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●輝虎の特訓

 とある週末の昼下がり。

 皇宮警察の若き幹部である三好輝虎は万屋の和室にて、この店の店主の間宮虎助と褐色肌のエルフの少女・マオと一緒に昼食を食べていると、そこに坊主頭の少年・松平元春が小柄な光魔法の使い手・安室玲を連れてやってきて。


「お、今日の昼飯はまた豪華なカレーだな」


 ドカンと骨付き肉が乗った皿の中を物欲しそうに覗き込むその姿に、虎助がすかさず同じカレーを二人分用意する。

 と、元春と玲は目の前に配膳された皿をキラキラした目で見下ろし。


「このラムチョップって狩った羊で作ったの? おっきいじゃない」


「ん、こんなもんじゃないっすか」


 玲の驚きに応えたのはカレーを用意した虎助ではなく元春だった。


「違うから、ラムチョップって普通子羊のお肉だから、もっと小さいんだって」


「さっすがいいとこのお嬢さん。そういうのも普通に食ってんすね」


 元春と玲の二人はそんなやり取りをしながらも、まずはこれを食べるべきだろうとカレーの上にデンと乗った骨付きの羊肉に齧り付く。


「柔らかっ!! それに思ったよりも癖がない?」


「そうなんですか、羊はあまり食べたことがないのでわからなくて」


「それな」


 虎助と元春は幼い頃から、イズナ主催のブートキャンプなどでジビエ肉を散々食べてきている。

 しかし、日本に野生の羊は存在していない為、羊の肉を口にした経験がほとんど無く、味のイメージがなかったのだ。

 そんな羊肉をメインとしたカレーを食べながら、元春が何気なく声をかけたのが輝虎だった。


「そういや輝虎っちは学校とかいいん?」


 自分達が学校にいっている平日の午前中、同世代である輝虎が魔女などと一緒にディストピアに潜っている。

 そのことが気になったのだろう。


「自分の通っている学校が神社系の学校で仕事があるから公休が取りやすいのだ」


 ちなみに、輝虎のこのぶっきら棒にも聞こえるこの口調は、別に馴れ馴れしい元春に対して思うところがあるわけではなく、単に素の喋り方で、

 虎助には修行を受ける側として丁寧な言葉を使っていたが、同世代の元春に『いつもの感じで喋ってもいいっすよ』と言われていたので、こうして対応しているのである。


「私立陰陽学院的な?」


「そう、各地から係累の子供が集められる」


「マジか、学園編待ったなしだな」


 興奮気味な元春の戯言に困ったような顔をする輝虎。

 しかし、元春はそんな輝虎の反応に気づいていないのか、続けて、


「魔法とかの授業もあるんすか?」


「さすがに一般人に術を教えるなどといったことはない。危険だから」


「はー、そう考えると、元春が魔法を使えるのっていいのってなるんだけど」


 話の流れから玲はそう言うと、まず虎助を見て、その後に元春の方についっと視線をスライド。

 すると、これに元春が行儀悪くもスプーンを軽く横に振りながら。


「師匠が怖いっすから、変なことには使わないっすよ」


 ここで元春が言う師匠というのは、もちろんイズナのことである。

 そして、続く変なことに使わないというコメントに関しては、虎助の反応が微妙であるのだが、輝虎はそんな元春達のやり取りを話半分に聞きながらも食事を済ませて、しばらく食休み。

 虎助の後片付けを待って一緒に万屋を出ると、工房外壁の東側に集まる戦闘系の魔女と合流して、準備運動代わりに、半径十メートルの結界内に入り、周囲から迫りくる魔獣などの映像を迎撃しながら魔法を使うというゲームにチャレンジをするのだが、これがなかなかに難しく。


「レベルが一桁上がって、四方から攻めてくるところが難所ですね」


「自分は魔力の最大値が低いので、各個撃破ではなく全体を一掃できるような攻撃を編み出す必要がありそうです」


「そうですね。なにかいい魔法がないか調べておきましょうか」


 交代でゲームに挑みながら虎助のアドバイスなどを受けていると、ここで訓練に参加していた北欧・ロシアに住まう魔女達のまとめ役であるリュドミラがその虎助に声をかける。


「そういえば虎助殿、ヨーロッパの魔女に追尾系の魔法を作ったと聞きましたが」


「〈泡魚〉のことですね」


 それは少し前までアヴァロン=エラに滞在していたヨーロッパから来た魔女に頼まれて、対セイレーン用の魔法の一つとして虎助が用意した魔法。

 現在自作の魔法銃を作ろうとしているリュドミラは、どこからその情報を仕入れたのか、ホーミング性能の高い泡魚に興味をもっているようで、

 虎助が以前に実験した内容の結果を解説。

 ヨーロッパの方でセイレーンの討伐が行われているようだから、そちらから情報をもらってはどうかと話していると、今度は輝虎の方が、


「しかしセイレーンですか――、

 アメリカの妙な連中が人魚などの痕跡を探しているという話を聞きましたが」


 輝虎が口にしたそれは、恐らくハイエストに関連する情報だろう。


「皇宮警察の方にもその話はいってるんですね」


「寺社が所有する人魚のミイラには本物もありますから、注意警戒をしています」


「成程――」


 と、虎助が続けて何かを言おうとしたところ、他に訓練をしていた魔女達も集まってきたのを見て――、


「みんな一巡しましたか、では続けて組手をして――」


 コホンと咳払いを一つ、次のメニューに移ろうとしたところで、同じく何かを言おうとしていた輝虎が頭を振って控えめな声で「あの、よろしければ手合わせの方、お願いできますか」と対戦の名乗りを上げれば、リュドミラがそれに続き。

