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幕間・マギナミンG

◆今週と来週あわせてSSを五話投稿する予定です。明日もう一話投稿する予定です。


 とある夏の日の午前中、「ありがとうございました」僕が迷宮都市アムクラブからダンジョンを抜けてやって来た探索者のお客様を、陽炎が立ち上る店の外へと送り出したのを見計らったように声が聞こえてくる。


「俺はもうダメだ」


「まだ始めたばっかだよ。ほら、シャキッと勉強しないと合格できないよ」


 悲哀の篭った元春の声に、僕は腰に手を、困った顔をして勉強の続きを促す。

 そう、もう8月も半ばというのに、元春は未だ原付き免許の取得ができていないのだ。


「つ~か俺って、字がたくさん並んでると眠たくなるだよな」


「呆れ果てた男ですわね」


 明らかにやる気の感じられない元春の態度に、ため息混じりに言うのはマリィさんだ。

 しかし、元春は悪びれる様子もなくこんな事をのたまう。


「じゃあ、マリィさんがやってみたらいいんじゃないですか。絶対眠くなりますって」


「その免許とやらを取る為の勉強なのでしょう。私がやってどうするんです」


 まさにマリィさんの言う通り、ぐうの音も出ない元春は話題を変えるように机に突っ伏して、


「虎助、栄養ドリンク買ってきてくれよ」


「いや、今の元春には必要ないものだよね」


 栄養ドリンク。それは疲れ果てた社会人が日々溜まる疲労やストレスを誤魔化す為に飲む飲み物である。

 ただ嫌なことを目の前にして思考停止状態に陥っているだけの元春に飲ませてもあまり意味が無いと思うのだが――、

 そんな僕の意見を聞いてか聞かずか、マリィさんはその栄養ドリンクというものに興味を抱いたようだ。


「その栄養ドリンクとはどういうものなのですの?(わたくし)気になりますの」


「えと、なんて言いますか、マリィさんの世界で言うところのポーションのような飲み物ですかね」


 正直、高校生である僕が栄養ドリンクのお世話になることはまずないといっていい。

 だから、どう答えたらいいものか――、何処かで聞いたことのあるような台詞を口に迫ってくるマリィさんに僕がしどろもどろになりながらそう言うと、


「虎助が暮らす世界には魔法が存在しないと聞いていたのですが……」


「魔法の力じゃなくてですね、科学的な、要はいろいろと体にいい栄養成分を配合した飲み物ですね」


「魔力に頼らず、薬効成分をとことんまで突き詰めた飲み物。虎助、今すぐ買ってきて下さい」


 マリィさんはフムと考えるようにして、そっと金貨を差し出してくる。


「なに?それってマリィちゃんのおごりってこと、だったら虎助――、俺にはちょっと高いゴージャスなヤツを買ってきてくれよ」


 そして、過剰な金額を差し出してくるマリィさんに元春が調子よく乗っかり、


「そうですわね。その栄養ドリンクとやらは色々あるようですし、わかりました。ここは(わたくし)が費用を持つということでお願いしますの」


 マリィさんも自分一人で飲むのも悪いと思ったようで、こう言ってくれるので、


「仕方がありませんね。じゃあ、近所の薬局で買ってきますよ」


 僕は使いっ走りとしてアヴァロン=エラを後にする。

 地球側に戻って、お徳用のドリンクを一箱、そして、お高めの栄養ドリンクをいろいろと買って来るのだが、


「おお、これは――」


「随分と買ってきましたわね」


「とはいっても、これでも銀貨十枚にもなりませんでしたけれど。お釣りはいつものストックに?」


「ええ、お願いしますの」


 金貨の処遇もそこそこにドリンクを手に取ったマリィさんは続けて、


「しかし、そんなに安くて大丈夫ですの。この栄養ドリンクとやらは――」


 いや、マリィさんがもったそれは一本二千五百円もする高級ドリンクなんですけど……。

 でも、万屋で売っているポーションは一本で銀貨十枚と考えると、マリィさんの心配も一理あるか。

 とはいえだ。

 僕も一回か二回もらって飲んだことがあるだけで、栄養ドリンクの効果なんて一度も実感したことがないというのが正直なところ。

 たぶん元春もなんか雰囲気だけで飲みたいと言ったのだろう。

 ということで、まずは元春に飲んでもらって、魔法的にその効果を確かめることにするのだが、


「〈調査(スキャン)〉で確認しても、特に変化はありませんわね」


「元春はどう?それ一本で二千五百円するのなんだけど」


「なんとなく元気になったって感じか、マリィさんがどうしても気になるなら裏で確認してきてもいいんだけどよ」


 このお馬鹿な友人は本当に何を言っているんだ。マリィさんは気付いていなかったからよかったものの、そんな下ネタを堂々と言ってることがバレてたら、今ごろ〈火弾(ファイアバレット)〉の一人十字砲火の上に、股間に〈炎の投げ槍(フレイムジャベリン)〉を突き立てられて去勢されてたところだよ。

