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新店舗とお客様第一号

 先週からの続きです。

 これは倒してから判明したことなのだが、メタル山羊のボディにはクロムメッキが施されているようだった。

 素体は何かしらの魔法金属のようで、魔法を寄せ付けない効果は付与魔法などではなく、その金属そのものの特性であるということがわかった。

 その詳細は、ソニアが興味を持って調べると言っていたので、近い内にどんなものなのかの詳細も判明することだろう。

 因みにメタル山羊の固有名称はそのままカプリコーンというらしい。

 内部構造はどうなっているのかと興味津々だったらしいドノバンさんが、唯一剥がしやすそうだった胸部パーツを強引にひっぺがしたところ、出てきた巨大な魔石に(キュルケさん曰く)古代イリアス文字でそう記されていたのだ。

 でも、巨大な魔石にカプリコーンって、

 何か同じような古代兵器があと十一体か十二体存在しそうな感じなんですけど……。

 まあ、そんなお約束は異世界に黄道十二門的な概念があればこそで、相手をするのはこれから自分の世界に帰るドノバンさん達になるだろうから気にしたら負けである。

 と、そんなこんなで倒したカプリコーンの簡単な検証を終えた僕達は万屋に向かっていた。

 どうして万屋に移動するのかというと、まあ、店を預かるものとして、挨拶代わりにしてみた客引きの成果でもあるといえるのだが、討伐したからにはその素材は山分けだ。ということで、倒したその場でカプリコーンを解体しようとした僕達だったが、その装甲があまりに固く、完全解体までにかなりの時間が必要であることが判明、自分達の世界で依頼を残しているドノバンさん達、分前を引剥した胸部パーツだけでいいと言い出したので、せめて素材の代わりに万屋の商品を持っていって下さいと、彼等をお客様第一号として招くことになったのだ。


「ようこそ万屋へ」


 改築してもここは変わらない。相変わらずカラカラと小気味よい音を立てるスライドドアを開け、青年騎士改め――レイさんを戦闘に初めてのお客様方を店内へと迎え入れる。

 因みに僕がどうして彼等の名前を知っているのかというと、カプリコーンを倒した直後に簡単な自己紹介をしあったからだ。


「すっごい。なにこの店、上級の魔法薬が沢山おいてあるよ」


 万屋に入るなり、魔法薬の棚を見て歓声をあげるのは、ナイフ二刀流にレザーアーマーと軽装備のサンドラさんだ。パーティの中では斥候を務めているらしい。


「でも、本当にいいんですか。お店の商品ならなんでも一つだなんて、高い品物もあるでしょう」


「はい。みなさんがいなかったらもっと苦戦していたでしょうから」


「苦戦って――、最終的にカプリコーンを討伐できたのはマリィ様の魔法と虎助君の作戦があってこそなんだけど」


 何をそんなに恐縮しているのだろう。おずおずとしてくるキュルケさんの問い掛けに僕が『当然ですよ』答えると、サンドラさんが先程来の戦いを思い出すように呟いて、

 その一方で、ドワーフのドノバンさんは店に入って右側に見える装備品のコーナーに目を向けて、


「しかし、本当に武器はあまり置いていないのじゃな。置いてある防具を見る限りでは逸品揃いのようではあるのじゃが」


「コラ、失礼ですよドノバン」


 やっぱりドワーフだけに武器へのこだわりが強いのだろうか。万屋の商品の偏りに少し不満そうなドノバンさんをキュルケさんが諌める。

 とはいえだ、彼等には予めこのアヴァロン=エラがどういう店なのかという説明をしてある。


「まあ、ウチの素材を使うとどれも強力なものになってしまいますからね。武器を作るとなるとそれなりに気を使わないといけなくなりますから……。因みに置いてある武器の方は殆ど魔剣になりますから、取り扱いには十分、気を付けてくださいね」


「ふむ、力も過ぎたれば破滅しかもたらさんということか」

 改めて、この店の主義心情と注意点を説明すると、ドノバンさんにも一定のご理解いただけたようだ。


「でも、この魔法銃なんかは普通に売っているんだね」


「それは、基本的に非殺傷の武器ですからね。扱い方によっては強力な武器にもなりますが」


 さすがにそこまで制限しては何も売ることができなくなってしまう。

 それでなくともこのアヴァロン=エラに通じる場所というのは危険地帯が多いのだ。もしも武器を失ってこの世界にやって来た人がいたとして、何も武器を持たせずに放り出してしまったら、それは死ねと言っているようなものだ。

