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情報整理と犯罪防止

 放課後、店の棚卸しを終えた僕がカウンターで魔法窓(ウィンドウ)を操作していると、

 マールさんのところ(アルバイト)から戻ってきた元春がその手元を覗き込み。


「なにを真剣に読んでんだ?」


「セリーヌさんからの報告をチェックしてるんだよ」


「例の地下オークション的なアレな。けど、なんで虎助がそんなの見てんだよ」


「それなんだけど、アビーさんがまったく興味がないみたいだから、せめて僕がチェックしておいた方がいいんじゃないかって思ってね」


 実際、この問題はまだ完全に解決した訳ではなく、後々にアビーさんや白盾の乙女の皆さん、場合によってはフレアさん達も関わることになるかもしれないので、

 その時、皆さんが困らないように今の内から要点を纏めておこうと考えたのだ。


「そういうことならば私もお手伝いしますの」


 ここで手を上げてくれたのは、ディストピアの挑戦にやってきたシルビアさん達に付き添って来店したマリィさん。

 ちなみに、元春はいま宿泊施設の方にシルビアさん達がいることにはまったく気付いていないようだ。


「しかし、お客様にそんなことをしてもらう訳には――」


「いいえ、この件は万屋の仕事ではなく、アビーや白盾の乙女が持ち込んだものですの。故に、友人として情報の取りまとめを手伝うなら問題ありませんでしょう」


 これはどこぞの犯罪組織が運営していた地下施設への突入作戦に限らずであるが、常連の皆さんに問題が起こった場合、その時の対応は万屋というよりも友人としての色が強く、その情報の取りまとめを手伝ってくれるというマリィさんの善意を、お客様だからと断ってしまうのは確かにおかしは話だ。

 ということで、僕は「わかりました」と情報が並ぶ魔法窓(ウィンドウ)を二分割――もとい、玲さんも手伝ってくれるようなので三つに分割してそれぞれにスライド。

 ちなみに、そこに記されている情報はベルタ王国の機密にあたる情報になるので、他国の領主であるマリィさんに見せてしまうのは多少問題になるのかもしれないが、僕達がこの情報を得たところでどうしようもなく、細かいことは考えず、三人協力してセリーヌさんから送られてきた情報を精査していく。


 そうして、大方の情報を分類ごとに取りまとめ、三人で照らし合わせながら並べ替えた結果――、


「単純にお金の流れだけを見ますと、このイベラル侯爵家が例の施設の取りまとめ役のように映りますわね」


「だけど、これってあからさま過ぎない」


「たしかに、気づかれたとしても簡単に握り潰せると考えているのか、もしくは、何者かが侯爵家を陥れようとしているのか、この情報を持って断じることは出来ませんわね」


 いま集まっている情報を見ると、例の地下遺跡を根城に違法なオークションや賭場で稼いでいたのは幾つかの犯罪組織になるが、そのそれぞれが怪しげな商家と繋がっていて、

 その取引先を辿っていくと、最終的にイベラル侯爵家につながっているという構図になっている。

 ただ、これはあくまでお金の流れを辿った結果に過ぎず、あちらの世界のおける侯爵という地位の大きさを考えれば、下手に追求することも難しく。


「とどのつまり、いま捕まっている面々の証言が出揃わなければハッキリとしたことは言えませんの」


 しかし、そちらは教会関係者や貴族などからの横槍が厳しいらしく、なかなか進んでいないのが現状のようで、

 今は調べやすい犯罪組織の幹部などから情報を得て、つながりのある商家、下級貴族へと追求を深めようとしている段階のようだ。


「とはいえ、エレオノールさん達が巻き込まれた誘拐事件とかそういうのは潰せたんでしょ。

 一応、こっちの目的は達したんだからいいんじゃない」


 たしかに、喫緊の問題が解決できたというのは玲さんの仰る通りで、

 その黒幕らしき人物まで攻め入れるかはベルタ王国の手腕次第。

 ということで、僕達は後でこの件にアビーさんや白盾の乙女の皆さん、場合によってはフレアさん達が関わってもいいように、この雑多な情報をベースに個人的な推察も含めた相関図を作り上げ。


