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カンニング疑惑ふたたび

「ウース」


「あんた、またカンニングを疑われたんだってね」


「ホント冗談じゃないっすよ。ただでさえ呼び出し食らってんのに毎度毎度――」


 放課後、僕に一時間ほど遅れて万屋に顔を出した元春が玲さんから浴びせられたツッコミにブチブチと文句を言う。

 とはいえ、その原因は元春の普段の生活態度にあるので文句を言うのはどうかと思いはするものの、いま玲さんが気になっているのは呼び出された後の内容で、


「それで、どうなったの?」


「どうしたもこうしたもカンニングじゃないことを証明する為にテストをしろって言うんすよ。酷くないっすか」


 興味津々とばかりの玲さんの質問に元春が言うには、どうやら元春は自身の無実を証明する為、告発者が持ってきた問題集を解く羽目になったようで、実際に小テストのようなものを受けさせられてしまったみたいだ。


「それで無実は証明されましたの」


「もともと無実っすから――ってか、しつこいってんでなんとかしてくれって感じで呼ばれたみたいなんすよ」


 そう、最近成績のいい元春に、先生方も裏があるのではないかと警戒をしていたのだ。

 しかし、テストの最中、元春に特に怪しい動きはなく、無実が証明された訳なのだが、それでも納得しない人がいたようだ。


「それってもしかして――」


「ノリんトコの七三眼鏡」


 それは、元春が魔法薬を飲み始めて最初のテストで高得点を叩き出し、そのテスト結果が張り出された際に大騒ぎしていた同級生。

 どうも、彼がその時のことを根に持っていたみたいで、いまだテストがある度に元春の不正を訴えているようだ。


「自分が一回負けたからってしつこいんだよな」


「だけど、今回はそこまで順位が上ってわけでも無いんでしょ」


「そっすね。今回も俺は中の上って感じの順位なんすけど、ノリとかも成績上げてるから焦ってるとかじゃないんすか」


「元春の周りって急に成績が上がったもんね」


 正則君の成績が上がったのはひよりちゃんのサポートのおかげなんだけど、元春から魔法薬の供給を受けている関口君や水野君、そして趣味繋がりの友人達も軒並み順位を上げていて、他にも次郎君に勉強を見てもらっている運動部の面々と、下からの追い上げが激しいとなれば焦りの一つもあるのかもしれない。


「あと、最近噂になってんのが関係あっかもな」


「噂?」


「元春が頭が良くなる怪しい薬をバラ撒いているって噂が出回っているみたいなんです」


「それって本当のことでしょ。

 てゆうか、むしろそっちが狙いなんじゃない」


「だけど、そんな噂信じるとかあり得なく無いっすか」


 元春はそう言って嘯くが、実際効果はあるのだから、藁にも縋る想いというかなんというか、例の彼が事実を確かめたくなるっていうのも、少しわからないでもない。


「しっかし、そうなるとちょっち売るの止めた方がいいのか」


 確かにそれも一つの手かもしれないけど。


「そうすると関口君や水野君が困らない?」


「自業自得なんじゃね」


「あんたがそれを言うか」


 まったくもってその通りだ。

 自作とはいえ元春も魔法薬の恩恵を受けているのだから、他人のことは言えないだろう。

 とはいえ、来年僕達は受験生だ。

 ここで成績を落とすのは二人のモチベーションにも関わることで。


「それなら、みんなを連れて、どっか除霊でもしてくれば」


「除霊?」


 僕の提案に首を傾げるのは玲さんだ。

 しかし、お茶菓子を食べながら静かに聞いていたマリィさんにはその意図が伝わったみたいだ。


「実績を獲得させて知力の底上げをしますのね」


 レイスなどのゴースト系のアンデッドは知力の向上が見られることが多く、その潜在能力値の上昇率は微々たるものであるが、幽霊の場合、一つ一つが違う個体と判断されるので、重複して実績が得られるので、権能の厳選もし易く、勉強方面に有用な権能の獲得には向いているのだ。