 元春の迂闊な発言を聞いた僕が、マリィさんがその発言の意味に気付いていないことにほっと胸をなでおろしていると、


「そういえばこういうドリンクってさ、スポドリ(スポーツドリンク)と一緒に飲むと効果が倍増するとかって聞いたことがね?」


 ああ、なんとなくそういう話を聞いたことがあるような気がするけど――、


「いや、それってたぶん危ないやつだから」


 ……でも、スポーツドリンクじゃなくて、ポーションとかと混ぜたりしたら効果が上がったりするかもしれないな。

 ポーションとは魔法の力で薬効成分を極限まで高めている。つまり栄養ドリンクに魔法薬を混ぜてみたら、その効果も上がるのではないか、何気なく思い浮かんだアイデアを口に出していたのか、マリィさんがこんな意見を口にする。


「それなら魔力付与を使ってみてはどうですの」


「魔力付与ってなんだ?」


「錬金術にそういう技があるんだよ。 でも、魔力付与ですか。面白いかもしれませんね」


 元がいいものなら、そこに魔力を付与しただけでも強力な魔法薬になるかもしれない。

 ならば早速実験を――と、僕はいつもの趣味の悪い錬金釜を取り出して、コトリその中に栄養ドリンクの瓶の置くとしっかりとフタをする。

 そして、魔力を込めることほんの数秒――、


「一応できたみたいだけど、これは――」


「マギナミンG?なんでパッケージまで変わってるんだ?」


 錬金釜から取り出した某有名栄養ドリンクはそのラベルすらも変化を遂げていた。


「マリィさん。こういうことってあるんですか?」


「どうでしょう。そもそも元ある商品を再錬成なんてしませんからね」


 こういう前例はないだろうか、僕よりも錬金術をよく知るマリィさんに訊ねてみるのだが、どうもこの変化は初めてのケースらしい。

 マリィさんと話をしながらも変化したラベルをまじまじ見ていると、どうも変化しているのは商品名だけではないようで、


「回復力強化、体力強化、性豪の一時付与。これって――」


「ちょっと待て虎助、見せてみろ」


 効果効能の項目を見て呟いた僕の言葉に、元春がマギナミンGを引ったくる。

 そして、その但し書きを見るやいなや目を輝かせた元春は、躊躇なくそのドリンクを飲み干し、何故かマリィさんの方を見て、無言のままにしゃがみ込んでしまう。


「虎助、こいつはスゲー薬だぞ。アッチでもバカ売れだ」


「えと、普通に薬事法違反になると思うけど……」


「裏ルートでさばくから問題ナッシングだ」


 男として元春の体に何が起きているのかを悟った僕は、馬鹿なことを考える元春に少し考えてそう釘を差すのだが、元春はグッと親指を立てていい笑顔を返してくる。

 ――ってゆうか、裏ルートってなんなのさ。

 結局、その後、買ってきた全ての栄養ドリンクに魔力付与を施し、変化した効能をきちんと調べ、安全そうなドリンクをマリィさんが飲んでみたりと、ある程度の実験を行い、残った分はマリィさんと元春に引き取られていくこととなった。

 そして、マリィさんに引き取られた栄養ドリンクの殆どが女性用の栄養ドリンクということもあり、女性特有の悩みが解消されたようで追加注文があったりもしたのだが、元春が持って帰ったマギナミンGがどうなったのかはわからない。

 しかし、暫くして、元春からも追加注文が来るようになることから考えて、例の裏ルートというものは本当に存在するのだろう。

 まあ、成分的には通常販売されているものと全く同じものだけに、一応問題は無いと思うのだけれど……。

 僕としてはこの残念な友人が警察に捕まらないことを祈るのみである。

◆今更かもですが錬金釜のイメージは某有名RPGのアレです。

因みに以前出てきた元気薬、あれも一種の精力剤のようなものですが、即効性という意味ではマギナミンGの方が上という設定です。

 持続力の元気薬。即効性のマギナミンG。そういう使い分けができるでしょう。

 いや、なにを解説してるんでしょうね……。

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