンケースの中から一つを選び、工房側の訓練場に移動したところで、直接手で触れないよう魔剣士の篭手を使って鋏のような不気味なオブジェを設置する。


「それで虎助殿、これはどのようなディストピアで?」


「それは入ってからのお楽しみです」


 僕がそう言うとリュドミラさんは早速完成したばかりの魔法銃を装備して、躊躇うことなくその不気味なオブジェに手を伸ばす。


 すると、その場からリュドミラさんの姿が消えて、闇に包まれたゴーストタウンを映す魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。

 リュドミラさんはその中心で銃を構えて敵の位置を探る。


 静寂に包まれる街の中、銃を構えたリュドミラさんが視線を彷徨わせながら、大きな通りを目指して走る。

 すると、路地を少し進んだところで近くの建物の屋根から大きな影がリュドミラさんに襲いかかる。


 リュドミラさんはこれに素早く反応。

 放たれたマズルフラッシュに浮かび上がるのは、某有名ヒーローのシンボルマークのようなシルエットだ。


「この敵は大蝙蝠ですか」


「でも、顔がおじさんみたいだったよ。不気味~」


 そう、このディストピアの主はウプイリという鋏のような翼を持つ人面蝙蝠。

 頭上からの攻撃を無難にやり過ごしたリュドミラさんは物陰に逃げ込み、ひょこっと顔だけ出して夜空を見上げ、銃身に浮かんだ小さな魔法窓(ウィンドウ)を操作して魔弾をチェンジすると、空に向かって閃光弾を打ち上げる。


 すると、花火のように打ち上げられた光球が闇に包まれた空間を照らし出し、その閃光弾はちょうどウプイリの進行方向へと飛んでいったようだ。

 驚いたように身を翻すウプイリにリュドミラさんは素早く弾種を変えて魔弾を連射。


 放たれたのは弾速が遅く威力も低いが延焼効果が高く継続的なダメージが狙える魔弾だ。

 その内の数発がウプイリのお尻を捕え、閃光弾の消えた夜空に炎を灯し。


 こうなってしまえば、もうどう料理するのもリュドミラさんの自由だ。

 文字通り、お尻に火がついたことで隠れることを諦めたのか、Uターンして襲いかかるウプイリにリュドミラさんは魔力チャージ。

 闇夜に溶け込むような黒い魔弾を命中させると、ウプイリが地面に引っ張られるかのように急降下。

 そう、この魔弾は前々からリュドミラさんが試行錯誤していた重力の魔弾だ。


 結果的に飛ぶことが出来なくなってしまったウプイリはリュドミラさんの魔弾の連打にあっという間に撃沈され。


「完勝でしたね」


「物足りないくらいでした」


 しかし、目標としていた重力の魔弾がしっかりと役目を果たしていたと、リュドミラさんは満足そうで、

 ただ、頑張って作っていた魔法銃が完成したということは――、


「リュドミラさんもそろそろお帰りですか?」


「いえ、まだまだ作りたいものがありますので、ご厄介になりますよ」


 後進の成長を促すといっても大丈夫なのだろうかと視線を送ると、二人は首を左右に振って諦めた様子で、


「ということでだ。そこの二人、他のディストピアも試してみるが、来るか?」


「お供します」


「折角だからご相伴に預かります~」


 誘われるがままに次のディストピアに挑戦をすることになったみたいだ。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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