「でもよ、近場で噂のあるとこは浄化しまくっちまったぞ」


「既にやってんのね」


「浄化をするだけで頭が良くなるかもってんならやらない手はないっすよ」


「たしかにそれはそうかも――」


 向上についてはあくまで潜在能力の開放に過ぎないが、上限が百だったものが一割でも上昇すれば同じ七十点を取るにも努力する時間は違う訳で、


「とゆうか、幽霊ってそんなにいるものなの?」


「俺の体感だと、噂があるとこ十箇所くらい回って一つでも当たりがあればいい方っすかね」


 ちなみに、その際の居るか居ないかの判別方法は、ステイタスを調べて新しい権能が得られているかいないかだ。


「だけど、その友達にどうやって除霊させるの? 一応は一般人でしょ」


 玲さんが一応はとしたのは、いま話題の中心になっている彼等が母さんのブートキャンプを受けていることを知っているからだ。


「浄化の魔法を込めたお守りでも作りますよ。

 ミスリルで作れば誰でも浄化が発動できますし」


「それなら二人分追加でお願いできますか」


 ここで手を上げたのは次郎君。

 どうやら、いま次郎君が勉強を見ている二人も成績は上がっているが、受験などのことを考えるとまだまだ安心できないレベルのようだ。


「んじゃ、春休みの遠征には怨霊浄化ツアーも追加で企画すっか」


「いいですね」


 はてさてどうなることやら、

 天然のトラブルメーカーである元春が主催となるとあまりいい予感はしないけど……。


   ◆


 そんなこんなで元春のカンニング疑惑の話題が一段落した後、

 元春が魔王様にコントローラーを渡され、レースゲームを始めたところでふと口にするのはゲームに関する何気ない疑問だった。


「そういや、玲っちってゲームが趣味つってたのにあんまやんないっすね」


「それはあんた等が上手すぎるからでしょ。

 それにわたし、RPGとかシミュレーションとか一人でやるゲームの方が得意なの」


「環さんに持ってきてもらったゲーム機を部屋に持ち込んでますもんね」


「そうなんっすか?」


「最近だと、LaLのリメイクとかやってる」


「またマニアックな」


「わたし、ムービーが多いゲームとかあんまり好きじゃないから」


「ノリと同じタイプっすね。

 戦闘こそがゲームって感じで」


「ん~、なんかそれも違うかな。

 ゲームとイベントシーンの切り替えが欲しいっていうか、エンカウントがなくてゲームとイベントの間がぬるって切り替わるの気持ち悪くない」


 わかるようなわからないような……、

 要するに玲さんはシームレスなゲームをあまり好まないということか。


「あと、イベントばっか多くて、ちょこっとしか戦闘がなかったりするゲームとかってあるでしょ」


「最近のゲームってわりとそっすよね」


「それに、リアル度が増えれば増えるほど、マップ探索に遊びがなくない?」


「オープンワールドっつってもサブクエが少なかったり、ストーリーもほぼ一本道だったりとか?」


「移動手段の関係で実質そこまでオープンじゃないのとかもあるしね。

 それならレトロな作りでも寄り道とかストーリー分岐とか多くしてもらいたいわ」


 と、そこまで語ったところで、玲さんは自分が熱くなっていたことに気付いたのだろう。

 少しテレながら「ま、趣味なんて人それぞれでしょ」と強引に話をまとめると、これに元春が「いやいや」とドリフトを決めながら。


「俺だって写真とかには結構こだわるっすから」


「あんたの場合、可愛い女の子がとかどうかとかでしょ」


「ちょっ、俺だってゲージュツ的な写真だって撮るんすよ。最近、雑誌にも乗ったんすからね」


「どうせエッチなやつでしょ」


「エッチって、今どきそんなの雑誌に乗せられるワケないじゃないっすか」


 以前、元春に聞いた話によると、プライバシーやらなんやらがの意識が薄かった時代はそういった雑誌もあったというが、いまそういったコンテンツは電子の海の奥深くに潜ってしまったみたいだ。


「本当ですよ。ほら、これ」


 そう言って、元春がレースの合間に魔法窓(ウィンドウ)に呼び出すのは『街の空白』と名付けられた誰もいない商店街の夕景を美しく切り取った写真で、

 それを見た玲さんはといえば「なんで」と本当に驚いたようなりアクションをとり。


「部活で撮ったみたいですよ」


 写真部の面々は基本的に女の子のお尻を追いかけているようなメンバーばかりだが、さすがにそれだけで活動を許される筈もなく、しっかりした雑誌などへの投稿も行っており、それなりに実績をあげていという。


