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●フロートリザードと潮涸球

 場所はロベルトの研究所から南西に二百キロほど離れた大きな半島の先――、

 三日月のような湾の突端にある崖の上からナタリアとホリルは入江を覗き込んでいた。


「あれがフロートリザード?」


「意外と近場にいたのね」


 彼女達のお目当ては湾内で日向ぼっこをする下位竜種の群れ。

 潮涸球の素材の一つである海綿体を手に入れるべく、魔法の箒を飛ばしてここまでやって来たのだ。


「確実に素材を確保したいので、まずは遠距離からの狙撃からですね」


 そう言って、マジックバッグの中からライフルを取り出すのは女性型アンドロイド(ガイノロイド)のプルである。

 一方、ホリルとナタリアの二人は、プルが持つライフルのスコープから見た景色を映す魔法窓(ウィンドウ)を覗き込み。


「十、十五、二十……、

 なかなか大きな群れみたいね」


「中央の一際大きな個体がボス?」


「おそらくは――」


 それは群れの中央、大きな岩の上に寝そべる全長にして十メートルを超えるだろう大型の下位竜種だった。


「襟巻きがあるヤツと無いヤツがいるけど、どういう違いなの?」


「襟巻きがある個体がオスで無い個体がメス」


「ふーん、メスは倒さない方がいい感じ?」


「どれくらいの個体数がいるかわからないから、今回は見逃した方がいいのかも」


「では、お二人とも準備をお願いします」


 と、狙いの獲物を吟味していく中、プルからかけられた声にナタリアがマジックバッグの中から取り出すのは変わった形の杖だった。


「新しい杖?」


「そう、エレインに手伝ってもらいながら自分で作ったんだ」


 自慢気に新しい杖を見せびらかすナタリアにホリルは「まったく」と腰に手を当て苦笑。


「じゃあ、私は上で待機してるから」


「露払いが終わったら突撃?」


 ナタリアの確認にホリルは『その通りだ』と言わんばかりに笑顔を返し、空歩を使って岩の上で湾内でくつろぐフロートリザード達の頭上に移動して、手を振って崖上に残った二人に配置についたことを知らせると、少し間があって、プルとナタリアが攻撃を始める。


 まずナタリアが爬虫類に特に効果が高いとされる氷雪系の魔弾で足止めをし、プルが電撃由来の麻痺の魔弾で、六匹ほどの雄を行動不能に追い込み、ここでホリルがボスらしき個体の頭の上に落下。

 その頭蓋骨を粉砕すると――、


「意外と柔いじゃない」


緑の怪物(グリーンモンスター)は健在だ」


 奇襲の役目を終えたナタリアが風のマントを纏って狩り場に舞い降り、周囲に吹雪を撒き散らす。

 そうして残った雄の足止めを行ったところ。


「海の中に潜んでたか」


 狙いすましたかのようなタイミングで海中から襲いかかってきたフロートリザードを〈氷筍(アイスゲイザー)〉で迎撃。

 顎下から脳を貫いて――、


「この魔獣は本当に柔らかいわね。下位竜種なのに」


「下位竜種といっても海の生物だからじゃない」


 これは種類にもよるところもあるのだが、このフロートリザードの場合、水中での機動力に特化した結果、体表面を覆う鱗が襟巻きや粘液などに変化して、ホリルやナタリアの攻撃に軽く粉砕されるレベルになってしまっているようだ。


「残りはどうする?」


「マジックバッグにも入り切らないし、追いかける必要はないでしょ」


「仕方がないか」


 そうして十匹近くのフロートリザードの雄を仕留めたホリル達は、マジックバッグの容量から、去る者は追わずの姿勢で海中へと逃げ込もうとしているフロートリザードを見送って、


「解体は戻ってからでいい?」


「そうね。解体はエレインに頼んだ方が綺麗にやってくれるだろうしね」


 合流したプルと共にナタリアが凍る直前まで冷やしたフロートリザードを回収すると、万屋でレンタルしてきた魔法の箒で研究所に即帰還。

 その足で万屋に転移。

 エレインに頼んで解体を済ませて研究所にとんぼ返りすると、ロベルトを中心に今回の目的となる潮涸球を作っていくことになるのだが。


「簡単に出来ちゃったわね」


「工程は海綿体を魔岩塩をベースにした魔法薬に浸潤させて、カラッカラになるまで水分だけを釜で抜くだけだからな」


 潮涸球のレシピはそれほど難しいものではなく、材料さえ揃ってしまえば案外すんなり完成してしまうものだった。

 ただ問題なのは、これが街喰いと仮称した衛星画像で見たナメクジ型の巨獣にどれくらい効果があるかであるが。


「あれだけの巨体だから百は用意した方がいいか」


「それって持ったら干からびちゃったりしないの?」


「持つくらいで体の水分を吸い取られるアイテムなんて使えないだろ」


「このアイテムは一定量の水分に数秒触れた時点で効果を発揮するみたい」


「たしかに、際限なく水分を吸ってたら、すぐに駄目になっちゃうか」


 ロベルトとナタリアが交互にした説明にホリルが納得したところで、潮涸球の性能実験をしていくことに。


「とりあえず開いてる培養カプセルに水を入れて試してみるか、あれなら三トン(三千リットル)は入るからな」


 世界樹などの研究用に再稼働したカプセルが並ぶ区画に移動して、使っていないカプセルの中に水を注ぎ、潮涸球を沈めると、静かにではあるがしっかりと水が減っていき、ものの数十秒でカプセルの中が空っぽになって。


「普通に吸い尽くしたな」


「まだ使えそう?」


「見た感じ、まだいけそうだが……、

 試してみよう」


 その後、カプセルに水を溜めては潮涸球に吸わせてを繰り返し。


「十本でも余裕とか凄くない」


「さすがに海を涸らすという売り文句がついたアイテムだ」


「十個以上作れたからあのナメクジも倒せそう?」


「やってみんとわからんし、あくまでもしもの時の為だからな」


 そもそも打ち上げた衛生からの画像で見つけた街喰いの居る場所を考えた場合、わざわざ現地に足を運んでまで退治するなんてことは、あまり現実的とはいえないのだ。


「そういえばこれってもう使えないの?」


「乾かせばまた使えるようになるらしいぞ」


 ベースはあくまで下位竜種の海綿体であるが、重要なのはそれに染み込ませた魔法薬で、その薬剤の劣化によって吸い取れる量は少なくなるとのことだが、その効果が続く限りは乾かして何度も使えるようになっているようだ。


「でも、乾燥ってこの性能を考えると逆に湿気を吸っちゃうようなイメージなんだけど」


「錬金釜で水だけを取り出してもいいが、そんな面倒なことをしなくても、

 日中、日の当たる屋外に放置しておけばいいらしい」


「ふーん、

 ま、とにかくやってみるしかないわね」

◆ナタリアの口調がなかなか定まりません。

 個人的には二つ名(北限の魔女姫)を気にして、ややぶっきら棒に聞こえる語り口調になっているお姉さんというイメージなんですが……。

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