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ドローンゴーレム

◆◆◆


 年末年始は忙しく、ちょっと短めのお話で刻んでいくことになりそうです。

 (とはいっても、これが本来目指していた分量なんですけど……)

 その代わり――といってはなんですが、以前、とある場所に投稿した作品(学園異能モノ?)の手直しをアップしてみましたので、興味がある読者様は是非そちらの方もご一読を――、


 上にある作者名からのリンクか、こちらのURLから移動できます。

 → https://ncode.syosetu.com/n1892ej/


 ◆◆◆

 異世界からの魔動機来襲および、聖剣絡みのちょっとした騒動から数日後、

 その日、午前中から万屋に来てくれたのは元春とマリィさんと魔王様の三人だった。

 と、そんな三人の目の前、カウンターの上にはふわふわと浮かぶピンポン玉サイズの球体が浮かんでいた。


「これが虎助達が新しく開発したゴーレムですか?」


「はい。ドローンゴーレムのカリアです。以前、工房にある素材の収集場で見つけた小さなゴーレムを参考に、オーナー(ソニア)が作ってくれたんですよ」


 僕の言葉に、例のセクハラおやじ型人工知能を積み込んだ手のひらサイズのゴーレムを思い出したのか、マリィさんは嫌そうに顔を歪めるが、あの女性の敵というべきゴーレムの存在よりも、目の前に浮かぶ玉への好奇心が上回ったのだろう。コホンと咳払いで気分を一新、こう質問を飛ばしてくる。


「ドローン?量産型では無くてです?」


「量産型はもう少し自由度が高いものを作ろうと考えてまして、今回は小型ゴーレムの試作品も兼ねましてこういうものを作ってみました」


 気になったなったのだろう。『ドローン』というワードをオウム返しに聞いてくるマリィさんに僕が答えると、


「……自由度?」


 カウンターに縋り付くようにしていた魔王様が可愛らしく首を傾げてくる。

 僕はそんな魔王様に微笑みを送り、


「そちらの方ももうすぐ完成しますから、お楽しみということで待っていて下さい」


「気になりますの」


 そう言いながらもお楽しみだという僕の言葉を尊重してくれたのだろう。マリィさんは気を取り直して、


「それでドローンゴーレムというのはどのようなゴーレムなんですの?」


「魔法世界でいうところの索敵用精霊のような機能を備えた魔動機ですかね。もともと僕の世界にある索敵用ロボットの駆動音が蜂の羽音に似ている音を出しているからそう呼ばれてたりするんですけど、機能的に同じだからとオーナー(ソニア)が、便宜上そういう風に名付けたんですよ。でも、実際は念動力で浮いているこの子は正確にはドローンとは呼べないかもしれませんけどね」


 たぶん聞かれるんだろうな――と、前もって調べておいた豆知識を披露しつつも名前に関する裏話をする僕に、元春は「へぇ~、そうなん?」と一度、感心したように言うも、途中で何か重大なことに気付いたかのように僕の手を掴んできて、


「ちょ待てよ。もしかしてそのカリアっつーゴーレムを使えば、簡単に覗きとかができるんじゃね。ドローンよりちっせーし」


 いや、それはそうなのかもしれないけれど、君は真面目な顔してなに言ってるのかな。覗きは犯罪なんだよ。というか、マリィさんなんか完全にゴム虫を見るような目をしてるよ。

 だから、


「元春には残念かもだけど、僕達の世界の魔素濃度じゃ、よくて三十分が限界だよ」


 魔動機というものは魔力によって動く機械である。カリアにもベル君達と同じように周囲の環境から魔素を取り込む機構が搭載されているのだが、それも魔素が殆ど存在しない地球ではそれも長くは続かない。

 僕はそう言って元春の妄言を正そうとするのだが、本能に忠実になってしまった元春の脳には届かなかったみたいだ。


「三十分もありゃあ十分だ。ちょっとコイツを貸してくれ、試運転に女子更衣室をって――ぶげら」


 ゲスい目標に向かってまっしぐら。エロスバーサク状態の元春が、真横から放たれた火の弾丸によって口を封じられてしまう。

 犯人はもちろんマリィさんである。

 しかし、惨劇の犯人であるマリィさんは、まるで何事もなかったかのような顔で話を本題に戻して、


「しかし、三十分しか動けないとは――、すこぶる燃費の悪い魔動機ですのね。(わたくし)の世界の魔力注入型ゴーレムでも半日は軽く動くと思いますが……」


 あの、元春がボンバヘッでブスブスと酷いことになってるんですけど……。

 それを指摘をしたところで僕にお咎めはないとは思うけど、あえてそこに踏み込んでいく蛮勇を冒す必要は無いだろう。

 僕はカウンターの向こうに転がる焦げた坊主頭に憐れみの視線を向けながらも、見え見えの地雷原を回避して、


「カリアは空を飛ぶ為に常時魔法を発動していますからね。それに加えて各種索敵系の魔法を発動しつつ、それらを統括する魔法窓(フキダシ)と常時数個の魔法を併用する運用になっていますから、小さな体に詰め込める供給源ではその時間が限界なんですよ」


