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カイロス姉妹

「トワさんのお姉さんどうだった?」


「凛々しい人だったよ」


 シルビアさんが来店した翌日の放課後、

例のごとくタイミングが悪かった元春が和室に腰を落ち着かせるなり、興味津々シルビアさんについて聞いてくる。


「とりま写真とかねーのか」


「あるよ」


「ちょっと、それって勝手に見せていいものなの?」


「顔を知らなくて粗相をされても困りますから、許可をいただき撮らせていただきました」


 元春からのリクエストを受けて魔法窓(ウィンドウ)を開く僕に玲さんから心配の声が上がるも、シルビアさんは伯爵家の関係者、元春に変なことをされては困ると事前に確認用の写真は確保してあって――、

 そんな写真を見せられた元春が「おお」と歓声をあげ。


「なあなあ、この後ろの魔女っ娘とメイドさんは誰なん?」


「その二人はトワさんの妹さんになるみたい」


 聞くところによると、二人それぞれ幼い頃にトワさんとスノーリズさんに面倒を見てもらっていたようで、その繋がりもあって、今回シルビアさんのお付きの立場につけられたみたいだ。


「そういえば、トワさんのところって子沢山家族だったっけ」


「それな。マジでうらやまけしからん」


 ちなみに、魔法使いの格好をしているのがティファリザさんで、メイド服の女性がリースさんだ。


「やっぱり子供が多いと下はメイドとかになったりするんだ」


「それはいろいろみたいですよ。トワさんやスノーリズさんは子供の頃にマリィさんのお母さんにお世話になったことがあるみたいで、自らメイドに立候補したみたいですけど、リースさんはお母さんがメイドだったから、そのままメイドになったみたいですね」


 ちなみに、ティファリザさんは正式に伯爵の側室と認められている方がお母さんになるそうで、公式には今回訪問した三人の中で一番位が高いのだという。

 ただ、そんな追加の情報よりも、元春が注目したのはリースさんのお母さんがメイドだったという内容で、


「メイド孕ませっ!?」


 元春がまた良からぬ妄想から血涙を流さんばかりの表情を浮かべるも、そちらはいつものことなので無視をするとして、


「ただ、カイロス伯爵家ではメイド職は人気みたいですよ。強ければ奉公先が引く手あまただそうで」


「バトルメイドって普通に実在してたんだ」


 それはどうなんだろうか。

 単にカイロス伯爵家が特殊なだけとも考えられるけど、

 マリィさんのところのメイドさんも皆さん一定の戦闘力を持っているし、実はあちらの世界のメイドでは戦えるということも一つの売りなのかも知れない。


「んで、次はいつ来るん?」


「特に予定は聞いてないけど、まずは領内の視察もするみたいだから、今日明日で来るってことはないんじゃないかな」


 ちなみに今日は、二つの領の間に作ったトンネルについての会議や見学などをしているようで、マリィさんは勿論、ユリス様もお店に顔を出していないみたいだ。


「だけど来るには来るんだよな」


「多分ね。ディストピアに興味を持ってくれたみたいだし、トワさん達とも一緒に入りたいって言ってたから」


「マジか、こりゃ見逃せねーな」

 そう言って「FUuuuuuuu――」と滾る元春に僕はため息を吐きつつも。


「だけど、トワさんと一緒ってことは、メイドの仕事が終わってからになるだろうから遅い時間になるんじゃない」


「大丈夫だ。いざとなったらトレーラーハウスに泊まっから」


 正直、ここに泊まり込んだとして、今までの行動を思い出すと元春がトワさんの前に出られるとは思えないんだけど、


「しかし、個性豊かよねトワさんのご兄弟って――」


「しかも美人揃いとか羨まし過ぎんすよね」


「じゃなくて、トワさんの姉妹ってみんな戦い方が違うじゃない」


「カイロス領はそういう環境が整っているようですから」

 辺境という土地柄、強くあることが求められるも、強さの方向性にはこだわりはないようだ。


「とはいえ、魔法系統はあまり強くはないようですけど」


 ちなみに、これには理由があって、単純に魔の森に接する土地柄、大量の魔獣素材が手に入る為、それを武器に戦うスタイルの方が手っ取り早く戦力になるとのことで、魔法使いの育成が後回しになってしまったという事情があるようだ。

