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シルビア様がやってくる?

 いつもの万屋、いつもの放課後――、

 いつものように僕が来店したマリィさんの給餌をしていると、そのマリィさんから一つ相談事をされる。

 その内容は――、


「シルビアさんが来るですか?」


「魔導書のお礼がしたいとのことですが、

 実際のところ、トワの急激な力の上昇の原因を知りたいようですの」


 目的は先日送った魔導書のお礼だというが、実際には万屋の視察が目的のようだ。


「マリィさんが構わないのなら構わないと思いますよ」


 しかし、万屋としては、しっかりマナーさえ守ってもらえれば来る者拒まずのスタンスであって、魔鏡の管理はあくまでガルダシア側の判断になる。

 だから、それをどう使うのかはマリィさん次第であって、

 ただ、迎える側としてはスケジュールなどがわかるとありがたく。


「いつ頃、来られる予定になりますか?」


「シルビアも病み上がりですし、まだ先になると思いますの」


 ここで調子のいいことを言い出すのは元春だ。


「よっしゃ、じゃあ日程が決まったら教えてくれ。学校休んででも来るから」


「あんた……」


 相手がトワさんのお姉さんということで元春としても興味があるのだろう。

 あらかじめ来るタイミングがわかっていれば、予定を合わせられるというのだが、それでもやらかすのが元春という男である。


「それで、そのシルビアさんってどんな人なの?」


「そうですわね。

 一言で表すのならアマゾネス。

 女傑という存在を体現したような女性ですの」


 ちなみに、ここで言うアマゾネスは黒海南沿岸部にいたとされる女性ばかりの古代民族のような集団というわけではなく、たぶん強い女性・戦う女性と意味で翻訳されているのだと思われる。


 しかし、そんなマリィさんの回答は元春が求めている情報ではなく。


「美人なんすか」


 元春も随分とストレートに訊ねたね。

 まあ、それだけ興味があるってことなんだろうけど。


「……例えるのなら野性味溢れる森の麗人といったところでしょうか。

 トワやスノーリズとはまた違った荒々しい美しさを持つ女性ですの」


「なんかこれ、また虎助が戦わさせられそうなフラグたってない?」


 シルビアさんの人物像を一通り聞き終え、また不吉なことを言い出すのは玲さんだ。


「いえ、シルビアが興味を持つとしたらディストピアになるのではないかと」


 ただ、幸いにもシルビアさんは根っからの狩人らしく、対人戦闘よりも魔獣との戦いに血が騒ぐお人のようで、


「でしたら、〈ティル・ナ・ノーグ〉の用意しておいた方が良さそうですか」


「そうしていただけるとありがたいですの」


 万屋にいる間はディストピアに挑戦してもらえばいいだろう。

 しかし、シルビアさんの立場を考えると、あまり長居もできないだろうから、その簡易版である〈ティル・ナ・ノーグ〉を渡す準備をしておいた方がいいんじゃないだろうか。

 それに、シルビアさんに記録媒体を渡しておけば、カイロス領近隣の魔の森に住む魔獣のデータも手に入りそうなので、たくさんの情報が入れられる大型のインベントリを用意しておくべきだ。


