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空切の切断面

 それは打ち上げという名の蟹のフルコースに向けての準備中のことだった。

 僕が、最近になって新調した解体用のナイフで倒したばかりのジャングルクラブを解体していたところ、元春がこんな風に声をかけてくる。


「なあ、なんで空切を使わねーんだ」


「空切は空間を切る道具だからね。こういう作業には使えないんだよ」


「どういうことだ?」


 質問を重ねる元春に、これは実演した方が早いかな――と、僕は手近にあったジャングルクラブの足を空切で切り裂くと、そこに形成された真っ黒い断面を見せて言う。


「こんな風に空間を分断してるだけだから解体したことにはならないんだよ」


「えっと――?」


「切っているのではなく分割しているということですわ。簡単に言うと空間魔法の作用によって見た目上だけ切り離しているということですの」


 そんなことも理解できませんの?とばかりに肩を竦めるマリィさん。一方の元春はきょとんとそんな副詞がまさにピッタリの表情を浮かべ、


「その――、で、その切ったとこはどうなってんだ?なんつーか、空間魔法?ようするに、ワープゾーンみたいに繋がってんのか」


 完全に理解するのは諦めたらしい。ふわっとした認識のまま聞いてくる。


「そうだね。そういうのに似てるかもしれないね。でも、この切断面はワープゾーンっていうよりも、ブラックホールに近い感じかな」


「ブラックホール?」


 オウム返しに語尾を吊り上げる元春。


「うん。断面の先がマジックバッグみたいな空間に繋がってるって感じかな。宇宙みたいな真っ暗空間につながってるんだよ」


「つか、真っ暗空間があるとかって――、どうやって調べたんだよ。もしかして中に頭を突っ込んだとかか?」


 馬鹿じゃないんだから、よく分からない空間に頭を突っ込むなんて真似をする訳ないじゃないか。

 元春のお馬鹿な発言にそう言ってあげたいところなんだけど、元春がアレなのは今更のことなので、わかりきったツッコミはスルー。最近、向こう(地球)でも人前でしか使わなくなってしまった携帯電話を取り出して言う。


「携帯のカメラ機能を使って確かめたんだよ」


「なーる。自撮り棒みたいなヤツを使えば自分が覗かなくてもいいって訳かよ。あったまいいな」


 いやいや誰でも思い付くことだよね。

 そして、一息入れたところで、元春は少し真面目っぽい顔を作り、


「でもよ。それってよ。マジックバッグみたいに使えねーか」


 元春の発言に皆の注目が集まる。


「いや、だってよ。亜空間だぜ。たしかマジックバッグって俺が持ってるのの他に亜空間を使ったモンもあるんだよな」


 元春が言わんとしていることもわかるけど……。


「残念ながらそれは無理だろうね」


 無理という話にどうしてかと聞いてくる元春。

 それに僕が答えてあげようとしていたところ、僕よりも先にマリィさんがヤレヤレとばかりに首を左右に振って、


「それは、その切断面にマジックバッグとしての機能が付与されていないからですの。そうですね虎助」


 そうなのだ。たしかに空切で切った切断面の先には謎の亜空間が広がっている。

 しかし、その亜空間にはマジックバッグのように、入れたアイテムをリスト貸したり、取り出そうとしたものをイメージによって手元に引き寄せるような魔法処理がなされていないのだ。

 と、実際にアイテムバッグの使い方の例を出して説明してあげると、「な~る」と元春も納得してくれたようなのだが、また何かお馬鹿なことを思いついたのか、頭上に豆電球を光らせて、