 しかし、そのせいで先日襲来した黒いキメラには相当苦しめられたということもあって。


「じゃあ、ティファリザさんって人が来たのは――」


「魔導書というか魔法式のデータをいろいろと買い付ける目的があるみたいですよ」


 魔導書も送ったが、そこに記されるのはあくまで基本的な魔法式ばかりで、

 もともと魔法を使っていたティファリザさんなどには少々物足りない内容だったということから、上位魔法を手に入れられればといった思惑が今回同行しているティファリザさんにはあるようだ。


「そういえばメモリーカードは渡してないんだっけ」


「はい、防衛上の理由から」


 これは他国の侵略や諜報が行われた際に奪われ易いという観点から、カイロス領への魔法の供与はあえて魔導書という形にして渡してあるのだ。


「なので、トンネル内に厳重に管理された修行場みたいなのを作るって案をいま考えているみたいです」


 トンネル内はガルダシアの支配領域ということで、その防衛に万屋(ウチ)の最新技術が使える為、

 なにかあった場合の避難路も兼ねていろいろ仕掛けられると、その計画がシルビアさんが訪問した際に出ていたりするようだ。


「だったらやっぱ暫くはこっちにいる感じになんのか」


「どうかな。話し合いの結果によってはすぐに帰るってことにもなりかねないし、聞いてみないとわからないよ」


「だったら今日からの泊まり込みも考えるべきか」


「別にいいけど、千代さんにはきちんと報告しなよ」


「モチのロンよ」


   ◆


 さて、そんな会話が万屋でされる一方で、シルビアはトワの案内でトンネルを訪れていた。


「まさか本来のトンネルの横にもう一本、トンネルを作っていたとはな」


「とはいっても、もともとは村から警備に回ってくれる村人の住居代わりに使えないかと作った穴を、後に村で取れた作物などの貯蔵したり、特殊な作物の育成に使えないかとしたりで長くなってしまっただけなのですが」


 現在、衛兵代わりを務めるメイドの詰め所や作物の貯蔵庫となっているトンネルを進みながらの説明にシルビアは「そうか」とやや雑然としているトンネル内を見回し。


「それで、例の修行場はこのトンネルと同じように、新たに穴を掘り、どこかの山裾に繋げてしまおうという計画だそうだが――」


「上り下りが大変になりますが、カイロス側の入口からウルディア山脈の五合目辺りに繋げれば監視としても使えるのではありませんか?」


「たしかに、ウルディアの中腹から遠見筒を使えば魔の森や隣国に動きがあった場合に便利そうだな」


「しかし、あの険しい山脈の中腹に施設を作るのですか」


「私共に任せていただければあまり時間はかからないかと」


 そう言って、トワは万屋由来の魔法窓(ウィンドウ)地図(マップ)を開き、簡単な設計図をシルビア達に見せるも、ことは防衛にも係る施設の建設になる。三人からは懸念の声が上がり。


「ならば、私共が手掛けるのは修練場だけで監視所などの設営はカイロス側に任せるという方法もありますが」


「それでも余り違いがないように思えるが」


「しかし、いまのカイロス領でトンネルを作るとなると数十年単位になってしまいますよ」


 トンネル工事は基本的に地面系統の魔法が得意な魔法使いの仕事となる。

 魔法使いの数が少ないカイロス伯爵領でも、そうした作業に特化した魔法使いは確保しているものの、それら魔法使いは基本的に魔の森や隣国に対する拠点などの整備で手一杯で、トンネルまで回らないというのが実情で、

