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蛹と欠片の使い道

 本日、僕達は魔女の皆さんの宿泊先であるトレーラーハウスの前で、ゲートを通じて流れてきたクイーンエメラルダの繭から取り出した蛹の内容物から魔法薬を作っていた。


 実はあの後、データベースで既存のレシピを調べてみたところ、体の一部分を成長させる魔法の薬のレシピを発見。

 その効果が名前そのものの効果であるのなら作らない訳にはいかないと、一部の魔女さんからリクエストで急遽それを作ることになったのだ。


 そうして生産系の魔女の皆さんの尽力でレシピ通りに魔法薬が完成したまでは良かったのだが、実際に作った薬の効果を鑑定してみたところ、その薬の効果がまた強力ではあるものの、ある意味で個人の資質を測るようなものだったようで、魔女の皆さんはさぞかしガッカリするのかと思いきや。


「効果を薄めてでも継続摂取するのはどうでしょう」


「ざ、材料自体が希少ですから量が作れませんし……」


「けど、単に薄めればいいというものでもないんじゃない」


「そうよね。直接塗布と吸収させるのでもその効果は違ってくるみたいだし」


「そもそも胸に塗って何もなかったら――ああぁぁぁぁぁああっ」


 効果自体は素晴らしいものだと、皆さんは赤裸々にその改善点を話し始めてしまったので、ここは男の僕が居てもいいことはないだろうと、マリィさんや戦闘系魔女の皆さん、そしてこの成長薬に興味がない魔女の皆さんが集まる一角に移動。

 こちらはこちらでクイーンエメラルダの幼虫の殻を使って何を作るのかが相談がされていて。


「触り心地は水晶のようだが軽いな」


「しかし、これだけ軽いと武器に使うのは難しそうですの」


「使い方によるのでは?例えばチャクラムとかみたいなものならば重さも必要なさそうですし」


「ふむ、それはそれで面白そうですわね」


 最初は武器に向かないのではとガッカリしていたマリィさんも、興味をそそられるアイデアを聞いてしまえば、ウキウキが止まらないと魔法窓(ウィンドウ)を開いて武器の設計に取り掛かる一方、ヘルヴィさんがやってきた僕に気付き。


「ちなみに、これを魔法で処理をしたとして、どんなものが作れます?」


「クイーンエメラルダは毒の鱗粉を撒き散らす巨大な蛾ということなので、毒と風の力とは相性は良さそうですね」


「となると無難なのは解毒系のアクセサリになりますか」


 ちなみに、耐毒のマジックアイテムというのはどこの世界でも売れ筋商品のようで、地球でも魔女の工房から売りに出されるそれは、各国のセレブがこぞって手に入れようとするアイテムになっているそうだ。


「しかし、これだけ上質な毒系素材ってなるとアニータさんが欲しがりそうですね」


「たしかに――」


 ええと、アニータさんというのは工房の南米支部を取り仕切る工房長だったかな。


「どうせだから、私達で作って誰かに使わせるってのはどうかな?」


「それ、ちょっと面白そう」


「副長と相談してみようか」


 会話内容から察するに、その杖を作る理由はアニータさんへのからかいのようなものだろうか。


「しかし、この大きな殻はこのまま改造して戦車とかにもできそうだな」


 と、悪戯好きの魔女の皆さんが杖を作るのにいい大きさの欠片を探す一方、大きな殻を見上げて呟くのは中東・オセアニア地域の工房長であるリュドミラさんだ。


「でしたら実際に作ってみましょうか」


「いいのですか」


「似たようなものを段ボールで作ったことがありますから」


 いつのことだったか、強化ダンボールで浮遊戦車を作って、マリィさんや魔王様と対戦したことがある。

 この殻の軽さなら同じ要領で戦車を作れるんじゃないかと僕が何気なく提案すれば、他の皆さんがこの話に食いついて、

 しかし、ここで例の杖を作ろうと皆さんに呼ばれて合流したメリーさんから『お遊びに使ってしまうのは勿体ないのでは』という懸念が上がるも、

 ただ、それそのものは、あくまで綺麗に残っている殻をガワとして乗せるだけだから、また後で使えますと僕が言えば、メリーさんとしてもノーとも言えないようで、エレイン君に適当な大きさのフローティングボードを注文。

 魔女の皆さんに囲まれてフルアーマー状態の元春に戦車の装甲に使えそうな大きな殻を持ち上げてもらい、割れている部分を整えて、

 それを届けられたフローティングボードを乗せ、割れ目に魔法銃を改造して作った砲身を取り付けてしまえばもう完成だと、簡単な動作チェックをしていたところ、そこに剣の設計を終えたマリィさんがやって来て。


「面白そうなことをしていますわね。

 しかし、こうも透けているとイマイチ迫力が出ませんの」


 やっぱり中身が見えているのがいけないのだろうか、

 マリィさんが言うように完成した魔砲戦車はどこか安っぽく見えてしまうかもしれないが、この戦車はあくまでお遊びとして作ったものであるからして。


「とりあえず戦ってみましょうか」


「殻が壊れたりしませんか」


「元の硬さも相当ですし、魔法に対する耐性も高いようなので状態異常の魔弾で戦えば問題ないかと」


 流石は巨獣由来の素材だ。

 クイーンエメラルダの殻で作った即席の浮遊戦車は〈金龍の眼〉の鑑定によると、下位の魔法なら殆どの属性をシャットアウトできる性能を持っているようで、状態異常の魔法銃を使って戦えば大丈夫なんじゃないかと〈金龍の眼〉を装備した僕が伝えれば、メリーさんもそれならばということで、さっそく実践演習をしてみようとなれば、マリィさんを始めとして戦闘系の魔女の皆さんが面白そうだとバトルへの参加を表明して、厳正なるジャンケンの結果、リュドミラさんが操縦者をもぎ取ってバトルスタート。