 中にはその人の実力とこの世界でやらかした行動を鑑みて無慈悲に放り出すこともあるのだが、それは自業自得だから仕方が無いというものだ。


「しかし、武具もそうですが、マジックアイテムもかなりの数がかなりありますね。見たことがないものばかりです」


 そう言って目を輝かせるのはキュルケさん。

 この魔具・魔導器を中心とした商品群は店が広げられたから置けたものが多いだけに新商品が目白押しである。

 と、各人が自分の趣味に従い散っていく中、慌てるような声を上げたのはレイさんだった。


「ちょ、ちょっと、皆――こっちに来てくれ」


 その慌てようからして、たぶんアレを見付けたんだろう。僕が声のする方に歩いていくと、

 予想通り、黄金の剣の前に佇むレイさんの姿があって、


「こ、これは――」


「聖剣――、エクスカリバー、か?」


 特にドノバンさんのリアクションが大きいかな。

 鍛冶などのモノ作りに定評のあるドワーフの気質からして、エクスカリバーは垂涎の品なのだろう。


「そうですの。これこそが聖剣エクスカリバー。世界に一つしか無いと言われる伝説の聖剣ですの」


 しかし、なんでマリィさんが自慢げなんですか。

 そんなツッコミを心の中で入れるような余裕があるのは、普段からエクスカリバーを見慣れている僕達くらいなものだろう。

 レイさん達は不意に見付けてしまった伝説の聖剣に呆気にとらわれている。

 と、そんな一同の中にあって、逸早く動揺から立ち直ったのはキュルケさんだった。

 魔導師という職業柄、その精神力が高く、精神的な異常からの立ち直りが早いのかもしれない。


「も、もしかして、これも売り物とか言いませんよね?」


 おそるおそる訊ねてくるキュルケさんに「売り物ですよ――」と軽く答えようとする僕だったが、


「いやいやいやいや――そりゃないっしょ。飾ってあるとかなんじゃないの」


 サンドラさんの冗談めかした声にタイミングを外されてしまったので、

 僕は改めてコホンと咳払い一つで注目を戻し、


「えと、一応売り物ですよ」


「「「「えっ、本当に!?」」」」


「はい。ただし抜けたらという制限は付きますけどね」


 声を揃えるレイさんパーティの面々にそう答えると、説明を求めるような目でこちらを見てくるので、


「実はこの剣、エクスカリバーなんですけど、光の精霊が宿っているらしくてですね。資格がないと判断された相手が持ったりすると、重くなったり、電撃とかを浴びせかけてきたりするんですよ」


わたくしも何度浴びたことか」


 マリィさんが電流を浴びたのは、前に僕がエクスカリバーを抜けるって分かった時くらいで、言うほど浴びていない気もしますけど……。

 僕がマリィさんに困ったような視線を送るその横で、ブルッと猫が毛を逆立てるようなリアクションをしたサンドラさんが自分の肩を抱くようにして、


「怖っ、エクスカリバー超怖いよ」


 しかし、すぐに何か思いついたようにピンと豆電球を浮かべると、


「――って、実はこれ、そういうギミックが施されたただの魔法剣とか?」


「それはありませんの。実際に鑑定でもエクスカリバーと出ていますので、もしお疑いでしたら、虎助から鑑定の魔導器を借りて使ってみればいいですの」


 マリィさんとしてはエクスカリバーが偽物と疑われるのが許せないのだろう。サンドラさんがポロッと漏らした聞き捨てならない台詞に、若干不機嫌そうな顔をして、鑑定能力を宿した魔導器〈金龍の眼〉を出せと催促してくる。

 しかし、その態度があまりに自信満々だったからだろう。


「ほ、本当に本物のエクスカリバーなんですか?」


「ですね」


 わざわざ鑑定する手間が省けたらしい。


「主が決まっているとか?」


「考えても見ればこんな店の中に綺麗に飾られていることがおかしいか」


 おっと、今度はここにエクスカリバーがある理由を探し始めたぞ。


「因みにここにエクスカリバーを指したのは僕ですが、あくまで整備する人として見られていると思いますよ」


「いやいや、それはないって、だって伝説の剣だよ。選ばれし者にしか使えないんだよ」


 僕がエクスカリバーがここにある訳を簡単に教えてあげると、サンドラさんなんかは顔の前に立てた手を左右に振って、真面目な顔でそう言うのだが、


「待て、虎助の言っていることは本当かもしれん。ワシが知っている中にも武器自らが主を選ぶタイプのものが存在するが、鍛冶屋には危害を加えないようになっているからのお。まあ、それなりの腕は必要じゃがな」


 おお、ここにきて新事実。やっぱりエクスカリバー以外にも精霊が宿るような聖剣(・・)が存在するらしい。

 ただし、その扱いにはそれ相応の資格が必要だとドノバンさんは言う。

 そして何故か僕のことを興味深げに眺めてくるけど、僕に達人レベルの鍛冶技術なんて無いですよ。

 そもそも鍛冶にかかわる実績も持っていないし、たぶんエクスカリバーとたまたま相性が良かったとか、そんな理由なんだと僕は思う。


「それでどうします?一応、チャレンジにお金とかは発生しませんから誰にでもチャンスはありますけど」


「ワシは遠慮しておこう。ワシなぞただの力自慢の戦士じゃからな」


「あんな話を聞いた後で出来る訳ないよ」


「そもそもこういうタイプの剣をまともに扱えるのはレイ君だけですからね」


 興味深げに僕を見付けてくるドノバンさんの意識を逸らすような僕の問い掛けに、ドノバンさんとサンドラさんがそれぞれの理由を口に辞退して、キュルケさんがレイさんに水を向けると、


「やってみようと思います」


 やや緊張しているようだが、レイさんはチャレンジしてみるみたいだ。


「そうだね。やってみなよ」


「骨は拾ってやるぞい」


「縁起でもないこと言わないで下さいよ。でも、レイ君なら抜けますよ」


 そして、仲間の声に押されるようにエクスカリバーの台座の上に立つレイさん。

 お手並み拝見とたぷり腕組みをするマリィさんからの視線を背後にエクスカリバーに手をかけると、精神を集中するように深呼吸。

 キッと眦を吊り上げ真剣な顔を作るとグリップを握る手に力を込めて、


「あ、あれ、抜けてしまったんですけど……」


 あっさりとエクスカリバーを引き抜いてしまったのだ。

 あ~あ、これは一波乱がありそうだぞ。

 レイさんの手に握られる綺羅びやかな黄金の刀身を見つめあんぐりと口を開けるマリィさんにそう思わざるをえない僕だった。

 明日、もう一話、この続きを投稿する予定です。

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