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●白盾の乙女、指名依頼を受ける

「面倒なことになりました」


「調査だなんて言ってるけど、どう考えてたって攻略に巻き込まれる流れっすよねコレ」


「店長はなんて言っていたのだ」


「今日の調査は休んで大丈夫だって、それよりも私達の心配をしていたわ。なにかあったら連絡してくださいって」


「ありがたいですね」


 その日、ギルドに顔を出した白盾の乙女は頭を悩ませていた。

 つい先頃、元魔王城に仮設置されたギルドの長から直接、数名の職員をダンジョンの入口まで連れて行って欲しいという指名依頼を出されたからだ。


 これが単純にギルド職員を案内するだけなら問題はなかった。

 しかし、ここに最近になって頭角を現してきた新人冒険者が加わるとなれば話は別だ。


 これのどこが問題なのかといえば、仮にとはいえギルド長が直々に出した依頼に抜擢されるくらいのパーティなら、噂の一つでも聞いていてもおかしくはないにも関わらず、白盾の乙女の誰一人としてそのパーティの名前にまったく聞き覚えがなかったからだ。


そこから察するに、その新人冒険者というのはギルド長のお気に入り、もしくは一部の権力者の後押しを受けてねじ込まれていることが考えられ、そんな新人の引率に、あえて他国の出身である自分達が選ばれるなんて、なにか裏があるとしか思えないのだ。


 ただ、ギルドから直接出された依頼を断ることを難しく。

 エレオノールたち四人は今日の予定が変わってしまったことを万屋の虎助に連絡し、ギルドが作った仮拠点の入口での顔合わせとなったのだが、


「よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 まず、エレオノールが握手したのは貴公子然とした金髪の青年だった。

 その後ろには、やんちゃそうな黒髪の青年と少し神経質そうな眼鏡の青年がふてぶてしい顔で並んでおり。


『なんか見掛け倒しって感じの人達っすね』


『体つきを見るに、それなりには鍛えてはいるようだが、立ち居振る舞いはまだまだといったところか』


『それに比べてギルド職員の方は――』


 不可視モードでのメッセージのやり取りから、白盾の乙女の四人がスライドさせるのは彼等の脇に控えるギルド職員だ。

 一見すると、さえない男性職員ばかり集められたようにも見えるのだが、挨拶を見守るその姿は油断がなく。


『明らかに全員、元は冒険者だったって感じよね』


『特に一番後ろのおじさん、自分と同業者っすかね』


『どちらかというと裏の職業の方ではないでしょうか』


『ある意味で正しい人選とは言えるのだが厄介だな』


『だけど、私達でも見抜けるレベルなんだから、そこまででもないんじゃない?』


 前述の三人とは明らかに違うギルド職員の立ち居振る舞いに白盾の乙女は警戒を強める中、自己紹介が終わり、さっそくダンジョンに向けて出発する段になるのだが、


「それで黄金世代のスカウト役は誰になりますか?」


「いちおう俺だが」


 ちなみに、黄金世代というのは若手三人のパーティ名で、エレオノールの確認に手を上げたのは、いかにもな戦士職といった風貌の赤髪の青年・ヘルマンだった。


「じゃ、自分が一番手ってことでいいっすか」


 すると、そんなヘルマンを見て、これはダメそうだとココが先頭を買って出るのだが、

 これにエレオノールが『そうですね――』と同意をしようとしたところ、それを遮るようにクロードが割って入り。


「ちょっと待ってください。どうしてアナタが先頭を行くんです?」


「そりゃ今回、ウチ等は案内役も兼ねてるっすから」


「しかし、女性に先頭を行かせるのは――」


 暗に危ないと言われようとも、少なくともこの森の探索に限っていえば、むしろ止めに入ったクロード達を先に行かせる方が危険であり。


『面倒臭っ』


「クロードさん、ここはダンジョンまでの道のりを知っている彼女達に――」


 途中、ココの心の声が魔法窓(ウィンドウ)を通して仲間内で共有される一方、ギルド側にも白盾の乙女側の心情が伝わったのか、ここで数名のギルド職員が間に入り、クロードを説得してと、そんな一悶着を挟みながらもどうにか拠点を出発。

