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●神社の妖精

◆今回は虎助の義姉である志帆の親友・鈴と巡をメインにしたお話です。

「絶対見たんだもん……」


 誰も居ない神社の境内で涙目の少女が探すのは妖精だ。

 彼女は先週、この神社で妖精を見かけたのだが、そのことを友達に話したところ、嘘つきだと馬鹿にされてしまったのだ。

 少女は自分が嘘をついていないことを証明する為に、

 この日、学校から家に帰るなり、神社にやって来て一生懸命妖精を探していた。


 しかし、一時間――、ニ時間――と神社境内を探し回るも、妖精を見つけることは出来ずに、『もう、見つからないのかな?』と涙が零れそうになったその時だった。

 不意に神社と取り囲む杜の一角がガサゴソと不自然に揺れて、これに少女が『妖精さんだ』と喜び勇んでその茂みに飛び込んだところ、そこにいたのは黒い大きな犬で――、


「うわぁ」


 逃げようとする少女に飛びかかる犬。

 しかし、そこには大きな身体能力の差があって、すぐに追いつかれてしまった少女が、そのまま大きな口で噛みつかれてしまうと目を瞑ってしまった次の瞬間――、

 キャインと情けない鳴き声が静かな境内に響き渡る。


「まったく、こんな街中で放し飼い?」


「鈴ちゃん、その犬、たぶん飼い犬じゃないよ。

 首輪とか付けてないし」


 聞こえてきたのは大人の女性の声だった。

 そんな声に少女が恐る恐る目を開けると、そこにいたのは凛々しさと穏やかさ、対象的な空気をまとう二人の女性で、

 助かった安心感と妖精が見つからない不安感が綯い交ぜとなって泣き出してしまう少女。


 これに慌てたのは鈴と呼ばれた女性だった。

 どうにか少女を泣き止まそうと慌てふためくのは鈴と呼ばれただった。

 しかし、彼女は子供の相手にあまり慣れていないのか、さっきまでの凛々しさはなんだったのかとばかりにオロオロしだし、

 一方、ほわほわと穏やかな女性は冷静だった。

 彼女は「あらあら」と泣いている少女に近付き、その母性溢れる体で少女を包み込むと「よーし、よーし。怖くないですよ」と頭を撫で始める。


 すると、しばらくして少女も落ち着きを取り戻したのか、まだ鼻を啜るような仕草をしているものの涙は止まり、彼女を慰めていた女性がどうして泣いていたのかを訊ねると、少女はこの神社で妖精を見かけ、そのことを話した男の子に意地悪されたこと、その男の子を見返すべく妖精を探していたことを辿々しくも話し始める。


