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カオスコアと監視体制

「結論から言いますと、これはゴーレムコアの一種みたいです」


「ということは、あの黒いキメラはゴーレムだったのですか?」


「いえ、あくまで核がゴーレムのものだっただけで、肉体が生物ベースとなるとキメラとも言えなくもないらしいんですけど……」


 夕方の時間帯、カウンターの前でトワさんと何を話しているのかと言えば、

 先日、ガルダシア城のメイド長・トワさんのご実家であるカイロス領に現れた黒いキメラ。

 そのキメラを倒した現場で見つかったという魔石の分析結果だ。


 ちなみに、この件とはまったく関係のない話だが、今日この場に元春の姿はない。

 トワさんが来店して隠れているのではなく、単純に今日は部活でまだ学校にいるというだけだ。


 さて、そんな毎度の如くタイミングの悪い元春のことはどうでもいいとして、いまトワさんにした説明の補足であるが、ソニアが言うには、特にこのキメラとゴーレムの線引きは難しいらしく、キメラの中にはゲームよろしく、半分機械化したような種類もいるようで、根本的な設計がどうあれ、見た目がキメラっぽかったら、全部キメラでいいんじゃないかとのことである。


「では、あの瘴気のようなものはなんだったのでしょう?」


「それなんですけど、どうもその黒いキメラの形成に、呪われたアイテムや一部アンデッド化した素材が使われていたようでして――」


「それであの邪悪さですか」


 まあ、呪いのアイテムはともかくとして、一部のアンデッド化した素材が、元からそうだったのか、それともキメラを構成するのに使われた呪われたアイテムの影響からなのかは、現物がコアしか残っていない以上、ソニアでも判別が難しいということであるのだが。


「とりあえず、ウチで調べた内容はこちらにまとめてありますので、後はどなたか【錬金術師】の方に、この壊れたコアを見てもらえばいいそうです」


「ふむ、これを誰かに見せるですか、

 たしかに、国への報告の必要はありますし、問題は誰に渡すかですか」


 難しい顔をするトワさん。

 おそらくトワさんは、このコアを使って、また変なゴーレムが作り出されるのではないかということを心配をしているのだろう。

 だが――、


「このコアを使ってまた同じようなキメラが作られる心配はあまりならないかと、

 オーナーが言うには元の設計から改造に改造を重ねた所為で、コアに刻まれた魔法式(内部プログラム)がかなり混沌とした状態になっているそうで、悪い見本としては秀逸なものみたいですよ」


 だからこそ、細かな分析を他に投げたのである。


「成程、そういうことでしたらゾシモフ殿に渡しても問題なさそうですね」


 ちなみに、いまトワさんが口にしたゾシモフという人物は、

 以前、ルデロック王と一緒になってガルダシア領に攻め入った【錬金術師】で、マリィさんと同じく【ウルデガルダの五指】に数えられている一人である。


 さて、あらかたの説明を終えたところでトワさんにコアを返し、僕がカウンターに積み上げたのは百科事典かくやといわんばかりの分厚い本。


「次にご注文の魔導書ですが、それっぽいものを作ってもらいました」


「ありがとうございます」


 これは、トワさんからというよりもカイロス伯爵から依頼された魔法練習用の魔導書一式だ。

 注文主がカイロス伯爵ということでメモリーカードで渡すことも検討したのだが、カイロス領は魔の森などを挟んで幾つか隣国と接しており、今回のような他国による侵攻の危険があって、兵の大幅な強化が見込めつつ、持ち運びが便利なマジックアイテムを置いておくのは危険だと、そんな指摘をトワさんやスノーリズさんから受けて、こういう形で売り出すことになったのだ。


 ちなみに、この魔導書に記載される魔法式も、略奪などの考慮から、マリィさんの世界に合わせた魔法陣に見せかけて、その中に万屋方式の魔法式を組み込むという形式になっており。

 さらに装丁や使う紙やインクを特殊なものにすることによって、見た目だけを再現しただけでは、その効果までもは複製することが出来ないという仕様となっている。


「とりあえず五冊ほど作ってみましたのでお持ちください」


「承りました」


 ちなみに、この魔導書には浄化の魔法以外にも、灯火や給水、追風や一点強化の魔法等々と、ポッケ村でも使い勝手がいいと評判の魔法が二十種類ほどが記載されていて、トワさんも「この出来ならば辺境伯様も(・・・・・)張り切って王との話し合いに臨んでくださるでしょう」と、迫力ある微笑みを浮かべていた。