 その後、幾度となく魔獣と遭遇しながらも順調に森を進むのだが、ダンジョンまでの道程もそろそろ中間に差し掛かろうといったその時だった。

 先頭を歩いていたココがさっと手を上げ、後続を止めるとエレオノールがそっと近づき。


「どうしました?」


「オオカミの群れに補足されたみたいっす。ちょっと倒しに行ってくるっすね」


「その役目、俺達に任せてもらえませんか」


 ここまでの戦いと同じく、ココがクナイを取り出し、アヤに声をかけようとしたところ、これに横槍を入れたのはまたしてもクロードだった。


 これにココが何か言いたげな視線をエレオノールに向けると、エレオノールはその視線をギルド職員にスライド。

 すると、これにギルド職員の一人が、


「ここまでの魔獣はほぼ白盾の皆さんが討伐してしまいましたし、この辺で黄金世代の三人がどれだけ戦えるのかを見せてもいいのでは」


 まあ、今後の探索を考えるのであれば、三人の実力が見られるということは悪くない。

 最終的にココの誘導で黄金世代の三人が狼魔獣の群れと戦うことになるのだが、


『なんか微妙っすね』


『連携は悪くはないが、時間をかけすぎだ』


 三人の動きは悪くはない。

 決して悪くはないのだが、これまでに虎助やマリィというような、彼等と同世代の強者に出会ってきた白盾の乙女からしてみると、黄金世代の実力はやや物足りないものだった。


 しかしその一方で、ギルド職員達からしてみると彼等の戦いぶりは高い評価になるようだ。


「さすがは注目の若手株、素晴らしい戦いぶりです」


「然り、ゴスチャ卿からの推薦を受けるだけのことはあるな」


『これって私達も褒めた方がいいのかしら』


『というか、これが指名依頼の本命なんじゃないっすか。お兄さん達もなにか期待してる目線を送ってきてるし』


『頼んだぞエレン』


 そんなギルド職員達の称賛に白盾の乙女は彼等の評価を下方修正。

 それと同時にチラチラと向けられる期待の眼差し(鬱陶しい視線)に、ココ・アヤ・リーサの三人がその対応をリーダーであるエレオノールに丸投げ。


 すると、人の良いエレオノールは弱々しくも声援を送り。

 そんなエールが功を奏したか、三人の動きも多少は良くなり、五分程でオオカミの半数を討伐、残りは森の奥へと逃げ去ってと、勝利を収めた三人は警戒を解いて。


「おととい来やがれ」


「これが魔王配下の魔獣の実力か、聞いていた程でもないな」


「そうだね。森に潜むの魔獣がすべてこの程度なら、噂に聞いていた勇者一行の実力も意外と大したことがないのかも」


『いや、普通に半分以上を取り逃がしてんすけど。

 しかも、こんなに早く警戒をだるんだるんにするなんてなんすか、

 ここにイズナ様がいたらぶっ転がされてるところっすよ』


『それはアヴァロン=エラを知る前のことを思えば、我々もあまり言えたことではないのだが、

 ココの言うことは尤もでもあるな』


 ギルド職員達が黄金世代をもてはやす一方で、念話通信のメッセージ上には『他人の振り見て我が振り直せ』とばかりのコメントが流れ。


「さ、皆さん、血の匂いで他の魔獣が寄ってくるやも知れません。すぐに移動しましょう」


「そ、そうですね」


 黄金世代――特にクロード――はエレオノールからの称賛を期待していたのか、意気揚々と戻ってくるのだが、待っていたのは如何にも真面目なエレオノールらしい言葉で、

 白盾の乙女とその他男性陣との間に多少の温度差を生み出しながらも、集団はダンジョンを目指してふたたび歩き出すのだった。


   ◆


 すっかり日もくれた午後八時過ぎ――、

 白盾の乙女の四人は万屋の応対スペースでぐったりしていた。


