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ウグイスの鳴き声

 穏やかな春の夕暮れ、店の外から聞こえてきたホーホケキョという声に元春がジュースを一口、アンニュイな雰囲気を醸し出しながらこんな言葉を口にする。


「ウグイスの鳴き声を聞くと春って感じがするよな」


「これがウグイスの鳴き声ですの。

 確かにそう言っているように聞こえますわね」


「でも、ちょっとおかしくない」


 玲さんが言うように、このアヴァロン=エラにウグイスの声が聞こえるのは不自然だ。

 そう思って調べてみると、偶然なのかなんなのか、一匹のウグイスが僕と元春の転移に合わせて、この世界に飛び込んできてしまっていたようで、

 正直、偶然でこのアヴァロン=エラに入ってこられるかといえば、決してそうだとは思えないのだが。


「ただのウグイスなら帰ってもらえばいいんじゃない」


 迷い込んできただけなのなら逃がしてあげればいいと、そんな玲さんの言葉に、カリアから送られてくる映像を確認してみると、そこにはモルドレッドの肩に止まるウグイスの姿が映し出されており。

 それを見た玲さんが「あれ」と疑問符付きの声を出し。


「これ違う鳥じゃない」


「ウグイスでいいんじゃないですか」


「だけど、ウグイスってもっと緑色の鳥じゃなかった」


「ああ、もしかしてそれってこういう鳥じゃありませんか」


 僕が開いた画像に玲さんは「そうそうこれこれ」と手を叩くも。


「実はこれ、メジロなんです」


「えっ、この鳥ってウグイスじゃないの?」


「マジで?」


 これは元春も同じ勘違いしていたようだ。


「花札の『梅に(ウグイス)』が明るめの配色になっていますから、間違っておぼえてる人が多いみたいです」


 この間違いの元ネタは花札の絵柄由来のものであって、


「待ってくださいの。だとしたらウグイス餡はどうなりますの?」


「それはどうなんでしょう」


 天然素材のウグイス餡なら色が似ているとも言えなくないし、マリィさんの指摘は間違っているともそうでないとも言えるのだが、それよりも先ずは、


「あのウグイスをどうにかしないとです」


「どうにかって、どうするのよ」


「結界を縮めて強制的に帰ってもらうのが一番簡単ですけど、気づかれて飛び回られると危ないですから、眠らせて帰ってもらいましょう」


 これが魔獣だったら多少乱暴に扱っても問題ないだろうが相手はただの小鳥である。

 ここで強引に捕まえようものならば、勢い余って結界にぶつかり怪我をしてしまうかもしれないと、そう考えた僕はスナイパーライフル型の魔法銃を用意。

 裏口から工房に出てから石壁の上に登り、そこからウグイスを狙うことにした。


「こんな遠くから当てられるものなの?」


「魔弾なら空気抵抗もありませんし、魔法銃から撃ち出した弾は真っ直ぐ飛ぶようになっていますから」


 魔法の弾丸には空気抵抗の影響はほぼ無くて、そもそもクセがない魔法銃から撃ち出したものなら、百メートル先の小鳥を当てることも難しくはないのであると、僕は石壁の一部を銃座にライフル型の魔法銃を構えて一呼吸――、

 ウグイスの落下に備えてエレイン君が配置についたところで意識を集中、引き金を引く。


 すると、ウグイスは魔弾の発射にタイミングを合わせたかのように小さくジャンプ。

 一瞬遅れて通過した魔弾に驚いたように飛び去ってしまう。


「避けられてんじゃん」


「偶然じゃない?