「それで最後にこれなんですが」


「盾、ですか?」


「ご注文にあった浄化装備です。

 伯爵は珍しい盾を使っていると聞きましたので」


 それはミスリルベースの大小二枚の盾だった。


「しかし、この大きい方は浄化の力を発する盾にしては、少々禍々しい見た目をしていますが」


「そちらは伯爵のものですね。

 聞けば、カイロス伯爵は例のワイバーンボーンメイルを愛用してくださっているとのことでしたので、それに合わせてみたんですけど」


「成程、そういうことでしたか。

 たしかにあの鎧を身につけた伯爵が持つなら、こちらの盾の方がいいのかもしれません」


 要は全体的なコーディネートを考えた訳だ。


「それで、機能の方は浄化以外に登録したキーワードを口にすれば、手元に呼び寄せられるようになっていまして――」


 ちなみに、この召喚機能はレーヴァの鱗を使った実験の副産物である。


「転移機能ですか?」


「盾に溜められる魔力の関係上、そこまで遠くからの召喚は出来ませんが、便利かと思いまして」


 実際、この機能は使用済みの実験サンプルを流用したもののようで、ここはサラッと目先の話題を変え。


「それでフォルダニアでしたか、その黒いキメラを送り込んできた国への対処はどうなるんですか?」


「カイロス領から使者を送って謝罪と賠償を求めるくらい対応に落ち着きそうです。

 国はいま国外に構ってられるような状況ではありませんので」


 実際、ルデロック王は王位を得てまだそれほど時間が経っておらず。

 加えて、先のガルダシア領とカイロス領とを繋げたトンネルの開通前後にあったいざこざで、少なくない数の貴族家がお取り潰しになったフォローが出来ていない現状、面倒な他国との交渉にかまけている余裕が国にはないのだという。


 なにより相手側の国にも被害が出ているとなると、交渉が長引くおそれもあるということで、王国としてはカイロス伯爵にその処理を押し付けたいとの思惑があるようだ。


 と、そんな会話の流れから、ふと思った疑問がある。


「そういえば、今回トワさん達が戦った個体以外のキメラは出ていないんですか?

 相手側の国にも被害が出ているということはもしかして――」


「現地での情報から、同時期に何体かのそれらしき魔獣が被害があった地域で討伐されたとのことです」


 考えても見ればキメラを一体だけ作っていたということはないだろう。

 という僕の疑問にトワさんが教えてくれたのは予想通りの情報だ。

 それによると、力尽きたか、自爆してしまったか、それとも本当に倒されたのか。

 なんにしても、今回の騒動で暴れたキメラは表向き、すべて倒されたことになっているようで。


「まだ残っているのかが気になりますね」


「そちらは伯爵も気にかけているようで、フォルダニアにいる妹達を動かすようです」


 妹達というのはそのままトワさんの妹さんになるのかな?

 どうやらカイロス伯爵の娘さんは敵国にも食い込んでいるみたいだ。


「我々も他人事ではありませんので我々も調査の手を出したいと思うのですが、さすがに人を送るわけにもいかず、ネズレムかプテラを送り込もうとは考えているのですが――」


「遠隔での操作となりますと魔力消費に問題がありますから、リスレムでも作りましょうか?」


「フォルダニアの土地柄、リスレムを動かすのは少し難しいかと」


  聞けば、フォルダニアは木々が少ない土地のようで、そんな場所にリスレムを送り込んでは逆に目立ってしまうという。


「そうですか――、

 フォルダニアにリスレムみたいに何か尻尾が長い動物が居ればいいんですけど……」


 これは尻尾に限らずのことであるが、魔力を溜めておけるように魔法金属を仕込むことができるような体の特徴を持つ動物が居れば長時間活動できるゴーレムがでっち上げると、そんな僕の呟きにトワさんが教えてくれたのは――、


