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四獣

その報告は任務を終えて帰ってきた白盾の乙女の四人から寄せられたものだった。


「皆さんお帰りなさい。予定よりかなり早いですけど、なにかありました?」


「ちょっと国の方で面倒事に巻き込まれかけまして――」


 聞けば、エレオノールさんのご実家関係でちょっとしたゴタゴタがあったらしく、関わると面倒になりそうだったので、駆け足で国を出てきたとのことである。

 そして、もう一つのゆっくりしていられなかった事情が本題のようで――、


「実は魔王城の周辺で四獣の動きが活性化しているみたいなんです」


「四獣?」


「ありゃ、店長さんは知らないんすか、魔王の城を守護する魔獣のことっすよ」


 この場合の魔王というのはパキートさんのことを指しているのだろう。

 なんでも、数ヶ月前までパキートさんが拠点としていた遺跡には、四方を守る魔獣が存在するそうで、フレアさん達がパキートさんのお城に乗り込んだ際に、その一体が倒されたのだという。

 その後、特にこれといった動きはなかったそうだが、最近になって魔の森の北方を住処とする狼王ヴォルフガングがギルドの仮拠点がある西に攻め込んできているとのことだ。


 ちなみに、そのヴォルフガングというのは、その名の通り、アヴァロン=エラではおなじみの魔獣――、

 フォレストウルフから稀に出る特殊個体のようで、強靭な脚力による機動力と属性由来の回復手段の多さ、そして統率力の高さから、その個体をトップとした群れに遭遇したら生きては帰れないと言われているらしい。


「たしかに、ウルフの上位種は面倒な相手が多いですからね」


「店長さんは戦ったことがあるんですか」


「それそのものではないですが、別の上位種なら何度か戦ったことがありますよ」


 僕が素直にそう応えると、白盾の乙女のみなさんから「はい?」と惚けたような声が溢れる。

 ただ、魔素が濃い森の奥深くに次元の歪みが生まれるなんてことはままあることで、群れごとこちらに転移してきて戦うなんてことなど、このアヴァロン=エラではよくあることで。


「それに、狼系魔獣の群れは森の中で出会ったら面倒でしょうが、見通しのいいここでなら対応しやすいですから」


「えっと、そういう問題ではないと思うんですけど」


 遮蔽物は足元が覚束ない森の中ならいざしらず、なにもない荒野が続くアヴァロン=エラでなら、白盾の乙女の皆さんにも特に苦戦することもなく対応できると思うのだが、やはり魔王というネームバリューは大きいのだろうか、白盾の乙女の四人としては、そのヴォルフガングのという魔獣にかなりの危機感を持っているようで。


「ギルドの方では四獣によって保たれていた森の勢力図が崩れつつあると問題になっているんです」


「あと、ルベリオンの宮廷魔導師が結界を張ってくれたみたいなんすけど――」


「それも限界なんじゃっていうのも大きいわね」


 それは、フレアさんがパキートさんのところに行った時に作ったものだろうか。

 あれがもう半年以上も前のことになるから、これまで持ったのが奇跡的ともいえるのだが、


「しかし、どうしてそんなことになっちゃってるんです」


 一度張った結界が消えてしまうのは当然のことではある。

 しかし、その結界がいままでちゃんとその機能を発揮して入れていたということなら、単純に結界を補強してやればいいんじゃないかと僕は思ったのだが、どうもこれにも事情があるようで、


「ロゼッタ姫の奪還が叶わなかったことと、勇者様の出奔」


「聖女様もっすよね」


「他にも近衛の方でもゴタゴタがあったみたいで、王国もこっちに手を回すような余裕はないみたいなのよ」


 成程、行方知れずになったロゼッタ姫と例の鉱山からのゴタゴタがまだ微妙に後を引いているのか。


「わかりました。

 とりあえず、こちらでも何か対策を考えさせてもらいます」


「お願いします」


   ◆


 さて、白盾の乙女のみなさんにはゆっくり旅の疲れを癒やしてもらうとして、四獣の件をフレアさんやパキートさんに相談することにしよう。


 ということで、通信を繋いで簡単な状況説明をしたところ、パキートさんから思いもよらぬ質問が上がる。


『あの、四獣とは一体なんでしょう』


「えと、この四獣っていう魔獣達はパキートさんの従魔とかじゃないんですか?」


 はて、パキートさんのお家を守る魔獣のことをパキートさんが知らないとはこれいかに?