「索敵系の魔法は数が揃うと案外魔力を消費しますからね」


 小さな魔法でも数が揃えば強大な攻撃魔法並の魔力消費量になる。アプリが大量に常駐している携帯がたった数時間でバッテリー切れを引き起こしてしまうのと同じことなのだ。


「索敵の方は別にやらせるという方法もあったのですが、それだとカリアを造る意味があまりなくなってしまいますからね。アヴァロン=エラの魔素濃度なら常時稼働も可能だろうということで、こんなピーキーな仕様になっているんですよ」


「ですが、この小さな体にどうやって多くの魔法式を組み込んでいるのです?外装を見る限り、目立った魔法式は見受けられませんけど」


「それはですね。これを使っているんですよ」


 言って、僕がカウンターの引き出しから取り出したのは角砂糖よも少し大きいくらいの結晶体。〈インベントリ〉と呼ばれる魔導式パソコンだ。


「たしかに〈インベントリ〉を使えば大量の魔法式をこの小さな体に保持できますか。ああ、常時発動型にしたのは〈インベントリ〉からですと状況に応じた魔法発動が難しいからですね」


 そうなのだ。〈インベントリ〉にはたしかに多くの魔法式を記録できる。しかし、それを魔法として引き出す為には、記録にアクセス、魔力回路を形成し、そこに魔力を流して、ようやく魔法を発動させられると、四段階のプロセスを踏む必要があるのだ。

 それでも相手が、詠唱やら魔法陣を展開するなど魔法発動までにワンテンポの猶予を持つ相手ならいいのだが、魔具もしくは魔導器、それとも詠唱破棄の魔法を使ってくる相手の場合、圧倒的に魔法の発動が遅くなり、どうしても後手に回らざるを得ないと、大量の魔法を記録できる〈インベントリ〉や、一部の魔導書などにはそんなリスクが存在しているのだ。


「とはいえそれも、先日倒したカプリコーンや、既にある魔導書関連のマジックアイテムを参考に、ある程度の高速化はできたんですけどね」


「はぁ、いつもながらに規格外のことを致しますのね」


「その分、入れられる情報量も少なくなっているみたいですけど」


 あちらを立てればこちらが立たず――ではないのだが、〈インベントリ〉の魔法発動を高速化する魔法式――というよりも魔法回路と呼ぶべきものを組み込むと、その分の記憶容量が必要な訳で、それを数個、数十個の魔法と連動させるとなると、結構なデータ量になってしまうそうなのだ。


「まあ、それらの新機能も合わせて試運転しようっていうのが今日の目的なんですよ」

 カリアのお披露目の目的を聞いたマリィさんは「成程――」としながらも、


「因みにその回路は(わたくし)の〈インベントリ〉にも入れてくれるのでしょうね」


「ええ、もちろんリクエストしていただけさえすればマリィさんの〈インベントリ〉にも、魔王様の〈インベントリ〉にも魔法回路を組み込みますけど」


 と、自分も忘れられてなかったと口元だけで喜びを表現する魔王様の変化を嬉しく思いながらも、


「取り敢えず、カリアで実験してからですね」


 そう言って、床に焼け転がる坊主頭を踏まないようにしながら、ふわふわと空中を浮遊するカリアを引き連れ、店の入口に向かう。

 と、そんな中、


「そういえば、そんな大量の魔法式を詰め込んで原始精霊に任せて暴走の心配とかはありませんの?」


 原始精霊というのは、いわば精霊の赤ちゃんみたいなものだ。

 そのような存在に大量の力ある魔法と自由に扱える肉体(機械の体)を与えたら、例えばドライアドが人の精を求めるが故に半魔獣化した存在になってしまったように、ある意味で危険な存在になり得るのでは?マリィさんはそう危惧しているのだろう。

 だがしかし、


「その辺りは精霊に詳しい魔王様監修の精霊の扱い方マニュアルと、ベル君やエレイン君達のネットワークが存在しますから、お互いにフォローしあって、何か問題があればすぐにメンテナンスを受けられる体制になっていますよ」


 そんな説明に若干胸を張るようにしている魔王様。


「後は下位精霊まで成長してくれれば僕達としては嬉しいんですけど……」


「……それには、長い時間と努力が必要」


「そうですね」


 簡単にレベルアップできたら苦労はしない。それが精霊の格というのなら尚更である。


「なにか凄いことを簡単に言っているような気もするのですが、まあ、この店とマオがタッグを組んでいるのですから、それくらいはやってのけそうですわね」


 そして、そのまま店の外へ。

 カラカラ、ピシャっと扉がしまったところで一人の少年がムクリと起き上がってこう叫ぶ。


「ちょ、俺は無視かよ」

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