 結局、その後、虎助は輝虎や魔女達を相手にめちゃくちゃ組手をすることになるのだった。


   ◆


 魔素灯の下、剣を振るう輝虎。


 輝虎はこのアヴァロン=エラにやって来て、自分が――、

 いや、自分達がいかに思い上がっていたのかを思い知らされた。

 同胞が起こした問題への報復に、その後の暴走した鬼子母神の処理。

 そして、組織の立て直しにとここへとやってきて知った間宮虎助という同年代の怪物。

 この話を提案された当初、またくだらないマウント合戦からの嫌がらせか、都合のいい生贄かなにかと疑っていたのだが、いまはこの状況に感謝していた。

 そう、このアヴァロン=エラには術への適性を理由に不遇な扱いを受けていた自分達に必要な技術があったのだ。

 下に見られていた自派閥が一歩抜け出す好気。

 しかし、それを確実なものにするにはまず自分が強くなるのが重要だと、輝虎が一人修練に励んでいると、不意に背後から声がかかる。


「独特であるが悪くない剣筋だ」


 突然の声に素早く振り返る輝虎。

 しかし、そこには誰の姿もなく、ただ店内で見かけた黄金の剣が地面に突き刺さっているだけだった。

 これは一体どういう状況なのか、輝虎がいつでも動けるように身構えながら周囲を見回すと、まさに目の前から声が飛んでくる。


「挨拶がまだだったな。

 我が名はエクスカリバー。光の聖剣の一本だ」


 その声は、ふわりと目の前に飛んできた黄金の刀身から発せられていた。

 これに輝虎はまさか妖魔の類かと警戒心を強めるも、ここでまた別方向から声がかけられる。


「もう、エクスカリバーさん。三好さんを驚かせちゃダメじゃないですか」


 聞こえてきた声に顔を振れば、そこにいたのは虎助だった。


 いつからそこに?

 そんな心臓に悪い登場に軽い謝罪をしながらも、虎助は改めて(・・・)喋る聖剣・エクスカリバーを安全な存在として輝虎に紹介する。


「それでエクスカリバーさんはどうしてここに?」


 普段、エクスカリバーが万屋の土間から動くことは殆どない。

 それが珍しく出歩いている理由を訊ねる虎助に対し、エクスカリバーの主張は以下のようなものだった。


「その娘の魂が盟友の使い手に似ていたので、つい気になってな」


「エクスカリバーさんの盟友というと――、闇の聖剣のカルンウェナンさんですか?」


「うむ」


 話半分もわからない輝虎を置いて二人の会話は続く。


「おそらく、この娘は闇の巫女の家系なのだろう」


 このエクスカリバーの発言には輝虎にも心当たりが全くない訳ではなかった。

 なぜなら、皇宮警察はその関係者がほぼ神社関係者で占められているからだ。

 ここでいう巫女という存在がどのようなものを指し示すのかはわからないが、実家のことを考えれば輝虎も一応にはなるものの、そのカテゴリに入らなくはなかった。


「そうだな。折角だから少しおせっかいを焼かせてもらおうか」


 そして、そんな輝虎の反応を良しとしてか、エクスカリバーがそう呟くと、輝虎の手元の虎徹に闇色の燐光が集まり出して――、


   ◆


 翌日、夕方になって続々と集まってきた常連客の中心にいたのは、もちろん輝虎だった。


「そんなパワーアップイベントがあったんかよ。見逃したぜ」


「たしかに、あんたが悔しがるのはわかるかも」


「ありゃ、玲っちも見逃したん?」


「エクスカリバーさんの気まぐれだったみたいだから」


 そう、輝虎が――正確には虎徹が――エクスカリバーに力を分けてもらった時、玲はすでに自室に下がったあとの事、要するにイベントを見逃したのだ。

 と、そんな二人の一方で――、


「お見せていただいても?」


 ぐいぐいと前のめりになって輝虎に話しかけるのは、昨日仕事で不在だったマリィである。

 輝虎は、その自分にはない西洋彫刻のような美貌とダイナマイトボディを併せ持つ、マリィの押しに困惑するような顔を浮かべながらも、エクスカリバーに視線を送れば、マリィの顔の横に『隠すこともないだろう』とのメッセージが浮かび上がり、エクスカリバーがいいと言うならと、輝虎はエクスカリバーの加護を受けた虎徹を抜き放ち、そこに魔力を込め始める。


 すると、じんわりと刀身に黒い光の粒が集まり出して、虎徹の銀の刀身が黒く染め上げてゆき。


「おお、これもうアレだろ」


「○解でしょ」


「……ん、元気な精霊」


「この刀は聖剣になりましたの?」


『いや、いまのところは精霊を集めるだけのただの剣だ。

 しかし、何十年と使い続ければものになるやもしれん』


 三者三様の称賛の声が上がる中、真剣な眼差しのマリィが零した質問に答えたのはエクスカリバーだ。


「そういう風に出来る聖剣もあるんですね」


『我にとってはそちらの方が一般的という認識なのだが』


 真偽の程は確かではないが、万屋が集めた情報の中にはそういったものも含まれており。


「この闇のオーラみてーなのには何か効果とかあるんすか」


『今のところ相手の気を削ぐくらいのものでしかないな』


「闇の飛斬とおんなじ感じなんすね」


 そう、精霊をまとわせることによる虎徹の変化は、あくまで闇属性の可能性を伸ばしているに過ぎず。


『これから、その刀がどうなっていくのかは使い手である娘次第だ』

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