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幕間・志帆と十三の帰還

◆志帆と十三が山の中で化け狸の祖父と孫娘?に遭遇した少し後のお話です。

「で、どうなのよ。あの化け狸からなんか聞けたんでしょ」


 化け狸との接触から数日、調査名目の親子旅行を楽しんだ義姉さんと義父さんが帰ってきた。

 久々の一家団欒ということで仕事を早上がりした僕はメガブロイラーの鍋を用意。

 煮上がった鍋の具材を器によそっていると義姉さんが聞いてきたのは、数日前に二人が山奥で見つけた化け狸の祖父子のことだ。


「やってみないとわからないっていうのが正直なところかな」


 実はあの後、魔女の皆さんに裏取りをしてもらったところ、老化け狸の証言の裏付けが取られ、八百比丘尼さんがあの状態になった頃の状況がある程度、見えてきたのだ。

 今はそれら記録を元に精神系の魔法を使ってのアプローチを行っているところで、


「ただ、八百比丘尼さんの身柄をこっちで抑えているから、そこまで急がなくてもって感じなんだよね」


「ハイエストだったっけ?例の超能力集団が狙ってるんだっけ?」


「そうそう、狙っているのは八百比丘尼さんに限ったことじゃないんだけど」


 捕まえたハイエストの証言を元に調べたところ、たまたま八百比丘尼さんに行き着いたというだけで、彼等が狙っているものは他にもいろいろとあるようだ。

 ただ、僕達が動いているのはあくまで魔女の皆さんに関連したものだけで、


「本来、そういう仕事は警察がやらなくちゃならないのだけど、川西君達じゃまだ対応できないのよね。

 皇宮警察はゴタゴタしてるみたいだから、加藤さんに動いてもらっているわ」


 そう、加藤さんの家は警備会社を経営していて、警察や政治家の人なんかにも大きな影響力を持っているそうなのだ。

 だから、ハイエスト関連の対応は加藤家が中心となって行っているらしく。


「けど、私達が捕まえた超能力者がこの前脱獄したんでしょ。

 父さんの仕事は大丈夫なの?」


「流石に影響はないと思いたいが――」


 義父さんはこの月末からネット配信のネイチャードキュメンタリー番組の撮影でアメリカに向かうことになっていて、その行く先が先日ハイエストメンバーの脱獄騒ぎがあったアメリカ中央部なのだ。


「重なるところはあるけどアメリカは広いし、逃げた人達ももう人里に降りてるんじゃない」


 ハイエストはあのアメリカ政府をまともに相手にするような大きな組織である。

 となれば、その拠点もアメリカ各所にあることは容易に想像が出来、

 逃げた脱獄囚が居るのはそうした拠点なんじゃないかというのが大方の予想となっている。


「そういうことなら安心なのか?」


「どちらにしても、一般人には手は出さないくらいの常識はあるんじゃない?」


「しかしそうなると、ここで新しく作った自転車は出さない方がいいか?」


「新しく作った自転車?」


 義父さんのこの発言にオウム返しに首を傾げるのは義姉さんだ。


「今回の仕事は悪路を走ることが多くなりそうだから、虎助に特注の自転車を作ってもらったんだ」


 実際に自転車を作ったのは僕ではなくエレイン君なのだが、今回の仕事が決まった後、義父さんが旅先でマシントラブルで困らないように魔法金属や魔獣素材をふんだんに使い、軽くて上部な自転車を使ったのだ。

 すると、それを聞いて義姉さんが「後で私にも作ってよ」と睨んでくるので、僕は「別にいいよ」と応えつつ。


「だけど、義姉さんには佐藤さんのと合わせて、魔法の箒が二本あるから使う機会がないんじゃない」


「両方とも魔力が切れるってこともあるでしょ」


 義姉さんの口から魔力と聞くと違和感しかないのだが、言っていることは結構まともで、なにより睨まれてしまったら嫌とは言えないと、義父さんの為に作った自転車の画像を出しながら。