「しかし、こうゆう大規模な犯罪組織ってやっぱどこにでもあるものなのね」


「我が領地も気をつけねばなりませんの」


 ガルダシアは住人こそ殆ど増えていないものの、人の流れという面ではかなり活発になってきているので、いつ変な人が入ってきてもおかしくはない。

 ただ、お隣がカイロス伯爵領で、ガルダシアが独立領地ともなると、その近郊で大きな組織を興すというのは犯罪組織側にとっても大きなリスクであって、

 どちらかといえば、トンネルの開通時にもあったテロなどの危険の方が高いのではないのかと僕が言えば、マリィさんが「ふむ」と顎に手を添え、なにやら深刻そうな表情になってしまったので、


「トンネルになにかゲートのようなものを設置した方がいいんじゃないですか」


「ゲートですの?」


 ここで一つ、トンネルの入口では兵士やメイドの皆さんが荷物チェックを行っているが、人流が増えてきたとなれば、ある程度、自動で行えた方がいいんじゃないかとの提案をしてみたのだが、マリィさんはゲートと聞いてアヴァロン=エラの出入り口であるゲートを思い浮かべてしまったようだ。

 首を傾げられてしまったので、ここで追加で説明を――、


「ウチで言うところのカリアですね。入口のところに魔獣の来たのを知らせてくれたりするアレです」


「成程、それをトンネルの入口に配備しますのね」


 要は空港などにある入管ゲートのような機能を持った魔導器をトンネルの入口に設置してしまおうということだ。


「問題は何をどこまで調べるかですね」


「といいますと?」


「怪しげなものにいちいち反応してたらキリがありませんから」


 アヴァロン=エラで一番警戒すべきなのは魔獣や不審者の類であるが、ガルダシアとカイロスを繋ぐトンネルの場合、魔獣などはトンネルに入る前に見つけられるだろうから、その辺りの取捨選択が必要で、パッと思いつくものといえば違法な武器や魔導器、薬草などがあげられるが、


「だけど、そういうのって外から調べられるものなの?」


「そうですね。スキャンで全部調べてもいいですけど、魔力消費を抑えるなら、たとえば臭いで感知する方法とかもありますし」


 ここで元春が「ああ――」と声を上げ、どこか探るようないやらしい目線で、


「警察犬みたいな?」


「しかし、臭いなどで危険物を探すというなら、カイロス側に獣人の兵士を配置した方がいいのではなくて?」


 マリィさんもドラマなどを見ているから、警察犬の存在は知っている。

 そのことから、単純に臭いで禁制品を炙り出すなら、鼻の良い獣人の衛兵をトンネルの警備につければいいと考えたようだ。


「では、トンネルの入口に馬車や荷物の構造に特化した解析魔法を設置するのはどうでしょう」


「馬車や荷物の構造――ですの?」


「やましいものを持ち込むなら、ふつう隠して持ち込むと思うんです」


 そう言って、僕が挙動不審な元春を見る一方、玲さんはそれに気付いた様子もなく。


「そういうのもスキャンで調べられるんだ」


 実際、この方法ならわりと簡単に作れるということで、

 翌日の放課後――、


「で、馬車まで作っちまったと――、

 てか、やりすぎじゃね」


「実験した後の馬車は魔王様のところで引き取ってもらえることになったから」


「……新しい漫画図書館」


 実は前にリドラさんが回収してきた馬車を改造して作った漫画図書館がすでに満杯一歩手前で、新しい馬車が手に入らないかという相談がちょうど魔王様からあったのだ。


「それに木材なら輸出するほどあるから」


 今や懐かしのエルブンナイツが作り出した古代樹の森――、

 その在庫に加え、いまは日々大きくなっている世界樹から丸太サイズの枝が採れており。

 魔王様の拠点の改造にガルダシア城の各施設、そしてトレーラーハウス作りが落ち着いた今となっては、素材そのものの価値と輸送の難しさが合わさり、逆に在庫が積み重なっていっている状況なっているのだ。


