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世界樹の精霊

「これが世界樹の精霊?」


「……ん、ユグ」


「へぇ、かわいい名前じゃない」


「しかし、下位の精霊にしてはしっかりしていますのね」


 ある日の放課後――、

 世界樹農園にある東屋の下、スクナ達に囲まれた頭に新芽を生やした手の平サイズの幼女がはしゃいでいた。


 彼女は精霊喰いを倒して救出した精霊の卵から生まれた精霊で、

 魔王様の拠点に卵が持ち帰られて数日、拠点のみなさんの尽力で無事に孵化することができた為、彼女の健康と拠点の完全を考えて、精霊喰いの影響などを調べるべく、ここに連れて来られたのだ。


 ということで、早速ベル君にスキャンをしてもらおう。


 ただ、そのデータの分析には、少し時間が必要なようだ。

 僕達は世界樹の精霊がベル君から放たれる緑色の光を浴びているのを眺めながら雑談を始める。


「そういえば精霊喰いを倒した後はどうなったの?

 ヤンさん達が卵をゲットするまでは動画で見たけど、その後どうなったのかはまったく知らないんだよね」


「……影の精霊が誤魔化してくれた?」


 ちなみに、端的な魔王様の説明を補足するなら、子供エルフと一緒に残った精霊が説得というよりも、実際は大人エルフが勝手に拡大解釈を行い、精霊の力ですべてが解決したということになったらしい。


「だけど、よくそんなんで納得したじゃない。

 聞いた限りだとかなり厄介そうじゃん、あのエルフ達って――」


「それは精霊という存在が効いたんですね。

 夜の森の周辺に暮らすエルフ達はいろいろあって精霊に見捨てられたと思っていますから、精霊の不興を買うようなことは言えないんですよ」


 原因は主に魔王様を捨てたことにあるのだが、

 少なくとも夜の森の周辺に暮らすエルフ達は、現在精霊に見捨てられたような状態にあるようで、

 そんな彼等の前に精霊が現れたとなれば、その意志が絶対となってしまっても過言ではないという。


 なにより、唐突な精霊との遭遇からの仲間の裏切りがあって、

 ことが終わるまで気絶をしていた彼等としては、すべては精霊様のお導きということにしてしまった方がいろいろと都合が良かったということもあるみたいだ。


「なんといいますか、エルフも存外、俗物ですのね」


 うん、それはマリィさんのみならず、みんなが思っていることだろう。


「では、こちらお預かりしますね」


「……ん」


 ちなみに、そんな会話の横で、僕が魔王様から受け取ったのは世界樹の精霊が出てきた卵の殻である。


「また何か作りますの?」


「今回は玲さんの転移に関するなにかになるでしょうね。

 なにしろ世界樹の精霊の卵の殻ですから」


 世界樹が重要な役割をするということは、この万屋では既に周知の事実となっている。

 だから、これを玲さんの帰還に関するなにかに加工することは、みんな納得のご様子で、


「ってことは、俺等もいろんな世界を行き来できるようになるん?」


「それは微妙なところかな」


 ソニア曰く、たとえ任意での他の世界への転移が可能になったとしても、何度も基本となる座標の紐づけを変えることでどういう影響が出るかわからないから、特段の理由がなければ座標軸の書き換えによる転移は行わない方がいいのではないかとのことだ。


「そう簡単にはいかないか」


「だけど、これが上手く行けばゴーレムの転送とかが簡単になるから、他の世界を見て回れるようにはなるってのはあり得ることかな」


「アバター的な?」


 まさにそんな感じであると頷く僕に、元春は「夢が広がるなー」と伸びをして、ガタンと椅子ごとひっくり返りそうになるも、

 既のところでと留まって――、

 その気恥ずかしさを誤魔化すように、周囲を見回して一言。


「しっかし、ここもいろいろ変わったよな」


「なに?

