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レーヴァの特訓

 異世界のドラゴンフルーツは星型のものではなく、キウイフルーツに近いもののようだ。


 さて、そんなドラゴンフルーツを一切れづつ結界の中に入れて、世界樹農園の各所に配置している理由は、リドラさんが龍の谷から連れて帰った(?)トワイライトドラゴンの幼龍・レーヴァの転移訓練の為である。

 食欲にまさる原動力はないというか、今まさにレーヴァはヴェラさんに応援されて結界から結界への転移を繰り返しているところで、すでに短距離転移ならお手の物といった様子だ。


「転移ってこういう風に練習をするのね。

 けど、どうしてそんなことを知ってるの?」


「実はウチのオーナー(ソニア)が昔トワイライトドラゴンと会ったことがあるみたいで――」


「そういえば、龍の墓に行った時もそんな感じだったわね」


 ヴェラさんと話し込んでいる間にも転移の練習に疲れたのか、レーヴァがパタパタと小さな翼を動かし戻ってきて、ヴェラさんに頭の上にびたんと乗って甘え出す。


 ちなみに、そんなレーヴァが何処から来たのかという調査の進捗状況であるが、あの後も龍の谷の調査を続けているものの、今のところ特にこれといった情報は得られていない。

 捜索範囲が広すぎるということもあるのだが、そもそもトワイライトドラゴンという龍種(ドラゴン)が、長命な龍種のみが暮らす龍の谷でも知る人ぞ知る存在のようで、姿形など基本的な情報すらもほとんど得られないといった状況なのだ。


 ただ、これまでの調査から、レーヴァの誕生には龍の墓場が関わっている可能性が高まっているという。

 ソニアによると、龍の谷の長老的な存在だったパルス老に対するレーヴァの行動から、生まれたばかりのレーヴァが最初に見た生物がパルス老ではないかとのことで、

 そのことから、レーヴァが死の直前にあったパルス老と龍の墓場のつながりのようなものを逆探知する形で、その世界に姿を現したのではないかと推察しているようだ。


「まあ、なんにしてもこの子は私の子だけど」


 僕の報告を聞いて、レーヴァを舐めながらそう言うヴェラさんも、最初はリドラさんの子供という疑惑からレーヴァに警戒を向けていたが、今ではすっかり仲良しである。

 その一方で、リドラさんは、まだリドラとの距離を測りかねているところがあるようで、自分から積極的にレーヴァに関わっていくようなことはしていないそうだ。

 ただ、懐かれて悪い気はしていないようで、ヴェラさんが他でなにかやっている時などは、それとなくレーヴァの面倒を見てくれているという。


 ちなみに、リドラさんとヴェラさんの他には、バンシーで骨美少女のキャサリンさんにも懐いているそうで、これが龍の墓場から来た説の一つの根拠にもなっていたりするのだが、キャサリンさんは拠点のお母さん的な存在なので、懐いたのはまったく別の理由という可能性も無きにしもあらずということで――、