 僕はてっきりパキートさんが召喚系の魔法を得意としていることから、四獣もパキートさんの使い魔的な存在なのかと思っていたのだが、どうもそういうことではないようだ。


 詳しく聞けば、パキートさんが遺跡兼自宅(魔王城)周りで使役していたのは、自身が作ったゴーレムと周辺の森で見つけたという植物系の魔獣だけのようで、それ以外の森で暮らす魔獣に関してはほぼノータッチ。

 白盾の乙女のみなさんが言う四獣に関してはまったく知らなかったという。


『いくつか強い個体がいることは知っておったのですが、まさかそのような認識をされているとは』


『それはこっちのセリフよ』


 自分達も知らなかったというエドガーさんに、驚きながらも文句を言うのはティマさんだ。

 実際、四獣の一体を倒したフレアさん達としてしては、まさか自分達がまったく関係ない魔獣を、さもパキートさんの部下として戦っていたということに、ある種、馬鹿馬鹿しさを感じてしまったのかもしれない。


「ちなみに、フレアさん達が倒した四獣ってどんな魔獣だったんです?」


『西の猪王と呼ばれた巨大な猪だな』


『猪というと、もしや苔を背中に背負った灰色の――』


『そう、その猪よ』


 と、これを聞いたパキートさんの忠実なるメイドであるレニさんには、フレアさん達が倒した魔獣に心当たりがあるらしく。


「もしかして今回のことも餌の分布とかに関係があるんでしょうか」


『そちらに関してはほぼ手を入れておりませんでしたので、正直わかりかねますな』


 続く、エドガーさんの話によると、遺跡周囲の魔獣に関しては、まだ未発見の遺跡や遺物が無いかを探すついでに、食料や素材確保の為に使う程度に間引きをしていたくらいで、後は魔獣達の生態に任せていたのだという。


『俺達はそのバランスを崩してしまったのか』


『そう? 聞いた感じだとその後の対処が問題だったと思うんだけど』


 呻くようなフレアさんの声にティマさんのあっけらかんとした物言いが続く。


『そうですね。仮の拠点を中心に周辺の魔獣を狩っているようですから』


 たしかに、四獣が倒されて比較的安全な狩り場になった結果、魔獣討伐が盛んに行われ、魔獣達の戦力バランスが崩れてしまったのだろう。


『バロネスリリィを戻します?』


 ちなみに、ここで名前が上がったバロネスリリィというのは、パキートさん達が向こうのお家(魔王城)を出る際に、球根にして回収してきた白百合の魔獣だそうで、いまはパキートさん達が暮らしているログハウスの近くに作られた家庭菜園で育てられているという。


『そもそも、そこに居座る以上、ギルドの問題なんじゃない』


『しかし、周囲に迷惑がかかるのでは?』


『それは大丈夫かと、あの周囲に人里はありませんので』


 ティマさんの少し投げ槍な言葉に対するフレアさんの懸念。

 それにポーリさんが、パキートさんが暮らしていた遺跡の周囲には魔獣はびこる魔の森があるだけで、街や村などは存在しないとフォローを入れるのだが。


「それなんですけど、森の中にダンジョンが見つかったそうで、ギルドの仮拠点に商人などが集まってきているみたいなんです」


『ダンジョン!?』


『リリィが居たところかな?』


 魔王城(パキートさん宅)の近くにダンジョンが存在したという事実に驚くフレアさん達。

 その一方でパキートさん達は比較的冷静な様子で、なんでも先に名前が上がったバロネスリリィがもともと居た場所がダンジョンだったらしく。


「そのダンジョン、どんなところでしたか」


『綺麗なところだよ。天然の洞窟でね地底湖があるんだ』


「だったら別の場所かと、そのダンジョンは遺跡のように人工的な場所のようですから」


 確認の答えに対する僕からの情報、これにパキートさんが食いついてくる。


『虎助君、そのダンジョンはどこにあったのかな』


「待ってください。いま地図を送ります」


 と、僕がすぐに白盾の乙女の皆さんから提供してもらったデータを転送すると、パキートさんはそれを見て、


『僕の知らないところだ。みんなは知ってる?』


 これにエドガーさんとレニさんが首を左右に振り、フレアさん達も心当たりがないようで、肩を竦めたところで、エドガーさんがパキートさんの思考を先回り。


『パキート様、調査に行くのは駄目ですぞ』


『わ、わかってるよ』


 まあ、パキートさんが直接調べるのは無理でも、以前、普段からフレアさん達が転移の乗り継ぎに使っている遺跡を調べた時のように、ゴーレムを使って遠隔操作で調べれば問題ないだろう。


 ただ、その辺の調整はまた後でするとして――、


「四獣の方はどうしましょう」


『白盾の四人とリーヒルに任せるってのはダメなの?』


 モニターの向こうで腕を組み、そう聞いてくるのはティマさんだ。


「生態系のバランスの問題なので、さすがにリーヒルさんと白盾の乙女の皆さんだけでどうにかするのは難しいんじゃ」


『ふむ、俺も本格的にゴーレム操作を学ぶべきか』


 うーん、ゴーレムでサポートするにしても焼け石に水のような気もするけど、

 しかし、フレアさんがゴーレムを操れるようになってくれれば、いろいろと出来ることが増えそうなので、とりあえず、フレアさんには後でゴーレム操作の魔法アプリを送るとして、