 ぴょんて飛んだ後に驚いて逃げたって感じだったし」


 玲さんの言う通り、今の流れは単なる偶然のようにしか見えなかった。


「ふふん、俺に任せろよ」


 だが、ここで元春が狙撃役に立候補。

 僕は『遊びじゃないんだけど――』と心の中で呟きつつも、すでに一発外してしまった後なので素直に交代を受け入れ。


「ちゃんと狙ってよ」


「よゆーよゆー」


 魔法銃が受け渡す傍ら、玲さんの言葉にそう嘯く元春だったが、いざ撃ってみると魔弾は問題のウグイスに華麗にすかされてしまい。


「いまのは完全に読まれていましたわね」


「ねぇ、あのウグイスって本当にただのウグイスなの?」


 たしかに、今の回避を見てしまうと玲さんの疑いもわからないではないと、カリアに頼んで調査をしてみるのだが、

 その結果、あのウグイスはただのウグイスでしかないことが判明しただけで、


「もしかするとハイエストの超能力者に操られているのかもしれません」


「そうなの?」


「母さんに聞いたんですけど、ハイエストのメンバーに動物を操る超能力者がいたみたいなんです」


 その()は僕と義姉さんが捕まえたハイエストの引き渡しの際、母さんが覗いていたから捕まえたといっていたが、同じような超能力者が他にもいて、あのウグイスが操られている可能性も捨てきれない。


「そうなると、ちょっと本気で捕まえないとだね」


「どうすんだ」


 一番簡単なのはやはりゲートの結界を使った方法だ。

 しかし、ウグイスを怪我させないようにって考えると、結界そのものの設定を弄らないといけなくなって面倒なので、


「アクア、ちょっと戻って来てくれる」


 僕は念話通信で世界樹農園に出張中だったアクアを呼び戻し、その間にマジックバッグの中から訓練用の木刀を取り出しておく。

 そして、オニキスと共に駆けつけてくれたアクアに、その木刀の先っぽに団扇のように水膜をくっつけてもらえるようにお願いすると、それを見た元春がパチンと指を鳴らし。


「鴨突きか」


「貨物機?」


「本来は網を使った伝統の追い立て猟です。

 上手くいくかはわかりませんが、元春はここから狙ってて、スタンバイが出来たら連絡するから」


「任されろ」


 僕は頭上に疑問符を乱舞させる女性陣に簡単な説明をした後、元春にはそのままウグイスを狙うように言って、空歩を使ってウグイスが止まり木代わりにするモルドレッドの上空へ移動。

 元春に合図を送り、空歩を解除すると、元春の銃撃で飛び出したウグイスの前に素早く回り込んで水膜付きの木刀でキャッチ。

 少し可哀想だけど、このまま暴れられても怪我をされるだけなので、至近距離からの睡眠弾で眠ってもらって、万屋に戻ってベル君に詳細スキャンをお願い。


「あれが鴨つきですの」


「……格好いい」


「本当はしっかり場所決めをした上で待ち構えるですけど、今回ウグイスが居たのが高い場所でしたので」


 マリィさん達に本来の鴨突きを簡単に説明。


「それで結局そのウグイスはなんだったの?」


「特に操られているでもなさそうですが」


 こうなると怪しいのは実績あたりかとウグイスのステイタスを強引に調べてみたところ。


「このウグイス、飛梅の加護っていう実績を貰ってるみたいですね」


「飛梅?」


「爆発系のアレか」


 元春それは漫画の話である。


「僕達についてきてここに迷い込んだのなら、どこか神社の神樹関係してるんじゃない?

 道真公の飛梅は株分けされていろんな神社に残ってるって話だし」


 それが何を意味するかまではわからないけど、他に不審なところは見当たらないので、僕はここまで集めたデータをソニアに送った後にウグイスを連れていったん地元に戻り、自宅の縁側に座布団を敷いてその上にウグイスを寝かせて、そのすぐ脇に魔法窓(ウィンドウ)を展開。

 録画モードでセットしたところで店に戻り。


「加護とかそういうのって普通に持ってるもんなんな」


「僕達もあっちで加護を貰ってるから」


 雪の精霊にお礼として貰った病気にかかりにくくなるという加護。

 ああいうイベントをあのウグイスも経験したのではないだろうか。


「今度、ルナさんにでも聞いておくから」


 神出鬼没でいつになるかはわからないが、神様関連の加護の話なら神獣様に聞いてみるのが一番だろうと、僕はそう話を締め括ると店番に戻るのだった。


 ちなみに、ウグイスは日が暮れる前には目を覚まし、すぐに何処かへ飛び去っていったみたいだ。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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