「これを撮るのにメッチャ時間がかかったんすから」


 雑誌投稿という関係上、人が写ることに対していろいろ制限がある為、条件を揃えるのが難しく、特に普段人通りの多い場所の撮影にはカメラマンの根気が必要になってくるのだ。

 とはいっても、この写真は学校からの帰り道などに景色がいいから使えるかもと、隙あらば撮影していた商店街を切り取った一枚で。


「それに元春の場合、面白写真の方がほとんどですから」


 そう、元春の写真は基本的に、友人各位に手伝ってもらっての定番の遠近法を使ったトリック写真や◯◯波で吹っ飛ぶ人物の写真や、ひび割れたアスファルトを使ってのバトル漫画の再現だったりと、エンタメ性を重視した写真がその大半を占めているのだと、友人各位に協力してもらって撮った写真をゲームをする元春の代わりに僕が見せていったところ。


「これを見るとやっぱ元春って感じ」


 玲さんはホッと安心したように微笑み、マリィさんが、


「しかし、この程度のこと、今の元春なら普通にできるのではありませんの」


「確かに、()で吹っ飛ぶのとかは魔法とか使えば簡単にできそうっすよね」


 そう言って、しげしげと頷く元春の一方で、


「そういえば虎助って趣味とか無いの」


「えっ、ゲームしたり漫画を読んだりしてるじゃないですか」


 玲さんからの何気ない質問に僕がそう応えると、ここで元春がぽかんとした顔で僕を見て、


「虎助の場合、バトルじゃね」


「ん、対戦ゲームは好きだけど」


 どっちかというと、個人的にはシミュレーションゲームの方が好きなんだけど――、

 僕がそう応えると元春は「違う違う」と言いながら画面に目を戻し。


「リアルバトル。メッチャ楽しそうにしてんじゃん」


 まったく何を言っているのやら。

 人をバトルジャンキーみたいに言わないでくれるかな。

 僕が肩を竦めてマリィさんや玲さんに同意を求めるも、玲さんは少し苦笑い気味に、


「イズナさんと戦ってる時とか凄く楽しそうにしてるけど」


「相手が弱いと物足りなさそうにすんだよな」


 そんなつもりはまったくないのだが、

 これは少し気をつけた方がいいかもしれないと、僕が反省をしていると、元春の思い出したように。


「ちなみに趣味っていえば玲っち、彫金の方はどんな感じなん?」


「あれは趣味とちょっと違う気がするけど、見本なしでも結構うまく作れるようになったかな」


 玲さんはそう言うと自前のマジックバッグの中から二つ指輪を取り出して、また一レース終えた元春と魔王様の前に持っていき。


「ほとんど売り(もん)じゃんか」


 その指輪を見た元春の驚きように玲さんは「ふふん」と鼻をならし。


「ちなみに、模様の中に隠れてる魔法式は〈清風(リフレッシュ)〉だから」


「リフレッシュ?」


「浄化を簡略化したみたいな魔法だよ」


 正確にはこちらが元というか基礎の一つになって魔改造されたのが万屋の浄化になるのだが。


「お姉ちゃんにも好評で、みんなに配ってるみたいなの」


「それって大丈夫なん?」


 元春が心配するのは魔法を使ってしまうことだろうが、そもそも地球に暮らす一般的な人の魔力でこの魔法を発動させるのは難しく。


「変なもの渡すわけないでしょ。

 ま、あんたなら使えるから、勉強で疲れた時にでも使ってみて」


「もらっていいん?」


「元春にだけ渡さないってものあれだし、あげる」


 適当に選んだ指輪を渡す玲さんに元春は僕達の顔を見回して。


「もしかしてみんな貰ってるん?」


「みんなにはデザインとか出来栄えとかをアドバイスしてもらったから」


「なんで俺は貰ってないん?」


「そりゃいい時に店に居なかったり、マンガ読んでたり、ゲームしてたりしてたから」


 そう、いつものタイミングの悪さというやつだ。

 ただ、そんなタイミングの悪さも今日は違うみたいだ。


「欲しいなら、一つあげるけど」


 そんな玲さんの気遣いに、元春は少し唇を尖らせながらも。


「まあ、玲っちがそんなに貰って欲しいならありがたく貰っておくぜ」


「えっ、いらないなら別にいいけど……」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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― 新着の感想 ―
やる気にならないし欠点は多いけど、虎助の幼馴染(&一応同門)だけあってポテンシャルだけは高い…
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