「ということで、今回は世界樹の枝で作ってみました」


「なんて豪華な」


「妖精飛行隊の皆さんが住んでいるのは世界樹の周りなので、樹との親和性と何か変化が出ないかと狙って選択です」


「……ん」


 魔王様のところにある世界樹はアヴァロン=エラの世界樹から株分けされたものである。

 その大元となった枝を使って作った馬車もとい移動図書館が近くにあれば何らかの影響があるかもしれないと、

 なにより魔王様のところなら遠慮なく世界樹を素材として使えるからと、そういった理由からこの豪華仕様になったという訳だ。


「しっかし、見た目は普通の馬車なんな」


「ここから上モノを乗せていくから――」


 その前に今回のセンサーのテストに使おうということだ。

 ということで、実際にガルダシアのトンネルへの設置を検討してもらっているセンサー(飛ばないカリア)を用意して、その一つを地面にセット。

 残りの三つを適当なパイプに取り付け、それを繋げて作ったゲートのようなものの組み立てて――、


「ゲート適当すぎね」


「重要なのは付けてあるセンサーの方だから」


 ちなみに、ガルダシアにあるトンネルの方では地面や壁や天井に直接埋め込む予定になっており。


「んで、この馬車、どうやって動かすん?」


「僕が引くよ。荷物も乗っていないなら一人でも引ける筈だから」


 馬車本体は大量の漫画本を支える為にどっしり作ってあるものの、それに乗っける上モノは特殊なものが多く、まだ作っている途中なので、今回の検証は荷台に幌をかけてやることになったのだ。

 だから、馬車の重量は少し重い整地ローラー程度のものにしかならず、それくらいなら一人でも十分に引っ張れると、


「まずはなにもしてない状態のチェックから」


 僕の手押しで馬車が手作り感溢れるゲートを通り過ぎると、ピコンと軽快な音がなり、その構造が3Dモデルとなって浮かび上がる。


「おお、なんじゃこりゃ」


 ちなみに、魔法窓(ウィンドウ)の機能で映し出される3Dモデルは、ほぼフレームだけで構成されている為、スキャンした馬車の構造もわかりやすく。


「次は床下収納を付けてやってみますね」


 これは一軒家の台所なんかにあるようなスライド式の床下収納と同じようなもので、妖精の皆さんからのご注文でもあり、あらかじめ用意してあったそれをエレイン君に手伝ってもらって手早く設置。

 さっきと同じようにゲートを潜ってみると――、


「追加された部分が赤くなりましたの」


「成功ですね」


「どういう仕組みなの?」


「一般的な馬車や荷物の構造を幾つかデータとして登録してあって、そこから逸脱する部分を赤く表示するようになっているんです」


「シンプルな仕組みだな」


「こういうのはシンプルな方がいいんだよ」


「それもそっか」


 と、その後も色々と仕掛けを施した荷物なんかを積み込んだりして検証を進め、センサーの感知能力をチェック。


「こんな感じですがどうでしょう」


「そうですわね。シルビアに見せて了承が得られれば、ガルダシア側で試してもらいましょうか」

◆蛇足


「んでよ虎助、臭いでいろいろわかる魔法とかってどんなんがあるんだ」


「それは単純に失せ物探しとかだったり、敵の居場所を探したり」


「相手の状態がわかったり?」


「そうだね」


「ふーん、じゃあ例えばせぶらぎゃ――、

 って、なにすんだよ玲っち」


「いや、なんかいやらしい波動を感じたから」


「ちょっ、そんな勘みたいなのでぶっ飛ばされるなんておかしくね」


「でしたら、元春はどういった魔法を使おうとしていましたの」


「……」


「因果応報、文句はいえないね。元春」


「ぐっ、おぼえてろ」

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