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チョコレートのお礼

◆短めです。

「ちっと腹が減ったな」


 学校が終わり、万屋にやってきて三十分――、

 マンガを読んでいた元春が体を起こすと、のっそりキッチンへと向かう。

 その姿はまるで自宅さながらの振る舞いだ。


「この、おでんみたいなのはなんなん?」


 そして、勇者の如くキッチン内を物色した元春が聞いてくるのはコンロに乗せられていた鍋の中身。


「トワさんが持ってきてくれたスープだよ」


「と、トワさんがなんで!?」


「お菓子をいただきまして、そのお返しですの」


 大袈裟に驚く元春の声に応えたのはマリィさんだ。


「お菓子?」


「次郎君から貰ったチョコレートがいっぱい余ってたからガトーショコラを作ってみたんだよ」


 それは定例のアニマさんやミストさん――今回は飛び入り参加で魔王様――などが参加する料理教室で量産したお菓子のお裾分け。

 そのお礼にと頂いたのが元春が見つけたスープだった。


「トワさんのスープか、飲まねーとだな」


 いや、ガルダシア城のメイドさんはその大半が料理が出来るから、

 そのスープが誰制作のものなのかはわからない。


「これなんてスープなんすか」


「なにと言われましても特に名前などはありませんわよ。ただ具が沢山のスープですの」


 夕食にでも食べようと思ってまだ味見をしていないけど、受け取った時に嗅いだ香りからしてコンソメを使っているようだし、強いて呼ぶならガルダシア風ポトフと言ったところだろうか。


「食ってもいい」


「いいよ。僕と母さんじゃ食べ切れないだろうし」


 玲さんはいるけど、義父さんと義姉さんはまだ北陸にいるから、大きめの鍋いっぱいに入ったスープを食べるのは二日かがりになってしまうだろう。

 という訳で、元春がコンロのスイッチを入れて和室に戻ってきたところで、


「あのスープ。チーズを乗せると絶品ですわよ」


「いいっすね。

 虎助、とろけるチーズとか余ってるか?」


「冷凍庫にピザ用のがあるからそれを乗せてあげるよ」


  談笑すること暫く、そろそろスープも温まっただろうと席を立った僕は、鍋のスープを器によそうと冷凍庫にストックしているピザ用チーズを乗せる。

 すると、そこに赤い薔薇の皆さんのリクエストで作ったバーナーの魔法を発動。

 凍ったままのチーズを使って炙っていって、軽く焦げ目がついたところで出来上がり。


「美味しそうだね」


「玲さんも食べます?」


「いま食べると中途半端になっちゃうから、夕ご飯の時にお願い」


 たしかに、いまこの具沢山スープを食べてしまうと、夕飯がかなり中途半端になってしまうか。

 そんな玲さんの一方で、元春は夕飯のことなど気にもしない様子だ。


「悪いっすね」


 と、何故か照れながらスープの中にスプーンを落とし。


「さすがトワさんが作ったスープ。最高っす」


 チーズを伸ばしながらパクリ。

 一回二回と咀嚼したところで表情が少し疑問を含んだものへと変化する。


「どうしたの?」


「ん~、俺がいま食ったヤツ、この芋かと思ってたんだけど、食べた感じが大根とかそういう風だったんだよ」


 言って、元春が掬い上げるのはちょっと黄色いジャガイモのような具材だった。


「それはポックルですわね」


「名前からしてあっちの野菜?」


「ポッケ村で作っている芋ですね」


「知っているのか虎助?」


 いや、そんなどこかで聞いたような口調で驚かれても、玲さんならともかく、元春は食べことがあったと思うけど。


「もともとポッケ村の近くに自生してたみたいで、ヤーコンに近い種類の芋だよ」


「そうなんな」


 納得する元春の片方、首を傾げるのは玲さんだ。


「ヤーコンってなんだっけ?」


「南米原産のさつまいもみたいな根菜です」


「栄養がいい感じな割にカロリーが低くて、ダイエットとかに向いてんだったっけか」


「く、詳しいのね」


「前にお袋が庭で作ってたんすよ」


 そんな理由から、僕も千代さんからお裾分けを貰っていたから、味や食感をよく知っているのだ。


「それは凄いわね」


「つっても、普通の芋と一緒で世話が適当でも育つんすよね」


「それはポックルも同じですわね」


 聞けば、ポックルという芋は厳しい環境のガルダシアでは貴重な栄養源の一つだったようだ。


「他にも向こうの野菜とか入ってるの?」


「野菜ではありませんが、スープに入っているウィンナーはウチのメイドの手作りですの」


「トワさんが作ったウィンナー」


 豊満な胸を反らし自慢げなマリィさんすらも気にならないほどに興奮する元春。


「ちなみに、中身はなんなの?」


「フラージュンという鹿の魔獣のお肉ですの」


「へぇ、鹿肉のウィンナーなんだ。どんな味なんだろ」


 原材料が鹿肉と聞いても気になるのはその味とは、

 玲さんもすっかりジビエ肉にも慣れてしまったみたいだ。


「だけど、自家製付インナーとか凄いじゃない」


「虎助のおかげですの」


「僕というよりもアラクネの皆さんの情熱の賜物ですよ」


 以前、ここでウィンナーを食べて以来、いたく気に入ってくれたアラクネのみなさんとはこうしたらウィンナーが美味しくなるんじゃないかと、万屋で開催している料理教室の度に情報を交換させてもらっていて、

 その結果、万屋のウィンナー作りの技術はかなり向上しており、ものによっては市販のものにも勝るとも劣らない出来栄えのウィンナーも出来ていた。


「なんていうか、ここだからこそ出来るようなことだわね」


 たしかに、肉の種類はかなり豊富だし、熟成なんかにも手を伸ばしていたりして、

 なにより、個人で燻製の施設を持っているというのが万屋の強みだろう。


「今更だけど、私が朝に食べてたウインナーって――」


「大体がここで作ったものですよ」


「知らなかったわ」

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