 そんな報告というか、雑談というかをしていると、レーヴァの体からポロリと鱗が剥がれ落ちる。


「また鱗が剥がれましたね」


「ふふん、この子は大きくなるわよ」


 ヴェラさんが言うには、龍種というは生まれてから一年経つ毎に倍々に大きくなっていき、その成長限界は種族によって変わってくるという。


「しかし、そういうことなら早めに人化薬を完成させた方がいいかもしれませんね」


「前のあれで完成じゃないの?」


「効果や時間をもって伸ばせないかってオーナー(ソニア)が頑張っていますよ」


「へぇ、そうなんだ」


 以前、ヴェラさんに試してもらったのだが、変身した姿が想定より小さく、効果時間も半日くらいしか保たなかったのだ。

 ゆえに、ヴェラさんとしても変身時間が長くなるのは嬉しいようで。


「じゃあ、この鱗も使っちゃって」


 成長によって剥がれたレーヴァの鱗は、レーヴァに関する調査や訓練のお手伝いなどの報酬代わりとして融通してもらっている。

 しかしそれも、基本的にはレーヴァの為に利用され、それでも余った分がゲートの研究や玲さんが地球へ戻る為のアイテム作りなどに使われていたりする。


「だけど、これだけ転移が使いこなせるなら、そろそろ本格的な狩りをさせてもいい頃合いかもしれないわね」


「まだ早くないですか?」


 先の分析から察するに、レーヴァはまだ生まれて一年も経っていないだろう。

 さすがの僕でもそんなレーヴァにいきなり実践をやらせるのはどうかと思うのだが。


「でも、こういうことは子供の内にしっかり教え込んでおくものだから」


 ヴェラさんもこういうところはしっかりしているというか、野生に生きるものとしての感覚なのかもしれない。


「それに狩りの練習自体は、拠点の近くで放し飼いにしてるメガブロイラーでやってるから、やれると思うの」


 おっと、それは初耳の情報だ。


「ただ、いまのレーヴァが戦うのにちょうどいい相手を探そうってなると、外の森には鬱陶しいのがうろついてるし――」


「鬱陶しいのというと、またボロトス帝国の兵が来ていたりするんですか?」


「ううん、エルフよ。エルフ」


「えと、外苑にいたエルフは、他で子供が見つかったから居なくなったんじゃ」


「そうなのよね。

 なのに、どうしてかまだいるみたいなの」


 年末、龍の谷から戻る途中に、リドラさんが遭遇したエルフの子供の誘拐事件はすでに解決済みだ。

 だとするなら、エルフが夜の森に出没する理由はなくなったと思ったのだが、どうもそうではないらしい。

 そうなると、エルフの集団が夜の森の周囲に現れていたのはまた別の理由があったとか?

 それとも、まだエルフの子供が見つかったという情報が届いていないとか?

 いや、魔法が得意なエルフなら、情報を遠くまで届けられるような魔法も持っているだろうし、情報が伝わってないとは思えないんだけど……。


「だから、手頃な獲物が居たら、こっちで捕まえておいてくれると嬉しいんだけど」


「そうですね――」


 正直、僕としては、こちらで獲物を用意して、レーヴァに戦わせるということは、あまり賛成できないのだが、ヴェラさんを説得するのは難しいだろうし、なによりエルフ達の動きが気になる。

 それならば、アヴァロン=エラでしっかり安全対策を施した上で戦ってもらった方がまだマシか。


「わかりました。もしも適当な相手が見つかったのならこちらから連絡させていただきます」


 ということで、良さげな魔獣がゲートに迷い込んできたら結界で足止めを行い、魔王様にお迎えをお願いすれば、ヴェラさん達が来るまで留め置くことは難しくないと、その申し出を了承。


「本当なら自然の中で狩りさせる方がいいんだけど」


「やっぱり本物じゃないと駄目ですか?」


「ディストピアとティル・ナ・ノーグだっけ?

 あれも悪くはないんだけど、実際の狩りとはまた別物なのよね。

 なんていうか獲物を仕留めたって実感がない?」


 ヴェラさんの意見はわからないでもない。

 ただ、ソニアの技術力を持ってすれば、限りなくリアルに近いバトルも再現できなくはないと思うのだが、それには膨大なデータが必要であり。

 それもあまり現実的ではないと考えると、やはり実物を用意するしかなく。


「では、とりあえず狼か猪か、良さげな獲物が来ましたら、その時は魔王様――、お願いできますか?」


「……ん、任された」


   ◆


 という約束があったのが数時間――、

 ヴェラさんから頼まれた、レーヴァに本格的な戦いを経験させるという機会は意外と早くに訪れた。

 そろそろお風呂の時間だと魔王様が帰る頃になって、ハンマーノーズという大きく硬い鼻が特徴の猪系の魔獣が迷い込んできたのだ。

 僕はすぐにハンマーノーズを結界の中に閉じ込め、魔王様にヴェラさん達を呼んできてもらう。


 ちなみに、この戦いを見守るのは僕と魔王様、ヴェラさんとリドラさん、母さんと玲さんの計六人だ。

 見守るメンバーのほとんどがハンマーノーズを瞬殺できる力の持ち主であることを考えると、結界の中で生まれたばかりの小さな龍種(ドラゴン)と大きな魔猪が戦うというのは異様な光景になるが、勝負そのものは真剣そのものだ。

 なにしろ、この戦いには命がかかっているのだから。


 そう、試練は独力で乗り越えなければならないと、ヴェラさんも心を鬼にしてレーヴァを送り出したのだ。

 とはいっても、本当に危なくなった時は、僕もヴェラさんも助けに入る気は満々なのだが……。


 さて、そんなレーヴァの戦いはというと決め手にかけるの一言に尽きた。

 相手となるハンマーノーズの体は大きく小型車サイズ。

 一方のレーヴァは僕の両掌(りょうてのひら)に乗るサイズで、

 基本的な攻撃は転移で背中に張り付いての噛み付きになるが、小さなレーヴァではハンマーノーズの首元を覆う分厚い肉を貫き、致命傷を与えるのは容易ではなく、何度噛みついても、それが致命傷になる前に振りほどかれてしまい、時にそのまま跳ね飛ばされてしまうような状況が続いているのだ。


 ちなみに、レーヴァが跳ね飛ばされる度にヴェラさんが殺気を漲らせてはハンマーノーズを怯えさせているものの、それでは真の戦いにはならないとリドラさんが間に入り、なんとか落ち着かせるという状況が結界の外では繰り広げられていた。


「だけどこれ、レーヴァは大丈夫なの?