「しかし、そうなると盾を送ったのは失敗でしたか」


 今までの話を聞く限り、シルビアさんはあまり接近戦を好む人といった感じではなさそうなことが伺える。

 だとするなら、少し前にカイロス伯爵のものとセットで小さな盾を送ったのは失敗だったのかもしれないと、僕がマリィさんに訊ねたところ。


「シルビアは相手によって武器を変えますので問題ないと思いますの」


 どうやらシルビアさんは狩人といっても、弓などで獲物を狩る一辺倒ではないそうで、場合によっては接近戦や魔法攻撃も使うような戦い方をするみたいだ。

 故に、各種武具を集めており、今回の盾も喜んでいたようで、


「何かそのお姉さん、マリィちゃんと気が合いそうだな」


 たしかに、僕も元春と同じような印象を抱いたのだが、

 当のマリィさんは少し困った顔で――、


「時と場合によりますわね。シルビアは実用を好みますから」


 どうもシルビアさん趣味的な要素が強いマリィさんとは違い、あくまで実践的な武器を集めるような人みたいだ。


「だったら、その辺の武器でも使えそうなら買って帰ったりするんじゃね」


 と、元春が見るのは店に出してる魔剣。


「マリィさんの紹介でここに来るお客様なら、普通に武器を出してもいいと思いますけど」


 そもそもウチが武器を売らないのは絶対のルールではなく、常連のみなさん以外にも、話してみて信用のおけると判断できた何人かには武器を卸しているのだ。

 なにより、魔獣と領地防衛に重きをおいているシルビアさんになら、下手な扱いはしないだろう。


「ちなみに、シルビアさんの主武器はなんでしょう」


「狩人ですので、とうぜん弓ですわね」


「まあ、そうなりますよね」


「だったら、前にマリィちゃんとこに出した矢じりをいっぱい作るとかか?」


 と、元春が言う矢じりとは、コッペ村の子供達に作った魔法の矢じりのことだろう。


「いや、さすがに伯爵様の使いにそれはないんじゃない」


「そりゃそっか」


「それなら普通に弓を作るし、弓なら浄化機能も乗せられそうだし」


「浄化機能ってどういうこと?」


 ここで首を撚るのは玲さんだ。


「神事とかで弓を鳴らすのを見たことがありませんか?」


 お弓神事などという言葉を聞いたことがないだろうか。

 要約すると、弓の弦を鳴らして邪気を祓うといった類の儀式なのだが、その概念を利用すれば、全開送った魔導書も合わせて、領地の防衛に役立てられるのではと考えたのだ。


 すると、そんな儀式的な側面のある弓にマリィさんが食らいつく。


「それは興味がありますの」


 そして、試しにでもいいので、そうした弓が作れないかと訊ねられたので、僕は軽くソニアに相談しつつも既存のデザインと魔法式を引用し、即興ではあるものの浄化の魔法弓をデザイン。

 エレイン君にその仕様書に沿って弓を作ってもらうように依頼すると、三十分も待たずに完成品がお店に届き、工房側の訓練場に移動。


「我々の世界にはない造形ですわね」


「世界樹の弓とかゼッテーつえーじゃん」


 ちなみに、試作品に世界樹の枝を使うのはちょっと贅沢なような気もするが、形式上神事の使う弓ということでちょっとこだわってみた。

 ただ、世界樹を使っているのはリムの部分のみで、本体は魔法式を刻んだミスリルで作られている為、使った素材はかなり少なくなっている筈だ。

 そして、マリィさんが仰る形については、この弓がシンプルながらにコンポジットボウという弓の種類に当てはまるからだ。

 神事に使う弓としては異色の形をしているかもしれないが、魔法的な機能を組み込む上では重要なので、あえてこうさせてもらった。


 ということで、まずは肝心な儀式魔法の性能チェックからいくとしよう。

 僕が指先に魔力を灯して蔓を鳴らすとカラフルな光粒を帯びた清浄な波紋が周囲に広がり。


「透き通った音色ですわね」


「……精霊の力を感じる」


 ちなみに、弦のベースはアラクネの皆さんが納品してくれた糸で、

 そこに先日、三好さんと魔女のみなさんへの聖水作りのレクチャーの時にも使った精霊金を、ほんの少量、錬成してみたのだが、これが思った以上の効果を発揮したみたいだ。

 弓から放たれた波紋は魔王様のお墨付きがいただけるくらいに浄化の力を持っているようで。


「それで弓としての威力の方ですが――」


「待って下さい。いま試射してみます」


 僕がエレイン君が用意してくれた的を前に弓を持って立つと、それを見た玲さんが、


「虎助、あんた弓も使えるの?」


「母さんにいろいろやらされましたから」


 普段使っているナイフはもちろんのこと、弓しかり、銃しかり、場所を問わなければ手に入る武器の使い方は一通りおぼえさせられている。

 なんだったら、元春だって国内で手に入るようなものならば、ある程度は使えるだろう。


 ということで、エレイン君が用意してくれた的を用意して射ってみると、その的を軽く貫通して背後に用意した魔法の土壁に突き刺さり。


「かなりエグい威力じゃね」


 うん、僕自身、弓のデザインなんてしたことがなかったから、少し心配していたのだが、さすがはエレイン君、しっかりといい弓に仕上げてくれたみたいだ。


「じゃあ、次、本番ね」


「いまのが本番じゃなかったの」


「今のはただ撃っただけですから」


 そう、いまの一射はただ撃っただけ。

 次は弓の本体に刻まれた〈標的指定(ロックオン)〉やら〈追風(フォローウィンドウ)〉、更には先ほど使った精霊金の力を引き出して撃ってみようと、弓本体に魔力をチャージしながら弓を引き絞り――解き放てば、矢は光の尾を引いて的を貫通し、背後の土壁に突き刺さると光が周囲に拡散。


「派手だな」


「弓もありですか」


 その後、この一射を見て、弓の新しい可能性を感じたマリィさんが、テンション高めでシルビアさんに送る弓のデザインを始めたことは言うまでもないだろう。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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>いつものように僕が来店したマリィさんの給餌をしていると、そのマリィさんから一つ相談事をされる。 黙って誤字報告するところが…さすがに場面想像して吹き出してしまいました マリィさんが口開けて虎助が食べ…
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