 と、この話に慌てたのは話を聞いていた二人だった。

 なぜなら、二人にはその妖精に心当たりがあったからだ。

 実はこの神社は、普段から二人がとある訓練に使っている場所で、

 その際に二人は自分の相棒を自由にさせていたのだが、その相棒というのが少女のいう妖精だったのだ。


 少女が泣いている原因にまさか自分が関係しているなんて――、


 鈴があからさまに挙動不審になる一方で、少女を抱いていた女性は冷静だった。

 少女と目を合わせるとこう告げる。


「ねぇ、妖精さんはいい子にしか見えないの」


「そうなの?」


「うん。

 だから、アナタがその妖精さんを見つけてもアナタをイジメる子達には見えないのかも」


「そうなんだ」


 ことは自分だけの問題ではない。

 時に嘘も方便と、幼馴染の男の子達を習って即興で考えた女性の作り話に納得する少女。

 しかし、すぐに少女の顔が曇り。


「でも、妖精さん見せるって約束しちゃった」


 また目元に涙を貯める。

 すると、そんな少女の様子に耐えられなくなったか、おっかなびっくり二人のやり取りを見ていた鈴が「よ、よしっ」と気合を入れるようにして。


「お姉ちゃんに任せなさい。

 えっと、君に妖精さんを見せてあげる」


「ホント!?」


「うん、約束だから元気を出して」


 力強く約束を交わし、笑顔になった少女とバイバイをした後、ふたたび顔を見合わせる二人。

 しかし、その表情には温度差があって。


「もう、適当なこと言っちゃって、どうするの鈴ちゃん」


「どうしよう巡」


 どこか楽しげにする和やかな女性は巡で、一方の鈴はただただ顔を青くしていた。

 そう、鈴のした約束は、ただ少女を悲しませないようについしてしまったものであって、

 つまりはまったくのノープランのものだったのだ。


「とりあえず虎助君に相談しよっか」


「うん」


 そして、最後は頼れる弟分にお願いと、すぐに万屋にいるであろう虎助に連絡を取る鈴だった。


   ◆


 さて、そんな二人の相談を受けた虎助の反応は以下のようなものだった。


『妖精っぽいものを見せるだけなら、魔法を使えば難しくはないんですけど、それだとその女の子を騙すみたいになっちゃいますよね』


「ああ~」


 光の魔法や幻覚系の魔法でお茶を濁すことは簡単だ。

 しかし、それで少女を騙して鈴達の気が収まるかといえば、そうではないだろう。


『そうなると、一番はそのままスクナを見せることなんですけど』


 ただそれも、まだ会ったこともない不特定多数に見せるとなると心配があるもので、


『ちょっとオーナーに聞いてみます。

 なにかいい方法があるかも知れませんから』


「ありがとう。

 この埋め合わせは今度帰った時にさせてもらうよ』


『気にしないで下さい。二人にはいつもお世話になっていますから』


 『特に義姉さんが――』と、そんな鉤括弧つきのやりとりがあった数日後――、

 鈴と巡は例の神社で待ち合わせをしていた。


「お姉ちゃん」


 先頭で元気に手を振るのは、この数日で仲良くなった少女・美香である。

 その後ろには同じ年頃の男の子が二人、女の子が一人がついてきていて、


「よろしくね」


 子供達と視線を合わせるべくしゃがみ込んだ巡に少し怯むのは二人の少年だ。

 どうやら少年達は美香がお姉ちゃんと呼んでいることから、その相手を中学生くらいと予想していたようだ。

 しかし、そこに居たのが母性の塊と定評のある巡で面食らってしまったらしい。


 そんな少年達の一方で、鈴達も内心で驚いていた。

 なぜなら、二人は美香の話から相手をガキ大将的な少年と想像していたからだ。

 しかし、美香が連れてきた二人は、双眼鏡を用意していたり、動物図鑑を抱えていたりと、どちらも真面目そうな少年だったのだから二人の驚きも当然だろう。


 とはいえ、年上の自分達がいつまでもフリーズをしている訳にはいかないと、まずは鈴と巡が自己紹介。

 そして、元気な少女二人に続いて、少年達も名前を名乗ったところで、本題である妖精を見せるという話に入る。

 すると、ここで眼鏡の少年が仕掛けてくる。


「今日は妖精を見せてくれるということですが、本当にそんな生物がいるんですか?」


「お姉ちゃんはウソつかないもん」


 どこか馬鹿にするような少年の問い掛けに美香の純粋な叫び。

 そんな二人のやり取りにこれは期待を裏切ることは出来ないと、鈴は心の中で気合を入れ直し、虎助に用意してもらった小瓶を取り出すと、それを喧嘩を始めそうな勢いの美香達の眼の前に持っていき。