 かなり激しく飛ばされちゃってるけど」


「ダメージはそんなにないと思います。

 ただ、それは相手も同じなので――」


 小さくてもレーヴァは龍種である。

 その耐久力は下手な魔獣よりも遥かに高く、ハンマーノーズ程度の突進では大したダメージにはならず。

 かたや、ハンマーノーズの方の回復力もなかなかのもののようで、レーヴァが何度も噛み付いても、しばらくすると傷が塞がってしまっている状況となっていた。


「……噛みつきだけだと難しい」


 さすがはドラゴンの牙による攻撃だけあって、その鋭さは名剣のそれを凌ぐほどであるが、どうしても体格の差による影響は大きい。

 なにをやっても決めきれない状況というのは、レーヴァも気がついてはいるようだが、どうしていいかわからなくなっているようで。


「当然かもしれないけど経験不足ね」


「アドバイスはダメなんですよね」


 さすがにヴェラさんが我慢している状況で、僕や母さんが口を出す訳にもいかないだろう。


「ちなみに虎助なら、この状況どうする?」


 ちなみに、母さんのこの問いかけはレーヴァへのヒントではない。

 そもそも、いくらレーヴァの耳がいくらいいとはいっても、はじめての戦闘中に、それも場所が結界内ともなると、小声での会話が届く筈もないのである。


「僕なら足を潰してじっくりと戦うかな」


「虎助なら、そんなことしなくても倒せるんじゃない」


 ここで首を傾げたのは玲さんだ。

 しかし――、


「母さんが言ったのは、あくまで僕がレーヴァだったらですから」


「ああ、そういうこと……」


 と、そんな会話があったりしながらもジリジリとした時間が続き。

 すでに何度目に成るだろうか、ハンマーノーズの背中から振り落とされたレーヴァが、その強烈な突進に轢かれそうになったその時だった。


 それは本当に偶然の出来事だった。

 レーヴァがハンマーノーズの突進を回避しようと転移の力を発動。

 ただ、その回避が間に合わずハンマーノーズも一緒に転移してしまったのだ。


 その結果、急に空中へと投げ出されたハンマーノーズは盛大に地面を転がることになり。

 それがレーヴァに閃きをもたらしたか、レーヴァが立ち上がろうとするハンマーノーズに飛びつき転移を発動。


 すると、結界ギリギリの空中にレーヴァとハンマーノーズが現れ――落下。


「……最強の武器は地球?」


「どっかで聞いた話かも」


 たしか、有名な格闘漫画のセリフだったかな。

 状況こそ漫画とは少し違うものの、レーヴァがやっているのは、まさに魔王様の言葉通りの作戦で、

 思いっきり前のめりになって地面に落ちたハンマーノーズは、立ち上がれないほどのダメージを受けているようだが、

 しかし、ここまでに見たハンマーノーズの回復力を考えると、それはまだ致命傷とは言えず。


「これは結界を広げた方がよさそうですね」


 問いかけよりも確認に近いその言葉に、ヴェラさんの了承が得られたところで、僕は上方向に結界を拡大。

 ただ、体の大きなハンマーノーズ相手に転移は安定しないか、レーヴァは転移に失敗してしまうも。

 その後、まだフラフラのハンマーノーズの背中にガッシリとしがみつき、ロデオ状態になりながらも魔力を練り上げ転移を発動。

 すると、レーヴァとハンマーノーズの姿がぬるりとその場から消え去り。


「あれ、空に転移したんじゃないの?」


「転移してますよ。

 ほら、あそこに――」


 そう言って、僕が指差す遥か上空を指差すと、それに応えるように落ちてくる巨大な塊。

 ちなみに、レーヴァの方は上空に転移した直後にハンマーノーズの背中から離脱したみたいだ。

 結果、一匹で地面へと特攻する羽目になったハンマーノーズがズドンと大激震を引き起こし。


「潰れてるとかないよね」


「かなり耐久力が高い魔獣のようなので原型は残っているかと」


 結界を少しいじって、舞い上がった土煙が結界の外へと拡散するようにすると、視界がクリアになった結界内には地面に突き刺さるハンマーノーズの姿があり。


「倒せた?」


「反応はありません。倒せているようですね」


 僕がそう伝えると、玲さんから「わぁ」と歓声があがり、結界が解除されて戻ってきたレーヴァをヴェラさんに飛びつくと、僕は素早く結界を展開。

 僕と母さん、玲さんと魔王様を包んだところでアヴァロン=エラの大気が振動。


「さすが龍種のお二人です。

 吠えただけで地面が揺れてますよ。

 それでこの魔獣はどうしましょう」


「……拠点のみんなでお祝い」


「じゃあ、血抜きだけしちゃいますね」


「……お願い」


 魔法で手早くハンマーノーズの血抜きをした後、ヴェラさんとリドラさんが落ち着くのを待って、倒したハンマーノーズを受け渡し。

 その後、揃って拠点に帰った魔王様は、ハンマーノーズをメインディッシュに盛大なお祝いをしたのだという。

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