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志帆と十三の北陸探訪・報告

 放課後、僕と元春と次郎君が万屋に顔を出すと、僕達の塞がった両手を見て玲さんがこう聞いてくる。


「どうしたのそれ?」


「近所で結婚式があったんすよ」


「ええと――」


「僕達の地元では結婚して家族が増えた時にお菓子を配る風習があるんです」


 納得する玲さんの一方で、わからないといった様子のマリィさん。

 僕はそんなマリィさんに地元にそういう風習があると説明。

 納得してもらったところで袋を開けておやつタイムだ。


「欲しいお菓子とかあったら持っていってください」


「僕のも構いませんよ」


 僕と次郎君がそう言うと魔王様がゲームをしていた手を止めて。


「……カラメルコーン」


「でしたら、(わたくし)は動物クッキーをいただきますの」


「わたしはパイチョコ」


 女性陣が手に手に取るお菓子を見て元春がそっと自分のお菓子袋もそこに加えながら。


「こういうのって本当は男子と女子で好みが別れたりするんだよな」


「昔はみんな集まってトレードをしましたね?」


「で、志帆姉にポテチとか取り上げられんだよ」


 正しくはチョコみたいな甘いお菓子やお煎餅系のお菓子とスナック菓子の交換なのだが、

 元春もスナック菓子が好きなので取り上げられたと思ってしまうのは仕方のないことだろう。


「そういや志帆姉は元気にしてるん?

 いまは十三さんと北陸の方を回ってんだよな」


「それなんだけど、どうも女の子に化けた狸と出会したみたいで、いまそのお宅にお邪魔してるみたいだよ」


「化け狸の女の子?

 ちょっ聞いてねーんだけど、それ聞いてねーんだけど」


「僕も少し気になりますね」


「次郎がそういうこと言うの珍しいじゃない」


 女の子と聞いて元春が興奮するのはいつものこととして、化け狸の女の子に反応する次郎君に玲さんが意外という顔をするのだが、これには理由があって、


「次郎はたぬき顔っ娘が好きなんすよ」


「それは正確ではありませんね。

 僕は柔和な女性の笑顔に癒やしを感じるんです。

 それはまさにアルカイックスマイルといった――」


 と、僕にとっては見慣れた言い合い(?)を元春と次郎君が始めるのを横目に、僕は義姉さんからの報告を自魔法窓(ウィンドウ)から呼び出す。

 それによると、その狸の女の子ではなく、その後にやってきた狸のお爺さんが八百比丘尼さんのことを知っているような素振りだったというが……、


「んで、その女の子狸はかわいいん?」


「まだ続報が届いてないからわからないよ」


「マジかー、

 つか、それっくらい最初に聞いとけよ」


 そんなこと言われても――、

 義姉さんにそんな質問をしたら、どうなるかなんて元春だってわかってるだろうに。


「でも、化け狸なんて本当にいたんだ」


「雪男や雪ん子のような精霊もいるくらいだから別に普通じゃね」


「ああ、修学旅行の時の?」


 たしかに、修学旅行の時の遭難騒ぎの時に元春達が見つけたという雪ん子のような精霊――、

 ああいった存在が実在しているのならば、化け狸の一匹や二匹、居たところで不思議はないだろう。


「しかし、その化け狸ですか、彼等は一体どういった存在ですの?

 話が通じるという点から魔獣の類ではないようですが」


「単純に妖怪になるんじゃないかと、カテゴリ的には妖精に近い存在なんでしょうが」


 ただ、その辺の定義に関しては世界によってもまちまちなので、やっぱり日本固有の種として妖怪というグループ分けにしてしまえばいいんじゃないかというのが、僕個人としては一番しっくりくる説明だ。


「ですが、あの志帆から追いかけられて逃げ切るとは、その子狸とやらもなかなかの手練ではありませんの」


「相手はそこの山に住んでいるでしょうから、地の利があったんじゃないでしょうか」


 マリィさんも普段から一緒に訓練をしたりしているので、義姉さんの実力の程は知っている。

 しかし、相手の情報がまったくない状態で、場所が相手のホームグラウンドとなると、さすがの義姉さんでも出し抜かれてしまってもおかしくはなく。


「ただ、これで八尾比丘尼さんの情報が手に入るかもしれません」


 現在の八百比丘尼さんの写真に反応してくれたというなら、八百比丘尼さんがああなってしまった原因も知っているかもしれないのだ。


「とりあえず、この第一報を見る限りですと、海神の巫女という言葉が気になりますわね」


「えっと、それって比丘尼さんが不老不死になったのは神様の仕業ってこと?」


 さて、それはどうだろう?