「こういうのだけど、デザインはそのままでいい」


「そうね。ここのラインの色は赤でお願い」


「ギターと一緒だね」


 魔法の箒(ギターケース)を作った時に、義姉さんは黒地に赤のライン、義父さんは黒地に青のラインとそれぞれに好きな色を指定してもらっていた。

 義姉さんは今回もそれに合わせるみたいで。


「そういえば義父さんのギターはどうする?」


「空港までの移動に使えないか、いや、さすがにそれは駄目か」


「バレなきゃいいんじゃない。空歩なんかは私達も普通に使ってるし、この世界だと空飛ぶ人間なんて珍しくないみたいだから」


 メンテナンスをしたが、海外に行くならしばらく出番はなさそうだし、こっちで預かっておこうかと僕が訊ねる横、義父さんの心配に応えたのは母さんだ。

 そういえば、皇宮警察の本拠地に乗り込んだ時、入口が競技場にあるのは空からの移動がしやすいからという話があった。

 魔女の皆さんも性能に差はあれど、元から魔法の箒を持っていたみたいだし、たぶん日本には特別な移動手段を持つ人物が何人もいるのだと思われるが、


「だけど、空港に直接乗り付けるのは止めた方がいいかしら、そんなに高くは飛ばないと思うけど危ないから」


 しかし、空港周辺は空の過密地帯と呼ばれる場所だ。

 そんなところにフラフラと魔法の箒で入っていけば重大な事故が起きかねないと、母さんの指摘で、義父さんには空港に向かう際、魔法の箒は最寄りの魔女さんがやっているお店に預けられるように算段をつけることになって。


「それで志帆ちゃんはこれからどうするの?」


 母さんが訊ねるのは義姉さんの今後の予定。

 これに義姉さんは弱冠の不機嫌をにじませながらも、義父さんの手前、無視する訳にもいかないと息を吐き。


「狸爺から面白い話を聞いたから、佐藤といっしょに探すつもり」


「迷い家だな」


 迷い家というと遠野物語なんかに出てくる、訪れた者に富をもたらすという幻の家だったかな。


「でも、あれって欲をかくと大変なことになるって話じゃなかった?」


「私がそんな失敗するわけないでしょ」


 義姉さんが言うとそれはフラグにしか聞こえないけど。


とはいえ――、


 と、ここで僕が取り出すのは携帯型ラジオのようなアイテムだ。


「なにこれ?」


「玲さんが地球に帰る時に使うマジックアイテムの試作品だよ」


 これがあれば戻り方が別空間に引き込まれても戻ってこれる筈だと言えば、義姉さんも「一応、貰っておく」と受け取ってくれて。


「それで勝算は?」


「その迷い家ってヤツを見つけられればどうにかなるでしょ」


 たしかに、化け狸のお爺さんの情報で、おおよその出現位置が絞れているのなら、後はお宝を手に入れられるかになるのかと、僕と母さんが納得する一方、


「動画を撮ってきてくれないか」


 義父さんは探検家らしく、迷い家そのものが気になっみたいで、

 ただ、その動画を義姉さんに全て任せるのは少し心配だから、後で佐藤さんに動画をお願いするとして。


「どうしたの?」


 おっと、さすがは義姉さんだ。

 僕の微妙な表情の変化から何か嗅ぎ取ったみたいだ。


「いや、精霊ならグラムサイトを使えば隠れてても見つけられるんじゃないかって思いついたんだけど」


「たしかに、精霊や魔素の流れを見通すことのできるグラムサイトなら、迷い家内でなにかあっても対処が出来るかもな」


 義父さんもすっかりこちら側の住人になってしまったな。

 僕の言葉に妙な感慨を感じつつも。


「それに迷い家には金霊が宿っているという話があるからな」


「カナダマ?」


「五行の一つ、金の気の集合体だったかしら」


 聞けば、それは幾つかの伝承に語られる金の精霊のようで、

 調べてみるとそれが家にやってくると、その家に幸福をもたらすと言われているそうだ。


「なんか座敷童っぽいわね」


 どっちかというと座敷童の方がそこから派生した存在のような気がしないでもないけど。


「とにかく、そのカナダマを見つけられればいいってことなら、しっかり見つけてくるから楽しみにしててね」


「ああ、お互い頑張ろう」

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