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卒業式の前に――

◆短めです。

 その日、風紀委員会から、また呼び出しを受けてしまった。

 とはいっても、今回は僕だけじゃなく元春も一緒に呼び出されたということで、どういった呼び出しなのかはお察しである。


 ――と思っていたのだが、いざ委員会室についてみると、そこでは意外な展開が待っていた。


「先輩には笑顔で卒業してもらいたい。頼む協力をしてくれ」


 委員会室に入るなり、そう言って頭を下げるのは最近なにかと縁がある町村君だ。

 呼び出し相手が町村君だということで、今回の呼び出しが宮本先輩への彼の告白に始まった騒動に由来するものだと察することが出来るけど――しかし、どうして僕と元春が喚び出されるのか?

 新しく風紀委員を取り仕切ることになった大久保さんに確認すると、まずは「ごめんなさい」と謝罪があって、今回の呼び出しについての説明がされる。


 といっても、呼び出しの理由はいたって単純で、町村君が宮本先輩が卒業してしまう前に例の告白騒動からくるギクシャクした関係を解消しておきたいとのことだけで。


「んで、なんでそのストーカー野郎の為に俺達が呼ばれたんだ?」


「ス――」


「町村君」


 元春の言い方に文句がありそうな町村君。

 ただ、それをすぐに大久保さんに窘められたことで拳を握りつつも怒りを収めてくれたみたいだ。

 町村君は爆発寸前だった怒りをアジャストするように大きく息を吐いた後、ぎこちない動きで頭を下げ。


「なんだかんだで先輩はお前を叱っている時が一番楽しそうだったからだ」


「ちなみに、間宮君は松平が暴走しそうになった時の抑えね」


 いや、僕の役割はともかくとして――、

 元春を追いかけていた時が一番楽しそうだったって、宮本先輩に言わせれば、それは完全なる誤解とのお叱りが飛んできそうな発言なんだけど。

 ただ、先輩をテンションを上げることに関して言うなら、そのベクトルはともかくとして、元春の右に出るものもいないのはまた事実である。


「馬鹿やって盛大に振られりゃいいんじゃね」


「なんで俺が――」


「原因はお前なんだし、それっくらいはやらねーとだろ」


 これはある意味で正論とも言えるのか?


「しかし、それでは俺の想いは――」


「いや、ここまでの先輩の反応を見ろって、今更なにやったところで結果は変わんねーだろ」


 続け様の正論に喉をつまらせる町村君。

 そして、誰か味方はいないかと周囲を見回すも、今回ばかりはみんな元春の主張に正当性があると判断したのだろう。

 じっと視線を返すだけの委員会メンバーに、町村君もこれ以上の異論は難しいとようやく理解したのか、深く項垂れた後、顔を上げ、元春に真剣な眼差しを向けるとこう訊ねる。


「具体的にはどうすればいい?」


「丸刈りパンイチで『ごめんなさい』するとか?」


「巫山戯ているのか!?」


 恥を忍んで訊ねたにも関わらず適当な言葉を帰され、元春に食って掛かる町村君。

 正直いまのは元春が悪いような気もするけど。


「素のお前が出て言っても空気が悪くなるだけだろ。シリアスな空気を吹き飛ばすにはインパクトが必要だぜ」


 さすがはシリアスな空気を適当に誤魔化してきたと定評のある愛すべきお馬鹿である。

 同じことをすればいいという元春の言い分は至極真っ当なもものように聞こえ。


「だけど、それを町村君がやるのは無理があるんじゃない」


 これは大久保さんの言う通りで、あれやこれやの悪ふざけも元春だから許されている――正確には許されていないが、元春だからという諦めもある――感がある。


「そうは言うけど、コイツが普通に謝ったりしたところで先輩としては微妙だろ」


 たしかに、それはその通りで、

 しかし、それでも元春なら調子の戻らない先輩をどうにか出来るんじゃないかと、それは悔しくも町村君も思っていることのようで、

 どこかすがるような視線を受けて、元春はわざとらしく溜息を吐き。


「わかった。なんとかしてやんよ。だけど、お前のケジメはお前でつけろよ。それが最低ラインだ」


「信じていいのか」


「俺の誤魔化し術をとくと見るがいい」


「その言い方、そこはかとなく不安なんだけど……」


   ◆


 そして訪れた卒業式当日――、

 式は粛々と執り行われ、その感動も冷めやらぬ中、後輩たちが各々世話になった先輩を囲むという段になったところで、宮本先輩の元に風紀委員一同が集結する。


 そんな風紀委員の中には町村君の姿もあって――、


「先輩、いろいろとすみませんでした」


「いいの。だけどゴメンね」


 答えが出せなかった時点で結果は見えているようなもの。

 宮本先輩は申し訳無さそうにしながらも後輩に謝り、励ます言葉をかけようとしたところで時が止まる。


「なにやってんすか」


 その原因はとつぜん現れた元春ではない。

 いや、原因が元春にあることは間違いだろう。


「なにやってるのはこっちのセリフだ」


「おいおい、真面目君が汚ねーもん見せつけんなよ」


 慌てる町村君に半眼で肩を竦める元春。


「お前がズボンを下ろしたんだろう」


 そう、雰囲気をぶち壊すように現れた元春がやったことは、宮本先輩の前で町村君のズボンを下ろすという暴挙だった。

 その結果、当然のように宮本先輩は町村君の大事な部分を見せつけられることになる訳で、

 あんまりにもな光景に固まること数秒、急にキッと眦を釣り上げた宮本先輩は卒業証書を入れた筒を振り上げ。


「松平――」


「やべっ」


「アンタは最後まで――、

 待ちなさい」


 そして始まる追いかけっこ。

 そこには追う者と追われる者、ここ二年の間ですっかりお馴染みとなった光景が繰り広げられ。

 周囲の卒業生がそれを暖かく見守っていた。

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