「それは大変でしたね」


「ホントっすよ」


 あの後、白盾の乙女の面々は黄金世代とギルド職員達を連れて、無事にダンジョンへと辿り着きはしたのだが、道中の移動に予想以上の時間がかかった為に、ダンジョンの探索は少し入口付近を少し見て回っただけで引き返すことになってしまったのだ。


「そもそも道案内ってのが今更なんすよ」


「ダンジョンの前に新しい拠点を作る為と言えば当然ともいえるのですが」


 そう、今回の案内については、一応ダンジョンの入口にギルドの新しい出張所を作るという名目があり、ダンジョンまで辿り着いた後、ギルド職員は「後の探索は若い人達に任せて――」と面倒な言葉を残しながらも、きっちりと仕事をこなしていた。


「しかし、あの三人が筆頭候補なんて、ルベリオンのギルドも人材不足の極みよね」


「フレア殿とポーリ様が消えたことになっているからな。次の柱を巡って思惑が交錯しているのではないか」


「それにしたってあれはないでしょ」


 ただ、そこは数か月前まで魔王とまで呼ばれたパキートが隠れ住んでいた魔の森で、生息している魔獣も強力な個体が多いとなれば、まだ冒険者になって間もない三人が活動するには厳しい土地で、


「彼等の年齢を考えますとやれている方だと思うのですが」


「いやいや、下手すると職員さん達の方は強いまでないっすか」


「ギルド側としては、なんとしてもあの子達に箔をつけたいのね」


「エレンもいろいろ声をかけられていたからな」


「皆さん気付いてたなら助けてくださいよ」


 それが彼等の意志によるものなのかはわからないが、特にリーダーであるエレオノールは同じリーダーであるクロードと話すよう、道中、ギルド職員が間に入っていろいろ仕掛けていたのだ。


「いやよ、巻き込まれるでしょ。それに私はあんまり声をかけられてなかったし」


「あれあれリーサさん。嫉妬っすか」


「そんなんじゃないわよ。ってゆうか、あんな気遣いの一つもできない男共なんてこっちから願い下げでしょ」


 リーサはそう言うと、虎助が用意した甘いミルクティーを一口飲み。


「それでどうするの。ギルド側の思惑がこっちの想像通りだとしたら、またなんやかんや理由をつけてお守りを押し付けられるわよ」


「そうですね。このまま彼等と組まされてしまいますとリーヒルさんとのお仕事も出来なくなってしまいます」


 一応、ギルドからの依頼ということで、相応の金銭は発生しているものの、白盾の乙女の四人からしてみれば、自分達だけで動いた方が得られるものも多く。


「内部構造や珍しいものの写真でも送ってくださればこちらでポイントを付けますが」


「それはありがたいのですが――」


「アイツ等がお金になるようなところまで潜れると思う?」


 肩を竦めるリーサに対する三人のリアクションを見れば、その問いかけの答えが絶望的というのは聞くまでもないようだ。


「ベルタのギルドから抗議をしてもらえばいいのではないか」


「誰か商人でも捕まえて手紙を託しましょうか」


「それなら、僕がセリーヌさんに話を通しておきましょうか」


 ベルタ王国といえば白盾の乙女の四人のホームであると同時にアビーの実家がある国だ。

 そんなベルタ王国の貴族令嬢であるセリーヌとは、例の地下遺跡を拠点としていた犯罪集団の件で連絡を取り合っていることもあって、そのついでに伝えることも出来ると虎助が言うと、エレオノールは申し訳無さそうにしながらも頭を下げてこう言うのだ。


「すみません。お願いできますか」

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