 神獣に精霊に龍種と、いろいろと超常の存在と出会してきた僕達でも、さすがに神様には出会ったことがない。

 その上で、ソニアやルナさんなどの話によると、どうも僕達が知っている神様というのは、世界そのものに対するシステムのような存在で、実際にその姿を表すことはないような口ブルもあったから。


「単にそう名乗っているだけの別物――、

 もしかすると、今の八百比丘尼さんの状態がそう呼ばれているって可能性もあるんじゃないかとも思ってるんですけど」


「それはありえる話ですわね」


 実際、マリィさんの世界では土着の精霊が神様のように祀られ、信仰されているなんてこともあるようで、あながち的外れな考えでもないだろう。


「なんにしても、義姉さんからの続報待ちですね」


 と、僕達が真面目な話をしている一方で、元春は狸少女にしか興味がないようだ。


「写真、写真を送ってくれるように言っておいてくれよな」


「元春も義姉さんと直接やり取り出来るんだから、そんなに見たいなら自分で頼めばいいじゃない」


「そんなの出来る訳ねーだろ。

 後でなにされるかわかったもんじゃねーし」


 だったら、僕に頼らないで欲しいんだけど……。

 とはいえ、せっかくだから元春の要望にも応えてあげなければと、元春からの催促を義姉さんに伝えておくべく、新たに表示した魔法窓(ウィンドウ)に指を走らせたところで、玲さんが、


「だけど、こういうのって狸よりも狐ってイメージじゃない」


「それはそっすね。切れ長でちょっと目元がつり上がった美人とか好みっす」


「いや、それならややタレ目のイメージがある狸の方が……」


「しっかしそうなると、殺生石とか、マジで調べに行く必要があるかもしれんわ」


「殺生石?」


「ありゃ、玲っち知らねーの。殺生石ってのは九尾の狐が封印されてる石っすけど」


「そういえばなんかの漫画でそんな話を見たような。

 だけど、そういうのってもう他の人が調べてるんじゃない」


 殺生石に関しては前にも一度話題になったけど、たしかに玲さんの言う通り、いかにも曰くありげなものに関しては、学者系の魔女さんの誰かがすでに調査に入っているのではないかと、僕はそこまで考えたところでふと気付く。


「どした?」


「いや、そういうのってハイエストはどうだろうなってふと思って」


 ハイエストがなにかしら魔法的な遺物を探しているのだとしたら、殺生石に興味を持っていてもおかしくはない。

 場合によっては既になんらかの被害が出ているのではないかと、義姉さんへのメッセージを保留して、静流さんにメッセージを送ろうとしていたところ、ここでくぅと可愛らしい音が聞こえてきて、

 その音の発生源である玲さんがそれを誤魔化すように――、


「だ、だけど、この時間にタヌキとかキツネとか言ってたらお腹が減ってきちゃったわね」


「わからないでもないけど、それってどうなん?」


「うっさい。中途半端にお菓子を食べたから逆にお腹がすいたの」


 まあ、パイチョコを一個だけ食べただけの玲さんだとそうなるのかもと、玲さんが元春の坊主頭に拳骨を落としたところで、静流さんへのメッセージを送り終えた僕が立ち上がり。


「なにか出しましょうか」


「あ、だったらミニ麺がいい」


 なにか作ろうかと声をかけたところ、これに元春がお菓子がたっぷりはいった袋の中から、ラーメン菓子を出しながらそう言ってきたので、希望者に手を上げてもらって、キッチンにストックしていたミニサイズのおやつカップ麺にお湯を入れて持ってくる。


「……おいしい」


「だけど、次郎がそういうの食べてるとなんか変な感じ」


「そうですか、何故だか皆さんそう言うんですけど、こういう手軽に食べられるものは好きですよ」


 次郎君は一見どころか百見しても涼やかな見た目をしているのだが、母さんのブートキャンプの受講者なのだ。

 場合によっては鳥の丸焼きに齧り付くようなワイルドさもあったりするわけで、

 食事に関しては案外無頓着なところもあると、そんな話をしていると、ここでタイミングよく義姉さんからの返信メッセージが届く。


 それによると、昨夜は話を聞きがてら、狸御殿というなんともメルヘンなお屋敷に泊めてもらったようで、今日の午前中に魔女さん達と引き合わせた後、テントを片付け、いまようやく下山してきたそうだ。