 領の発展、喫緊の防衛強化を考えるのなら、トワが出した案を受け入れるのが最良であることがわかってはいるものの。


「ただ、これだけ大きな話となれば私の一存では決められないぞ。持ち帰って父上などと相談しても構わないな」


「当然でしょう」


 ことは二つの領地が合同であたる新施設の建設だ。

 現場の判断で決められるものではないというシルビアにトワも当たり前だと頷き。


「しかし、開放から一年とかからずこれほどの施設を備えるとは、驚異的な発展ですね」


 改めて、ガルダシア領の発展に感嘆の声を零すのはティファリザで、


「虎助様からトンネル作りに最適なゴーレムを賜りまして」


「掘削に特化したゴーレムか、ウチにも一つ欲しいところだな」


「誠心誠意願えば融通していただけるかと」


「そうなのですか?」


 続くトワの言葉に食いついたのもティファリザだった。


「命令権は一部のもの、覚える必要がありますけれど」


「私、私が――、お姉様、お願いします」


 そして、子供のようにはしゃぐティファリザの額をシルビアは「それも父上に相談してからだ」と軽く弾き。


「しかし、そうなると説得の仕方が問題になりそうですね」


「ディストピアの捻出もあるからな」


 そう、カイロス側に持ち帰る案件はトンネルのことだけではなく、カイロス伯爵のある種の好戦的な性格を考えるなら、むしろディストピアのことをどうやって伝えるべきかが難題であり。


「それでどうなりました?」


 ここでトワが訊ねるのは見本として持ち帰るディストピアの選択だ。


「満場一致でスケルトンアデプトでということになった。アレなら強力な魔法生物の素材があれば魔法使いとの戦闘も楽――訓練できるようだしな」


「ということはブックマスターとも戦いましたか?」


「運悪く雷に当たって、あっという間にやられてしまったがな」


 苦い顔をするシルビアに納得の表情のトワ。


「さすがのお姉様でも、初見では対応できませんでしたか」


「魔法の出の速さと範囲の大きさが厄介過ぎる。早々に二人が沈められてはどうにもならないだろう」


 肩を竦めるシルビアの後ろで申し訳無さそうな顔をする妹二人。

 トワはそんな妹達に内心で苦笑。


「しかし、その言い方、お前はあれに勝てたのか?」


「私には過分にもメルビレイがついておりますから」


「噂の聖槍か」


「ええ、こちらに――」


 トワが持っていた箒をくるりと回すと、シンプルなグレイブが現れ。


「何故に箒かと思っていたが、これが聖槍か」


 シルビア達が驚愕のリアクションをする一方、トンネルの奥から走ってくる小さな影。

 それに初めてメルビレイを目にした影響もあってか、シルビア達が少し遅れて警戒態勢を取るも、その影は三人にはまったく目もくれずにメルビレイへと飛びつき。


「魔獣?」


「カーバンクルの亜種です。どうもメルビレイに懐いているようで」


 カーバンクル――、

 それは龍種とも精霊とも言われる種族。

 その関係からか、このカーバンクル亜種はトワのメルビレイに懐いており、その感知範囲で偽装を解こうものなら、矢も盾もたまらず飛びついてくるのだ。


「しかし、カーバンクルとはまた珍しいものを飼っているな」


「いえ、飼っているのではなく、このトンネルに住み着いているというだけです。

 悪い人間に追われ、山向こうから流れてきたようで、敵愾心が強く大変でした」


「山向こうの悪い人間?

 それは聞き捨てならないな」


 山向こうの悪い人間と聞いて、それはカイロス領のことを指しているのかと目を鋭くするシルビア。

 しかし、そこには誤解があって――、


「このカーバンクルは亜種ですよ。逃げて来たのはおそらくカイロスより東の領地かと――」


 そう、このメルビレイにじゃれているカーバンクルは亜種である。

 魔力的な素養は氷にあり、とすれば魔の森のおかげで冬も比較的温かいカイロス領ではなく、そこから少し離れた領地から逃げてきたと考えるのが妥当だと、

 トワが自分の見解を述べつつも案内したのは、トンネルを抜けた先にある断崖絶壁。

 そこにはカーバンクル亜種の住処にもなっているちょっとした砦のようなものも作られており。


「これは――」


「例の施設もこのように作ろうと考えておりますがどうでしょう」


「成程、これは持ち帰ってしっかりレイアと検討する必要があるようだな」

◆ちなみに、最後に出てきたレイアというのは、以前にも名前だけ出てきたカイロス伯爵家の娘さんです。


◆次回投稿は水曜日の予定です。

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