「そうですね。そういう動物でしたらストローフィンチという鳥がよろしいかと」


「えと――」


 ストローフィンチというのはどんな鳥だろうとインターネットで調べてみると、ストローフィンチはその世界特有の鳥なのか、同じ種類の鳥は見つけられなかったが、どうやらフィンチというのは文鳥やカナリアと同じ仲間を指すもののようで、

 トワさんにフィンチ類と呼ばれる鳥の中で比較的しっぽが長いオナガという鳥を見てもらったところ、そのストローフィンチという鳥はオナガの尻尾に長い麦わらをまとわせたような鳥であることが判明し。


「成程、たしかにそういう体の構造でしたらバッテリー代わりの魔法金属が仕込めますね。

 後で試作品を作ってもらいます」


「お願いします」


 ということで、ストローフィンチを模したゴーレムの試作品を作ってみることが決まり。


「中継機はどうしましょう」


「通信範囲に国土は収まってはおりますが」


 魔の森に設置している中継機は半径百キロをフォローする中継機だ。

 実際の地図に中継機の通信県内を重ねてみると、ギリギリでフォルダニアの国土を覆っているようであるが。


「折角なのでゴーレムでも運べるものを用意しておきますか」


「そうですね。お願いします」


 念話通信などの通信網の拡大は直ぐにどうこうするものでもないのだが、カイロス伯爵が人を動かすのなら、広げられる時に広げておこうと最新型の中継機を追加注文。

 後は探索ゴーレムが完成した後でということで、トワさんは魔導書と盾を持ってお店を後にするのだった。


   ◆


 そんなこんなでトワさんが帰った後――、

和室でのんびり魔王様がするゲームを眺めていた玲さんが、向かいに座るマリィさんにこう訊ねる。


「マリィは黙ってたけど、なにか言わなくてよかったの?」


「おじ様が主導して動いていますので、(わたしが)が口出しすることではありませんの。

 そもそも、この件は他領他国の問題になりますから」


「そういえば、マリィの領って独立してるんだっけ?」


「はい、ですのでトワが伯爵の娘として手を回しているということですわね」


 察するに、ことが国同士の問題だけに、痛くない腹を探られないように、カイロス伯爵の娘であるトワさんに自主的に動いてもらった方が無難という訳か。


「だけど、キメラとゴーレムの融合とかって、なんかいかにも禁忌の研究って感じでヤバそうじゃない」


「それに関しては、どこまでを素材とするかの線引なんですけど、例えばボーンゴーレムなんかはそのカテゴリに入りますし、自動人形(オートマタ)なんかは動力に魔獣の腱を使いますから、玲さんが想像しているほど危険な研究でもないと思いますよ」


 実際、賢者様なんかはホムンクルスを作っちゃったんだし。

 まあ、そのおかげで宗教関係者に目をつけられてしまったということもあるけど。


「そのわりには、見た目がかなりいっちゃってるみたいだったけど」


「使われていた素材が素材ですからね」


 何をどうしてそういう結論に至ってしまったのかは、コアを分析したソニアにもわからないというが、黒いキメラの形成には、幾つか呪われたアイテムが使われているようで、それが玲さんの指摘する見た目、そしてトワさんのお姉さんが特に被害を被ったといわれる瘴気の発生、なによりその現況であるキメラの暴走に繋がったみたいなのだ。


「そういえば、あのコアを使ってディストピアなどは作れませんの?」


「トワさんにも説明しましたけど、コアの中身がかなりぐちゃぐちゃな状態だったそうですから、それそのものでは無理だったみたいですね。

 ただ、アビーさんとサイネリアさんが前に作った魔導書のような外付けのなにかなら可能性はあるみたいです」


「骨のキメラと戦えるといったものでしょうか?」


「さて、どんな内容になるのかは作ってみなければわからないんじゃないかと」


 これに関しては、あくまで可能性の話になるので、僕がどうこう断言できる話ではないのだ。


「それじゃあ、あのコアはあんま価値がないのかあ」


「いえ、さすがに国の研究機関(?)が使っているものなので、中身はともかく、コアの品質は悪くなかったみたいですよ」


「初期化してやればまだ使えるってこと?」


「手間をかけるだけの価値はあるかと」


「そういうことならば、ディストピアの件も含め、買い取りを検討する余地がありそうですわね」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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