 まずは攻撃側が魔女の皆さんが、宿泊するトレーラーハウスの目の前に作られている映画セットのような訓練施設に散らばり、戦闘準備が整うのを待ってリュドミラさんが操縦する戦車が訓練施設の中へと突入。


 すると、そこかしこから各種状態異常の魔弾が浮遊戦車に殺到。

 しかし、雑に放たれた魔弾はクイーンエメラレルダの装甲に弾かれてしまい。


「適当に狙っても駄目だ。装甲の継ぎ目や砲身の付け根を狙え」


 戦車の外装は急造のものの為、やはり隙間というものが幾つか存在している。

 攻め手を指揮しているヘルヴィさんはそうした隙間から魔弾を通そうと考えたようだが、先の攻撃と大声を出したことによって、彼女達の狙いとその位置はリュドミラさんに把握されていた。

 結果、飛んできた魔弾はリュドミラさんの操縦テクニックによって避けられるか防御され、逆にヘルヴィさん達は戦車に備え付けられた砲身から放たれた特大の魔弾によって眠らされてしまい。


「圧倒的じゃないですか」


「単に範囲が広いだけで皆さんが使っていた魔弾と性質はほぼ変わらないんですけどね」


「そうなんですか?」


 浮遊戦車の砲から放たれる魔弾は一見すると強力なように見えるのだが、実際それは万屋で売っている魔法銃をそのまま大きくしただけのものであり、そこから放たれる魔弾も単純にその規模を大きくしたものでしかなく。

 魔法の規模を大きくしたことによってむしろ弾速は遅くなり、効果のわりに消費魔力も大きいことから、あまり実用的ではないというのが現実で、

 ただ、魔素の濃度が高いアヴァロン=エラでなら連続発射も可能であって、リュドミラさんは強固な装甲を盾に、撃たれては反撃、撃たれては反撃を繰り返し。

 これは一方的な戦いになるのかと思いきや、ここで果敢にも空から攻めていく人が現れる。

 最初の反撃でやられたかと思われていたヘルヴィさんだ。

 彼女は魔法の箒を使って、上空から戦車に取り付くことに成功すると――、


「真上からの攻撃はどうしようもないんじゃないですか」


 たしかに、戦車は車体の前方から砲身を突き出すという構造上、真上に乗られてしまうと反撃が難しい。


「しかし、そこからどうする?」


 そう、問題はその状態からどう攻めるかだ。

 浮遊戦車は浮遊させた車体の下からの乗り込むというその構造から、その上部はほぼ完全に甲殻に覆われていて、砲が備え付けられた装甲の割れ目に銃口を突っ込み、無理やり搭乗するリュドミラさんを狙おうにも、狙われているとわかっているとあらば何もしないわけがなく。

 リュドミラさんは魔法銃を殻の割れ目に突き込もうとするヘルヴィさんに煽るような言葉をかけ、浮遊戦車を回転させ始める。


「だけど、これだと中に入ってるリュドミラ様もヤバイんじゃ」


「いや、見てください」


「あれっ、中にいるリュドミラ様はそのままだ。どうして?」


「あっ、地面に立ってる。動いていいるのは戦車だけだよ」


 そう、リュドミラさんは地面に足を付けて浮遊戦車だけを回転させていた。

 そうして、リュドミラさんはヘルヴィさんが目を回しただろうというタイミングで戦車の回転を止め、後は振り落とすだととなったその時、スケルトン戦車の中心に立っていたリュドミラさんの小さな体ががふらりと揺れて、そのまま回転が止まった戦車の中に倒れてしまう。


「えっ、これってどういうこと?」


「やりましたの」


 唐突なリュドミラさんのダウンに困惑するアネットさん。

 その声に応えるように物陰から顔を出したのはマリィさんだ。

 そんなマリィさんの服はその前面が酷く汚れており。


「地面に寝転がって足を狙ったんですね」


 そう、マリィさんは地面ギリギリから狙いを定め、浮遊する戦車の足元に魔弾を通したのだ。


「あの、マリィ様ってどこぞのお姫様だったって聞いたんですけど」


「苦労したみたいですから」


 実際、マリィさんは亡国の姫であり、いまは自治領の領主をしているものの、魔鏡が見つかる二年ほど前までは、本当にギリギリの暮らしをしていて、ドレスに土がついてしまうくらいどうってことないのである。


「普段の姿からはそうは見えませんが」


「人に歴史ありという奴です」


 人に歴史ありということで、僕が戦車の上で目を回すリュドミラさんの介抱をしようと歩き出そうとしたところ、すぐ隣にいたメリーさんから声がかかる。


「それでこの戦車はどうしましょう」


「もともとこの殻は皆さんに譲る予定でしたし、そのまま使う分には後で再利用することも出来ますので、このまま完成させてはいかがです?配置によっては工房の防衛にも役に立ちそうですし」


「そうですね。砲の設計をリュドミラ様にお願いできれば面白いものができるかもしれませんし、このまま作るのも悪くはないのかもしれません」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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