「これには妖精さんが好きなお花の匂いがするお水なんだけど、これをそこのお姉ちゃんが持ってる機械に入れると――」


「これしってる。アロマポットってゆうんだよ」


 巡が持っていた機械を見て、美香の隣の女の子が元気に手を上げ教えてくれるのに、鈴はその子の頭を撫でて、


「よく知ってるね。これでこの妖精さんの大好きな匂いを出すと、妖精さんが来てくれるんだよ」


「「そうなんだ~」」


「信じられませんね」


 鈴の説明に女子が感心する一方、ズレていないメガネを直し、胡散臭そうな視線を送るのは図鑑の少年だ。


 鈴はそんな少年の様子に幼馴染のクール男子をダブらせつつも。


「じゃあ、実験を始めるよ」


 実験という言葉で二人の気を引いて、巡に手伝ってもらいながらアロマポットのスイッチを入れる。

 すると、辺りにフローラルな香りが漂い始め。

 「ここに居たら妖精さんが出てこれないから」という、鈴の説得を受けて近くの物陰に隠れて待つこと数分――、


「ほら、なにも来ないじゃないですか」


 変化のない境内に痺れを切らし、双眼鏡の少年が否定的な言葉を口にして、

 鈴がそんな少年を宥めようとしたその時だった。


「あっ、光ってる」


 妖精が現れる瞬間を見逃すまいと真剣な顔で覗き込んでいた美香が思わずといった様子で声をあげる。

 そんな美香の声に少年達がアロマポットが仕掛けられた境内を覗き込むと、そこには蛍火のような光がたくさん集まって来ており。

 これには少年二人も思わず歓声を上げてしまうも、すぐに『しまった』と言わんばかりに不機嫌な顔を取り戻し。


「あんな光――、なにかトリックがある筈です」


 建物の陰から出ていこうとするのだが、そんな彼を巡が抱きしめ「妖精さんを驚かせたらダメだよ」と注意すると少年達は頬を赤らめ、俯いてしまう。

 しかし、すぐに意を決したように顔を上げ。


「わかりました。なにか仕掛けがあるんですね」


 たしかに、少年達の言う通り仕掛けはある。

 ただ、それは魔法的な仕掛けであって、

 それは、集まってきた精霊を魔力が低い一般人でも見ることが出来るようにするというものなのだが、ここで正直にそんな事実を話したところで彼等には通じないだろう。

 だから、鈴は「わかった」と少年二人に安っぽい水泳ゴーグルのようなものを差し出して、


「これをつけて静かに近付いて、それが守れないならあそこには行かせられないよ」


 鈴が渡したそれは、夜の大精霊(ニュクス)が住まう地底湖で取れたクリスタルを薄く切り取ったものをはめ込んだ簡易的なグラムサイト。

 これを通してなら、アロマの効果が霧散してしまったとしても集まってきた原始精霊を見ることが出来るのだ。

 鈴に続いて巡が美香とそのお友達にもゴーグルを渡し、そんな二人の先導で子供達がゆっくりと境内に近づくと、そこには光の粒が近付いてきた彼女等に興味があるとばかりに、くねり動きまとわりついてきて。


「凄い、凄いよ。お姉ちゃん」


「これが妖精さんなんだ」


「妖精さんの子供みたいなものかな。美香ちゃんが見たのはもっと大きかったでしょ」


「うん、お人形さんみたいだった」


 無邪気な女子二人に対して、男子二人はやや腰が引けている。

 それに鈴が微笑ましげに笑顔を浮かべ。

 それがまた少年のプライドを傷つけてしまったようだ。


「こんなのただの映像です」


「そんな乱暴したらダメだよ」


 乱暴に光の粒を掴み取ろうとする少年に、巡が穏やかながらしっかりとした注意をする。


 と、これに少年はバツの悪そうな顔を浮かべ。

 しかし、巡はそれを特に気にすることもなく、少年の手を取ると。


「優しく、優しくね」


 アドバイスをしながら少年の手を光粒が集まる一角へと誘導。

 すると、そんな少年の指の先に光が集まり始め。

 これには男の子は驚いたようにしながらも笑顔になって、

 ただ、それが照れくさかったのか、すかさずコホンと咳払いをして、そっぽを向いてしまう。


 鈴はそんな少年の様子に満足そうに頷きながらも、視線を鳥居の方に向け。


「そろそろ暗くなってきたね。終わりにしよう」


「えっ、もう?」


「暗くなるとお母さん達が心配しちゃうでしょ」


「妖精さん、せっかく会えたのに……」


 残念そうにするのは美香だけではなかった。


「そんな美香ちゃんにプレゼントをあげよう」


 と、鈴が美香の手の平に鈴が乗せたのはどこの神社でも売っていそうな巾着型のお守りだ。


「お姉ちゃん?」


「ふふふ、これは特別なお守りで、これを持っていればいつか妖精さんに会えるかもしれないんだよ」


「ホント」


「だけど大変だよ。ちゃんと真剣に会いたいって思わないと妖精さんは来てくれないから」


「頑張る」


 渡されるのを見て「いいな」と羨ましそうにする美香の友達。

 それを見た鈴がポケットからさらにお守りを出し。


「詩織ちゃんにもあげよう」


「ヤッター」


「もちろん二人にもあげるよ」


 彼女と少年達にもお守りを渡したところで「だから、みんな仲直りね」と巡が四人の手を重ねて握手をさせて、家の近くまで送っていく。

 そして、手を振ってバイバイをしたところで巡が一言。


「なんとかなったね」


「うん、よかったよ」

◆精霊のお守り……一見、普通のお守りだが、その中身は一粒の精霊金を核とした精霊(ニュクス)像が収められており、持ち主から漏れ出る魔力を吸収して精霊を集める機能が備わっている。

 ちなみに、集まった精霊が見えるかどうかは所持者の願い次第。

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