『まずは結界の補強をするのが一番じゃない』


『問題はどうやってそれをなし得るかですが、結界魔法の使い手は国の所属になりますので難しいでしょう』


 基本的に国防などを担う魔法の使い手は国に召し抱えられるのが殆どだとのことで、結界系の魔法使いがそれに当たるという。


「単純に結界を補強するだけなら、ウチの魔導器でなんとかなると思うんですけど」


『うーん、でも、勝手にそれをやってもどうなの?」


『ならば、ダンジョンでそういった魔導器が見つかったことにするのはどうだ』


 このフレアさんのアイデアは一考の余地があると、大体のメンバーが同意。

 そういった方向で考えてみることになった。


   ◆


「これがそのゴーレムか?」


「結構かわいいじゃない」


「イタチの仲間でしょうか」


鎌鼬(かまいたち)という魔獣を模して作られています」


 さて、白盾の乙女の皆さんの報告から翌日、万屋の訓練場にフレアさん達を集めて何をしているのかというと、昨日ちらっと言っていた、フレアさんに渡すゴーレムのお披露目会だ。


「鎌ということは切ることに特化したゴーレムなのか」


「はい」


 風のように駆け抜けて、一撃で敵を斬り伏せるということをコンセプトにしたゴーレムだ。


「そういえば、リアルに鎌鼬っているん?」


 ここでハテナと聞いてくるのは元春だ。


「皇宮警察にあった資料や魔女のみなさんの話を総合するに、有名な妖怪は居るみたいだよ」


「だったら、雪女とかエロガッパもいるんかな。いや、考えてみりゃ雪女みたいな精霊さんや人魚もたんだし、それくらいはいるよな」


 と、また煩悩まみれの妄想を繰り広げる元春の相手は玲さんにでも任せるとして、僕は魔法窓(ウィンドウ)からゴーレム操作の魔法アプリを開いて、人数分の仮想コントローラーを用意。


「さっそく操作してみましょうか」


 それをフレアさん達に配ると、基本的な動かし方からレクチャーから始める。


「右のレバーを上に倒すと真っすぐ進んで左右で方向転換、後ろでバックです」


「成程?」


「簡単ね」


「大雑把な移動はマップを使ってください」


 元魔王城である遺跡周辺のマップはリーヒルさんとキングさん、白盾の乙女の皆さんの協力で、既に完成しているので、行きたいところにマークすれば勝手に移動できるようになっている。


「攻撃をするにはどうしたらいいんだ?」


「左手の裏にある引き金のようなボタンを押して下さい」


使ってもいいか?」


「そうですね。いま的を用意しますので少々お待ち下さい」


「わかった」


 と、僕がエレイン君に頼んで試し斬りに使う巻藁を用意してもらうと、フレアさんが鎌鼬ゴーレムの攻撃を発動。


「ねぇ虎助、今のって――」


「フレアスラッシュの簡易版ですね。

 普段から使っている技の方が感覚的に掴みやすいだろうと、こういう攻撃方法にしてみました」


 ちなみに安全面を考えて、本物と比べるとかなり射程は短く、二メートル程度の移動に抑えられている。


「他のボタンはどうなっていますか?」


「緑色がジャンプで黄色がダッシュ、赤いボタンがちょっとした結界を使った防御で、青が周囲の探索。あと、右の引き金がロックオンになっています」


「ロックオン?」


「眼の前の敵に狙いを定めるようなものです」


 ああ、フレアさん達はゲームをやらないから、ロックオンって言ってもよくわからないよね。


「操作方法はこれくらいですね」


「本当に簡単ね」


「攻撃がスラッシュしかないのが気になるが」


「ゴーレムのサイズや燃費の問題もありますから」


 ちなみに、アヴァロン=エラなら無限に撃てるが、パキートさんのお城の周りだと、ストックできる三発分を使うと数分のチャージが必要になるので気をつけて欲しいと注意したところで、ゴーレム操作に慣れてもらうために大乱闘バトルをしてもらうと、みんなこれに嵌ってしまったみたいだ。


 まあ、ゲームみたいなことが実際に出来てしまうのだから仕方ないかもしれないが、特にマリィさんは初っ端にフレアさんにやられてしまったことで熱が入ってしまったようだ。

 鎌鼬ゴーレムの改良案などを出しつつも対戦を繰り返した結果。


「やっぱマオっちはツエーな」


「なにかコツでもあるのか」


「……ロックオンして相手の正面に立たない。攻撃は相手の攻撃を待ってからがいい」


 勇者のフレアさんが珍しく饒舌な魔王様の師事を受ける貴重なシーンがあったりして、

 その後も和気藹々と日が暮れるまで大乱闘バトルは続くのであった。


◆次回投稿は水曜日の予定です。

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