 急にどうしたのよ」


「いや、なんとなくそう思ったんすよ」


 若干顔の赤い元春の戯言はいつものこととして、

 たしかに、世界樹とマンドレイクの畑があるくらいだった世界樹農園は、今や多くの妖精が住まい、幾つかの畑や施設が作られていて、妖精サイズではあるものの一つの集落のようにすっかり様変わりしている。


「そういや比丘尼っちはどんな感じなん?」


 比丘尼っちって――、


「順調に分離が進んでるよ」


 とある神社にて半人半霊の状態で封印されていた八百比丘尼さん分離は順調に進んでいる。

 ただ、それはあくまで肉体的な異常が順調に治っているというだけであって、


「志帆と十三が魔女の助けを借りて、彼女(八百比丘尼)の足跡を追いかけているのでしたか」


「各地の伝説を元に、八百比丘尼さんがどうしてこうなってしまったのかの原因を調べてもらっています」


 そう、実は数日前に義姉さんと義父さんが八百比丘尼伝説の調査に出発したのだ。


「そういえば比丘尼さんって魔女の関係者なんだっけ?」


「たしかに見た感じ、ちょっと日本人離れしてるかもな」


 と、無駄にシリアスな雰囲気を醸し出す元春の目線が、カプセルの中に浮かぶ八尾比丘尼さんの胸元に向けられたところで、玲さんがごくごく小規模な目眩ましの魔法を発動。

 マリィさんから「玲もすっかり魔法が上手になりましたわね」とお褒めの言葉があって、それに玲さんが少し照れたようにしながらも話を戻し?


「だけど、虎助もいろいろ大変じゃない。わたしのこともあるし」


「ガルダシアの雑事にも手を貸していただいていますの」


「……世界樹のお世話もしてる」


 自分に続いてマリィさんと魔王様からも言葉があったことで、玲さんから「うわぁ」という声が上がるが、僕としては玲さんが感じているほど負担があるわけではなく。


「ここの管理は基本的にマールさんや魔王様達がしてくれていますし、転移関連のことはオーナー任せですし、ガルダシアのことはほとんどがトワさんのお仕事ですから」


 他にもフレアさんや賢者様関連のアレコレにも関わっているけど、基本的にそれは現地のみなさんがやることで、僕がしているのは各地から集まってきた情報を整理して、取り次ぎや相談に乗ることくらいなものであり、強いて何か仕事をあげるとするなら、みんなに何か必要なものがあれば、それを探したり、ソニアやエレイン君に注文するだけなのだ。

 だから、個人的にはみんなが思っているよりも楽をさせてもらっているのだが、


「わたしのことは無理しない程度にやってくれればいいから」


 玲さんはこう言うものの、環さんからのお願いとしっかり頼まれているし、なにより玲さん帰還への研究はソニアの目的とも合致しているからと、そんな話をしている間にもユグ(世界樹の精霊)のスキャンが終わったみたいだ。

 ユグ(世界樹の精霊)とスクナ達とがまたわちゃわちゃ遊びだしたことで、みんなの視線がユグ(世界樹の精霊)に集まり。


「そういえば、この子はマオが契約しますの?」


「……するなら世界樹のお世話係の誰か?」


 こればっかりは世界樹の精霊の意志次第――、

 ただ、マリィさんとしては僕とオニキスの関係が念頭にあるんだと思うんだけど、魔王様の拠点は精霊にとって暮らしやすい場所なので、あえて誰かと契約せずとも特に困ることはないと思われ。


「だけど、マオのところのエルフの話を聞くと、新しく生まれたのが世界樹の精霊って意味ありげじゃない」


「エルフのとある里に世界樹の枝が祀られているそうですから、そっちの関係かもしれないんですよね」


 世界樹と精霊の親和性を考えると、その祀られていた枝をどうにかしたことがきっかけで、あのシャダイというエルフが精霊喰いになってしまったのではないだろうか?


「ちなみに、その祀られてる枝って今はどうなってるの?」


「それが、何十年に一度行われる儀式の時に御開帳される場所に安置されているらしく、いまは見られない状態のようです」


 妖精飛行隊のリーダー的な存在であるリィリィさんに聞いた話によると、特別な儀式の時に開かれる厳重な扉の奥に封印されているそうだ。


「その儀式が次に行われるのはいつになりますの?」


「本来ならまだまだ先の予定になっているみたいなんですけど、精霊喰いの件でエルフの子供達が影の精霊を連れて帰りましたから、もしかしたらなにが動きがあるかもしれません」


 なんでも儀式というのが精霊に関わるもののようで、子供達を探していたエルフ達が精霊を連れ帰ったとなれば、前倒しで儀式が行われるという可能性もあるかもしれないのだ。


「これで、その封印とやらを解いてみたら、中になんにも無かったとかになったら大変でしょ」


「また一波乱ありそうですわね」

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