踊る妖精
その日、学校帰りの僕と元春がアヴァロン=エラの大地に降り立つと、ゲートの直ぐ側で踊り狂うちびっこ集団がいた。
「あれ、なんなん?」
「なにかの妖精みたいだね。
邪魔になるといけないから少し回り道をしようか」
「ほっといていいのかよ」
「特に害もないみたいだし、相手は妖精みたいだから」
初見のマールさんという例もあるが、そもそも何か危険があるなら、転移したところでカリアなりエレイン君なりが警告してくれる筈だ。
それがないということは特に問題はないのだろうと、転移からすぐ手元に送られてきたデータからそう判断したところで道端に逸れ、お店に向かおうとしたところ、真顔の元春が聞いてくる。
「虎助、なにやってんだ」
「何をって踊ってるみたい」
そう、気がつけば僕もちびっこ妖精達の踊りの輪の中に加わっていたのだ。
「害あんじゃん」
「そうだね」
さて、どうしてこんなことになったのかというと、どうもこの妖精達の踊りは、周囲を巻き込む儀式的な効果があるようで、予めこれについての警告がなかったのは、カリアやエレイン君が万屋製のゴーレムで、体に精霊を内蔵していることで、その影響をまったく受けていなかったからというのが原因のようである。
「元春も、それ以上近付いたら巻き込まれるから、気をつけて」
「ん、ああ、真面目なこといってんだろうなって思うんだけどよ」
僕もそっちの立場だったらそう思ってただろうけど、踊りに巻き込まれたこちらとしてはいたって真面目に注意しているのだ。
「で、どうするん?」
「とりあえず、お店にいる魔王様達や魔女のみなさんには通信を使って近づかないように伝えて、踊りながら離れればって思ってるんだけど」
踊りながらでもある程度は動けるのだ。
だから、魔法窓を操作しつつ、踊りの輪から抜けてしまえば――と考えたのだが、
しかし、回り込まれてしまった。
そして、手を取られ、妖精達の輪の中に誘い込まれてしまってはもうどうしようもなく。
「なんで元春まで巻き込まれてるのさ」
「いや、急にわーって来られたら、逃げられるもんも逃げられんだろ。
こいつら見た目こんなだし」
たしかに、これは元春の言う通りである。
なにしろ、僕の踊っている妖精達はみんな保育園くらいの子供にしか見えないのだ。
そんな小さな妖精達に囲まれてしまっては、さすがの元春も振り払って逃げるのは気が引けたようで、大人しく踊りの輪に加わってしまったというのがこの状況みたいだ。
「こうなったら、アクアとオニキスに説得をお願いするしかないかな」
「俺もライカ達を出すぜ」
僕と元春は踊りながらもスクナカードに魔力を流し、アクア、オニキス、ライカ、フーカ、ヒメカの五人を召喚する。
そして、それぞれのスクナがバラバラになって、踊る小さな妖精の説得を始めたタイミングでゲートに光の柱が立ち上る。
転移してきたのはマリィさんだったみたいだ。
マリィさんは転移と同時に手元にポップアップした魔法窓を気にはしつつも、ゲートに降り立ってすぐに僕と元春が小さな妖精に囲まれ、わちゃわちゃしているこの状況に気づいたようで、ボリューミーな金髪をわっさわっさと揺らして、駆けつけようとして――、
「なにをやっていますの」
「マリィさん。逃げて――」
「マリィちゃん。助けてくれ」
僕が注意を入れようとしたところに元春がインターセプト。
あえなくマリィさんも踊りの輪に取り込まれてしまい。
「これは――」
「うひょー、良い眺めじゃねーか」
「元春、騙しましたのね」
この状況を画策した元春に突っかかっていこうとするのだが、そんなマリィさんも小さな妖精に楽しく踊ろうとばかりに見上げられては抵抗することなど出来ず、元春を睨みつけるしかできないみたいだ。
「貴方という人は――」
ちなみに、アクア達の説得についてはあまり効果がないようで、
一生懸命、話しかけてくれているようだが、この妖精達が幼過ぎるのか、うまく言うことを聞かせられないみたいだ。
「えへへ、ブルンブルン最高」
そして、元春はいつも通り、役に立たないと――、
さて、こうなってしまうと、僕になにが出来るのか。
踊りながらも対策を考え、一つ思いついたのは、このアヴァロン=エラの特徴を生かしたものだった。
「マリィさん、このままゲートに向かいましょう。転移すればそれぞれ元の世界に戻れる筈です」
「成程、了解ですの」
ゲートの転移はそれぞれの場所に紐付けられている。
だとするなら、一度元の世界に戻ってこの状態をリセットしてしまえばいいと、使い物にならない約一名を無視してダンスをしながらの移動を始めるのだが。
「おっと、そうはさせねーぜ」
だろうと思ったよ。
ゆっくりとステップを踏みながらゲートに向かって精霊達を誘導していた、僕とマリィさんの動きを元春が逆に動くことで妨害。
こうなってしまうと最早打つ手なしか。
そう思われた時だった。不意に万屋がある方向から軽快な音楽が耳に届き。
聞き覚えのあるその曲に目を向けると、そこには軽快な音楽と共にぴょんぴょん飛び跳ね近付いてくる魔王様と真っ赤な顔の玲さん、そして妖精飛行隊の面々の姿があって、
「ジェンカか」
そう、僕の耳に届いたその曲は小学校の頃に踊ったフォークダンス曲。
その踊りを見せつけるように近付いてくる魔王様に興味津々の妖精達。
そして、僕が呆然とする元春の隙をついて魔王様の後ろにつくと、後に続くように妖精達も連なっていき。
こうなってしまえば元春の抵抗など無意味である。
「くっそー、こんな終わり方、認めん。俺は認めんぞぉぉぉぉおお!!」
どこかの悪役のようなことを言いながらも転移の光に包まれ、僕達は自宅の庭に――、
そして、ふたたびアヴァロン=エラへと戻ったところでマリィさんにここまでの流れを軽く説明。
「元春、ちょっと見てみて」
「なんだよ。ステイタスカードなんて出して」
僕に促されステイタスを開く元春。そこには、おそらくこう記されているだろう【妖精の友】と――
◆実績紹介
【妖精の友】……スケルツォ〈連携強化〉
◆次回投稿は水曜日の予定です。