「でもよ。それなら逆に、その亜空間ってのを使って絶対防御みたいな事が出来んじゃねえの。こうさ、○穴って感じで」


 手を突き出すようなポーズをする元春。

 いや、○穴って、君はまた危険なネタを――、

 例の元春専用鎧の元になったアイデアもあれだったし、やっぱり、元春()誰かさんとおんなじで漫画的な技を魔法で再現できないかとか考えているのだろうか。


「残念だけどそんな都合のいいことにはならないかな」


「そうなん?」


「元春が言ったみたいな運用もできなくはないと思うんだけど、手の平を斬って作ったくらいの空間じゃ、受け止められて〈火弾(ファイアバレット)〉が精々だからね」


 そもそも空切によって作り出された次元の穴とでも言うべき切断面は、ただそこに次元の穴があるだけで、ブラックホールのような吸引力とかそういうものは全く存在しないのだ。

 故に切断面以下の大きさのものしかその内部に取り込むのは難しいのだ。


「それに、防御しようとする対象があんまり強い攻撃魔法だと、切断面の方が耐えられなくて壊れちゃうかもしれないからね」


 もともとが魔法によって作り出された状態だけに、その切断面が、特に強大な魔法と接触した場合、魔法同士が引き起こす反作用によって切断面にかけられた魔法そのものが破壊されてしまう恐れがあるのだ。


因みに(ちな)その切断面を覆っているっつー魔法が壊れたらどうなんだ?」


「繋がってる部分そのものが壊れちゃう訳だからね。そのまま切断だよ」


 魔法の効果があるからこそ空間的に離れていても繋がっているということになっているのだ。それが離れている状態で魔法的な繋がりが断たれてしまったらどうなってしまうのか。それはお察しの通りである。


「ちょ、マジかよそれ、怖っ!!」


「逆にうまく使えば最強の攻撃方法ですわね」


 もしも自分がそうなった場合にどうなってしまうのかを想像したか、自分の体を抱くようにする元春。

 かたや、マリィさんはというと、空切のその特性を攻撃魔法として運用できないかと考えているみたいだけど、


「ああ、そこのところはきちんとオーナーが実験したみたいですけど、切断面を破壊するには、各属性最強クラス魔法を至近距離で直撃させるくらいのことをしないと難しいみたいですよ」


「あら、そうなのですの。しかし、それ程の労力が必要ならば別の魔法を使った方が早そうですわね」


 そう、わざわざ戦略級とかそんなレベルの大魔法を至近距離でぶっ放し、空間の断裂を破壊する方法を選ぶくらいなら、普通に風の魔法などで相手を切り刻んだ方が手っ取り早いのだ。


「なんだよ、結局無理ってオチじゃねーかよ。ビビらすなよ」


 勝手にビビっていたのは元春の方じゃないか。

 と、そういうことを指摘すると意地っ張りになってしまうのが僕の友人だ。

 だからと僕は余計な一言を心の中に留めつつ、ただニコニコとジャングルクラブを解体する手を進める。

 さあ、この解体が終わったら蟹パーティだ。

 まだこの季節に鍋物は早いだろうから、普通に焼き蟹バーベキューが無難かな。

 この解体が終わったら、火の用意をベル君に任せて、ポン酢を取りに行かないとな。

 いや、ここは本格的にカニ酢を作った方が美味しいくいただけるかな。

 それとも胡麻ダレとか?

 もしくは、新鮮なカニ味噌に酒と醤油と生姜を少々入れて、甲羅焼きを作って、それをつけて食べるとか?

 う~ん。どれにしようか悩ましい。

 取り敢えず、全部作って、好きなのをって感じにすればいいかな。

◆年末にこのネタはとは思いましたが、〆はちょっと年末らしいネタになったのではないでしょうか。

何故でしょう。僕のイメージでは年末=カニになってしまうのです。

因みに個人的にはカニ酢よりも胡麻ダレよりもポン酢派です。皆様はいかがでしょう。

ということで、よいお年を――。

 年末ということで短めのお話です。

 おまけや幕間にしても良かったんですが、本編に関係がありそうな内容でしたので通常回ということにいたしました。

 一応、明日も投稿する予定です。(投稿が滞るかもって心配していた割には意外と頑張っています。でも予定は未定)

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