「それで、この子が先ほど話にあった狸少女ですか、

 このまろやかな容貌、是非お近づきになりたいですね」


「なんだ、まだ小学生くらいじゃねーか、お姉さんとかいねーのかよ」


 と、若干危うい次郎君の発言はさておくとして、元春の疑問に対する回答であるが、


「人間に化けられるような狸はこの子とそのお爺さんくらいだって」


 一緒に暮らしている狸の中には、数十年と生きて、人間並みに頭がいい個体もいるそうだが、人間の姿に変われるような狸はいないようで、


「なんだそんなもんかよ」


 勝手に期待しておいて、勝手にガッカリするのはいかがなものか。

 そもそも、龍種であるヴェラさんだって、人間の姿に変身するには魔法薬に頼っているのである。

 昔話などのイメージから、狸の妖怪といえば変化して当然のイメージがあるものの、そんなポンポンと人間に化けられるような狸が生まれる筈もなく。


「それで、比丘尼さんのことはなにかわかったの?」


「えっと、繋がりとしては、かなり昔に出現した狐魔獣の被害に困っていたところを助けてもらったのが始まりみたいですね」


「狐だと!? それってもしかして九尾とか?」


 期待している元春には悪いが、その狐魔獣はまさしく魔獣と呼ぶべき巨躯の狐だったようで、山の近くの峠道を通る人間や山に住まう動物に多大なる被害をもたらしていたそうだ。

 そして、その魔獣が発生した原因が、どうも山の近くで行われた戦と地脈の噴出孔だということで、その調査にやって来た、八尾比丘尼さんと――当時は歩き巫女として活動していた――魔女の皆さんが工房を建てて土地の安定化を測ったというのが、狸のお爺さんと八百比丘尼さんが出会ったきっかけだったようだ。


 その後、しばらく狸と魔女のみなさんが同居という形でその場に留まっていたそうだが、何百年か後に起きた地震がきっかけで地脈がズレてしまい、工房の機能が維持できなくなって、魔女の皆さんは泣く泣くその地を去ることになったらしく。

 その際、狸のお爺さんは一緒に他の土地に移らないかと打診されたようだが、そこが故郷にして思い出の場所だとして自分が残って管理をするということで山に残ったというのがここまでの経緯のようで、

 それから長い年月をかけて徐々に地脈が元の流れに戻っていって、狸少女が生まれるような力を取り戻したのではないかとのことである。


「っていうか、それだと比丘尼さん、触りのとこしか出てなくない?」


「となると有益な情報は得られなかったということですの」


「いえ、いまは途絶えてしまったようですが、百年くらい前までは魔女の皆さんとも手紙などのやり取りをしていたようで――」


 その手紙の中に飢饉が起きた際に比丘尼さんが力を使い過ぎてしまって、森を操る魔法と精霊の力を使い、地脈の中で眠りについたという記述があったそうだ。


「ふーん、じゃあ、比丘尼さんがあんな風になったのは精霊の力の使い過ぎってこと?」


「ですね」


「ん、それって俺等もヤバいんじゃね。

 ほれ、なんだったっけ」


「もしかして精魔接続のこと?

 それなら、そうならないように式が組まれているから大丈夫だよ」


 精霊合身の魔法を改造して作られた精魔接続。

 この魔法式に関してはしっかりとセーフティがかけられているから、いくら魔力を使ったところで問題はなく。

 その一方で、八百比丘尼さんがいまのような状態に原因は、どこかで起こった飢饉をどうにかすべく、自分の許容限度を超える力を意識的に使ってしまったが為に起きた悲劇なのだろう。


「しかし、そういう事情でしたら起こすのには問題ないのではありませんの」


「この情報が正確ならそうですね」


 今回得られた情報は、あくまで伝聞という形なので、それを補足するような資料が見つかりでもすれば、問題なく彼女の治療を終えることができるだろう。


「ってことは志帆姉がまた帰ってくる?」


 戦々恐々とした顔つきでそう聞いてくるのは元春だ。

 義姉さんに振り回されがちな元春としては、義姉さんにはもう少し旅をしていて欲しいのだろう。

 ただ、これに関しては朗報があって、


「ううん、予定されてたところは回るみたいだよ。義父さんの次の仕事が始まる一ヶ月前くらいには戻ってくるみたいだけど、それまでは魔女の皆さんから紹介された遺跡を巡るみたい」


「さっすが十三さんだぜ」


 まあ、さっきの文句もそうなんだけど、今の一部始終も報告することになるんだけどね。

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